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2.5 Cauchy-Riemann の方程式

2.5.2 正則関数と調和関数

以下に述べることは論理的にはフライングであるが18、順番を守ると、この講義では説明す ることが出来なくなる可能性が高いと思われるので19、あえてここで説明する。

18正則関数の実部・虚部u,vは、必ずC級であるが、そのことの証明はずっと後にならないと出来ない。

19これは変なことを言っているようだけど、ずっと後になって、Cauchy-Riemann方程式を復習してから議論 をすると、かかる時間が案外と長くなってしまうのである。

命題 2.23 (正則関数の実部虚部は調和関数である) Ω は C の開集合、f: Ω→C は正則 とするとき、f の実部・虚部 u, v は

uxx(x, y)+uyy(x, y) = 0, vxx(x, y)+vyy(x, y) = 0 ((x, y)∈Ω7 :=8

(x, y)∈R2 %%x+iy∈Ω9 ) を満たす。

証明 後で f がΩ内の任意の点の十分小さな近傍で冪級数展開出来ることが証明できる。ゆ えに u と v は C 級である。そのことを認めて議論する。

Cauchy-Riemann 方程式ux =vy, uy =−vx が成り立つので、

uxx+uyy = ∂

∂x

∂u

∂x+ ∂

∂y

∂u

∂y = ∂

∂x

∂v

∂y + ∂

∂y

#

−∂v

∂x

$

= ∂2v

∂x∂y − ∂2v

∂y∂x = 0.

最後の等号が成り立つのは、v が C2 級であることによる(v の2階偏導関数は偏微分の順序 によらない)。

vxx+vyy = 0 についても同様である。

n 変数関数 u(x1, . . . , xn) が (♯)

"n j=1

2u

∂x2j = 0

を満たすとき、u は調和関数 (harmonic function) であるという。また (♯) を Laplace 方程 式という。

Laplace作用素

△:=

"n j=1

2

∂x2j を導入して、 (♯) を

△u= 0

と書くことが多い (△ の代わりに ∇2 と書くこともある)。

上の定理は「正則関数の実部と虚部は調和関数である」と述べることが出来る。実は任意の 調和関数は、局所的にはある正則関数の実部になっているので、複素関数論は2変数の調和関 数論であるとも言える。

R2 の開集合 Ωで定義された調和関数 uに対して、Cauchy-Riemann 方程式(☆) を満たす 調和関数 v のことを、u の共役調和関数 (a conjugate aharmonic function of u)と呼ぶ。正則 関数の虚部は実部の共役調和関数であるということになる。

問 40. v が uの共役調和関数であるとき、uは v の共役調和関数であるかどうか答えよ。(答 は「共役調和関数とは限らない」。なぜでしょう?)

Ωが領域であれば、調和関数 u を定めたとき、u の共役調和関数は (もし存在するならば) 定数差を除いて一意的に定まる。

問 41. このことを証明せよ。(ベクトル解析を学んだ人には、続けて問う)v を u を用いて表 示する式を求めよ。

余談 2.24 (桂田君2?才) 任意の正則関数の実部虚部が調和関数である、という命題は、私が

学生のとき (もう30年以上も前のこと)、某県の教員採用試験で解かされた問題で、ちょっと 思い出深い。どういう採点基準か良く判らなかった。Cauchy-Riemann 方程式は既知として

使ってよいのか、u,v が C2 級であることは認めて良いか、とか。Cauchy-Riemann 方程式は その場で導出したが(上に紹介したf =fx= 1

ify という議論をした)、u,v が C2 級であるこ との証明は書かなかった(そのときの私には書けなかった — ちょっと情けない)。どちらも受 験生が証明を書くことは要求していなかったのかもしれない。その辺の判断は、学習指導要領 で出題範囲が定まっている大学入試とは違って、難しい。

Cauchy-Riemann 方程式に関係が深く、応用上も意義のある話題があるけれど(2次元の渦

なし非圧縮流体の速度ポテンシャル・流れ関数とか)、そこまでやると脱線気味なので、ここ で切り上げて、先を急ぐことにする(そういうのは「応用複素関数」で説明します)。

3 冪級数

cを複素数、{an}n0 を複素数列とするとき、関数項級数

" n=0

an(z−c)n

を c を中心とするべき冪級数 (a power series) と呼ぶ。「冪」は書きにくいので20、巾級数、ベキ 級数とも書く(板書は「ベキ級数」を使います)。整級数と呼ぶこともある。

定義域の各点の近傍で収束する冪級数で表される (冪級数展開出来る) 関数を、解析関数 (analytic function) と呼ぶ。

実は「正則関数=解析関数」であることが後で分かる。

現時点で複素関数欠乏症なので(多項式関数、有理関数、指数関数くらいしか複素関数がな い)、冪級数を使ってたくさんの関数を導入したい。

3.0 イントロ

冪級数について、少し長めの話をすることになるので、ものものしいが、イントロをつける。

冪級数とは"

n=0

an(z−c)n (ここでz は変数、cや an は与えられた定数)の形をしている級 数のことをいう。

3つの事実を指摘する。

1. (微積分で教わった) ex, sinx, cosx, logx, (1 +x)α などなど、高校生の知っているよう

な関数 (「場合分け無しの式で書けるような関数」)は、ほとんどが Taylor 展開できる

(f(x) =

" n=0

f(n)(a)

n! (x−a)n)。つまり収束する冪級数で表せる。—xを複素変数 z に置 き換えると、複素関数バージョン (複素関数拡張) の定義が得られる。

2. 冪級数 "

n=0

an(z−c)n に対して、収束円というものがある。それは cを中心とする円盤

D(c;ρ) で(ただし 0 ≤ ρ ≤ +∞)、その内部であれば、冪級数は何回でも項別微分、項

20わかんむり(冖)に幕府の幕と書く。「わかんむり」なんて覚えていなかった。

別積分出来る。

.

"

n=0

an(z−c)n /

=

" n=1

nan(z−c)n−1 =

" n=0

(n+ 1)an+1(z−c)n,

!

C

" n=0

an(z−c)ndz =

" n=0

an

!

C

(z−c)ndz =

" n=0

an

:(z−c)n+1 n+ 1

;b a

.

(ここでC は D(c;ρ) 内の任意の区分的に滑らかな曲線であり、a, b はそれぞれ C の始 点, 終点である。図が必要。)

ρ>0であるとき、冪級数は収束冪級数であるという。

3. (複素関数論の主結果(我々の目標)の一つ)正則関数は冪級数展開出来る(収束する冪級

数で表せる)。逆に収束する冪級数の和は正則関数となるので

正則関数=解析関数 (各点の近傍で収束冪級数で表せる関数)

と言える。もう少し詳しく書くと、Ω が C の開集合で、f: Ω→Cが正則とするとき、

(Ωが開集合なので) 任意のc∈Ωに対してD(c;ε)⊂Ωとなるε>0が存在するが、実 はある {an} が存在して

f(z) =

" n=0

an(z−c)n (|z−c|<ε) が成り立つ (驚くべき定理)。

冪級数を扱うために、完備性の議論の必要性が高いが、数学解析で完備性の説明をしたの で、C の完備性についての議論は省略する。付録A.1 を用意したので、復習したい人はそち らを見て下さい。

級数の収束の議論についても、微積分等で部分的に学んでいるはずなので、詳細は省略す る。付録 A.2 を用意したので、復習したい人はそちらを見て下さい。