私は期末試験の過去問とその解答は公開することにしていて、見る人がそれを見れば、何を 重要と考えて尋ねているか一目瞭然だと思っているのだけど、どうもなかなか分かりにくいみ たいだね。勉強の途上にある人には無理がないのかも。
何を習得すべきか把握するには、むしろ宿題に出た問題を精査する方が分かりやすいかもし れない。期末試験を解くために必要なことのほとんどすべては、宿題の中に現れるようにして あって、その解答の中で十分な解説をしてあるつもりである(色々なことから逆算して宿題を 作っている)。
定積分の留数を用いた計算は、学期の最後に出て来るが、関数論の重要事項をマスター出 来たかの判定にふさわしいと考えているので、必ず準備して欲しい。その重要性については、
授業中に何度も言及しているつもりだけれど、その問題を捨てる学生が増えて来ているような 気がする。
16.3 ( 追試がある場合に ) 追試前
追試験をする場合がある。武運拙く本試験を不合格になった場合、一番重要なことは、本試 験の答案を見に行くことである(正直言って、学期末は忙しくて、相手をするのはしんどいけ れど、学生からリクエストがあれば答案を見せて説明することにしている)。
それをしないで漠然とした準備をしても(本人は一所懸命やっているつもりかもしれないけ れど、こちらから見ると、2階から目薬みたいな)、合格する可能性はなかなか高くならない。
付録
この講義の目標は、標準的な関数論の講義の目標と同じだけれど、必修の微積分で極限に関 することは証明抜きで済ませているので、真面目に理解しようとすると、時々思いのほか忙し いところがある。
重要なところは本文中 (授業中) に説明するが、そうでないところは付録にまわすことにし た。付録に書いてあることは、最初に学ぶときはあまり気にしなくても良いと思う。数学とい う学問はそういうことが比較的やりやすい。定義自体は比較的短く書けるので、定理の主張 は、証明を読まなくても (証明に用いる理論を学ばなくても)、短時間で理解可能であること が多い66。
「数学解析」との関係について
2年生春学期の「数学解析」([14])は、微積分に現れる極限に関わる事項について解説する 講義科目である。
この「複素関数」は、受講する学生が「数学解析」を履修することを前提としている。「数 学解析」で学んだことは遠慮なく使う。
• 数列・点列の極限の定義と基本的な性質。Bolzano-Weierstrass の定理、「上に有界な単 調増加数列は収束する。」等。
• R, Rn の完備性。
• 開集合、閉集合の定義と基本的な性質。「閉集合はそれに含まれる数列の極限を必ず含 む。」等。
• 関数 (多変数ベクトル値関数を含む)の極限、連続性の定義と基本的な性質。Weierstrass
の最大値定理等。
• 積分の定義。「閉区間上の連続関数は積分可能。」等。
一方で「数学解析」で説明できなかったことは、この講義の中で説明するように努めている。
A 冪級数の収束についての補足
「数学解析」では、完備性の定義と、Rn が完備であることを証明した以外に、詳しいこと は説明できなかったので、級数の収束・発散については、ある程度まで「複素関数」の中で説 明することにしている。
66水ももらさないように定義をするのは、外野から見ると理解しづらいかもしれないけれど、そうしておくと、
すっぱり割り切れて便利なんです。
A.1 C の完備性
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定義 A.1 (Cauchy列) C (R, Rℓ, Cℓ でもOK) 内の数列 {an} が、Cauchy 列である とは、
(∀ε>0)(∃N ∈N)(∀n ∈N:n ≥N)(∀m ∈N:m ≥N) |an−am|<ε が成り立つことをいう。
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命題 A.2 C (R, Rℓ,Cℓ でも OK)内の任意の収束列は Cauchy 列である。
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証明 {an} が a に収束するとする。ε を任意の正数とするとき、ε/2>0. 収束の定義から、
(∃N ∈N) (∀n∈N: n≥N)|an−a|< ε
2. ゆえにn ≥N, m≥N を満たす任意のn, m∈Nに 対して、
|an−am|=|an−a+a−am|≤|an−a|+|a−am|< ε 2 + ε
2 =ε.
ゆえに {an}は Cauchy 列である。
実はこの命題の逆が成り立つ。そのことを「C(R,Rℓ, Cℓ でもOK) は完備である」という。
一般に任意の Cauchy 列が収束するような距離空間は完備であるという。
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定理 A.3 R, C, Rℓ,Cℓ は完備である。
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証明 距離空間として C は R2 と、Cℓ は R2ℓ と同じなので、Rℓ について証明すれば良い。
{xn} を Rℓ の Cauchy 列とする。これが収束すること、言い換えると極限が存在すること
を示すのが目標である。
{xn} が有界であることはすぐに分かる(練習問題とする)。
{xn}が有界であるので、Bolzano-Weierstrass の定理によって、収束部分列が存在する。す なわち (∃a∈Rℓ) (∃{xnk}k∈N: {xn} の部分列) lim
k→∞xnk =a.
ε を任意の正数とする。{xn} が Cauchy 列であるから、(∃N ∈ N) (∀n ∈ N: n ≥ N) (∀m∈N: m≥N)
|xn−xm|<ε.
k ≥N を満たす任意のk ∈Nに対して、nk ≥k ≥N であるから、(m のところに nk が代入 できて)
|xn−xnk|<ε.
k → ∞ とすると
|xn−a|≤ε.
これは lim
n→∞xn=a であることを示している。ゆえに {xn} は収束列である。
問 79. Cauchy列は有界であることを示せ。
問 80. Rℓ の点列 {xn}, a, c∈ Rℓ, r >0 が lim
n→∞xn =a, (∀n ∈N) |xn−c| < r を満たしてい るとき、|a−c|≤r が成り立つことを示せ。
(解説: 数列であれば |xn−c| < r は −c− r < xn < c+r と同値なので、「数列 {xn}, {yn} が lim
n→∞xn = a, lim
n→∞yn = b, (∀n ∈ N) xn ≤ yn を満たすならば a ≤ b」という定理から
−c−r≤a≤c+r が導けるが、点列の場合はどうすれば良いか、という問題である。)