例 3.11 冪級数 "∞
n=0
2nzn,
"∞ n=0
3nzn の収束半径はそれぞれ 1 2, 1
3 である。その和として得られ る冪級数 "∞
n=0
(2n+ 3n)zn の収束半径は 1
3 である。実際
nlim→∞
%%
%% 2n+ 3n 2n+1+ 3n+1
%%
%%= 1 3 であることから、d’Alembert の公式により収束半径は 1
3.
筆者は、2つの収束冪級数の和として得られる冪級数の収束半径は、最初の冪級数の収束半 径の最小値とある時期勘違いしていたが、それは正しくない。
問 43. 冪級数 "∞
n=0
anzn,
"∞ n=0
bnzn の収束半径がそれぞれ R1, R2 で、0 < R1 < R2 <∞ を満 たすならば、"∞
n=0
(an+bn)zn の収束半径はR1 であることを示せ。
問 44. 冪級数"∞
n=0
anzn,
"∞ n=0
bnzn の収束半径が両方共 R とする。
(1)
"∞ n=0
(an+bn)zn の収束半径はR 以上であることを示せ。
(2)
"∞ n=0
(an+bn)zn の収束半径がR より大きい例をあげよ。
これで間に合えば嬉しいが、実はあまり役に立たない(各点収束することから導ける命題が あまりない)。
例 3.13 (連続関数列の極限が連続でない) fn(x) = tan−1(nx) (x∈R, n∈N) とする。
f(x) =
⎧⎪
⎨
⎪⎩
1 (x >0) 0 (x= 0)
−1 (x <0) とおくと、任意の x ∈ R に対して、lim
n→∞fn(x) = f(x). (x = 0 ならば fn(x) = 0 より
nlim→∞fn(x) = 0. x > 0 ならば、n → ∞ のとき nx → ∞ であるから、tan−1(nx)→ 1. x < 0 のときも同様。)
ゆえに{fn}は f に (R上) 各点収束する。fn はすべて連続関数であるが、f は不連続関数 である。
渋谷でDJ ポリスが奮闘する時期なので、一様収束しない関数列の実例はこれがいいかな?
(本当は色々なものを見せたいのだけれど24、一つ見せるのならば。)
例 3.14 (魔女の帽子 (witch’s hat), 項別積分出来ない例) n ∈N に対して、fn: R→R を
fn(x) :=
⎧⎪
⎨
⎪⎩
n2x (0≤x < n1)
−n2x+ 2n (n1 ≤x < n2)
0 (x <0 またはx≥ n2) で定めるとき、任意の x∈Rに対して
nlim→∞fn(x) = 0.
すなわち数列 {fn} は定数関数 f(x) = 0 に (R 上)各点収束する。これを確かめるには (収束 の定義によると)
(∀ε>0) (∃N ∈N) (∀n ∈N: n ≥N) |fn(x)−f(x)|<ε を示す必要がある。
(a) x≤0 の場合: 任意の n ∈N について fn(x) = 0 であるから、N = 1 とすれば良い。
(b) x >0 の場合: N > 2
x を満たす N ∈N を取れば良い25。 グラフを描けばすぐ分かるように、任意の n∈N に対して
!
Rfn(x)dx= 1 2· 2
n ·n = 1 であるから、
nlim→∞
!
R
fn(x)dx= 1.
これは !
Rf(x)dx = 0 とは一致しない。すなわち
nlim→∞
!
R
fn(x)dx̸=
!
R
nlim→∞fn(x)dx.
24「画像処理とフーリエ変換」で、不連続な関数のFourier級数は見ている人が多いので、連続関数列の各点 収束極限が不連続になるのは知っている「はず」。
25「数学解析」を受講した人向け: そういうN が存在することを示すのには、アルキメデスの公理を使うわけ です。
一般に
n→∞lim
!
K
fn(x)dx=
!
K
n→∞lim fn(x)dx
が成り立っているとき、{fn} は K で項別積分 (term by term integration)出来る、項別積分 可能である、という。上の例は無条件では項別積分が出来ないことを示している。
✓ ✏
定義 3.15 (一様収束) K を空でない集合、f: K →C, {fn}は K を定義域とする複素数 値関数列とする。{fn}が f に (K 上) 一様収束するとは、
n→∞lim sup
x∈K|fn(x)−f(x)|= 0 が成り立つことをいう。
K を定義域とする関数列{an}n≥0 があるとき、関数項級数 "∞
n=0
an(x)が (K 上)一様収 束するとは、部分和sn(x) :=
"n k=0
ak(x)の作る関数列 {sn}n∈N が(K 上) 一様収束するこ とをいう。
✒ ✑
任意のx0 ∈K に対して、
|fn(x0)−f(x0)|≤ sup
x∈K|fn(x)−f(x)| であるから、
関数列が一様収束するならば (同じ極限関数に) 各点収束する
が26、逆は必ずしも成り立たない。上の例の関数列はどちらも各点収束しているが、一様収束 はしていない。実際、例 3.13 では、
sup
x∈R|fn(x)−f(x)|= 1, 例 3.14 では
sup
x∈R|fn(x)−f(x)|=n であるので、どちらも sup
x∈R|fn(x)−f(x)|= 0 とはならない。
一様収束は各点収束よりも強い条件である。
3.2.2 一様収束のありがたみ
✓ ✏
命題 3.16 (連続関数列の一様収束極限は連続) Ω⊂C, f: Ω→C, {fn} は Ω 上の複素数 値連続関数列とする。{fn} が Ω 上 f に 一様収束するならば、f は Ω 上連続である。
✒ ✑
証明 x0 ∈Ω とする。任意の正の数 ε に対して、{fn} が Ω上 f に一様収束することから、
(∃N ∈N) (∀n ∈N: n ≥N)
sup
y∈Ω|fn(y)−f(y)|< ε 3.
26従って、関数列{fn} に対して、各点収束の意味での極限f を求めておけば、{fn}が一様収束するかどう かは、{fn}がf に一様収束するかどうか、という問題になる。複数の種類の収束があるけれど、極限関数f が 複数あるわけでない、ということである。もしかすると、これが各点収束について一番大事な定理なのかもしれ ない。
fN は Ω で連続であるから、(∃δ>0) (∀x∈Ω: |x−x0|<δ) |fN(x)−fN(x0)|< ε3. ゆえに、x∈Ω, |x−x0|<δ であれば、
|f(x)−f(x0)|=|f(x)−fN(x) +fN(x)−fN(x0) +fN(x0)−f(x0)|
≤|f(x)−fN(x)|+|fN(x)−fN(x0)|+|fN(x0)−f(x0)|
≤sup
y∈Ω|f(y)−fN(y)|+|fN(x)−fN(x0)|+ sup
y∈Ω|fN(y)−f(y)|
≤ ε 3 +ε
3 +ε 3 =ε.
これは f が x0 で連続なことを示している。
問 45. 例 3.13 の関数列 {fn} に対しては、各点収束の意味での極限 f は x0 = 0 で連続では ない。命題 3.16 の証明のどこが成り立たないか、考えよ。
実関数の場合の項別微分、項別積分
本当は微積分を学ぶ際にやるべきことだけれど、省略されている可能性が高いので、さらっ と紹介する。2つの定理とその証明を説明するが、私はとても見通しの良い証明であると思っ ている。複素関数の場合も同様の証明が可能であるが、そのためには複素関数の積分を定義す る必要があるので、少し待って下さい。
ここでは簡単のため、Ωが実軸上の有界閉区間[a, b]の場合に定理を述べて証明するが、もっ と一般の場合に成り立つことは分かるであろう。
✓ ✏
命題 3.17 (一様収束ならば項別積分可能) [a, b]はRの区間、{fn} は[a, b]上の複素数値 連続関数列で、n → ∞のとき関数 f に [a, b]で一様に収束するならば、
n→∞lim
! b a
fn(x)dx=
! b a
f(x)dx.
✒ ✑
証明
%%
%%
! b a
fn(x)dx−
! b a
f(x)dx
%%
%%=
%%
%%
! b a
(fn(x)−f(x))dx
%%
%%≤
! b
a |fn(x)−f(x)|dx
≤ sup
y∈[a,b]|fn(y)−f(y)|
! b a
dx
= sup
y∈[a,b]|fn(y)−f(y)|(b−a)→0.
✓ ✏
命題 3.18 R の区間 I = [a, b] 上のC1 級の関数列 {fn}n∈N が2条件 (1) {fn}n∈N は n → ∞のとき、ある関数 f に I で各点収束する。
(2) 導関数列 {fn′}n∈N は n → ∞のとき、ある関数 g に I で一様収束する。
を満たすならば、f は I で C1 級で、f′ =g を満たす。
✒ ✑
証明 任意の x∈[a, b] に対して
fn(x) = fn(a) +
! x a
fn′(t)dt
が成り立つ。n→ ∞ としたときの極限は f(x) =f(a) +
! x a
g(t)dt.
g は連続関数列の一様収束極限であるから、連続であることに注意すると、f は微分可能で f′(x) = g(x).
g は連続であるから、f は C1 級である。
問 46. 微分の定義に基づき
d dx
! x a
g(t)dt=g(x) を示せ。
3.2.3 WeierstrassのM-test
次に紹介する Weierstrassの M-test は、便利な定理である27(一様収束を証明する場合の九 割以上で使われているのではないかと思われる)。
✓ ✏
命題 3.19 (Weierstrass の M-test) Ω は空でない集合、{an} は Ω を定義域とする複 素数値関数列とする。実数列 {Mn} で
(i) (∀n∈N) (∀x∈Ω) |an(x)|≤Mn. (ii)
"∞ n=1
Mn は収束する。
を満たすものが存在するならば、"∞
n=1
|an(x)| と"∞
n=1
an(x) は Ω で一様収束する。(前者が Ωで一様収束することを、"∞
n=1
an(x) は Ω で一様絶対収束するという。)
✒ ✑
証明 n ∈N, x∈Ω に対して、
Tn:=
"n k=1
Mk, Sn(x) :=
"n k=1
|ak(x)|, sn(x) :=
"n k=1
ak(x) とおく。
任意のx∈Ω, 任意の n, m∈N に対して、
(♯) |sn(x)−sm(x)|≤|Sn(x)−Sm(x)|≤|Tn−Tm| が成り立つ (いつもの式変形だから、もうさぼってもいいよね)。
27暇話になるけれど、昔小説(タイトルは忘れた)を読んでいて、主人公(学生)が一様収束の勉強をしている というくだりがあった。難しいことを真面目に勉強しているということを言いたかったらしい(性格の描写のう ちの一つ)。でも一様収束というのはそんなに難しいことではないと思う(時が経って、自分の方がずれてしまっ たのかなあ?)。関数のグラフを描いてみればイメージは明瞭である(と思うのだけど)。実際に証明が出来るか については、「級数の一様収束の証明なんて、結局はこれを使うしかないはずだ」くらいに割り切って、一様収 束とWeierstrassの M-testをセットで覚えれば良いと思う。
仮定より、{Tn} は収束列であるから、Cauchy 列である。任意の x ∈ Ω に対して、(♯) よ り、{Sn(x)},{sn(x)} も Cauchy 列であるから、収束列である。
T = lim
n→∞Tn, S(x) = lim
n→∞Sn(x), s(x) = lim
n→∞sn(x) とおく。(♯) で m→ ∞ とすると
|sn(x)−s(x)|≤|Sn(x)−S(x)|≤|Tn−T|. これが任意の x∈Ωについて成り立つのだから
sup
x∈Ω|sn(x)−s(x)|≤sup
x∈Ω|Sn(x)−S(x)|≤|Tn−T|.
n → ∞ とすると、右辺は 0 に収束するから、{Sn} は S に、{sn} は s に、Ω 上一様収束す る。
(細かいことだが、上の証明から、一般に "
n
|an(x)| が一様収束すれば、"
n
an(x) も一様 収束することが分かる。すなわち「一様絶対収束するならば一様収束する」。)
次の定理は有名である(定理3.3 とセットにして覚えるべき)。
✓ ✏
定理 3.20 (冪級数は収束円盤内の任意の閉円盤で一様絶対収束する)
"∞ n=0
an(z−c)n の収 束半径を ρ とする。このとき 0< R < ρ を満たす任意の R に対して、"∞
n=0
an(z−c)n は 閉円盤K :={z ∈C| |z−c|≤R} 上一様絶対収束する。
✒ ✑
補題3.1 では、証明に優級数の定理を使ったが、その代わりに Weierstrass の M test を使っ て改良した、というような結果である。
証明 c= 0 として証明すれば十分である。
ρ = 0 の場合は証明すべきことはない。以下 ρ > 0 とする。R < r < ρ なる r を取ると (ρ < ∞ ならばr = R+ρ
2 , ρ = ∞ ならば r = R+ 1)、"∞
n=0
anzn は z = r で収束するので、
nlim→∞anrn = 0. ゆえに {anrn}n∈N は有界な数列であるから、
M := sup
n∈N|anrn| とおくと M ∈R. |z|≤R に対して、
|anzn|=|anrn|%%%z r
%%
%n≤M
#R r
$n
.
Mn :=M
#R r
$n
とおくと、∀z ∈K に対して、|anzn|≤Mn, またR < r であるから、"∞
n=0
Mn
は収束する。Weierstrass の M-test により、"∞
n=0
anzn は、K上一様収束する。
この定理により、冪級数は収束円の内部で連続であることが分かるが、すぐ後にもっと強く
正則 (微分可能)であることを示すので、それはわざわざ命題として書かないことにする。
余談 3.21 (コンパクト集合を知っている人向け — 言葉遣い「広義一様収束」) 上の定理を
「冪級数は収束円内で広義一様収束する」と表現するテキストもあるので、少し説明しておく。
D(c;ρ) 内の任意のコンパクト集合(今の場合は、D(c;ρ) に含まれる有界な閉集合のこと) は、適当な R <ρ に対して、{z ∈C| |z−c|≤R} に含まれるので、冪級数はD(c;ρ)内の任 意のコンパクト集合上で一様収束することが分かる。そのことを D(c;ρ)で広義一様収束する という(英語では、そのものずばりで、“uniformly convergent on every compact set” という のが普通らしい)。