3.4 冪級数の収束円周上の点での収束発散, Abel の級数変形法, Abel の連続性定理 67
3.4.2 Abel による 2 つの定理
議論がやや面倒なので (時間がかかりがち)、授業では省略することがありうる。少なくと も証明は「後で」と言っておいて、結局は出来ませんでしたね、ごめんなさい、という可能性 が高い。
まず、どういう応用があるかを書いておく。
•
"∞ n=1
zn
n は |z|= 1, z ̸= 1 を満たす z について収束する。
• 次の有名な級数の和の証明31 π
4 = 1−1 3 +1
5 −· · · . log 2 = 1
1 −1 2 +1
3 −· · · .
2つの定理のどちらの証明もAbel の級数変形法が鍵となる。これは微積分の部分積分法の 数列(級数)バージョンと考えることが出来る(微分 ←→ 階差,積分 = ←→ 和>)。
✓ ✏
補題 3.37 (Abelの級数変形法) 数列 {αn}n≥0, {βn}n≥0 があるとき、sn :=
"n k=0
αk とお
くと、 "n
k=0
αkβk =snβn+
n−1
"
k=0
sk(βk−βk+1) が成り立つ。
✒ ✑
証明 a0 =s0,ak =sk−sk=1 (k ≥1) であるから、
"n k=0
αkβk =s0β0+
"n k=1
(sk−sk−1)βk =s0β0 +
"n k=1
skβk−
"n k=1
sk−1βk
=s0β0+
"n k=1
skβk−
"n−1 k=0
skβk+1 =s0β0+ .n−1
"
k=1
skβk+snβn
/
− .
s0β1+
"n−1 k=1
skβk+1
/
=s0(β0 −β1) +
"n−1 k=1
sk(βk−βk+1) +snβn
=
n−1
"
k=0
sk(βk−βk+1) +snβn. これから次の定理が得られる。
✓ ✏
命題 3.38 {αn}n≥0 は部分和が有界な複素数列、{βn}n≥0 は単調減少して 0に収束する数 列とするとき、"∞
n=0
αnβn は収束する。
✒ ✑
31これらは、微積分で個別に証明することが出来るが、複素関数の立場からは、正則関数の冪級数展開が収束 円の内部でもとの関数と一致するという定理と、Abelの連続性定理を使うのが分かりやすい。
証明 sn:=
"n k=0
αk とおくと、仮定から(∃M ∈R) (∀n ∈N)|sn|≤M. Abel の級数変形法に より
"n k=0
αβk=
"n−1 k=0
sk(βk−βk+1) +snβn.
右辺第2項について、|snβn| ≤ Mβn → 0 (n → ∞) であるから、n → ∞ とするとき、
snβn→0.
右辺第1項については
|sk(βk−βk+1)|≤M(βk−βk+1),
"n k=0
M(βk−βk+1) =Mβ0−Mβn+1 →Mβ0
であるから、優級数の定理より、n → ∞のとき "n−1
k=0
sk(βk−βk+1) は収束する。
ゆえに、n→ ∞ のとき、
"n k=0
αkβk は収束する。
例 3.39
"∞ n=1
zn
n は |z|= 1, z ̸= 1を満たすz に対して収束する。実際、αn :=zn, βn := 1 n と おくとき、 %%%%%
"n k=1
zn
%%
%%
%=
%%
%%z(1−zn) 1−z
%%
%%≤ |z|(1 +|zn|)
|1−z| = 2
|1−z|
であるから{αn}の部分和は有界であり、{βn}は単調減少して0に収束する。ゆえに"∞
n=1
αnβn =
"∞ n=1
zn
n は収束する。
有名なAbel の連続性定理を証明するために、補題 3.37 を少し一般化しよう。
✓ ✏
補題 3.40 数列 {αn}n≥0, {βn}n≥0 があるとき、任意の m ∈ N に対して、sn :=
"n k=m
αk
(n ≥m) とおくと、
"n k=m
αkβk =snβn+
"n−1 k=m
sk(βk−βk+1) が成り立つ。
✒ ✑
証明 補題 3.37 の証明と同様である。
✓ ✏
定理 3.41 (Abelの連続性定理 (Abel’s continuity theorem)) 冪級数 f(z) =
"∞ n=0
anzn
が z =R (R > 0)で収束したとする。任意の正数K に対して、
ΩK :=
? z ∈C
%%
%%|z|< R, |1−z/R| 1−|z|/R ≤K
@
とおくとき、f は ΩK ∪{R} で一様収束する。特に f は ΩK ∪{R} で連続である。さら に特に
x∈[0,R)lim
x→R
f(x) = f(R).
✒ ✑
(ΩK の「形」が見たければ、例えばMathematicaでR=1; Manipulate[ RegionPlot[ x^2 + y^2 < R^2 && Abs[1 - (x + I y)/R]/(1 - Abs[x + I y]/R) <= K, {x, -2, 2}, {y, -2, 2}], {K, 1, 10, 0.1}] とする。K を大きくすると…)
図 3: R= 1, K = 4.8の場合の ΩK と円周 |z|=R
証明 K を任意の正の数とする。z を ΩK の任意の要素とする。任意の n∈N に対して αn :=anRn, β :=(z
R )n
, fn(z) :=
"n k=0
akzk
とおく。akzk =αkβk であり、
fn(z) =
"n k=0
αkβk, fn(R) =
"n k=0
αk.
|z|< R であるから、
|βn|=
#|z| R
$n
<1.
仮定から lim
n→∞fn(R) =f(R) であるから、{fn(R)}n∈N は Cauchy 列であるので32
(25) lim
n→+∞sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)|= 0.
また "∞
n=0
|βn−βn+1|=
"∞ n=0
%%
%(z R
)n( 1− z
R
)%%%= |1−z/R|
1−|z|/R ≤K <∞. m, n∈N, m > n とするとき、
fm(z)−fn(z) =
"m k=n+1
akzk=
"m k=n+1
αkβk=
"m k=n+1
sk(βk−βk+1) +smβm.
ただし sk :=
"k j=n+1
αj とおいた。sk =
"k j=0
αj −
"n j=0
αj =fk(R)−fn(R) であるから、
|sk|=|fk(R)−fn(R)|≤sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)|. ゆえに
|fm(z)−fn(z)|≤sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)|
. m
"
k=n+1
|βk−βk+1|+|βm| /
≤(K+ 1) sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)|.
mlim→∞fm(z) = f(z)であるので(これは既に証明済みの定理を使っても良いし、この不等式から {fn(z)}n∈N が Cauchy 列であるから収束する、としても良い)、この不等式でm → ∞として
|f(z)−fn(z)|≤(K + 1) sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)|. z についての上限を取って
sup
z∈ΩK
|f(z)−fn(z)|≤(K+ 1) sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)|. (25)より、関数列 {fn} は ΩK で f に一様収束する。
余談 3.42 (Stolz の路) 多くのテキストで、Abelの連続性定理は、α∈(0,π/2)を満たす任意 の αに対して、|arg(z−R)−π|<α を満たしながら、z →R とするとき(このことを「Stolz の路に沿って z →Rとする」という)、f(z)→f(R) が成り立つ、となっている。つまり
|arg(z−limR)−π|<α z→R
f(z) =f(R).
実は |1−z/R|
1−|z|/R = |R−z|
R−|z| <2 secα であるから、上の定理を用いて、こちらの命題はすぐ に証明できる。(図が欲しい…)
32 任意の正数 ε に対して、十分大きい N を取ると、n, m ≥ N ならば |fm(R)−fn(R)| < ε. ゆえに sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)|≤ε.
余談 3.43 (Abel とはどういう人) 昔は、Abel は若くしてなくなった天才であるということ を、学生も良く知っていたと思うのだけど、最近そういうのに疎い人が多いような気がするの で、少し紹介しておく。
Niels Henrik Abel (1802–1829,ノルウェー)は、冪級数の収束発散についての基礎を確立し た。それ以外に
1. α が一般の複素数であるときの (1 +x)α の展開(一般2項定理)の証明 2. 5 次以上の代数方程式が有限回の四則と冪根では解けないことの証明 3. 楕円関数論
などの仕事 (後の二つは偉大な仕事!) を行った。
4 複素関数としての対数関数と冪関数
この節では、対数関数を複素関数に拡張するが、それは変数の1つの値に対して、関数の複 数の値が対応する多価関数となる。これは、前節までに論じた多項式関数、有理関数、指数関 数、三角関数、双曲線関数には見られなかった特徴である。
実は、冪関数 w =zα (α ∈ C\Z)、逆三角関数、逆双曲線関数も多価関数となるが、これ らは対数関数を使って表されるので、これら関数の多価性は、対数関数の多価性を通じて理解 できる。(前節で、いくつかの関数は、その Taylor 展開の収束半径が有限で収束円が C 全体 ではない、と述べたこと33とも関係がある。)
この節は短いけれども非常に重要である。