• 検索結果がありません。

Sb 照射 GaAs バッファ層上の InAs 2 次元成長および 3 次元成長過程

第 3 章 Sb 照射 GaAs バッファ層上の InAs 成長過程における表面構造

3.3 結果と考察

3.3.2 Sb 照射 GaAs バッファ層上の InAs 2 次元成長および 3 次元成長過程

すでに述べたように,基板温度438 ℃のSb照射GaAsバッファ層表面は,RHEEDパターンの観察に より(2×3)と(4×3)の遷移領域にあることが分かった(図3.2(b)).そこで,Model BとModel Cの2つの(2×3) 表面再構成構造モデルの組み合わせによる表面再構成構造モデルについて検討した.図3.6(a) - 3.6 (d)は,

Model B(図3.5(b))とModel C(図3.5(c))によるモデル(Model I(a),Model II (b)),Model Cのみによ るモデル(Model III(c)),そしてModel Bのみによるモデル(Model IV(d))で,Model IおよびIIはそれ ぞれ(4×3)構造であり,Model IIIおよびIVはそれぞれ(2×3)構造(Model CおよびModel B)である.図 3.6(e), 3.6 (f)は,図3.4(d)のSTM像の一部を拡大した像で,それぞれModel I,Model II,Model III,Model IVに対応するダイマー列の例である.図3.4(a), 3.4 (d)に示した表面におけるダイマー列は,Model Iから IVの組み合わせで構成されるものと考えられる.エネルギー的に最も安定なModel IVは,直線状のダイ マー列が形成されている領域において支配的である(図3.6(f), 3.4(a)).一方,エネルギーの最も高いModel IIIは大きく曲折したダイマー列(図3.6(f))に対応し,表面における支配性は低い.また,ダイマーのジ グザグ構造は[110]方向と[-1-10]方向のどちらにも曲折しており(図3.6(e), 3.4(a)),それらのダイマー列

はModel IおよびModel IIに対応する.表面のダイマー列の曲折はランダムに観察されることから(図

3.4(a), 3.4(d)),Model I ~ IVのそれぞれによる領域の区分はなく,基板温度438 ℃では2つの(2×3)の周期

構造と2つの(4×3)の周期構造が混在しているものと考えられる.

次の3.3.2では,基板温度460 ℃でInAs成長過程のその場STM観察を試みたが,基板温度460 ℃に

おけるSb照射GaAsバッファ層表面は(2×3)パターンを示した(図3.2(d)).Sb照射GaAsバッファ層表面 のエネルギー安定性[6]から,基板温度460 ℃ではエネルギー的に最も安定なModel B(図3.5(b))から 成る直線状のダイマー列構造が支配的に形成されているものと考えられ,438 ℃で観察されたダイマー 列のジグザグ構造は抑制されているものと考えられる.

[1-10]

1 nm

(b)

(c)

(d) (a)

(e) (f)

[1-10]

3

rd

Ga 1

st

Sb 2

nd

Sb

(a) Model I

(b) Model II

(c) Model III

(d) Model IV

1 nm

Model B Model C

3.6 2つの(2

×

3)構造による(4

×

3)構造 Model I (a), Model II (b), Model III (c), Model IV (d).

Model IおよびModel IIに該当するダイマー構造(e),

3.7 Sb照射GaAsバッファ層上のInAs成長におけるRHEEDパターン変化.

InAs成長前のRHEEDパターン(a),

(a)中の白線部におけるRHEED強度のInAs成長量依存性(b).

0 0.5 1 1.5

InAs coverage (ML)

R H E E D in te n sit y

(2 × 3) (2 × a3) (2 × 4)

(b)

(00) (01) (00) (01)

[1-10] 入射 [1 10] 入射

[110] 入射 [1-10] 入射

(a)

(01) (00) (01) (00)

3.3.1で議論したように,基板温度460℃におけるSb照射GaAsバッファ層表面は(2×3)パターンを示した.

3.7(c)はInAs成長中におけるRHEEDパターン変化であり,図3.7(a), 3.7(b)の中に示す白線部分((00)

ストリークから(01)ストリークまで)の強度変化を示したものである.InAs成長開始から成長量0.8 ML までは(2×3)が観察され,0.8 MLから1.1 MLでは(2×3)から(2×4)への遷移パターンである“(2×a3)”が見ら れた.さらに,1.1 MLから1.65 ML(3次元島形成までの臨界膜厚)までは(2×4)パターンが観察された.基 板温度460 ℃における通常のGaAsバッファ層上のInAs成長においては,成長量1.2 ML以降で(2×a3) パターンから(2×4)パターンへの遷移が見られており[7],この遷移は本研究で用いたSb照射量の有無に は依存しないものと考えられる.

3.8には,Sb照射GaAsバッファ層上のInAs成長過程におけるその場STM像を示す.STM像は左 から右に,また下から上に向かってスキャンを行った.よって,STM像内の各位置においてInAs成長量 は異なり,下から上の200 nmスキャンの間(スキャン時間105 s)の成長量は0.08 ML(成長速度0.000764

ML/s)に相当する.また,熱ドリフトのために各STM像のスキャン領域は同一ではない.InAs成長開始

前(a)におけるステップ密度は103 μm-1と計測され,基板温度438 ℃におけるSb照射GaAsバッファ層表

面の183 μm-1よりも低密度化した.InAs成長開始後,探針の状態変化などに起因する観察状況の変化が

見られたものの,成長量の増加につれて表面モフォロジーが変化していく様子が観察された(図3.8(b) -

3.8(j)).成長量0.88 ~ 0.96 ML(図3.8(f))における2次元島のテラス上では,図中の矢印の先に示す単分

子ステップ高さの微小な2次元島が多数観察された.その後の成長量では微小2次元島の密度増加とサ イズの増大が観察され,3次元島遷移の臨界膜厚付近の成長量1.54 ~ 1.62 ML(図3.8(j))では,単分子ス テップ高さよりも高い島の形成を確認した.以下では,2次元島および3次元島の成長過程をさらに詳細 に調べた.

3.9(a)には,成長量0.89 MLから3次元島遷移までに観察された微小2次元島の密度のInAs成長量

依存性を示す.この微小2次元島のラテラルサイズは最大25 nm程度で,単分子層の高さである.微小2 次元島の密度は成長量の増加とともに増加し,1.5 ML程度で1.3×1011 cm-2に達した.その後,3次元島が

出現する1.62 MLまでは微小2次元島は急激に減少した.図3.9(b), 3.9(c)には,基板温度430 ℃での通常

のGaAsバッファ層上のInAs成長におけるその場STM像を示す.InAs成長量は0.90 ~ 0.95 ML(図3.9(b))

Sb照射GaAsバッファ層表面

(200 nm×200 nm) スキャン方向

0.10 ML InAs成長量 0.18 ML

0.32 ML

0.23 ML

0.52 ML 0.60 ML

0.72 ML

0.64 ML 0.96 ML

0.88 ML

1.04 ML 1.12 ML

1.41 ML

1.33 ML

1.45 ML 1.54 ML

1.54 ML 1.62 ML

[110]

[1-10]

(b)

(c)

(a) (d)

(e)

(f)

(g)

(h)

(i)

(j)

3.8 InAs成長過程におけるその場STM像.

0 ML (a), 0.10 ML ~ 0.18 ML (b), 0.23 ML ~ 0.32 ML (c),

0.52 ML ~ 0.60 ML (d), 0.64 ML ~ 0.72 ML (e), 0.88 ML ~ 0.96 ML (f),

1.04 ML ~ 1.12 ML (g), 1.33 ML ~ 1.41 ML (h), 1.45 ML ~ 1.54 ML (i),

1.54 ML ~ 1.62 ML (j).

0.97 ML

(d)

0.89 ML

(e)

1.45 ML 1.54 ML 0.95 ML

(b)

0.90 ML

(c)

1.20 ML 1.25ML

200 nm 100 nm

(a)

0 5 10 15

0.8 1 1.2 1.4 1.6

Sm al l 2D is la nd den si ty ( × 10

10

cm

-2

)

InAs coverage (ML)

GaAsバッファ層上[8] Sb照射GaAsバッファ層上

3.9 InAs成長過程におけるその場STM像.

GaAsバッファ層上(a), (b)[8],Sb照射GaAsバッファ層上(c), (d).

(c)および(d)は図3.8(f), 3.8(i)と同じ.

と1.20 ~ 1.25 ML(図3.9(c))である[8].また,図3.9(d), 3.9(e)は,Sb照射GaAsバッファ層上のInAs成 長におけるその場STM像で,成長量は0.88 ~ 0.96 ML(図3.9(d))と1.45 ~ 1.54 ML(図3.9(e))(それぞ

れ図3.8(f), 3.8(i)と同じ)である.GaAsバッファ層上では,成長量0.90 MLから1.25 MLでは微小2次元

島の形成は確認されず,さらに比較的大きな2次元島の成長も抑制されているのが分かる.

3.10には,Sb照射GaAsバッファ層上のInAs 2次元島のステップ密度のInAs成長量依存性を示す.

図中の白丸(○)は微小2次元島のステップ密度を除外したステップ密度で,四角(□)は基板温度430 ℃ のGaAsバッファ層上におけるステップ密度である[8].Sb照射GaAsバッファ層上では,InAs成長開始 からステップ密度は増加し,成長量0.55 ML程度で最大値に達した後急激に減少し,0.9 MLで最小とな った後再び増加した.このようなステップ密度変化は成長量の増加に伴う2次元島の被覆率変化による rough-and-flat過程を示している.特に,成長量0.52 ~ 0.96 ML(図3.8(d)-3.8 (f))では,2次元島同士の合 体による表面平坦性の向上が観察され,この平坦化はステップ密度の減少と対応する.一方,GaAsバッ ファ層上のInAs成長におけるステップ密度は,InAs成長開始時において最も高く,0.5 ML程度で減少し,

それ以降は3次元核形成の臨界膜厚まで飽和している.以上のように,Sb照射GaAsバッファ層上(基 板温度460 ℃)のステップ密度は,GaAsバッファ層上(基板温度430 ℃)[8]よりも3倍以上高い.こ のステップ密度の増加は,下地Sb原子の導入による微小2次元島の形成によることが分かった.

次に,2次元から3次元成長への遷移付近における高さ0.5 nm以上のInAs島の変化について調べた.

3.11(a)には,InAs成長時間2014 ~ 2148 s(成長量1.54 ~ 1.64 ML)におけるその場STM像を示す.矢

印は1.2 nm以上の高さの3次元島である.図3.11(b), 3.11(c)には,図3.11(a)において観察されたInAs島

のラテラルサイズおよび高さの成長時間依存性を示す.図 3.11(c)中の白丸(○)は微小2次元島の高さ

(0.3 nm)である.InAs島は成長時間2120 s以降で多数形成され,3次元島成長へ急激に遷移している様 子が分かる(図 3.11(c)).3 次元島は約半数がステップ端近傍に形成され(図 3.11(a)),そのラテラルサ イズは5 ~ 11 nmが支配的であった(図3.11(b)).図3.11(d) - 3.11(h)は,InAs成長過程における微小2次 元島のラテラルサイズ分布である.微小2次元島のラテラルサイズは6 ~ 12 nmのものが多く観察された.

また,微小2次元島は1987 ~ 2040 sでは79個観察され(図3.11(f)),高さ0.5 nm以上の島が形成された

3.10 Sb照射GaAsバッファ層上のステップ密度とInAs成長量の関係(基板温度460 ℃).

InAs 1層被覆後に出現した微小2次元島を含む場合(●)と除いた場合(○)のステップ密度.

比較のために,基板温度430 ℃におけるGaAsバッファ層上の場合の

ステップ密度(□)[8]も示す.

0 50 100 150 200 250 300

0 0.5 1 1.5

Step density (μm-1 )

InAs coverage (ML)

Sb照射GaAsバッファ層上

(基板温度460 ℃)

GaAsバッファ層上

(基板温度430 ℃)[8]

微小2次元島含む

微小2次元島除く

3.11 3次元成長への遷移付近のSTM像(a)と

InAs島のラテラルサイズ分布(b)および高さ分布(c)のInAs成長量依存性.

(a)中の矢印は1.2 nm以上の3次元島.

(d) ~ (h)は微小2次元島のラテラルサイズ分布.

(0.89 ML ~ 0.93 ML (d), 1.18 ML ~ 1.24 ML (e), 1.51 ML ~ 1.55 ML (f), 1.55 ML ~ 1.59 ML (g), 1.59 ML ~ 1.63 ML (h)

0 3 6 9 12 15

Number

0 3 6 9 12 15

Number

0 3 6 9 12 15

Number

(d)

(e)

(f)

0 3 6 9 12 15

Number

(g)

0 3 6 9 12 15

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

Number

Island lateral size (nm)

(h)

1288 ~ 1342 s (1.19 ~ 1.23 ML)

1987 ~ 2040 s (1.52 ~ 1.56 ML) 1182 ~ 1235 s (0.91 ~ 0.95 ML)

2040 ~ 2094 s (1.56 ~ 1.60 ML)

2094 ~ 2148 s (1.60 ~ 1.64 ML) InAs growth time (InAs coverage)

2148 s (1.64 ML)

2014s (1.54 ML)

(a)

500 nm

(b)

(c)

0 0.5 1 1.5 2

2000 2040 2080 2120 2160

Island height (nm)

InAs growth time (s) (coverage (ML))

(1.53) (1.56) (1.59) (1.62) (1.65) 0

5 10 15 20 25 30

Island lateral size [nm]

3次元島

微小2次元島

2040 ~ 2094 sでは37個(図3.11(g)),2094 ~ 2148 sでは20個観察された(図3.11(h)).3次元島が急激に

増加した2090 s以降で島は23個観察され,2094 ~ 2148 sの間に減少した島の個数の17個と近いことが

分かった.したがって,微小2次元島が3次元島の核となり3次元成長へと変化したものと考えられる.

InAs成長におけるその場STM観察実験の終了後,成長試料を成長室から取り出してから観察したAFM

像を図3.12(a)に示す.InAs成長量は2.02 MLで,3次元島の密度は1.1×1011 cm-2と高密度であった.コ

アレッセンスによる巨大な 3 次元島も比較的多数形成されたが,成長量が過剰であったことが要因であ ると考えられる.また,AFM像における3次元島の高さ(図3.12(b))は1.0 ~ 2.0 nmのものが多く,臨 界膜厚付近(1.60 ~ 1.64 ML)で形成された3次元島の高さ(図3.11(c))とほぼ等しいことが分かった.

500 nm

0 5 10 15 20 25

0 1 2 3 4 5 6

Number

3-dimensional island height (nm)

(b)

(a)

以上の結果から,Sb照射GaAsバッファ層上のInAs 3次元核形成におけるSbの導入効果について以下 にまとめる.図3.13は,Sb照射GaAsバッファ層上のInAs成長過程の概略図である.Sb照射GaAsバッ ファ層表面は(2×3)再構成構造を示し,ステップ密度はGaAsバッファ層表面(c(4×4))より3倍以上高か

った.InAs 1層成長後のテラス上にはGaAsバッファ層上では観察されない微小2次元島が多数形成され,

ステップ密度はGaAsバッファ層上に比べ3倍以上増加した.これらの現象は,Sb原子がGaAsバッファ 層からInAs濡れ層(2次元層)への表面偏析によるものと考えられる.また,3次元島は約半数がアイ ランドのステップ端近傍に形成されたことから,高密度ステップの形成も高密度な3次元島の形成に寄 与したものと考えられる.さらに,2次元から3次元成長への遷移付近において,3次元島の発生数とほ ぼ同数の微小2次元島が減少したことから,微小2次元島が3次元島の核となって3次元化へ移行して いったものと考えられる.このようなSb表面偏析を介した微小2次元島の核形成とそれによる高密度の ステップ構造は高密度の3次元核形成サイトを供給するだけでなく,In原子の表面マイグレーションも 抑制させるため,高密度のInAs量子ドットが形成されたものと考えられる.

後述する第4章,第5章のSb照射GaAsバッファ層表面が(1×3)再構成構造を示す成長条件において,

高密度の細線状のInAs 2次元島構造が観察されている[1].このような2次元島成長は,本章((2×3)表面 上)で観察された微小2次元島構造の形成と同様に表面偏析したSb原子が起因となっていると考えられ ている.したがって,高密度InAs量子ドットの形成制御には,Sb導入法に特有なInAs 2次元島構造の 成長条件による制御が重要である.

3.13 Sb照射GaAsバッファ層上のInAs成長における 2次元成長から3次元島成長への遷移過程の概略図.

InAs成長量

臨界膜厚

Sb照射GaAs

バッファ層表面-(2×3)

1 ML

微小2次元島

Sb表面偏析

InAs濡れ層表面-(2×4)

微小2次元島の密度増加

3次元島 1.5 ML

0 ML

(b) (a)

(c)

(d)