第 6 章 結論および今後の課題
6.1 本論文の結論
本論文では,MBEによるSb照射GaAsバッファ層上の高密度InAs量子ドットの自己形 成において,下地のGaAsバッファ層およびInAs量子ドットへのSb導入効果について明ら かにすることを目的とし,InAs量子ドットの下地のSb照射GaAsバッファ層の表面構造,
その層上へのInAs量子ドットの成長過程および成長中断過程についてまとめた.
第 1 章で本研究の背景および目的と意義を述べ,第2 章で試料作製方法,実験の装置お よび原理について概説した.
第3章では,Sb照射GaAsバッファ層上のInAs成長のその場STM観察の前段階として,
Sb照射GaAsバッファ層表面のSTM観察およびRHEEDパターン観察についてまとめた.
Sb照射GaAsバッファ層表面では2 次元島のステップ密度が増加することが分かり,所々 でジグザグに曲折したダイマー構造が観察された.このような表面構造として,3つの(2×3) 表面再構成構造モデルのエネルギー安定性から2 つのモデルが共存した(4×3)モデルを提案 した.基板温度460 ℃で観察された(2×3)表面再構成構造は,ダイマー列が直線状となる構 造(Model B)が支配的であると考察された.次に,基板温度460 ℃におけるSb照射GaAs バッファ層上のInAs成長過程についてその場STM 観察を検討し,InAs成長量の増加に伴 う表面モフォロジーの変化を調べた.InAs 成長量が1 ML以上では,GaAsバッファ層上の InAs成長では観察されなかった微小2次元島が出現することが分かった.また,ステップ 密度の増加も観察され,主に高密度な微小 2 次元島の形成によるものであることが分かっ た.発生した3次元島のラテラルサイズは微小2次元島とほぼ同程度であり,さらに 2次 元島から3次元島への遷移過程における微小2 次元島の減少数と新たに発生した3次元島 の増加数はほぼ等しいことが分かった.これらの結果から,下地のSb照射GaAsバッファ 層上におけるSb原子が InAs成長時に表面偏析し,高密度の微小2次元島を形成し,その 微小2次元島が3次元成長の核となり,高密度のInAs量子ドットの形成に寄与したものと
考察された.
第 4 章では,Sb 照射 GaAs バッファ層上の高密度InAs 量子ドットの形成過程における
coarsening現象についてまとめた.Sb照射量が比較的多い場合の高密度InAs量子ドット成
長では,成長量が2.1 ML付近までは3次元核形成によってドットサイズの増大とともにド ット密度は急激に増加するが,その後の3 ML付近までにおけるドット密度の低下とサイズ の増大は,3次元核成長とドット間の歪み相互作用を主な要因とするライプニング過程とに よることを明らかにした.ライプニング過程では,{136}ファセット面が支配的なドット構 造から{136}面と{101}面から成るマルチファセットの構造へと変化し,さらに成長量が 3 ML 以上になるとライプニング効果は抑制され,安定な{101}面が支配的となり,ドット密 度およびドットサイズは飽和した.このドット構造の自己制限領域では,コアレッセンス によるドットの巨大化も発生しやすくなることが分かり,一連のcoarsening過程が明らかに なった.また,InAs成長量が約3 ML以降ではSb照射量にあまり依存せず,同程度の飽和 ドット高さと飽和ドット密度を示すことが分かった.このようなサイズや密度の飽和現象 は,通常のGaAsバッファ層上のInAs量子ドット成長においても一部観察されたが,Sb照 射GaAsバッファ層上では,GaAsバッファ層上と同程度の平均ドット高さでもドットの飽 和密度は高くなることが分かった.Sb照射GaAsバッファ層上の InAs量子ドットの場合,
InAs量子ドットへの圧縮歪みがGaAsバッファ層上より格子定数の大きい下地のGaAsSb混 晶層によって緩和されることが主な要因であると考察された.
第5章では,Sb照射GaAsバッファ層上のInAs量子ドットの成長過程および成長中断過 程におけるその場XRD測定を行い,コアレッセンスによるドットの巨大化についてまとめ た.格子定数およびドット高さの変化からInAs成長における2次元から3次元への成長モ ードの遷移を確認し,その後の成長量の増加につれてドット高さが飽和する自己サイズ制 限効果を明瞭に観察した.巨大ドットは,通常のAs照射成長中断の初期においてその回折 強度割合が急増し,成長中断の終了まで増加し続けることが分かった.また,InAs 成長量 が多くなるほど巨大ドットは早い段階で発生しやすいことが分かった.以上のように,Sb
照射GaAsバッファ層上のInAs量子ドットの成長では,表面偏析したSb原子によるコアレ ッセンスの抑制効果が働くが,長いInAs 成長時間およびAs 照射成長中断によってその効 果は弱められ,巨大ドットの形成を促進させる.そこで,Sb 表面原子によるコアレッセン スの抑制効果を持続させるために,Sb 照射による成長中断法を提案し,その効果について 検討した.Sb照射成長中断中の巨大ドット形成割合はAs照射の場合よりも常に低くなり,
コアレッセンスによるドットの巨大化は抑制された.Sb照射GaAsバッファ層上のInAs量 子ドットにSb照射成長中断を施した後,GaAs層による埋め込み成長を行った試料のPL測 定では,室温でのPL強度が As照射成長中断と比較して約 2.4倍も高くなることを示し,
良質な高密度InAs量子ドットの形成法として有効であることを示した.