第 3 章 Sb 照射 GaAs バッファ層上の InAs 成長過程における表面構造
3.2 MBE 成長および STM 観察の実験方法
図3.1は試料構造とSTM観察の概略図である.試料の作製および観察はMBE装置とSTM装置の合体 装置[3]を用いて行った.2.2.1で述べたように,この装置はMBEの成長室内にSTM測定ユニットを導入 したもので,MBE 成長しながら STM 観察を行うことが可能である.実験は以下のように進めた.半絶
縁性GaAs(001)基板(ノンドープ,抵抗率2.4×107 ~ 3.3×107 Ωcm)を4つのクリップ(電極)で基板ホ
ルダに固定し,MBE成長室に搬入して Sb照射GaAsバッファ層を形成した.3.3.1では,形成後に基板
温度を200 ℃に設定し,成長室の背圧が10-10 Torrになったことを確認してから基板ヒータ電源を切った.
これは試料へのAs吸着を抑制するためである.RHEEDパターンを観察し,Sb照射終了時とパターンが 変わっていないことを確認してからSTM 観察を行った.3.3.2では,Sb照射終了後にRHEEDパターン 観察を行い,その後InAs成長をしながらSTM観察を行った.STM観察中はキャリアの生成を促進する ために試料にスポットライトを照射した.
表3.1はMBE成長条件およびSTM観察条件である.基板はAs4分子線下で酸化膜を除去後,基板温度
580℃で200 nmのGaAsバッファ層を成長した.その後,基板温度438 ~ 525 ℃でAsセルのシャッタを
閉じると同時にSbセルのシャッタを開け,Sb照射GaAsバッファ層を形成した.Sb4分子線圧は3.0×10-9 Torrで,照射量は1原子層(AL)である.単位面積当たりの入射分子数jinと入射分子線圧pの関係式
(3.1)
を用いると,Sbの照射時間tSbは
t
S G S CS (3.2)である.ここで,DGaSbはバルクのGaSbの単位面積当たりの原子数,CSbはSbの照射量(単位面積当たり 1 AL分の原子数),mはSb4の質量,kBはボルツマン定数,Tは基板温度である.3.3.1のSb照射GaAs バッファ層の表面におけるSTM観察条件は,探針バイアスを+3 Vまたは-3 V,トンネル電流を0.1 nA,
スキャン速度を250 nm/sとした.また,3.3.2のInAs成長中におけるその場STM観察条件は,探針バイ アスを-2 V,トンネル電流を0.2 nA,スキャン速度を3846 nm/s(500 nm × 500 nmスキャン1枚の所要時 間268 s)とした.InAs成長条件は基板温度460 ℃,InおよびAs4分子線圧はそれぞれ2.9×10-9 Torr, 6.3×10-6
Torrである.InAs成長速度は2次元島から3次元島への遷移に伴うRHEED回折パターンのスポット化 までの照射時間と臨界膜厚1.65 ML[1]から見積もり,0.000764 ML/sとした.この超低成長速度はSTM像 1枚に要する時間分の成長量を少なくし,成長過程における表面変化を詳細に観察するためのものである.
本章では,表面荒さの定量化として表面のステップ密度を解析した.ここでのステップ密度は,単位面 積当たりの島の全ステップの長さ(単位はμm-1)とした.
図3.1 MBE成長およびSTM観察の概略図.
InAs成長終了後のSb照射GaAsバッファ層表面観察(a),
InAs成長中のその場STM観察(b).
Sb照射GaAs バッファ層
成長終了し,急冷後のSTM観察(3.3.1)
GaAs(001) Sb4
急冷
探針
ヒータ加熱
GaAs(001) InAs
2次元成長層
成長中のその場STM観察(3.3.2) In As4
ヒータ加熱
(a)
(b)
GaAs(001) InAs
3次元島
In As4
ヒータ加熱 GaAsバッファ層
表3.1 MBE成長条件およびSTM観察条件.
3.3.1 3.3.2 基板温度 (℃) 580 580 膜厚 (nm) 200 200 基板温度 (℃) 438 ~ 525 460 Sb4分子線圧 (Torr) 3.0×10-9 3.0×10-9
基板温度 (℃) 460
In分子線圧 (Torr) 2.9×10-9
As4分子線圧 (Torr) 6.3×10-6
探針バイアス (V) +3または-3 -2 トンネル電流 (nA) 0.1 0.2 スキャン速度 (nm/s) 250 3846 STM観察条件
GaAsバッファ層
Sb照射
InAs成長