12. 構造強度設計
12.3 SN 線図による疲労設計
12.3.3 SN 線図
疲労強度は繰返し応力の大きさ(応力振幅σa)と破断を生ずるまでの繰返し回数(Nf) の関係で与えられ、このσa~Nfの関係を疲労線図またはSN線図という。一般に、応力の 減少とともに破断繰返し回数が増加する右下がりの曲線となる。SN 線図は、繰り返し荷重 が負荷できる疲労試験機によってデータを取得する。
(a)高サイクル疲労線図
鉄鋼材料のSN線図の例を図12-12に示す。SN線図(平均応力ゼロの両振り試験)は、右 下がり傾斜部分と水平部分に分けることができる。この線図の水平部分は,無限の繰り返し 数に対しても疲労破壊を起こさない応力の上限で,疲労限度とよぶ.ここでは、σw が疲労 限度である.疲労設計を行う場合には,疲労限度を安全率で除した値を許容応力として用い る.また,特定の破壊繰り返し数に対応する疲労振幅のことを,時間強度という.たとえば,
図12-12のσ6は,106 回時間強度 である。
非鉄金属の場合には,SN線図に水平部分が現れないことがある.たとえば,図 12-13は,
アルミニウム合金A2024材のSN線図の例である.この場合,特定の繰り返し数(たとえば 106や107)に対する時間強度をもって疲労限度と定義する.
σm=(σmax+σmin)/2 平均応力
応力振幅
σr=σmax-σmin 最大応力
最小応力
応力範囲 σmax
σmin σa=σr/2
(a) 応力変動の名称
σm=0 σa=σmax 0
σmax
両振
(b) 両振と片振 σa=σmax/2
0 σmax
片振
σm=σmax/2
図12-12 高サイクル疲労線図
図12-13 非鉄金属のSN線図(アルミニウム合金)
(b)低サイクル疲労線図*
低サイクル疲労では、応力が降伏応力を超えるため、疲労試験における応力―ひずみ関係
は図 12-14 のように、1 サイクルの間にヒステリシスループを描く。また、一般に応力振幅
では評価せず、ひずみ振幅(ひずみ変動範囲εT)によって評価を行う。
低サイクル疲労線図は、疲労実験データを一定ひずみ変動範囲εTに対する破断繰返し回 数Nとして図 12-15(a)のように表示する。しかしながら、実用上、応力場の解析は弾性解析 がほとんどであり、塑性ひずみを含んだひずみ変動範囲εTを設計において求めることは行 われない。
設計計算においては、εTに対応する応力として、ヤング率Eをかけた応力変動範囲Δσ
=EεTを考える。ただし、この応力は実際に存在する応力値ではなく、弾性における応力
~ひずみの関係σ=Eεを用いて求めた見掛けの仮想的な弾性応力であり、仮想弾性応力と 呼ばれる(図12-16参照)。仮想弾性応力を用いた仮想弾性応力振幅σaは、σa=Δσ/2=
EεT/2 となる。
100 1000
1.00E+05 1.00E+06 1.00E+07 1.00E+08 1.00E+09
応力振幅S(MPa)
破壊繰り返し数 N 疲労限度 σw
σ6
0 10 20 30 40 50 60 70 80
1.E+04 1.E+05 1.E+06 1.E+07 1.E+08
応力振幅S(MPa)
破壊繰り返し数N
図12-14 低サイクル疲労試験における応力―ひずみ曲線
仮想弾性応力を用いた疲労評価では、εTを仮想弾性応力振幅σaに換算して、εT-N線図を
図 12-15(b)に示すようなσa-N線図で表示し、これに安全率を見込んで設計疲労線図を作成す
る。本評価法は、線形弾性解析で得られた弾性応力振幅を疲労線図の仮想弾性応力振幅と直接 に比較する。
図12-15 低サイクル疲労のSN線図
σ
負荷 ε 除荷
σ
ε 負荷
0~1/2サイクル
σ
ε 負荷
除荷
1/2~1サイクル 1~1・1/2サイクル
除荷
繰返し回数 N (b) σa-N線図 設計線図 安全率
応力振幅σa=EεT/2
繰返し回数 N (a) εT-N線図
ひずみ変動範囲εT
図12-16 ひずみ一定の繰り返し挙動
※仮想弾性応力による評価の妥当性と実用性について*
実構造物で低サイクル疲労の対象となる応力集中部(局所不連続部)では、応力は降伏応力 を超えるが、それを取りまいている周囲の広い部材はシェ-クダウン領域(12.3.4(b)参照)も 含めて弾性範囲の応力レベルに設計される。
したがって、構造物が荷重のサイクルを受け、ある弾性変形を繰り返すとき、たとえ局部に 降伏応力を超える応力が発生し、塑性変形が生じたとしても、局部は一定のひずみサイクルを 繰返す状態になっているとみなせる(図12-17参照)。つまり、変形はまわりによって拘束され る。
したがって、低サイクル疲労設計は、ひずみ制御低サイクル疲労試験によって求められる“ひ ずみ振幅εT~破損寿命 N の関係を表す疲労線図”に基づいて行うのが適当である。実用設計 の便宜から、疲労試験で得たひずみ振幅にヤング率を掛けて、これを見掛けの応力として示し、
弾性挙動を仮定して計算された弾性計算応力値と直接比較し得るようにした方が一層便利であ るというのが実用上の設計手法である。
図12-17 繰り返し応力を受ける応力集中部の力学状態
E σ
ε 0
ひずみ変動範囲 εT
応力変動範囲
(仮想弾性応力)
Δσ=EεT
局部域
(塑性域)
一般部
(弾性域)
総体域(シェ ークダウン)