12. 構造強度設計
12.6 腐食・減肉
図12-29 2.25Cr-1Mo鋼の許容応力の温度による変化
牲とした上で、Cuの腐食を防止するという考え方が成立する。腐食を防止する技術を防食と呼 ぶが、このように守るべき金属の電位を不活性域にしてカソードにする技術をカソード防食と いう。カソード防食は、地中の埋設管の防食などで広く利用されている。
機械設計においては、とかく機能上のことや過大荷重に対する強度のことのみに目が向けら れがちであり、知らず知らずのうちに活性の異なる金属を接触させるようなことが起きがちで ある。異なる種類の金属材料が電気的に接触し腐食環境中に置かれると、上記のボルタ電池の ような機構で腐食が加速してしまうので注意が必要である。
図12-30 ボルタの電池の原理
12.6.2 応力腐食割れのメカニズム
ステンレス鋼は、材料の表面に強固な酸化被膜が形成されることにより、強い耐食性を示す。
このため、日常生活においても、台所などの水環境の場所において利用されている。化学プラ ントや、発電プラントにおいて、高度の耐食性を求められる場所にはステンレス鋼が用いられ ている。ステンレス鋼は酸化被膜に守られている条件では、良好な耐食性能を示すが、図12-31 のようにひとたび何らかの原因で酸化被膜が破られると恐ろしい事態が形成される。つまり、
酸化被膜が破られた部分では金属材料が直に液体と接することとるのに対して、それ以外の部 分は酸化被膜によって液体と接することはない。金属のイオン化傾向の程度に応じて金属イオ ンが溶出すると、これはまさに図12-30のアノード部に相当している。ここで発生した電子は、
周辺の酸化被膜部分に流れることになり、これはカソード部に対比することができる。つまり、
局部的にボルタ電池が形成されたのと同じ状況が発生する。この結果、溶液と接触している部 分は、急速に削られていき、腐食ピットが形成される。酸化被膜が破られる原因としては、繰 り返し応力にともなって局部的なすべりが発生し、表面上で酸化被膜が破られることが考えら れている。これ以外にも、溶接部近傍では、表面に引張残留応力が残るので、これに起因して 酸化被膜が破られるメカニズムが考えられている。このように、応力が負荷されている条件で 腐食環境にさらされると、たとえ耐食性材料でも腐食が発生してしまう可能性があるので注意 が必要である。このような現象は応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking: SCC)とよばれる。か つて、原子力発電プラントの耐圧部で、耐食性の強いステンレス鋼であるにもかかわらず応力 腐食割れがたびたび観察されたことがあった。因果関係を調べた結果、その多くが化粧溶接を した部分であることが判明した。化粧溶接というのは、表面上の傷などを削った後に、見かけ を改善するための溶接技術であるが、このような行為は見た目は改善しても、溶接残留応力と いう爆弾を残してしまう。従って、何が健全性維持のために重要であるかという視点を常に養 っておくことが重要である。
H + H + H +
H +
Zn Cu
塩酸 カソード 2H+ + 2e- H2
還元反応 アノード
MM++ + 2e- 酸化反応
図12-31 応力腐食割れのメカニズム 12.6.3 腐食しろの決め方
腐食環境下で使用される構造物は、設計時に腐食に対する配慮が必要である。特に、石油精 製、石油化学、化学、エネルギ関連(ボイラーを含む)では、腐食の問題からのがれることは できない。構成材料が、腐食環境から損傷を受けるとき、大きく分けて2種類に分類する。一 つは広い範囲に渡って全面に腐食が進行するタイプの損傷で全面腐食と呼ばれる。他の一つは、
局部的に不均一に損傷が進行するタイプの腐食で、局部腐食と呼ばれる。図 12-32 には,T 字 管接合部の局部腐食の例を示す.このように配管の周りの断熱材の下は,雨水が貯まりやすく,
選択的に腐食が進行してしまう.孔食、すき間腐食、応力腐食割れなどが、局部腐食に分類さ れる。全面腐食については、腐食環境下にある限り避けることができないので、設計時点で許 容範囲を設定した上で安全性を確保する。一方、局部腐食については、多くの規格で基準が設 けられていない場合が多く、設計上は避けなければならないタイプの損傷と考えられている。
そこで、ここでは全面腐食について、主に圧力容器の設計の考え方についてふれる。
図12-32 局部腐食の例
腐食は、損傷進行のメカニズムは複雑で、解明されていない部分も多く、また装置や機器
Mz+ O2 H+
ze
-アノード部 カソード部
酸化被膜
局所すべり
ごとに条件が異なっている。従って、各種規格・基準で取り扱われているものの、取り扱い方 が必ずしも統一しているわけではない。多くの場合、腐食しろを考慮することにより設計する ことを原則とする。腐食しろは次式で定義される。
腐食しろ(mm)=年間侵食度(mm/年)×耐用年数(年)
設計時に、設計板厚に腐食しろを加算することにより、安全裕度を確保する。年間侵食度は求 まっていない場合も多く、経験値による場合も少なくない。従って、腐食しろの設定は上式よ り、さらに余肉を加えた値をとることも多い。
腐食しろについては、多くの規格で規定されており、例えば国内規格の代表的なものとして
「圧力容器の規格」(JIS B8243)の例を表12-1に示す。JIS B8243の特徴は、一般的な腐食し ろの基準が示されていることである。表12-1に、基準を示す。4グレードからなり、経験的事 実によってグレードの適用がはかられるようになっている。
表12-1腐食しろの基準 グ レ ー
ド 項目
1 2 3 4
腐食の度合 侵食されない 侵食はわずかであ る
侵食される かなり侵食され る 腐食の速さ
mm/年 <0.05 0.05~0.13 0.13~0.25 >0.25
腐食しろ 0 1mm以上 2mm以上 3mm以上