第 2 章 地すべり試験地および⾃動観測システム
2.3 Roesgrenda 地すべり試験地
2.3.2 Roesgrenda 地すべりの概要
写真2.5 クイッククレイ.自然状態(B)を乱すと容易に液状化(C)する.液 状化した(C) に塩を混ぜると溶脱されていたNa+ が補完されて安定化(A)する.
Photo 2.5 Quick clay samples. Natural condition of the clay (B) is easily liquefied (C) by disturbing. The liquefied clay (C) is solidified (A) by adding salt (Na+).
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Roesgrenda 地すべりの位置と地形図を図 2.12 に⽰す。地すべりはノルウェー中部の都
市Trondheimの北東60 kmに位置する(63° 48′ N,11° 52′ E)。現地はノルウェー海流の
影響を受けるため⾼緯度な割には温暖な気候だが,厳寒期には−20 °C 以下の最低気温を記 録する。降雪は通常は10⽉前後から翌年4⽉前後まで認められ,冬期の最⼤積雪深は約1 mである。Trondheimにおける気象は図2.13に⽰すように1988年から2002年までの年
図2.12 Roesgrenda地すべり試験地の位置と地形図.図中のA−B線は図2.14で描か
れる断面図の側線位置
Fig. 2.12 Location and topographical map of the Roesgrenda landslide research site. Line A–B corresponds to the geological cross-section in Fig. 2.14.
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平均気温が4.9 °C,年降⽔量が1003.5 mmである(Thorolfsson, 2007)。地すべりはHelgåa 川に沿ったVerdal渓⾕沿いの標⾼50–100 mの斜⾯にあり(写真2.6)。滑落崖は30–40°
の急勾配をもってボウル状に広がり,その下⽅には崩落⼟砂の堆積物からなる勾配 10–20°
の棚部が形成されている(写真 2.7)。
Roesgrenda 地すべりの斜⾯発
達 は 次 の よ う に 説 明 さ れ る 。
Verdal 渓⾕沿いの斜⾯は最終氷期
終了後に海底から隆起して陸化 し,地下⽔流動による溶脱作⽤に よって海成粘⼟からクイッククレ イに変化した。複数の地下⽔流動 層では粘⼟成分も流失して砂やシ ルトを主体とする厚さ1 mmから 数⼗mmの薄層が形成され,この 薄層から地下⽔が滲出している。
当時の河川侵⾷基準⾯にあったク イッククレイ層の上位では河川堆 積物層が発達した。このような経
写真2.6 Roesgrenda 地すべり試験地の空中写真
Photo 2.6 Aerial view of the Roesgrenda research site 図2.13 Trondheimの気象(Thorolfsson, 2007)
Fig. 2.13 Air temperature and precipitation at Trondheim (Thorolfsson, 2007)
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緯を経て現在の基本的な層序が形成された。侵⾷基準⾯は河川が何らかの原因によって⾕
部のモレーン堆積物を⼤きく破壊するたびに低下していった。最後の低下は 1893 年の洪
⽔によるもので,その際に河川侵⾷基準⾯は海抜80 mから50 mになった。侵⾷基準⾯の 低下によって作られた深さ30 mほどの溝は不安定なクイッククレイ層を露出させたため,
河川に沿った斜⾯で多くの地すべりが発⽣した。これらの地すべりのほとんどは 1980 年 代に築造された堤防によって安定化したが, Roesgrenda地すべりでは1995年に地すべり の再活動が始まった。そこではクイッククレイ層および河川堆積物層を含む滑落崖の⼀部 が次々と移動を開始しながら最後には崩落へ⾄る典型的なクイッククレイ地すべりが断続 的に発⽣した(Larsen et al., 1999)。地すべりは1995年から2001年までの6年間にかけ て多く発⽣し,そのいくつかは表 2.2 に⽰すように⽐較的⼤規模な斜⾯崩落(⼟量 10000 m3以上)にまで発展している。この地すべりの発⽣域の運動形式を図1.3 の地すべり分類 図に当てはめると発⽣域ではスプレッド(Sp),移送堆積域ではフロー(Fw)に該当する。
Roesgrenda 地すべり試験地の地質断⾯図を図 2.14 に⽰す。当試験地の基岩は古⽣代の
堆積岩で,その上位にモレーン堆積物が10 m,クイッククレイ層が25–30 m,粘⼟,シル ト,礫によって構成された河川堆積物層が10 mの厚さでそれぞれ堆積している。滑落崖斜
⾯に植⽣はほとんどないが冠頭部および上部平坦⾯にはトウヒなどを中⼼とした樹⾼15 m
写真2.7 Roesgrenda 地すべり滑落崖の全景
Photo 2.7 Landscape of the scarp at the Roesgrenda landslide research site
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前後の常緑針葉樹林が成⽴しており地表⾯は 0.5 m 未満の茶褐⾊森林⼟壌で被覆されてい る。⼟層の物理性を表 2.3 に⽰す。クイッククレイの⾃然含⽔率(w)は液性限界(wL) の⼀般値である約 16 %(Kristoffersen, 1999)を上回り,容易に液状化するその性質を良 く⽰している。推定される飽和透⽔係数(Ksat)は 10−9–10−12 m/s (Larsen, 2002;Long,
2005)と極めて低くJIS A 1218 では実質的な不透⽔層と定義されている。河川堆積物層の
飽和透⽔係数は未計測だが,同層に挟在する砂質層からわずかな⽔の滲出が認められるこ とからクイッククレイ層よりもやや⼤きいと推定される。表⼟層の飽和透⽔係数も未計測 だが,森林⼟壌では基盤地質とは無関係におおよそ10−3–10−5 m/sであることが室内試験か ら分かっており(例えば Hayashi et al., 2006;Noguchi et al., 1997),試験地のKsatもこれ に準ずる値と考えられる。
当地すべりの保全対象は地すべり地下部を⾛る⾞道と河川である。1995年に発⽣した地 すべりでは崩落した⼟塊が流動化し道路や河川まで達したため,1996年にV字型の⼟堰堤 が斜⾯末端部に建設された。この堰堤は下流域まで流下した崩落⼟砂を側⽅の安全域へ分 割・誘導し,⾞道と河川への直接的被害を軽減する機能を持つ。また,不安定と想定され
表 2.2 Roesgrenda地すべり試験地において1995年から2001年までに発⽣
した地すべり
Table 2.2 Landslides occurred from 1995 to 2001 at the Roesgrenda research site
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図2.14 Roesgrenda地すべりの断面模式図と水文センサーの設置深度. Landslideの番号は表2.2で示した番号の地すべりに該当する. Fig. 2.14 Schematic geological cross-section of the Roesgrenda research site and locations of the hydrological sensors. Landslide Nos.1, 2, 3, and 12 correspond to the numbers in Table 2.2.
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た滑落崖上部に複数のワイヤーセンサーが設置された。基準値以上の移動量が計測された 場合には,警戒ランプが点灯し⾞道を通⾏⽌めにする機能を有している。