第 5 章 積雪荷重による地すべり⼟層の鉛直圧縮
5.3 積雪期の鉛直変位過程とその要因
5.3.1 鉛直変位量の経時変化
85 5.2.2 計器の設置
本研究で開発した鉛直変位計を伏野地 すべり試験地の下部ブロック(図 5.3)に 設置した。対象地点のすべり⾯深度は事 前のチェックボーリングで GL −3.62 m と 確認された。本研究の⽬的は地すべり⼟
塊の圧密確認のため,厳密には地表⾯か らすべり⾯深度(GL −3.62 m)までの全区 間の鉛直変位量を計測するべきである。
しかし,カーボンロッドをすべり⾯深度 まで挿⼊するとロッドが破損する恐れが あるため,今回はすべり⾯深度よりやや
浅い GL −3.50 m に設置し,計測の確実性
を確保した。なお,同孔の地質は強⾵化 の凝灰岩,泥岩の互層の上に礫混じり粘 性⼟が堆積しており,指圧で変形するよ うな軟質部を多く含んでいる。ロッド挿
⼊に続いて上部台座を設置し,各種計測 機器と保護箱を据え付けたのち,2009 年 12⽉から 2012年10⽉まで観測をおこな った。なお温度依存性が⼩さいとされる カーボンロッドではあるが,今回は試験 的に温度依存性を確認するため,ボーリ
ング孔内に⽔温計,地上部に気温計を設置した。またカーボンロッドの持つノイズ成分の 確認と補正のため,補正⽤カーボンロッドを表層部(深さ約0.5 m)に設置した。
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5.4に⽰す。観測は2009–2010年,2010–2011年,2011–2012年の3回の寒候年(寒候年 とは前年8⽉から当年7⽉までの1年間を指す(気象庁,2013))を含み,それぞれ09/10 年,10/11 年,11/12 年とする。各寒候年の積雪環境は表 5.2 に⽰す通りいずれの寒候年 も平年に⽐べて積雪量が多く,とくに 11/12 年は最⼤積雪深が 551 cm,最⼤積雪荷重は
17.05 kPa に達した。観測期間における孔内の⽔温は 6.5–13.5 °C,地上部の気温変化は
−1.6–40.1 °Cであった。同期間における補正⽤カーボンロッドの変位量(⻑さ⽅向)は全期
間で概ね0.2 mm以内に収まった。これよりカーボンロッドの温度依存性は無視できるほど
⼩さいことが確認された。2基のひずみ式変位計(VE1,VE2)のうち,フルスケールが10 mm の VE1 は計測開始直後にスケールオーバーしたため,図にはフルスケール 50mm の VE2 のみを⽰した。なお,図中に⽰した積雪深,積雪⽔量,地表⾯到達⽔量は,地すべり 地近傍の気象露場の観測結果である。
地表⾯の沈下と隆起を⽰す鉛直変位は積雪期間に限って現れ,以下のような過程を経た。
図5.4 鉛直変位量の観測結果(2009年12月–2012年10月)
Fig. 5.4 Vertical displacement monitored by the vertical extensometer from December 2009 to October 2012
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1)積雪開始とほぼ同時に地表⾯の沈下が始まる,2)積雪の増⼤とともに沈下が進⾏する,
3)沈下速度は次第に緩やかとなる,4)積雪深が低下する融雪期に隆起に転じる,5)消 雪後は鉛直変位が停⽌する。これら⼀連の鉛直変位変動は積雪量の増減に対応しているこ とから,⼟層の沈下,隆起の
要因として積雪層の存在が考 えられた。⼀般に軟らかい⼟
層が載荷を受けて圧縮すると き,圧縮成分はせん断変形と 圧密変形に分けられる(⼟の 圧 密 ⼊ ⾨ 編 集 委 員 会 編 ,
1998a)。第4章の図4.3で⽰
したように地すべり⼟塊内部 ではせん断変形を⽰す⽔平移 動は認められなかった。この ことから,観測された圧縮は 積雪荷重の作⽤による地すべ り⼟層の圧密変形によっても たらされたと考えられた。寒
表5.2 寒候年の積雪環境
Table 5.2 Snow cover environment in each cold season
図5.5 各寒候年における積雪期の鉛直変位量.最終 鉛直変位量は変動が安定する消雪後30日目の変位
量.
Fig. 5.5 Vertical displacement in each snow-covered period. The conclusive displacement was observed 30
days after the snow disappearance date that the displacement became steady-state.
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候年ごとの最⼤鉛直変位量は図5.5に⽰すように約22.3–28.6 mm(圧縮⽅向を正とする)
である。観測⼟層厚(3.50 m)から算定される⼀次元ひずみ量を求めると約 6370–8170 μ となる。このことから地すべり⼟層は積雪期において鉛直⽅向に最⼤で0.64–0.82 %の圧縮 変形が⽣じたといえる。⼀⽅,最⼤沈下後の隆起量は−6.6–−8.7 mmであり,これは沈下量
の 29–37 %に留まった。このことは消雪後に沈下成分が残留したことを意味する。沈下成
分の卓越は毎年繰り返されるため,年を追うごとに斜⾯が沈下し続ける様相を⽰した。