第 4 章 積雪荷重による地すべり活動の抑制
4.3 地すべり⼟塊の移動・変形過程
4.3.3 累積変位量の軌跡解析
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伏野地すべり地におけるE3‒E4間の軌跡を図4.10に⽰す。軌跡は年界である 6⽉1⽇ から開始し,翌年の5⽉31⽇で終了する。1年間の軌跡は共通した傾きと疎密度で描かれ る⼀定期間(以下,ステージと呼称する)に分離できる。各ステージの境界では傾きや点 群間隔が変化するため,上端−下端の移動速度⽐や⼟塊全体の変位速度が異なる段階に移
図4.10 E3–E4間における地すべり累積変位量の軌跡
Fig. 4.10 Trajectories of the cumulative landslide displacements between E3 and E4
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⾏したと⾒なすことができる。そこで軌跡の勾配および点密度が急速に変化した境界を変 形ステージの移⾏境界とみなし,1 年間の軌跡を複数の期間に分類した。その結果,軌跡
は02/03年,03/04年の両⽅で7つの変形ステージに区分された。各ステージにおける変
位特性を表 4.2 に⽰す。1 年間における上端−下端間の変位速度⽐(下端/上端)は 4.7–
6.6倍であった。各ステージにおける変位軌跡の特性は以下のように説明される。
(a)夏期:軌跡の傾きは1を超え,⼟塊に引っ張り変形が⽣じる。E4の移動速度がE3 の速度を上回るためである。点間隔は密で変形量は⼩さい。
(b1)秋期(I):軌跡の傾きが急になり引張変形が卓越する。降⾬量の増⼤に対応して E4 の変位速度が増⼤する⼀⽅で E3 の変位速度は変わらないためである。速度的なピーク にまだ達しない。
(b2)秋期(II):軌跡の傾きが対数関数的になる。E4 で先⾏変位が次第に上部へ伝播 しE3の変位速度が遅延的に上昇したことによる。変位の伝播による時間遅れは後退性地す べりによく⾒られる典型的な現象である。02/03 年はこの期間に点間隔が最も疎となり引
表4.2 伏野地すべりにおけるステージ別の変位特性
Table 4.2 Characteristics of the landslide displacement at each stage
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張変形速度がピークに達する。これは同期間に最も優勢なMR(総MR = 276.8 [mm],最⼤
⽇MR = 21.3 [mm/d])が⽣起したことも⼀因である。
(c)積雪初期:変位の伝播が収束し軌跡の傾きは再び⼀定となる。したがって変位速度
⽐(E4/E3)は再び⼀定に保たれ引張変形が継続する。03/04 年はこの期間に点間隔が最 も疎となり引張変形速度がピークに達する。これは同期間に最も優勢なMR(総MR = 307.0
[mm],最⼤⽇MR = 11.4 [mm/d])が⽣起したためである。
(d)積雪安定期:積雪層が発達すると E3 と E4 の変位速度が急速に減少するため点間 隔は極めて密となる。軌跡の傾きは急になり引張変形が⽣じているがその絶対量は⼩さい。
(e)融雪期:⼤量の融雪⽔が⽣起するこの期間は軌跡の傾きがほぼ1に,間隔がやや疎 になる。これはE3とE4がほぼ等速度で移動し始めたことを意味する。このため地すべり
⼟塊はほぼ変形せずに⼀体となってすべり⾯上を滑動する。
(f)春期:消雪すると点密度が再び密となり変形速度が低下する。軌跡の傾きは融雪期 に引き続き1‒2前後の低い値で推移するため⼟塊の変形も⼩さい。
以上の結果をまとめると,1 年間にわたる多雪地帯の伏野地すべり中部ブロックの変形 過程は図4.11のように表せる。春期から夏期にかけて地すべりは引張変形を呈するが,移 動量が⼩さいため変形量もわずかである。秋期から積雪初期になるとE3とE4の両点で移 動速度が急上昇し,かつ下部ほど移動速度が⼤きいため,全区間で引張変形が卓越する。
積雪層が増⼤する(積雪堆積期)と移動速度が急減して変形は⽣じなくなり,地すべりは ほぼ不動となる。融雪期になると地すべりが再び緩慢に移動し始めるが,このとき上端
(E3)と下端(E4)の変位速度⽐は 1に近いため⼟塊は変形せずほぼ⼀体となってすべり
⾯上を移動する。1年間の最終的な総変形⽅向は引張変形となる。
4.3.4 土塊の変形に寄与する誘因の考察
多雪地帯に属し緩慢に移動する伏野地すべりは,4.3.3 項で述べたように積雪環境と関連 して複雑な変形過程を有することが明らかとなった。E3‒E4間は1年間の変形を7つのス テージに分割して変形特性を特徴付けることができた。本節では,このような複雑な変形 を規制する要因を考察する。
(1)変形ステージの移⾏に寄与する誘因
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図4.11 伏野地すべりにおける1 年間の移動・変形過程の模式図
Fig. 4.11 Schematic diagram of the annual movement and deformation processes at the Busuno landslide
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変形ステージが次の段階へ移⾏するときの誘因を明らかにするため,変形ステージの移⾏
境界とMRおよび積雪深の経時変化を⽐較した。両者の時系列変化を図4.12に並べて⽰す。
地すべり変形が活発な(b1)秋期(I)から(c)積雪初期までの 3 期間について議論す る。秋期(I)と秋期(II)の移⾏境界⽇(b1–b2),秋期(II)と積雪初期間の移⾏境界⽇
(b2–c)には,境界⽇の前後2–3⽇間にわたって40–90 mm程度の連続MRをともなうこ とが多かった。このことから変形ステージは⼀定量の降⾬や融雪をトリガーとして移⾏す ると考えられた。ただしトリガーは必ずしも期間の⽇最⼤ MR が該当するわけではない。
図4.12 伏野地すべり変形ステージの移行境界と誘因
Fig. 4.12 Factors occurring on the transitional boundary of the deformation stage of the Busuno landslide
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例えば02/03年の86.6 mmの⽇MR(2002年10⽉1⽇)や,03/04年の64.9 mmの⽇
MR(2003年10⽉14 ⽇)はステージ期間中の最⼤⽇MRを記録したが,変形ステージの
移⾏とは無関係であった。
続いて,地すべりが積雪に覆われる(d)積雪安定期から(f)春期にかけての 3 期間に ついて議論する。積雪層の発達減衰過程と変形ステージの移⾏との間に明瞭な関係が認め られた。(c)積雪初期から(d)積雪安定期への移⾏境界は積雪深の急増時期と⼀致し,
(e)融雪期から(f)春期への移⾏境界は消雪時期と⼀致した。しかし(d)積雪安定期か ら(e)融雪期への移⾏境界に⼀致する誘因イベントは認められなかった。
(2)地すべりの移動に対する応答変形量
地すべり⼟塊の変形量の⼤⼩は絶対変位量に根本的な影響を受けるため,絶対変形量の 議論では変形特性を⼗分に説明できない。例えば,1.0 × 10−2(1 %)の引張変形が起きた として,それは⼟塊が10 m 移動しての変形なのか,それとも100 m移動した後の変形な のかによって変形の意味合いは異なってくる。⼟塊の変形のしやすさを統⼀的に評価,議 論するためには,地すべりの単位移動量に対する⼀次元変形量⽐,すなわち⼀次元応答変 形量を⽤いる必要がある。そこで,地すべりの単位移動量(1 mm)対する⼀次元応答変形 量を次式にて算出した。まず,⼟塊の平均移動量 daveは上端と下端の平均値として 4.3 式 で表す。
𝒅𝐚𝐯𝐞 =𝒅𝐥𝐨𝐰− 𝒅𝐮𝐩
𝟐 (𝟒. 𝟑)
ここでdlowは下端移動量,dupは上端移動量である。⼟塊の平均的な単位移動量に対する 応答変形量εunitは4.4式によって得られる。
𝜺𝐮𝐧𝐢𝐭= 𝜺
𝒅𝐚𝐯𝐞 =;𝒅𝐥𝐨𝐰− 𝒅𝐮𝐩< 𝑳⁄ 𝟎
;𝒅𝐥𝐨𝐰+ 𝒅𝐮𝐩< 𝟐⁄ (𝟒. 𝟒)
ここで,下端の上端に対する移動量⽐をrと置けば,
71 𝐫 =𝒅𝐥𝐨𝐰
𝒅𝐮𝐩 (𝟒. 𝟓)
4.4式に4.5式を代⼊して4.6式を得る。
𝜺𝐮𝐧𝐢𝐭=;𝒓 ∙ 𝒅𝐮𝐩− 𝒅𝐮𝐩< 𝑳⁄ 𝟎
;𝒓 ∙ 𝒅𝐮𝐩+ 𝒅𝐮𝐩< 𝟐⁄ =(𝒓 − 𝟏)𝒅𝐮𝐩⁄𝑳𝟎
(𝒓 + 𝟏)𝒅𝐮𝐩⁄𝟐 = 𝟐(𝒓 − 𝟏)
𝑳𝟎(𝒓 + 𝟏) (𝟒. 𝟔)
4.6 式より,単位移動量に対する応答変形量εは rと L0で表すことができる。例として
E3–E4 間の初期⻑(L0 = 38.35 [m])を代⼊して得られる単位移動量と⼀次元応答変形量の
関係を図 4.13 に⽰す。これはすなわち,図4.10 の累積移動量の軌跡の傾きを⼟塊の初期
⻑で除した値に等しい。4.6 式から求められた変形ステージごとの単位移動量に対する⼀
次元応答変形量を図4.14に⽰す。
図4.13 上端(E3)−下端(E4)の変位量比(r)に対する応答変形量(E3–E4間の初 期長(L0)は38.35 m)
Fig. 4.13 Response deformation to the displacement ratio between top (E3) and bottom (E4) of the landslide block (r). Initial displacement between E3 and E4 (L0) is 38.35 m.
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E3‒E4 間の⼟塊の単位移動量に対する応答変形量は,秋期(I)から積雪堆積期にかけて
4.0–5.5 × 10−5 /mmとほぼ等しく推移する。このことは同期間の変形量は移動量に依存する
ことを意味している。⼀⽅,融雪期から春期にかけての応答変形量は相対的に⼩さくなっ た。このことは地すべりが移動しても⼟塊の変形が⽣じないことを意味する。
(3)基準MRに対する応答変形量
伏野地すべりでは秋期から積雪初期にかけて変形速度が⾼まる。変形速度の上昇が降⾬
量や融雪量の増⼤に依存するのであれば,同期間の⼤変形は誘因の強さに依存したためと いえ,変形特性が変化したといえない。そこで単位降⾬量,融雪量に対する応答変形量を 議論するため,100 mmのMRに対する応答変形量を図4.15に⽰すとおり期間別に算出し た。E3‒E4 間の⼟塊は基準降⾬量(融雪量)に対する応答変形量が秋期(II)から積雪初 期の 2 ステージで⼤きくなった。このことは降⾬や融雪に対して鋭敏に引張変形が⽣じた ことを意味している。⼀⽅,融雪期と春期には応答変形量が⼩さくなり,⼤量の融雪⽔が 発⽣しても変形が進まなかったことと調和した。以上から,秋期(I)から積雪初期にかけ て引張り変形が卓越する要因として,単位降⾬量や単位融雪量に対する応答変形量の拡⼤
が⽰された。