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積雪荷重による地すべり活動の抑制効果

第 4 章 積雪荷重による地すべり活動の抑制

4.4 積雪荷重による地すべり活動の抑制効果

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E3‒E4 間の⼟塊の単位移動量に対する応答変形量は,秋期(I)から積雪堆積期にかけて

4.0–5.5 × 10−5 /mmとほぼ等しく推移する。このことは同期間の変形量は移動量に依存する

ことを意味している。⼀⽅,融雪期から春期にかけての応答変形量は相対的に⼩さくなっ た。このことは地すべりが移動しても⼟塊の変形が⽣じないことを意味する。

(3)基準MRに対する応答変形量

伏野地すべりでは秋期から積雪初期にかけて変形速度が⾼まる。変形速度の上昇が降⾬

量や融雪量の増⼤に依存するのであれば,同期間の⼤変形は誘因の強さに依存したためと いえ,変形特性が変化したといえない。そこで単位降⾬量,融雪量に対する応答変形量を 議論するため,100 mmのMRに対する応答変形量を図4.15に⽰すとおり期間別に算出し た。E3‒E4 間の⼟塊は基準降⾬量(融雪量)に対する応答変形量が秋期(II)から積雪初 期の 2 ステージで⼤きくなった。このことは降⾬や融雪に対して鋭敏に引張変形が⽣じた ことを意味している。⼀⽅,融雪期と春期には応答変形量が⼩さくなり,⼤量の融雪⽔が 発⽣しても変形が進まなかったことと調和した。以上から,秋期(I)から積雪初期にかけ て引張り変形が卓越する要因として,単位降⾬量や単位融雪量に対する応答変形量の拡⼤

が⽰された。

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豪雪地帯に位置する伏野地すべりは,積雪環境に規制された特異な移動,変形特性を呈 した。その特徴を以下に改めて列挙する。

①秋期から積雪初期にかけて,地すべり⼟塊は降⾬や融雪に対する応答が鋭敏化するた め,卓越した引張変形を呈しながら移動速度が急増する。

②積雪層が⼗分に形成されると地すべり移動速度は急減する。厳冬の積雪安定期は地す べり移動は不活発である。

③融雪期になると⼤量の融雪⽔が供給されて地すべりは再び緩慢に移動するが,⼟塊は ほとんど変形せず⼀体となってすべり⾯上を滑動する。

④消雪後は秋期まで地すべり活動の不活発な状態が継続する。

本節では積雪荷重が地すべり地に作⽤したときに⽣じる⼟塊内部の応⼒変化を考察し,

特異な移動と変形をもたらす要因について議論する。

4.4.1 積雪荷重による有効応力とせん断応力の増加

積雪荷重による地すべり安定性の変化を評価するため,積雪層を載荷した⼆次元無限⻑

斜⾯の数値モデルを構築して安定解析をおこなった(図 4.16)。積雪層が載荷された場合 の斜⾯安全率Fsは4.7式で求められる。

図4.15  地すべり土塊の基準MR(100 mm)に対する地すべりの応答変形量 Fig. 4.15  Response deformation of the landslide mass in terms of standard MR (100mm)

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𝐅𝐬 =(𝝈 − 𝒖)𝐭𝐚𝐧𝝓H+ 𝒄H

𝝉 (𝟒. 𝟕)

4.7式の各変数は4.8式,4.9式,4.10式で表される。

𝛔 = [𝜸𝒕𝑯𝟏+ 𝜸𝐬𝐚𝐭(𝑯 − 𝑯𝟏) + 𝜸𝒔𝒏𝒐𝒘𝑯𝒔𝒏𝒐𝒘]𝐜𝐨𝐬𝟐𝜷 (𝟒. 𝟖)

𝒖 = 𝜸𝐰(𝑯 − 𝑯𝟏)𝐜𝐨𝐬𝟐𝜷 (𝟒. 𝟗)

𝛕 = [𝜸𝒕𝑯𝟏+ 𝜸𝐬𝐚𝐭(𝑯 − 𝑯𝟏) + 𝜸𝒔𝒏𝒐𝒘𝑯𝒔𝒏𝒐𝒘]𝐜𝐨𝐬𝜷𝐬𝐢𝐧𝜷 (𝟒. 𝟏𝟎)

ここで,σ はすべり⾯に作⽤する垂直応⼒(全応⼒)(kPa),u はすべり⾯に作⽤する 間隙⽔圧(kPa),τ はすべり⾯に作⽤するせん断応⼒(kPa), ϕ'はすべり⾯の内部摩擦

⾓(°),C'はすべり⾯の粘着⼒(kPa),γtは⼟塊の湿潤単位体積重量(kN/m3),γsat

⼟塊の飽和単位体積重量(kN/m3),γsnowは積雪層の単位体積重量(kN/m3),γw は⽔の

図4.16  積雪荷重を考慮した無限長斜面の安定解析モデル

Fig. 4.16  Stability analysis model of infinite slope combined with soil and snow

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単位体積重量(kN/m3),H はすべり⾯深度(m),H1は地下⽔⾯までの深度(m),

Hsnowは積雪深(m),β はすべり⾯勾配(°)である。既往の現地調査結果および⼟質試験 結果を踏まえ,表 4.3 に⽰すパラメータを⽤いて解析をおこない,積雪深の変化にともな う斜⾯安全率の変化を求めた。なお伏野地すべり地では積雪期の間隙⽔圧上昇は認められ なかったので,4.7 式において積雪載荷にともなう過剰間隙⽔圧の発⽣は考慮していない。

また,4.7 式では,特定の条件下において積雪荷重が式の分⼦側により多く配分されるに もかかわらず得られる安全率が低下するという式の構造上の⽋陥に由来する問題がまれに 発⽣するが,本論では簡易的な⼿法による安定性の評価を⽬的としており,本式の構造に 関する厳密な議論は避けた。

異なるすべり⾯勾配(5,20,40°)における積雪深と安全率の関係を図4.17に⽰す。勾

配が 5°と⼩さければ積雪層が垂直応⼒の増分に強く寄与するため積雪深の増⼤によって安

全率は上昇するが,勾配の増加にともなって垂直応⼒の寄与率は低下するため安全率の上 昇率は鈍くなり,勾配が 40°に達すると積雪深の増加にともなう安全率はわずかに低下し た。当地すべり地におけるE3‒E4間のすべり⾯勾配は7°ある。したがって積雪深の増加に ともなって安定度は⾼まると考えられ,これは積雪深が増えると移動速度が急減する観測 結果と調和した。4.7 式はすべり⾯の内部摩擦⾓も積雪時の安全率変化に強く関わること を⽰している。そこで安定解析モデルのすべり⾯勾配をE3‒E4間と同じ7°に固定し,異な

表4.3 安定解析に⽤いたパラメータ値

Table 4.3 Parameters for the stability analysis

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る内部摩擦⾓(3,8,15°)ごとに積雪深と安全率の関係を求めた。結果を図 4.18 に⽰す。

内部摩擦⾓が 3°と⼩さければ,積雪荷重はせん断応⼒側へ⼤きく配分されるため,積雪深 の増加にともない安全率は低下した。⼀⽅,内部摩擦⾓はすべり⾯が有する 8°や,さらに 15°と増加すれば,積雪荷重はせん断強度の増加側へより⼤きく分配されるため積雪深の増 加にともなって安全率が上昇する結果が得られた。以上から,すべり⾯勾配が⼩さいほど,

また内部摩擦⾓が⼤きいほど積雪層は斜⾯安定に対して正に,すなわち地すべり活動を抑 制する⽅向に作⽤することが⽰された。

以上をまとめると,秋期から積雪初期にかけて活発な移動と変形を呈していた地すべり 活動が積雪深の増加によって急速に減速した要因は,積雪層の形成によって MR の供給が

図4.17  異なるすべり面勾配における積雪深と斜面安全率の関係

Fig. 4.17  Relationship between snow depth and slope stability at different gradients of the sliding surface

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減少したことに加え,積雪荷重の増⼤によってすべり⾯に作⽤する有効応⼒が増加し,せ ん断強度が増強されたためと考えることができる。

4.4.2 積雪層による地表面の間接的連結作用

積雪安定期に安定していた地すべりは,融雪期になると緩慢な移動を再び始めたが各点 の移動速度に⼤きな差は⽣じず,⼟塊の変形はほとんど⽣じなかった。移動速度が均等に なる要因のひとつとして積雪層による間接的な連結作⽤が考えられた。積雪層は地すべり 地内外の斜⾯に均⼀に堆積して地表⾯を覆う。地表⾯勾配が 15°以下であればグライドに よる積雪の移動はほとんど⽣じないとされる(秋⽥⾕・遠藤,1998)ため,積雪層は地す

図4.18  異なる内部摩擦角における積雪深と安全率の関係

Fig. 4.18  Relationship between snow depth and slope stability in the different internal friction angle of the sliding surface

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べり地をネット状に覆い地表⾯を間接的に連結して変形を抑制すると考えられた。このネ ット効果は,地すべりの上下端がほぼ等速で移動し,変形量が⼩さいことに対する説明と なる。

4.4.3 積雪荷重の継続作用によるすべり層の圧密

消雪後の春期から夏期にかけては,消雪により積雪荷重が除荷されたにもかかわらず地 すべりは不活発な状態が維持された(表 4.2)。この現象を説明し得る理由として冬期の 積雪載荷によるすべり層の圧密とそれにともなうせん断強度の継続的な増強を考えた。具 体的な⼟質⼒学的プロセスは以下のとおりである(図4.19)。

(a)秋期から積雪初期にかけての⼤移動によってすべり層の強度は残留強度まで低下す る。

(b)冬期の積雪層の⻑期載荷によってすべり層が圧密される。圧密されたすべり層は 間隙⽐が低下し(図 4.20),構造が再構成されるため,強度の回復が⽣じる(宜保ほか,

1997;中村ほか,2000)。

(c)春期になると消雪により積雪荷重が除荷される。しかし,除荷によるすべり層の膨 張はごく緩慢であるため,回復したせん断強度は暫く維持され,降⾬時にも顕著な地すべ り移動と変形を⽣じさせない。

(d)秋期(I)になるとすべり層の膨張により漸減したピークせん断強度に対し,それ を上回るせん断応⼒を⽣起させる降⾬イベントが発⽣し,すべり層がせん断破壊される。

せん断によってすべり層の強度はピーク強度からひずみ軟化強度領域に達する。そのため 以降は強度の⼩さい降⾬によっても地すべり移動と変形が活発に進⾏する。地すべり移動 によるせん断破壊の進⾏はすべり層の強度をさらに低下させる。そして再び(a)の段階へ 移⾏する。

以上に⽰した(a)‒(d)の機構によって,多雪地帯の伏野地すべりでは積雪環境に規 制された独特な移動,変形現象を⽣じていると推定された。

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図4.19  土質強度から見た伏野地すべりの変位機構の模式図

Fig. 4.19  Schematic diagram of the movement mechanism of the Busuno landslide from a point of view of a soil strength gram of the movement mechanism of the Busuno landslide

from a point of view of a soil strength

図4.20  積雪の載荷−除荷サイクルによる間隙比の変化

Fig. 4.20  Change in a void ratio of the landslide mass by snow loading-unloading cycles

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