第 1 章 序論
1.4 RF-EH 用整流デバイスの実現へ向けた取り組みと課題
図1.1で示したように, 極低消費電力LSIはEHレベルのエネルギーで動かす ことが想定されている. EHの手法は様々なものが提案されているが[57], ここで
はRF-EHに着目する. RF-EHは, 他のEH技術と比較して, 広範囲にエネルギー
源が存在する上, 非接触で電力を集めることができるため, 有望なEH手法の一
Tunnel FET Negative capacitance FET
Resistive-gate FET
MEM logic
switch I-MOS SOI MOSFET
using FBE Feedback FET Z2-FET SSmin 21 mV/dec
good
24 mV/dec good
8 mV/dec excellent
< 0.1 mV/dec excellent
5.88 mV/dec excellent
0.058 mV/dec excellent
2 mV/dec excellent
< 1 mV/dec excellent
Vd 0.1 V
low
0.2 V low
1.0 V not enough
10 mV very low
5.76 V※3 very high
1.3 V not enough
1.2 V not enough
1.5 V not enough Ion 1×10-9 A/μm
low
8×10–7 A/μm not enough
6×10–5 A/μm good
1×10–5 A※2 good
4×10–5 A/μm good
1×10-4 A/μm good
1×10-4 A/μm good
5×10-4 A/μm good Ioff < 1×10-15 A/μm
low
4×10–15 A/μm low
1×10–7 A/μm high
< 1×10–14 A※2 low
1×10–9 A/μm high
1×10–12 A/μm low
5×10–12 A/μm low
1×10–11 A/μm low
Hysteresis none 20 mV
negligible significant※1 1.0 V
significant none 2 mV
negligible
0.18 V
with with※4
S/D asymmetry symmetry symmetry symmetry asymmetry symmetry asymmetry asymmetry
Ref. [13] [18] [20] [21] [24] [39] [43] [45]
Comment
高いIonと急峻 なSSを両立す るデバイスの 作成はまだで きていない
動作スピード に関する懸念
あり
ゲートに適し たMIM層の材 料開発が課題
ヒステリシス 特性と機械的 強度の問題あ
り
アバランシェ 降伏を起こす ためにに高い 電圧が必要
I-MOSより低い Vdだが、Siで 1.0 Vを切るの は難しい
ヒステリシス 特性とプログ ラミング動作 が必要な問題
あり
1T-DRAMへの 応用が主に検 討されている
※1: 論文中にヒステリシス特性の情報は載っていないが、set/reset特性から、大きなヒステリシス特性が発生すると予想される
※2: 総コンタクト面積は 8 μm2
※3: Vs = –5.75 V, Vd = 0.1 V
※4:ヒステリシス特性の情報は載っていないが、Id–Vd特性がヒステリシス特性を持っていることから、Id–Vg特性も ヒステリシス特性を持っていると予想される
21
つである. しかし, 得られる電力は非常に小さいと予測される. 図 1.21 に Friis の伝達公式[58]から計算された受電電力の電波塔からの距離依存性を示す. 電波 塔から距離が離れると, 得られる電力はμWレベル以下に減少する. RF-EHはレ クテナと呼ばれるアンテナと整流回路を組み合わせたもの(図1.22)で行うこと が想定される. すなわち, RF-EHで最も重要な問題は極低入力電力を如何に高効 率で受電, 整流するかである.
図 1.21 Friis の伝達公式を用いて計算された各種 RF 電源(地上デジタル
(DTTV), 携帯電話, Wi-Fi)における受電電力の距離依存性.
図1.22 レクテナの模式図.
1E-6 1E-4 1E-2 1E+0 1E+2 1E+4 1E+6 1E+8
1 10 100 1000 10000
Received Power (μW)
Distance (m)
DTTV
Cellular phone Wi-Fi
1
Load (e.g. LSI) Antenna
Rectification Circuit
22
1.4.1 Hi-Zアンテナ
整流効率を上げるために, アンテナ部で昇圧を行い, ダイオードへの入力電 圧を増加させる研究がされている. 例えばアンテナのインダクタンスと整流器 の寄生容量との共振を使用する方法[59]や, 高インピーダンス(Hi-Z)アンテナ を備えたレクテナ[60]が提案されている. ここでは Hi-Z アンテナによる電圧増 幅に関して説明を行う.
図1.23は, Hi-Zアンテナを用いて−30 dBm及び−40 dBmを増幅した際の出力 電圧の計算結果を示している. 入力電圧は, 1 kΩ–10 kΩのアンテナによって約50 mVへ増幅できることが分かる. これは, 標準的な50 Ωアンテナの場合の10 mV よりも大幅に改善されている. 例えば先行研究では, 図1.24に示すMOSダイオ ードと2 kΩのHi-Zアンテナを組み合わせて−30 dBmでおよそ10 %の整流効率 を実現している[61]. しかし, 50 mV でも高効率化のためには依然として非常に 低い電圧である.
図1.23 Hi-Zアンテナによる受電電圧の増幅.
0.001 0.01 0.1 1
10 100 1000 10000 100000
In pu t V ol ta ge t o di od e (V )
Antenna Impedance (Ω) -30dBm
-40dBm
50mV
23
図1.24 Hi-Zアンテナを用いたレクテナ.
1.4.2 従来型ダイオードの理論限界
微小な電圧で整流を行うには, ダイオードの I–V 特性における非線形性が重 要にな る. 良く使 用さ れる ダイオ ードの 性能 指数の 一つ に曲 率 (curvature coefficient) γが存在し, 以下の式1.7で表される[62], [63].
γ ≡ 𝑑
2𝐼/𝑑𝑉
2𝑑𝐼/𝑑𝑉
γはダイオードの応答性を示し, 大きいほど微小な電圧で非線形に電流が変化す る, すなわち, 整流効率が上がることを意味する. 図1.25に従来型ダイオードの I–V 特性を示す. 従来型の PN ダイオード及びショットキーバリアダイオード (Schottky Barrier Diode: SBD)は0 V付近の非線形領域における電流が熱拡散機構 によるため, γがq/nkTで与えられる. 室温において理想的なpn接合(n = 1) のと き, γは40 V-1となり, これが理論限界になってしまう.
Hi-Z Antenna
Rectifier
(1.7)
24
図1.25 従来型ダイオードの0 V付近におけるγ.
1.4.3 ゼロバイアスダイオード
高い整流効率を備えたレクテナを開発するには, ターンオン電圧がほぼゼロ の新しいダイオード機構が必要である. これはゼロバイアスダイオードと呼ば れ, トンネル現象を利用したデバイスが提案されている. 図 1.26(a) で示すよう に, pn接合に逆方向バイアスを印加すると, 接合部が高電界化し, トンネル電流 が流れる. ここで適切なバンドエンジニアリングを行うことにより, I–V 特性は
図 1.26(b) で示すように, 逆方向バイアスで急峻にオン状態となり, 熱拡散機構
で動作するダイオードを超える γ を得ることができる. トンネル現象を利用し たダイオードとしては, トンネルダイオード[64]が有名だが, EH用のゼロバイア スダイオードでも同様の現象を利用する試みがなされている, 例えば Backward Tunnel Diode は, III-V 材料を使用したヘテロ構造のダイオードで, 40 V-1を超え るγを得ている[65]. また, シミュレーションベースでは, Band-to-Band Tunneling
Diodeの名前で, pn ダイオードの接合部を極急峻に作り, 濃度を厳密に調整する
ことで, 低電圧範囲において高効率整流ができる可能性を示唆している[66]. さ らには, steep SSデバイスである TFET を用いたEH用整流回路が検討されてい る[67], [68]. しかし, Backward Tunnel DiodeはSi以外の材料を使用することによ
I
V
Theoretical Limit γ≈40 V-1
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る製造コストの問題, 残りのデバイスはまだシミュレーションでしか特性を確 認できていないという問題がある. また, それらの整流特性は極低入力電力に 対しては依然として不十分である.
図1.26 トンネル現象を利用したゼロバイアスダイオード. (a) バンド図, (b) 期
待されるI–V特性.