第 2 章 技術普及と生産性に関する理論的含意と先行研究
5. NIEs・ASEAN に特化した技術普及の実証分析
NIEs・ASEANに特化した技術普及について、NIEs・ASEAN横断的に分析を試みたものとそ
の中の一国や一地域を取り上げて分析したものに分かれる。後者の分析が圧倒的に多い。
(1)地域横断的な技術普及分析
アジア地域に特化した技術普及の先行研究として、Madden and Savage(2000)、Madden, Savage and Bloxham(2001)、Okabe(2002)、Luh and Shih(2006)、Liao et al.(2009)、そして Ang and Madsen(2013)がある。
Madden and Savage(2000)はOECD15カ国とアジア6カ国・地域の1980~95年のカントリ
ーデータを用いてCoe and Helpman(1995)モデルに基づき実証分析を行っている。分析結果は、
アジア国内の研究開発ストックの係数に対する推定値は0.273~0.302と有意となり、先進国のそ れと比較して3~17倍に相当する一方、アジア諸国の海外研究開発ストックのそれは、それぞれ の輸入規模を考慮すると有意ではあるが0.031~0.034にすぎない。ただし、アジア諸国の海外研 究開発ストックの係数について各国同一の数値をとるとの前提に立つため、海外研究開発ストッ クの影響力が過小評価されている恐れがある。Madden, Savage and Bloxham(2001)は上と同期 間のアジア諸国(台湾、韓国、シンガポール、インド、インドネシア、タイ)の国内研究開発ス があるとしている。
22 Krammer(2010)は先進国だけでなく途上国まで対象とした直接投資を経由する技術普及分析を行っている。パ
ネル時系列分析手法を用いての推計であり、対内直接投資関連研究開発ストック変数の技術普及力は輸入関連同 ストック変数の影響力には劣るものの正で有意であった。また、所得格差と自国研究開発や人的資本の交差項を 技術吸収力として説明変数に加えたところ、係数に対する推定値は正かつ有意となった。
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トックを説明変数に入れた技術普及分析である。国内研究開発ストックの係数に対する推定値は
0.302~0.303と有意であるのに対して、海外研究開発ストックのそれは各国別に算出されており、
韓国、シンガポール、インドは有意でなかったが、台湾、インドネシア、タイは有意であり、そ
れぞれ1.987~1.992、1.950~1.987、2.124~2.128の推定値をとった。
Okabe(2002)はNIEs・ASEANの中の7カ国・地域のカントリーデータを用いて製造業輸入を
通じた海外研究開発ストックの全要素生産性に及ぼす影響を分析しており、同係数に対する推定 値は7カ国・地域全体では0.038~0.111と有意となったが、国別に分析すると、香港(0.168~
0.193)、韓国(0.064~0.084)、シンガポール(0.060~0.089)、タイ(0.039~0.096)、フィリピ
ン(0.0026~0.045)で技術普及の有意性を確認している。NIEsの方がそれ以外の東南アジアの 国よりも海外研究開発ストックによる技術普及の影響を受けている傾向が示される。
Luh and Shih(2006)では、1978~1992年までの、日本に加えて、韓国・台湾のカントリーデ
ータを使い、内外研究開発ストックの技術普及に及ぼす影響を実証分析している。分析結果によ ると、国内研究開発ストックの係数に対する推定値(韓:0.36~0.45、台:0.08、いずれも有意)
に比べて海外研究開発ストックのそれは、韓国は有意で国内を上回った(1.9~2.0)ものの、台 湾はマイナスとなった。
Ang and Madsen(2013)は1955~2006年のアジア6カ国・地域のカントリーデータから技術
普及と生産性の実証分析を行い、研究開発支出と特許出願数で算出した海外研究開発ストックの 係数に対する推定値はそれぞれ0.082、0.131で有意となっている。一方、国内研究開発ストック のそれはそれぞれ0.235、0.142と有意で、さらに海外研究開発ストックよりも大きくなっている。
ただし、同分析も海外研究開発ストックの係数はアジア各国同一の値をとるという現実にそぐわ ない前提に立っているために、同推計が過小評価されている恐れがある。
業種別データを使った分析では、Liao et al.(2009)が東アジア・東南アジア 8カ国・地域別に 28 業種データを用いて海外研究開発ストックを説明変数として入れたストキャスティック生産 関数を推計している。海外研究開発ストックの係数に対する推定値は0.025(韓国)~0.1923(フ ィリピン)と有意であり、Okabe(2002)の分析結果とは異なり、ASEAN諸国の方がNIEsよりも 海外研究開発ストックによる技術普及の影響を受けている傾向が示される。
(2)国別・地域別の技術普及分析
NIEs・ASEANについて国別等に見ると、韓国、台湾、インドネシアの国内において研究開発
ストックと技術普及に関する先行研究が蓄積している。
まず韓国については、Kim and Park(2003)、Kwon(2003)、Singh(2006)、そしてKim, Maskus and Oh(2009)の分析がある。Kim and Park(2003)は1970~1996年までの製造業9業種で技術 普及分析を行っている。その結果、国内研究開発ストックの係数に対する推定値は0.034~0.100 と有意であるのに対して、海外研究開発ストックのそれも有意であるが、同推定値は0.076~0.182 と国内のそれを上回った23。一方、Kwon(2003)は1987~96 年までの製造業 15 業種を使って技 術普及分析を行い、国内研究開発支出シェアの係数に対する推定値が0.259~0.329を示している のに対して、海外のそれは有意でない結果となった。ただし、その後の韓国の技術普及分析を見 ると、海外研究開発ストックの影響力の方が大きい。Singh(2006)は 1970-2000 年までの製造業 28業種で技術普及分析を行い、Kim and Park(2003)と同様に、国内研究開発ストックの係数に 対する推定値(0.0156~0.095、有意)よりも海外研究開発ストックのそれ(0.077~0.103、有意)
の方が上回っている。Kim, Maskus and Oh(2009)は、製造業13業種のデータを使って1981~
1999年までの技術普及分析を行っている。国内研究開発ストックの係数に対する推定値は0.026
~0.051 と有意であるのに対して、海外研究開発ストックのそれは 0.03~0.261 と有意であり、
かつ国内の推定値を上回っている。
次に台湾についてはChen and Yang(2006)、Branstetter and Chen(2006)、Tseng(2008)、そ
23 Kim and Parkは2006年にも期間を変えて韓国製造業9業種の技術普及分析を行っているが、こちらも海外
研究開発ストックの係数に対する推定値は国内のそれを上回る結果となった。
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してHsu and Chuang(2014)が技術普及分析を行っている。Chen and Yang(2006)は1990~1997 年までの279上場企業データを使った研究開発ストックを用いて技術普及分析を行った。国内研 究開発ストックの係数に対する推定値は 0.020~0.022 と有意であるのに対して海外研究開発ス トックのそれは有意だが0.018~0.034であった。一方、Branstetter and Chen(2006)は、1986
~1995年までの事業所2,636ヶ所、1990~1997年までの上場企業279企業のデータを使って実 証分析を行った。分析結果によると、国内研究開発支出の係数に対する推定値は有意であり、そ
れぞれ 0.012~0.034(事業所)、0.039~0.040(企業)であるのに対して、技術輸入額のそれも
有意で、それぞれ0.006~0.013(事業所)、0.010~0.011(企業)となった。また、1990~2003 年までの電機企業219企業データを使ったTseng(2008)では、国内の研究開発ストックの係数に 対する推定値は0.1299~0.3370と有意であるのに対して、技術輸入額を用いて算出した海外知識 ストックのそれは有意でなかった。最近ではHsu and Chuang(2014)は2003~2007年までのハ イテク334企業に限定して技術普及について分析したが、国内研究開発ストックの係数に対する
推定値は0.514~1.254と有意であるのに対して、海外研究開発ストックのそれは有意ではあるが
0.141~0.731となった。台湾企業を対象とした技術普及分析では海外研究開発ストックの影響力
が国内のそれに比べていずれも圧倒的でないことがわかる。
インドネシアについてはJacob and Meister(2005)とJacob and Szitmai(2007)の両分析がある。
Jacob and Meister(2005)は1980-96年までの製造業19業種のデータを使って海外研究開発スト
ックの技術普及に関する影響力を分析している(なお、国内研究開発ストックは説明変数に加え ていない)。分析結果によると、海外研究開発ストックの係数に対する推定値は有意でないが、同 ストックと市場集中度の交差項は有意(0.026)であった。Jacob and Szitmai(2007)は上記の期 間と業種で海外研究開発ストックに技術間距離や国家の技術構造を考慮した変数で技術普及につ いて分析したところ、同係数に対する推定値が 0.174 と有意となった。また、さらに市場集中度 を考慮すれば、同推定値は0.014~0.017と縮小するものの依然として有意である。
(3)小括
NIEs・ASEANにおいて海外からの技術普及が確認されている。NIEs・ASEANにおける国内
研究開発ストックと海外研究開発ストックの技術普及の影響力を比較すると、有意な差があると は言えないものの、国内よりも海外の研究開発ストックの影響力が大きいとする分析が多いと言 える(例えば、Madden, Savage and Bloxham(2001)、Luh and Shih(2006)の韓国、Kim and
Park(2003)、Singh(2006)、Kim, Maskus and Oh(2009))。ただし、台湾の事業所や企業等のデ
ータを使った技術普及分析はいずれも海外研究開発ストックの方が国内と比べて技術普及の影響 力が大きいとは言えない。
NIEs・ASEAN別に見た海外研究開発ストックの影響力比較についてはNIEsの方が大きいと
する分析結果(Okabe(2002))とASEANの方が大きいとする分析結果(Liao et al(2009))に分か れているが、はっきりとしたことは言えない状況である。
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