第 6 章 NIEs は NIEs・ASEAN における技術発信源となりうるか
① 韓国、台湾、シンガポールそれぞれの国・地域別に見た技術普及の実証モデル 103
図6-1 NIEs・ASEAN輸入総額に占める先進国シェア及び域内シェアの推移
(出所)RIETI TIDデータベース 5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010
日本シェア 米国シェア
欧州シェア 域内シェア
104
なお、パネルデータを扱っているため、ハウスマン検定等によるモデル選択を行う必要が ある。
・・・(6-1)
:t時点におけるc国i業種の全要素生産性
:t時点における当該業種i業種の国内・地域内研究開発ストック
:t時点における当該業種以外の業種(i’業種)の国内・地域内研究開発ストック :c国i業種の輸入をc国製造業付加価値で除したもの(期間平均)
:t時点のi業種の海外研究開発ストック
:業種(i)、期間(t)のダミー(変量効果モデルにおいて)
当該i業種以外の業種(i’業種)も国内等での中間財取引等で当該i業種に影響を及ぼすと 考えられる。したがって当該i業種以外の業種も説明変数として追加する。その際、研究開 発ストックは以下の方法によって積み上げて算出する。
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S
:投入された中間財金額を製造業付加価値で除したもの(期間平均)
:t時点における当該業種以外の業種(i’業種)の研究開発ストック さらに、i業種の海外研究開発ストックは以下の方法によって積み上げる。
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c cict cit
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:t時点におけるi業種の輸入全体に占める先進国c’国からの輸入シェア :t時点における先進国c’国i業種の研究開発ストック
当該業種の国内・地域内研究開発ストックと当該業種外の業種の国内・地域内研究開発ス トックの係数に対する推定値、つまりβdi^及びβdi’^は正で有意であれば技術普及が国 内・地域内の業種内ないし業種間で生じていることになる。先行研究では、韓国の場合、
海外の研究開発ストックの係数に対する推定値βdi^の方が国内の研究開発ストックの係数 に対する推定値βf^よりも大きい。また、国内・地域内の研究開発ストック説明変数を追加 したことで海外研究開発ストック変数の係数に対する推定値βf^が有意に変化するかどう か確認する。
② 韓国、台湾、シンガポールを発信源とした技術普及の実証モデル
第 5 章の輸入以外の経路を取り込んだ実証分析モデルをベースとして、韓国、台湾、シ ンガポールの研究開発ストックを説明変数として追加したものをモデルとして使用する。
なお、前項と同じくパネルデータを扱っているため、ハウスマン検定等によるモデル選択 を行う必要がある。
・・・(6-2)
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105 :t時点におけるc国i産業の全要素生産性
:t時点の当該業種i業種の先進国研究開発ストックを単純積み上げしたもの :t時点の輸入を通じて得られるc国i業種の海外研究開発ストック
:t時点の韓国、台湾、シンガポール3カ国・地域からの輸入を通じて得られるc 国i業種のNIEs由来の研究開発ストック。同研究開発ストックの入手期間によ って以下の3パターンを考慮する。
1979~2006年:韓国からの輸入を通じて得られる業種別研究開発ストック 1983~2005年:韓国・台湾からの輸入を通じて得られる業種別研究開発スト ック
1994~2005年:韓国・台湾・シンガポールからの輸入を通じて得られる業種 別研究開発ストック
:国(c)、業種(i)、期間(t)のダミー(変量効果モデルにおいて)
韓国、台湾、シンガポールからの輸入を通じて得られる海外研究開発ストックの係数に対 する推定値βN^が正で有意であれば、NIEs・ASEANにおいて域内からの技術普及が生じ ていることになる。また、説明変数を追加することで、経路を特定しない先進国の研究開 発ストックの係数に対する推定値βs^や先進国からの輸入経路を通じた研究開発ストック の係数に対する推定値βf^が有意に変化するかについても確認したい。
なお、実証モデル(6-2)では輸入規模をコントロールしていない。したがって第4章や第5 章で行ったように、c国のi業種の輸入を同製造業付加価値で除したものの期間平均Mciを、
(6-2)の対数化した先進国や韓国・台湾・シンガポールの海外研究開発ストック(logScitf、
logScitN)に掛け合わせることで輸入規模を調整したモデルでも実証分析を行う。
・・・(6-3)
:c国i業種の先進国からの輸入をc国製造業付加価値で除したもの(期間平均)
:c国i業種の韓国・台湾・シンガポールからの輸入をc国製造業付加価値で除し たもの(期間平均)
輸入規模を調整したうえで韓国、台湾、シンガポールからの輸入を通じて得られる海外研 究開発ストックの係数に対する推定値βMN^が正で有意であることを想定する。同研究開発 ストックの規模に加えて、輸入水準の大きさが域内での技術普及に差を生じさせ、NIEs・
ASEANの生産性に影響を与えていると考える。また、同説明変数を追加することで、経路
を特定しない先進国の研究開発ストックの係数に対する推定値βs^や先進国からの輸入経 路を通じた研究開発ストックの係数に対する推定値βf^が有意に変化するかについても確 認したい。
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106 4. 実証分析結果
(1)パネル単位根検定
長期にわたる時系列データを使用しての実証分析の場合、それぞれのデータが長期安定 的な関係にあるかどうか単位根検定を行う必要がある。本研究についてはパネルデータを 取り扱っていることからパネル単位根検定を行わねばならない。
表6-2は本章で取り扱うデータ全てについてパネル単位根検定を行ったものである。TFP データについては第4 章でパネル単位根検定を行い、棄却していることから表 6-2 から割 愛した。パネル単位根検定についてはいくつか方法があり、今回は、クロスセクション変 数の係数を全て同一とみなすLevin, Lin and Chu検定とクロスセクションの係数を必ずし も同一のものでないとしてとらえる 3 つの検定方法(Im, Pesaran and Shin 検定,ADF Fisher検定, PP-Fisher検定)を採用した。
今回の検定結果によると、Levin, Lin and Chu検定では全ての時系列データについてパ ネル単位根を1%の有意水準で棄却している。他の3つの検定方法では、「韓国・台湾・シ ンガポール由来研究開発ストック」と「韓国・台湾・シンガポールからの輸入シェア*韓国・
台湾・シンガポール由来研究開発ストック」を除いて、いずれの検定方法でもパネル単位 根を有意水準5%で棄却できる。「韓国・台湾・シンガポール由来研究開発ストック」と「韓 国・台湾・シンガポールからの輸入シェア*韓国・台湾・シンガポール由来研究開発ストッ
表6-2 パネル単位根検定
Levin, Lin &
Chu t*
Im, Pesaran and Shin W-stat
ADF - Fisher Chi-square
PP - Fisher Chi-square - 1 9 .0 6 - 1 9 .2 1 7 0 8 .7 1 6 2 5 .1 4
0.00 0.00 0.00 0.00 - 3 3 .7 9 - 2 0 .6 1 6 0 1 .0 3 7 7 4 .1 6 0.00 0.00 0.00 0.00 - 1 8 .7 0 - 8 .2 9 4 6 2 .9 8 6 0 0 .3 0 0.00 0.00 0.00 0.00 - 2 2 .3 3 - 1 2 .5 9 6 5 5 .5 5 9 7 6 .5 9 0.00 0.00 0.00 0.00 - 8 .6 5 - 0 .5 4 3 2 1 .5 5 3 7 9 .3 2 0.00 0.29 0.02 0.00 - 1 8 .7 6 - 8 .4 8 4 6 8 .3 2 5 9 6 .5 3 0.00 0.00 0.00 0.00 - 2 2 .0 2 - 1 2 .3 3 6 4 2 .1 1 9 6 0 .2 0 0.00 0.00 0.00 0.00 - 9 .2 0 - 0 .9 9 3 3 3 .6 4 3 8 6 .0 6 0.00 0.16 0.01 0.00
(注)研究開発ストック(CH法)とは、Coe and Helpman(1995)による算出方法による。下段はp値。
出所:筆者作成
韓国・台湾・シンガポールからの 輸入シェア*韓国・台湾・シンガ ポール由来同ストック
韓国、台湾、シンガポールの自 産業研究開発ストック
韓国、台湾、シンガポールの他 産業研究開発ストック
韓国由来の研究開発ストック
韓国・台湾由来の研究開発ス トック
韓国・台湾・シンガポール由来 の研究開発ストック
韓国からの輸入シェア
*韓国由来研究開発ストック 韓国・台湾からの輸入シェア*
韓国・台湾由来同ストック
107
ク」についてはIm, Pesaran and Shin検定では有意水準5%ではパネル単位根を棄却でき ないものの、他の二つの方法ではパネル単位根を棄却できるため、今回取り上げる時系列 データはすべて定常性を持つと考えてよい。
したがって通常のパネルデータ分析手法を用いて実証モデルを推計することが可能であ り、以下では同手法を用いた実証分析を行う。
(2)韓国、台湾、シンガポールそれぞれの国別に見た実証分析
まず、韓国、台湾、シンガポールについて国内・域内の研究開発ストックを説明変数と して追加した場合の技術普及分析を行う。表6-3(1)は、韓国内の当該業種の研究開発ストッ クと当該業種以外からの研究開発ストックを取り込んだ業種別技術普及分析である。対象 期間は韓国の業種別研究開発データが入手できる1979年から2006年までとした。
韓国の国内当該産業の研究開発ストックの係数に対する推定値はいずれの分析において も正で有意である。一方、輸入規模で調整した先進国からの輸入を通じて得られる研究開 発ストックの係数に対する推定値も同様に正で有意であるが、国内当該産業研究開発スト ック等を説明変数として追加した場合、先進国からの同係数に対する推定値は低下するこ とになった。また国内他産業との取引を通じて得られる研究開発ストックの係数に対する 推定値は、国内当該産業の研究開発ストックと先進国からの同ストックの両変数を追加す ると、正ではあるが、有意でなくなった。つまり、韓国の場合、技術普及は属する国内の 当該産業や海外から生じているものの、国内の他産業から技術普及の影響は見てとれない と言える。
表6-3(2)は、台湾における当該業種の研究開発ストックと当該業種以外からの研究開発ス
トックを取り込んだ業種別技術普及分析である。対象期間は台湾の業種別研究開発データ が入手できる1983年から2001年までとした。
台湾の当該産業の研究開発ストックの係数に対する推定値はいずれの分析においても負 となった。これは先述した先行研究と異なる結果である。一方、他産業からの取引を通じ て得られる研究開発ストックや先進国からの輸入を通じて得られる研究開発ストックの両 変数の係数に対する推定値は両変数を同時に入れた場合を除いて正で有意となった。他産 業との取引で得られる研究開発ストックや海外からの研究開発ストックは台湾の当該業種 に技術普及をもたらしている。ただし、両変数を同時にモデルに入れると両者ともに有意 性が消失するが、これは両説明変数が相関するというテクニカルな要因に基づくものであ って、海外からの技術普及は依然として生じていると考える。
台湾の当該産業の研究開発ストックの係数に対する推定値が負である理由として、産業 内競争が激しいため、技術普及による恩恵よりも競争激化による収益悪化が影響している と考えられる。台湾の場合、OEM生産に特化する企業が多く、研究開発や広告宣伝などサ ンクコストが少なくて済み、企業が多額の投資をしなくても新たな市場に参入しやすい67。 そのため、中小企業が韓国に比べて多く、その分、企業間競争が激しいと考えられる。先 行研究では企業レベルのデータで分析していて、産業内競争激化の効果をコントロールし ているため、当該産業の研究開発ストックの係数に対する推定値が正になっていると考え られる。
表6-3(3)は、シンガポールにおける当該業種の研究開発ストックと当該業種以外からの研
究開発ストックを取り込んだ業種別技術普及分析である。対象期間はシンガポールの業種 別研究開発データが入手できる1994年から2006年までとした。
シンガポール国内の当該産業の研究開発ストックの係数に対する推定値はいずれの分析 においても正で有意となった。一方、輸入規模で調整した先進国からの輸入を通じて得ら れる研究開発ストックの係数に対する推定値は正であるが、有意ではない。ただし、国内 当該産業研究開発ストックと国内他産業研究開発ストックを説明変数として追加した場合、
67 Aw, Chen and Roberts(2001)p59