第 3 章 NIEs・ASEAN における業種別生産性の計測
3. データ及び Törnqvist 指数
(1)データ
1976から2006年まで(国や業種によって始期と終期に相違がある)のNIEs・ASEAN7カ国・
地域(香港、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア)の製造業17 業種29を業種別全要素生産性計測の対象とした。対象期間を2006年までとしたのは、それ以降の 2000 年代後半にはリーマン・ショックの影響が欧米のみならず、NIEs・ASEAN 経済に波及す るため、全要素生産性の正確な計測が困難となるためである。
元となるデータは A. Nicita and M. Olarreaga(2006)の Trade, Production and Protection
1976-2004データベースからダウンロードした。2005年と2006年の両年分や欠けている年につ
いては適宜、原出所に戻って補った。同データベースは、先進国から途上国まで含む、業種別の 生産と多数国間貿易に関するデータベースであり、生産統計(付加価値額、総賃金、雇用者数、
総固定資本形成)についてはUNIDO(国連工業開発機関)のInternational Yearbook of Industrial
Statistics(INDSTAT)から、貿易統計(輸入額)については国連のCOMTRADEから作成されて
いる。
29 17業種は以下の通り、①食品・飲料・タバコ、②織物・衣類・皮革、③木材・家具、④紙・紙製品・印刷、⑤ 化学、⑥医薬品、⑦石油化学・同製品、⑧ゴム・プラスチック製品、⑨窯業・土石製品、⑩鉄鋼、⑪非鉄金属、
⑫金属製品、⑬一般機械(事務用機械含む)、⑭電気機械・情報通信機械、⑮輸送機械、⑯精密機械、⑰その他製 造業。
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本研究における全要素生産性の産出指数として、生産高データではなく、付加価値データを採 用した。規模の経済が存在せず、また要素市場が完全市場であれば、産出指数として付加価値デ ータでも生産高データでも全要素生産性は一致する。しかし、これらの条件を充たさない場合、
計測された全要素生産性にバイアスが発生することをBasu and Fernand(1995)は指摘している。
実際の計測結果を見ても、李(1997)やNam(2000)によると、付加価値データに基づいた方が生産 高に基づくものよりも高めに出ている。ただし、全要素生産性のトレンドは付加価値データや生 産高データのどちらで計測しても一致している。全要素生産性の計測に当たり、産出指数として 生産高データを用いることが望ましいが、その場合、資本・労働の投入指数に合わせて中間財投 入指数が必要となるが、NIEs・ASEANにおける長期の中間財データの入手は難しいことから生 産高データから全要素生産性を計測することは困難である。したがって、産出指数として付加価 値データを採用することとするが、解釈に当たっては上で述べた注意点を考慮する必要がある。
付加価値データを産出指数として採用するため、投入指数は資本と労働に限定される。資本投 入指数として資本ストックデータそのものを採用するにはいくつか問題がある30。そのため、資 本ストックがどの程度まで生産活動に投入されているかを示す稼働率をかけあわせものを資本投 入指数として採用した。なお、資本ストックの算出には恒久棚卸法を用いており、償却率は 5%
とした。またNIEs・ASEANの業種別稼働率データを入手することは困難であるため、中島(2001) が考案した手法に基づき、資本ストックを生産高で除した資本係数の変動からそのボトムを資本 ストック稼働のピークとして捉え、そこからの乖離率を稼働率としている。
資本ストックの内訳を見ると、建物、構造物、機械・設備等に分かれており、これらの構成が 変化する、いわば資本の質の変化を考慮した資本投入指数が望ましい。しかし、残念ながら本研 究が対象とするNIEs・ASEANには資本の内訳やリース費用等のデータの入手が困難であり、質 の変化を考慮した投入指数となっていないため、その変化が計測された全要素生産性に反映され る可能性に注意する必要がある。
労働投入指数は雇用者データを採用する。労働投入指数は業種別の就業者数に同労働時間を掛 け合わせたものが採用されることが多く、さらに職種、性別、年齢、学歴によって雇用者が分類 されたデータ、つまり労働の質的な変化を考慮した労働投入指数を作成することが望ましい。た だし、アジア・太平洋地域などの新興国を対象にすると、質的変化はおろか業種別の労働時間デ ータを入手することすら困難である。そこで、労働投入指数として雇用者数データのみに注目す ることとして、UNIDOのInternational Yearbook of Industrial StatisticsからNIEs・ASEAN7 カ国・地域の業種別同データを採用する31。なお、作成された同指数は、労働の質の変化は考慮 されていないため、それらの変化は計測された全要素生産性に反映される可能性に注意する必要 がある。
資本・労働投入指数に掛け合わせる要素分配率について、まず労働分配率はINDSTATの総賃 金を付加価値で除したものを採用し、資本分配率は1から労働分配率を差し引いたものとした。
NIEs・ASEANの業種別全要素生産性を計測するに当たって、最大の問題点の一つが実質化に
関わるものである。業種別デフレータはNIEs・ASEANのみならず、途上国において入手するこ とは非常に困難である。例えば、IT関連財は価格低下の著しい製品・部品であるが、適切なデフ レータによって同財の付加価値額等の実質化をうまく行わないと、同財に関わる産業の全要素生 産性を過小評価する恐れがある。本研究は、業種別デフレータの代替として生産者物価指数ない し卸売物価指数に着目し、こちらの統計を使って実質化することとした。もちろん、国によって は業種別に対応しておらず、また業種によっては同指数の品目が存在していないこともあったが、
同指数の全体平均を使用するなどで調整した(表3-1(1)(2)(3))。
30 新規の資本ストックが既存の設備と一体化して本格稼働するには時間がかかることや、資本投入は景気変動に 影響を受けて資本ストックの増減以上に上下しやすいことなどで資本ストックの増減をそのまま資本投入として 受け止めることは難しい。
31 データ制約の問題から、労働投入分として、就業者数でなく、雇用者数を採用しているために、経営層等の就 業者数をカウントしていない。そのため、労働投入分について過小評価している恐れがあることにも注意が必要 である。
41 表3-1 NIEs・ASEANの業種別デフレータの代替統計 (1)韓国、香港、シンガポール
対応する生産者物価指数等 の品目
上昇率
(年率)
対応する生産者物価指数等の 品目
上昇率
(年率)
対応する生産者物価指数等の 品目
上昇率
(年率)
① FOOD , BEVERAGES AND
TOBACCO 6.8% Manufacturing Producer Prices
Indices 3.8% Food, Beverages, Tobacco and
oils 1.0%
② TEXTILES, TEXTILE ,
LEATHER AND FOOTWEAR 6.5%
Wearing Apparel, Exclude Footwear, and Textiles, Including Knitting
4.1% Textile manufactures, clothing, footwear and Leather -0.2%
③ WOOD AND OF WOOD AND
CORK 6.5% Manufacturing Producer Prices
Indices 3.8% Wood & code manufactures 0.5%
④ PULP, PAPER, PAPER ,
PRINTING AND PUBLISHING 6.2% Paper Products and Printing 4.2% Paper manufactures 0.7%
⑤ Chemicals excluding
pharmaceuticals 3.4% Organic, inorganic and dyes
and colours 3.2%
⑥ Pharmaceuticals 3.3% Medical, perfume,toilet and
others 0.5%
⑦ Coke, refined petroleum and
nuclear fuel 5.8% Petroleum & products 3.4%
⑧ Rubber and plastics 5.5% Plastic Products 4.0% Plastic and Rubbers 0.9%
⑨ OTHER NON-METALLIC
MINERAL 5.2% Manufacturing Producer Prices
Indices 3.8% Non-metal mineral
manufactures 0.0%
⑩ Iron & steel 0.8%
⑪ Non-ferrous metals 1.2%
⑫ Fabricated metal 8.7% Metal manufactures 0.9%
⑬
MACHINERY, NEC(Office, accounting and computing machinery)
3.6%
Machinery, Equipment, Apparatus, Parts and Components
3.1% Machinery & Office data
machines -3.0%
⑭ Electrical engineering -0.2% Consumer Electrical and
Electronic Products 1.8% Electrical machinery nee -1.3%
⑮
Motor vehicles, trailers and semi-trailers and Other transport equipment
2.6% Road vehicles -0.1%
⑯ Medical, precision and optical
instruments 2.4% Scientific and Photo -0.3%
⑰ MANUFACTURING NEC 7.3% Miscellaneous 0.2%
補足
出所:韓国についてBank of Korea, "National Accounts"
香港についてCensus & Statistic Department, "Producer Prices Indices for Manufacturing Industries"各年版 シンガポールについてDepartment of Statistics、Ministry of Trade & Industry, "Singapore Manufactured Products Price Index" 各年版
Other Manufacturing Industries 4.3%
・物価上昇率業種間ばらつきの幅:
-0.2%(⑭)~8.7%(⑫)
・1990年以前は業種別データが入手でき ず、製造業製品全体の伸び率で代替した
・物価上昇率業種間ばらつきの幅:
1.8%(⑭)~4.3%(⑮⑯⑰)
・物価上昇率業種間ばらつきの幅:
-3.0%(⑬)~3.4%(⑦)
Basic metals 6.7% Fabricated Metal Products, Exclude Machinery and Equipment
3.5%
韓国 香港 シンガポール
Manufacturing Producer Prices
Indices 3.8%
注:左列第一列のナンバリングは製造業17業種のそれぞれを指す。 具体的には、①食品・飲料・タバコ、②織物・衣類・皮革、
③木材・家具、④紙・紙製品・印刷、⑤化学、⑥医薬品、⑦石油化学・同製品、⑧ゴム・プラスチッ ク製品、
⑨窯業・土石製品、⑩鉄鋼、⑪非鉄金属、⑫金属製品、⑬一般機械(事務用機械含む)、⑭電気機械・情報通信機械、
⑮輸送機械、⑯精密機械、⑰その他製造業。生産者物価等の上昇率算出の対象期間は香港は1976年から2004年まで。
それ以外の国は1976年から2006年まで。
42 (2)タイ、マレーシア
対応する生産者物価指数等 の品目
上昇率
(年率)
対応する生産者物価指数等の 品目
上昇率
(年率)
① Food products,beverages &
tobacco 5.4% Food, bevarage, tobacco and
vegetable oils 2.9%
②
Textiles, Textiles products, Leather, leather products and footwears
6.2%
③ Wood and wood products 8.4%
④ Pulp, paper, paper products
and printing 7.7%
⑤
⑥
⑦ Petroleum products 4.5% Fuels 5.3%
⑧ Rubber and plastic products 5.1% Chemicals 3.0%
⑨ Non metallic mineral products 3.8%
⑩
⑪
⑫ Fabricated metal products 6.0%
⑬ Machinery and equipment
N.E.C. 4.0%
⑭ Electrical equipment N.E.C. 4.9%
⑮ Transpor equipment 4.6%
⑯ Precision instruments, and
watches 6.5%
⑰ Other manufactured goods 4.6% Miscellaneous 3.1%
補足
出所:タイについてDepartment of Business Economics, Ministry of Commerce, Wholesale Price Index by Commodity Group各年版
マレーシアについてDepartment of Statistics Malaysia, "Producer Price Index for Local Production by Commodity Groups"各年版
Machinery & Transport
equipment 2.0%
・1976、1977年についてはデータ不在 のため製造業製品全体の伸び率で代 替した
・物価上昇率業種間ばらつきの幅:
2.0%(⑬⑭⑮⑯)~5.3%(⑦)
マレーシア
Manufacturing Producer
Prices Indices 3.3%
Chemicals 3.0%
Manufactured Materials 2.4%
・1995年以前は項目数が減った卸売物 価指数、建設資材用生産者物価指数 を採用
・物価上昇率業種間ばらつきの幅:
3.8%(⑨)~8.4%(③)
Basic metals 5.9%
タイ
Chemicals and chemical
products 4.0%
注:左列第一列のナンバリングは製造業17業種のそれぞれを指す。 具体的には、
①食品・飲料・タバコ、②織物・衣類・皮革、③木材・家具、④紙・紙製品・印刷、
⑤化学、⑥医薬品、⑦石油化学・同製品、⑧ゴム・プラスチック製品、
⑨窯業・土石製品、⑩鉄鋼、⑪非鉄金属、⑫金属製品、⑬一般機械(事務用機械 含む)、⑭電気機械・情報通信機械、⑮輸送機械、 ⑯精密機械、⑰その他製造業。
生産者物価等の上昇率算出の対象期間はタイは1976年から1998年まで、それ 以外の国は1976年から2006年まで。