第 3 章 NIEs・ASEAN における業種別生産性の計測
4. 計測結果
(1)全要素生産性の推移について
NIEs・ASEANの製造業 17業種別に見た全要素生産性の推移について解説する。なお、その
推移についてグラフ化したものを付図2~8として巻末に掲載した。
香港の製造業種別全要素生産性は、データ制約のため 2003 年までとなっている。その推移を 見ると、製造業全体では1976年から2001年にかけて概ね右肩上がりで推移し、全要素生産性の 水準は1976年当初から2.5倍以上、上昇している。その後、2002年、03年と急落し1976年当 初の水準の 2倍程度となった。業種別には、紙・紙製品・印刷や一般機械のように2003 年に至 るまで右肩上がりで推移した業種もあるが、非鉄金属を除く大半の業種はそれまでにピークをう ち、その後低下している。なかには、鉄鋼のように 1976 年当初の水準を下回るものもある。一 方、非鉄金属はどちらかと言えば右肩下がりで推移した。なお、石油化学・同製品の全要素生産 性は付加価値データ等が存在しないため、計測していない。
韓国の製造業全体の業種別全要素生産性は、概ね右肩上がりで推移して 2006 年時点の水準は 1976年時点と比較して2倍程度上回る。ただし、2000年代に入ると横ばい推移となっている。
業種別では、過半の業種、具体的には、繊維・衣料品・皮革製品、木材・家具、紙・紙製品・印 刷、医薬品他、プラスチック・ゴム製品、窯業・土石製品、鉄鋼、一般機械、電気機械・情報通 信機械、精密機械の10業種の全要素生産性は1976年当初から上昇して1990年代半ば~2000年 初頭には横ばい推移となっている。それ以外の業種は横ばいというよりも、ピークアウト後に低 下する傾向を示したが、1976年水準を大きく下回る業種は存在しなかった。
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シンガポールの製造業全体の全要素生産性は、1990年後半まで概ね右肩上がりで推移し、その 後ジグザグ推移となったが、2000 年代に入って再び上昇に転じている。2006 年時点の同水準は 1976年時点の1.7倍程度である。業種別に見ると、香港や韓国と異なり、業種によって推移に差 がある。概ね右肩上がりで推移する業種(繊維・衣料品・皮革製品、電気機械・情報通信機械)、
右肩上がりで上昇した後、近年になって横ばいで推移する業種(プラスチック・ゴム製品、精密 機械)、ピークをつけ、その後低下している業種(食品・飲料・タバコ、木材・家具、紙・紙製品・
印刷、化学製品、医薬品他、石油化学・同製品、窯業・土石、金属製品、一般機械、輸送機械、
その他製造業の 11業種)、そしてこれらの推移とはまったく違った推移を示す業種(鉄鋼、非鉄 金属)に分かれる。ちなみに石油化学・同製品や窯業・土石の 2006 年の全要素生産性の水準は 当初の1976年水準を下回っている。
タイの業種別全要素生産性はデータ制約のため、1976年から 1998年までの間の14 年分とな っている。製造業全体の動きを見ると、業種によってばらつきがあるものの概ね横ばい推移とな っている。ただ、1990年代後半に入るとやや低下したため、1998年の同水準は1976年時点の水 準を下回っている。業種別に見ると、上方トレンド(非鉄金属)や下方トレンド(食品・飲料・
タバコ、医薬品他)が見られる業種もあるが、概ね横ばい推移しているものが多い。
マレーシアの製造業全体の全要素生産性は、緩やかに上方推移して 1990 年代半ばには横ばい 推移となっていたが、2000 年代半ばに入ると急落し、1976 年当初の水準を下回っている。業種 別では、多少の変動を伴いながら上方推移した後、2000年半ばに低下するもの(木材・家具、医 薬品他、窯業・土石製品、金属製品、輸送機械、精密機械の 6業種)や2000 年以前にピークを つけた後、低下するもの(繊維・衣料品・皮革製品、紙・紙製品・印刷、化学製品、石油化学・
同製品、プラスチック・ゴム製品、一般機械、電気機械・情報通信機械、その他製造業の8業種)
が多かった。
インドネシアの全要素生産性の推移を見ると、製造業全体では概ね右肩上がりで推移し、2006 年の同水準は1976年の1.5倍を上回る。業種別に見ると、金属製品のように近年になって下方シ フトするものもあったが、大多数の業種は、多少の変動を伴うものの右肩上がりで推移しており、
具体的には、食品・飲料・タバコ、繊維・衣料品・皮革製品、紙・紙製品・印刷、医薬品他、プ ラスチック・ゴム製品、一般機械、電気機械・情報通信機械、輸送機械、精密機械、その他製造 業の10業種が挙げられる。一方、化学製品、窯業・土石製品、非鉄金属、金属製品の4業種の全 要素生産性は上昇するどころか低迷しており、これらの業種の2006年時点の同水準は1976年当 初の水準を下回った。
フィリピンの製造業全体の全要素生産性は、多少の変動を伴いながら右肩上がりで推移して 1990年代後半にはピークをつけたが、その後低下している。2006年時点の同水準は1976年を4%
程度上回るに過ぎない。業種別に見ても、食品・飲料・タバコ、繊維・衣料品・皮革製品、木材・
家具、紙・紙製品・印刷、医薬品他、プラスチック・ゴム製品、窯業・土石製品、金属製品、電 気機械・情報通信機械、その他製造業の10業種は、製造業全体と同じく、右肩上がりで推移して ピークをつけたあと、低下している。
NIEs・ASEANの業種別全要素生産性の動きをまとめると、3点指摘できる。第1点は、製造
業の全要素生産性が全期間を通じて概ね業種横断的に上昇した国・地域(香港、韓国、シンガポ ール、インドネシア)と業種横断的に上昇していない国(タイ、マレーシア、フィリピン)に分 かれる点である。第 2点は、業種横断的に全要素生産性が上昇していない国においても 1990年 代半ばまでに限れば全要素生産性が高まった業種が存在する点である。第3点は、いずれの国・
地域においても1990年後半から2000年代にかけて同生産性が下方にシフトする動きが、程度差 はあれ、見られた点である。
第1点に関しては、全要素生産性が上昇した国・地域のなかには、もともと外国に対して開放 的であったり、早くから輸出促進に重きを置き、貿易の自由化に踏み切っていたりする国・地域 が多い。香港やシンガポールはもともと中継貿易国であり、GDPに占める貿易の割合が高い国・
地域であった。韓国は 1960 年代から輸出促進に舵を切り、貿易の自由化を行ってきた。韓国の 関税率もシンガポールを除く ASEAN(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)や台湾
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に比べてもともと低い水準であった。インドネシアは香港、シンガポール、韓国に比べて貿易の 自由化で出遅れたが、1980年代後半に思い切った貿易・投資の自由化を行った。インドネシアの 開放路線への転換は、外国からの先進技術などを導入することで全要素生産性の上昇につながっ たといってよい。さらに、香港、シンガポール、韓国などの NIEs についていえば、教育や研究 開発に対する投資が比較的盛んで、また汚職等が少ないなど制度運用の面で優れている。このよ うな投資の増大や優れた制度運用も全要素生産性の上昇に貢献したといえる。
第2点については、当該の業種が先進国由来の多国籍企業主導によるNIEs・ASEANでの工程 間分業に組み込まれたことが大きい。これらの業種は、国際分業を通じて外国の先進技術を導入 することで全要素生産性が上昇したと言えるだろう。
第3点の生産性の下方シフトに関して、2点理由が考えられる。まず、1990年代後半のアジア 通貨危機や2000年代初頭のITバブルの崩壊などマクロ経済ショックの発生である。これらの経 済ショックはNIEs・ASEANの経済活動を通常より大きく低下させることとなり、全要素生産性 の悪化をもたらしたと思われる。次に、1990年代後半から現在まで続く「世界の工場」中国の台 頭である。2001年の中国のWTO加盟をにらんで先進国の多国籍企業は中国向け直接投資を増や して最終財の組立・輸出拠点を設立した。一方、それまでの組立・輸出拠点であったASEANは、
人件費等コスト面で優位に立つ中国にその座を奪われるだけでなく、中国からのASEAN向け輸 出攻勢を直接受けることとなった。その結果、ASEAN は世界や域内の市場シェアを低下させ、
全要素生産性が低下する状況に陥ってしまったと考えられる。
(2)全要素生産性伸び率の推移について
次に、全要素生産性の伸び率について計算した。1977~2006 年までの期間全体の伸び率に加 えて、1977~85年、1986~1995年、1996~2005年と期間を3分したそれぞれの伸び率につい ても計算している。
香港の1977~2003年の年平均伸び率は製造業全体で年率2.3%となり、伸び率の業種間のばら
つきの幅は 0.2%(非鉄金属)~4.6%(電気・情報通信)となっている。期間別分析を見ると、
製造業全体では1986~95年までの年平均伸び率が一番高く、5.6%となっている。業種別に見て
も1986~95年までの伸び率が一番高いものが多い。
韓国の場合、全期間の製造業全体の年平均伸び率は年率2.5%、伸び率の業種間のばらつきの幅
は 0.6%(食品・飲料・タバコ)~4.2%(電気・情報通信)となった。期間別分析では、製造業
全体は香港同様に1986~95年までの年平均伸び率が一番高い(4.8%)。業種別に見ると、17業 種中、15業種が1986~95年までの年平均伸び率が他の期間と比べて高くなっている。
シンガポールの全期間の製造業全体の年平均伸び率は2.0%となり、伸び率の業種間のばらつき の幅は▲1.1%(窯業・土石)~7.6%(非鉄金属)となった。ただし、期間別分析では、製造業 全体で見ると、1977~85年までの年平均伸び率が一番高い結果となり(3.3%)、その後低下する など、香港や韓国とは異なった動きを示している。業種別に見ても過半数の業種が 1977~85 年 までの同伸び率が一番高い。
タイの場合、1977~98年までの製造業全体の年平均伸び率は0.4%となり、伸び率の業種間の ばらつきの幅は▲2.4%(木材・家具)~44.2%(医薬品他)となっている。期間別分析を見ると、
1986~95年までの年平均伸び率が1.8%と他の二期間と比べて高い。業種別に見ると、17業種中、
13業種が1986~95年の同伸び率が高い結果となっている。
マレーシアの全期間の製造業全体の年平均伸び率は 0.2%と計測した 7 カ国・地域の中で一番 低い結果となった。伸び率の業種間のばらつきの幅は▲1.0%(食品・飲料・タバコ)~石油化学・
同製品(8.6%)となった。期間別分析では製造業全体の場合、1977~85 年までの年平均伸び率
が1.2%と一番高く、その後は低下している。業種別に見ても過半数の業種が1977~85年までの
同伸び率が一番高い。
インドネシアの場合、全期間の製造業全体の年平均伸び率は 1.7%と ASEAN の中では一番高 い。伸び率の業種間のばらつきの幅は▲3.0%(窯業・土石)~17.6%(石油化学・同製品)とな っている。期間別分析を見ると、製造業全体では1986~95年、1996~2006年の年平均伸び率が