MBh第12巻203章22において説かれる、世界創造説は、構成原理を8種の根本原因と 16種の変異に分けるものである。この説はMBhの他の箇所や、他の書にも説かれる23。 あげている原理はSKと非常に類似したものであるが、展開の順序やその数など、大きく 異なる。本節では、この 8種の根本原因と16種の変異の説について、詳細に説かれた第 203章を取り上げ、考察する。
第 2.1 節 8 種の根本原因
まず、25abでは、次のように説かれる。
19[Frauwallner 1973: p. 235]
20[中村1982: pp. 164-166]
211箇所プラクリティがあるが、原理の系列として説かれていない。
22第203–210章は、Bh¯ıs.maがYudhis.t.hiraに教示した、弟子と師匠の解脱に関する対話。冒頭で「内なる アートマン」(adhy¯atma)を説くことを目的としているが、その前の文においてのYudhis.t.hiraの問いにあ るように、全体的な内容は解脱のためのヨーガを説く章ととらえた方が良いであろう。
23MBh 12.203; 291; 298、CS 4.1、BC 12などにおいてである。
avyaktakarmaj¯a buddhir aham. k¯aram. pras¯uyate/MBh 12.203.25ab
未顕現(avyakta)の行為によって生じたブッディがアハンカーラを生み出す。
このように、未顕現からブッディが生み出され、ブッディからアハンカーラを生み出すこ とが説かれている。
さらに続いて、次のように説かれる。
¯ak¯a´sam. c¯apy aham. k¯ar¯ad v¯ayur ¯ak¯a´sasambhavah.//MBh 12.203.25cd
そしてまた、アハンカーラから虚空が生じ、風は虚空から生じるものである。
v¯ayos tejas tata´s c¯apas tv adbhyo hi vasudhodgat¯a/MBh 12.203.26ab 風から火が、そしてそれ(火)から水が、また水から地が生じる。
アハンカーラの次に生み出されるのは5粗大元素であるが、それには順序があり、アハン カーラから虚空が生み出され、虚空から風が生み出され、風から火が生み出され、火から 水が生み出され、そして、水から地が生み出されるとされる。
m¯ulaprakr.tayo ’s.t.au t¯a jagad et¯asv avasthitam//MBh 12.203.26cd
ムーラプラクリティ(根本原因)はそれら8種である。これらの中に世界は存在し ている。
このように、未顕現(avyakta)、ブッディ(buddhi)、アハンカーラ(aham. k¯ara)、虚空
(¯ak¯a´sa)、風(v¯ayu)、火(tejas)、水(¯apas)、地(vasudh¯a)の8つを根本原因として想定 していた。
第 2.2 節 16 種の変異
次に、16の変異として想定されていたものとして、次のように説かれる。
jñ¯anendriy¯an.y atah. pañca pañca karmendriy¯an.y api/
vis.ay¯ah. pañca caikam. ca vik¯are s.od.a´sam. manah.//MBh 12.203.27
また、知覚器官は5種であり、行為器官も5種である。そして、対象は5種であ り、さらに、変異したもの(vik¯ara)における第16番目に、マナスが1種ある。
つまり、5知覚器官・5行為器官・5つの対象・マナスの合計16をあげる。また、こ16種 の変異は、アートマンに仕えるものでありながら、神格とも言われる。
vidy¯at tu s.od.a´sait¯ani daivat¯ani vibh¯aga´sah./
dehes.u jñ¯anakart¯aram up¯as¯ınam up¯asate//MBh 12.203.31
そして、これら16の神格は、個々に、諸々の身体に付随する認識する者(認識を 司る者、認識主体=アートマン)に仕えている、と知るべし。
さて、それら16種の変異の詳細については、27偈から28偈において説かれる。
´srotram. tvak caks.us.¯ı jihv¯a ghr¯an.am. pañcendriy¯an.y api/
p¯adau p¯ayur upastha´s ca hastau v¯ak karman.¯am api//MBh 12.203.28
´sabdah. spar´so ’tha r¯upam. ca raso gandhas tathaiva ca/MBh 12.203.29ab
耳、皮膚、目、舌、鼻が5種の感覚器官であり、そして、両足、肛門、生殖器、両 手、発声器官が行為の〔器官〕である。そして、音声、接触、色、味、そして香り
〔が対象〕である。
5知覚器官は耳・皮膚・目・舌・鼻であり、5行為器官は両足・肛門・生殖器・両手・発声 器官であり、5つの対象は音声・接触・色・味・香りである。
次の29cdには、マナスの機能として、次のように説かれる。
vijñeyam. vy¯apakam. cittam. tes.u sarvagatam. manah.//MBh 12.203.29cd
それらにおいて、遍在する心(citta)は行き渡るマナスであると理解すべし24。 マナスは、他の10に遍在するということであろう。また、次のようにも説かれる。
rasajñ¯ane tu jihveyam. vy¯ahr.te v¯ak tathaiva ca/
indriyair vividhair yuktam sarvam. vyastam. manas tath¯a//MBh 12.203.30
さて、味の知覚においてこの舌(味覚)になる。そして同様に、話すときには発声 器官になる25。そのように、多様なインドリヤ(感覚器官)と結びついたマナスは 全てに広がるものである。
何がインドリヤになるのかは分からないが、マナスはインドリヤと結びついて活動するこ とは明らかである。いずれにせよ、マナスは、身体に遍在するものと考えられていたよう である。ここだけでは判断できないが、古典サーンキヤ思想でのインドリヤとアハンカー ラをつなげるマナスと同じ機能が想定されていたのかもしれない。
マナスは SK においては、サットヴァ性のヴァイクリタ・アハンカーラから開展す る26が、ここでも同様にサットヴァ性のものであることが説かれる。それは次の通りで ある。
24対象にまでマナスは行き渡る。さらに、マナス=チッタと考えられている。
25187章でのバイテネンの説を考えれば、ブッディが舌になり、発生期間になるということか。
26「『ヴァイクリタ・アハンカーラ』(vaikr.ta-aha˙nk¯ara)から、サットヴァ性の11から成るものが開展する。
『ブーターディ〔・アハンカーラ〕』(bh¯ut¯adi-aha˙nk¯ara)から、タマス性の微細要素が〔開展する〕。『タイ ジャサ〔・アハンカーラ〕』(taijasa-aha˙nk¯ara)から、両者が〔開展する〕。」(SK 25)
manah. sattvagun.am. pr¯ahuh. sattvam avyaktajam. tath¯a/
sarvabh¯ut¯atmabh¯utastham. tasm¯ad budhyeta buddhim¯an//MBh 12.203.33
マナスはサットヴァのグナ(属性)であると言われる。さらに、サットヴァは未顕
現(avyakta)から生じたものである。それ故に、ブッディを持つ者(buddhim¯an、
理性ある人)は、〔マナスは〕あらゆる存在物(一切生類)の本質として存在して いる、と理解すべし。
マナスはサットヴァのグナ(属性)であることが言明されている。さらに、あらゆる存在 物(一切生類)の本質として存在していることから、先にも見たように、ここでも、マナ スの遍在性が説かれている。ここで、サットヴァは未顕現から生じたものとされているの は、興味深い。SKでは未顕現すなわちプラクリティは3種のグナの均衡状態とされてい るが、ここでは、未顕現から生まれるとされ、大きく異なるものである。しかし、その他 に説明はなく、ブッディやアハンカーラなど、その他の原理との対応は不明瞭である。
第 2.3 節 粗大元素と知覚器官・対象の対応
5粗大元素と知覚器官・対象の対応が説かれている箇所があるが、その対応の仕方には 不明な点が多い。
tadvat somagun.¯a jihv¯a gandhas tu pr.thiv¯ıgun.ah./
´srotram. ´sabdagun.am. caiva caks.ur agner gun.as tath¯a/
spar´sam. v¯ayugun.am vidy¯at sarvabh¯utes.u sarvad¯a//MBh 12.203.32
同様に、全ての存在物において、舌(味覚)は水〔元素〕のグナ(属性)であり、ま た、香りは地〔元素〕のグナ(属性)である。耳(聴覚)は音声のグナ(属性)で あり、そしてまた、目(視覚)は火〔元素〕のグナ(属性)である。さらに、接触 は風〔元素〕のグナ(属性)である、と常に知るべし。
これらの対応関係をまとめると次のようになる。
• 舌(味覚) — 水〔元素〕のグナ(属性)
• 香り — 地〔元素〕のグナ(属性)
• 耳(聴覚) — 音声のグナ(属性)
• 目(視覚) — 火〔元素〕のグナ(属性)
• 接触 — 風〔元素〕のグナ(属性)
粗大元素が根本原因であり、知覚器官およびその対象は変異であるから、粗大元素のそれ ぞれから知覚器官とその対象が生み出されると考えられる。しかし、語句が統一されてお
らず、順番もばらばらである。“´srotram. ´sabdagun.am”「耳は音声の性質であり」となって おり、虚空の代わりに知覚器官の対象である音声があげられている。また、地と風のグナ
(属性)の箇所でも、知覚器官の代わりに香りと接触という知覚器官の対象があげられて いる。さらに、25偈と26偈であげられた粗大元素と語句が若干異なる。水の粗大元素は
“¯apas”から“soma”に変わり、“tejas”は“agni”に置き換わっている。これらの対応関係
を補い、展開の順序にそって整理すると、図表8の通りである。
5 mahābhūtāni 5 buddhīndriyāṇi 5 viṣāyaḥ
ākāśa śrotra śabda
(虚空の粗大元素) (耳、聴覚) (音声)
vāyu tvac sparśa
(風の粗大元素) (皮膚、触覚) (接触)
agni cakṣus rūpa
(火の粗大元素) (目、視覚) (色)
soma jihvā rasa
(水の粗大元素) (舌、味覚) (味)
pṛthivī ghrāṇa gandha
(地の粗大元素) (鼻、嗅覚) (香り)
(太字のイタリックおよび斜体は、原文にないもの)
(5粗大元素) (5知覚器官) (5知覚器官の対象)
図表8 MBh 12.203における粗大元素と知覚器官・対象の対応
第 2.4 節 小結
以上のように、ここでは、8種の根本原因と 16種の変異の説が見られる。8根本原因 は、プラクリティ→ブッディ→アハンカーラ→虚空→風→火→水→地という順序を考え ることができる。さらに、5種の知覚器官(耳・皮膚・目・舌・鼻)、5種の行為器官(両 足・肛門・生殖器・両手・発声器官)、5種の対象(音声、接触、色、味、香り)、マナス、
これらが 16の変異である。つまり、世界の原理を8根本原因と16変異に分ているので ある。しかし、この2者の関係は、はっきりしない。根本原質とその変異という関係なの で、8根本原質から16変異が展開するということが想定されているのであろうが、何が どこから生み出されるのかまでは分からない。対応関係を補って考えると、水→舌・味、
地→鼻・香り、虚空→耳・音声、火→目・色形、風→皮膚・接触となる。おそらくは、5粗
大元素からそれに対応する、5知覚器官とその対象が生み出されるとも想定できるが、こ の箇所は不鮮明であり、決定できない。また、5種の行為器官については記述がなく、ど こから生み出されるかは分からない。マナスは、サットヴァ性の未開展のものから、生み 出されるとされるが、サットヴァと原理の関係は不明である。
以上、まとめると図9のように想定できる。