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第 8 章

8.5 IGZO-TFT の光信頼性評価

8.5.3. IGZO-TFT の光信頼性結果

次に、ITZO-TFT と同様に光照射有無ならびに照射波長の影響を考慮した信頼性評価を 行った。図8.20に信頼性評価の手順を示す。ゲート電圧Vgs= -20V、Vds=0Vとして、室温

で積算10,000秒のストレスを印加した。ゲート電圧ストレス印加時にそれぞれ異なる波長(λ=

460, 530, 630nm)の光を照射した。伝達特性は光照射下のストレス印加を中断し、暗状態 にてVds=0.1Vを、次にVds=10.1Vという順番で、Vgs=-10〜20Vの範囲において測定し、

その特性変化を評価した。

図8.21にIGZO-TFTの光信頼性(Negative bias illumination stress、NBIS)の結 果を示す。暗状態 (Dark)で測定した伝達特性の変化も示している(図 8.21(a)、(e))。

Darkの場合はVds=0.1V、Vds=10.1V共にしきい値電圧のシフトは少ない。光照射の波長

が630nmではしきい値電圧の負シフトが発生し、530nmでは負シフトの傾向が小さくなってい

る。460nm の時に Vds=0.1V では伝達特性曲線に ON 電流が低下する形での変形が、

Vds=10.1V では正方向に立ち上がり電圧がシフトしており、ITZO-TFT と同様な現象が生じ

ている。

NBIS

Vds=0.1V Vgs= -10~20V Vds=10.1V Vgs= -10~20V

測定 暗状態

ストレス 印加

Vgs= -20V 印加

光照射

Time counts

初期 10000秒までの繰り返し 最後

Vds=0.1V Vgs= -10~20V Vds=10.1V Vgs= -10~20V

測定 暗状態

Vds=0.1V Vgs= -10~20V Vds=10.1V Vgs= -10~20V

測定 暗状態

図8.20 IGZO-TFTの光信頼性評価(NBIS)の流れ

照射波長 λ=460,530,630nm

145

次にTFTパラメータ変化の時間依存性を調べた。光照射波長が460nm、Vds=0.1Vの場

合は Ids=100pA 前後から伝達特性が変化しているために、パラメータを前節と同じく、次の様

に定義した。しきい値電圧を 2 種類とし、Vg1 として Ids=10pA の Vgs の値を、Vg2 として Ids=1nAの値を定義した。さらにS値は、SS1は1〜10pAの値、SS2は1〜10nAの値で それぞれ計算した。図 8.22 に移動度μ変化率、図 8.23 に S 値(SS1,SS2)の変化を、図 8.24にしきい値電圧の変化(ΔVg1,ΔVg2)を示す。

1.E-14 1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02

-10 -5 0 5 10 15 20

Ids(A)

Vgs(V)

1.E-14 1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02

-10 -5 0 5 10 15 20

Ids(A)

Vgs(V) 1.E-14 1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02

-10 -5 0 5 10 15 20

Ids(A)

Vgs(V)

initial 100s 1000s 5000s 10000s

1.E-14 1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02

-10 -5 0 5 10 15 20

Ids(A)

Vgs(V)

initial 100s 1000s 5000s 10000s

1.E-14 1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02

-10 -5 0 5 10 15 20

Ids(A)

Vgs(V)

1.E-14 1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02

-10 -5 0 5 10 15 20

Ids(A)

Vgs(V) 1.E-14 1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02

-10 -5 0 5 10 15 20

Ids(A)

Vgs(V)

1.E-14 1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02

-10 -5 0 5 10 15 20

Ids(A)

Vgs(V) 10-12

10-10 10-8 10-6 10-2 10-4

Ids(A)

10-14

10-12 10-10 10-8 10-6 10-2 10-4

Ids(A)

10-14

Dark 630nm 530nm 460nm

(a)Vds=0.1V (b) Vds=0.1V (c) Vds=0.1V (d) Vds=0.1V

Dark 630nm 530nm 460nm

(e) Vds=10.1V (f) Vds=10.1V (g) Vds=10.1V (h) Vds=10.1V

図8.21 IGZO-TFTの光信頼性評価(NBIS)の結果(Vgs=-20V)

146

図8.22 IGZO-TFTの光信頼性評価(NBIS)の結果(Vgs=-20V) 移動度μ変化率 (a)Vds=0.1V、(b)Vds=10.1V 0.2

0.6 1.0 1.4 1.8

1.E+00 1.E+01 1.E+02 1.E+03 1.E+04

μ変化率

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=0.1V

0.2 0.6 1.0 1.4 1.8

1.E+00 1.E+01 1.E+02 1.E+03 1.E+04

μ変化率

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=10.1V

100 101 102 103 104 100 101 102 103 104

(a) (b)

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

1.E+00 1.E+01 1.E+02 1.E+03 1.E+04

SS1(V/dec.)

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=0.1V

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

1.E+00 1.E+01 1.E+02 1.E+03 1.E+04

SS2(V/dec.)

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=0.1V

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

1.E+00 1.E+01 1.E+02 1.E+03 1.E+04

SS1(V/dec.)

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=10.1V

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

1.E+00 1.E+01 1.E+02 1.E+03 1.E+04

SS2(V/dec.)

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=10.1V

100 101 102 103 104 100 101 102 103 104

(a) (b)

(c) (d)

図8.23 IGZO-TFTの光信頼性評価(NBIS)の結果(Vgs=-20V) S値(SS1、SS2)の変化 (a)(b)Vds=0.1V、(c)(d)Vds=10.1V

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まず、Vds=0.1Vの場合の伝達特性変化について述べる。図8.22によれば、波長460nmの 場合には移動度μ変化率は1,000sを越えた時から、大きく低下していく傾向にあるが、その他 の波長では移動度μの変化率は小さい。図 8.23 では波長 460nm の場合のみ、SS1 は

3000s を越えた時から、SS2は 100s を越えた時から値が大きくなり、劣化傾向が見られる。こ

れは、捕獲準位(欠陥準位)が形成されたことを示唆している。図 8.24 に示したしきい値電圧 の変化は、ΔVg1とΔVg2共に波長630nm では負の方向にシフトしており、これが530nm で は負シフトの変化が小さくなっている。波長460nmではΔVg1では1,000sを越えた時から負か ら正方向に、ΔVg2では500sを越えた時から正方向に大きくシフトしている。

次に、Vds=10.1Vの場合の伝達特性変化について述べる。図8.22より、波長460nmの 場合には移動度μ変化率は 3,000s を越えた時から大きく低下していく傾向にある。その他の 波長では、移動度μの変化率は小さい。図 8.23 では SS1、SS2 共に大きな変化はしていな い。これは、Vds=10.1V の伝達特性の立ち上がりがチャージトラップ(電荷捕獲)起因によって

-3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

1 10 100 1000 10000

ΔVg1@10pA

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=0.1V

-3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

1 10 100 1000 10000

ΔVg2@1nA

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=0.1V

-3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

1 10 100 1000 10000

ΔVg1@10pA

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=10.1V

-3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

1 10 100 1000 10000

ΔVg2@1nA

Stress time(s)

Dark 630nm

530nm 460nm

Vds=10.1V

100 101 102 103 104 100 101 102 103 104

(a) (b)

(c) (d)

図8.24 IGZO-TFTの光信頼性評価(NBIS)の結果(Vgs=-20V)

しきい値電圧の変化(ΔVg1、ΔVg2) (a)(b)Vds=0.1V、(c)(d)Vds=10.1V

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平行に負または正にシフトしていることを示唆している。図8.24 に示したしきい値電圧の変化は、

ΔVg1とΔVg2共に波長630nmでは負の方向にシフトしており、これが530nmでは負シフトの 変化が小さくなっており、また1000sを越えるとほぼ一定である。波長460nmの場合では、しき い値電圧シフトのΔVg1とΔVg2は460nmでは100sを越えたときから正方向にシフトしている。

これらの結果から、伝達特性変化の劣化メカニズムを推定する。

Vds=0.1Vの場合は、波長460nmにおいては伝達特性曲線が変形し、ON電流が低下し

ている。この場合のメカニズムは図8.18に示した劣化メカニズムと同様に、光照射によりアクセプ タ型の捕獲準位が生成したと推定される。

Vds=10.1V の場合は、しきい値電圧が正にシフトしている。この場合のメカニズムは図 8.18

に示したメカニズムと同様、Vds=10.1V の測定の際にはアクセプタ型の捕獲準位のエネルギー レベルがフェルミ準位より下に安定化することにより発生すると推定される。

波長530nmの場合は、Vds=0.1V、10.1V共に波長630nmと比較して変化は小さいが、

しきい値電圧が負にシフトしている。これは、波長 530nm の光照射下では 460nm の場合と 異なり、伝導帯近傍に生成されるアクセプタ型捕獲準位による影響が小さく、図 8.5 で示した 電子トラップ(捕獲準位)と推定される酸素欠損(Vo)の影響により、負シフトしていると思われる。

波長が 630nm から 530nm、460nm とフォトンエネルギーが高くなるとサブギャップ準位である 酸素欠損(Vo)の影響よりも 1000s 以上の長いスパンでの光照射で発生したアクセプタ型捕獲 準位の影響が大きくなり、Vds=0.1V では伝達特性曲線が変形して ON 電流が低下し、

Vds=10.1Vでは伝達特性曲線が平行に負方向から正方向にしていると思われる。

現在までのIGZO-TFTの光信頼性(Negative bias illumination stress、NBIS)の報 告では、8.2節で述べたように光励起により発生した正電荷がゲート絶縁膜との界面で捕獲(ト ラップ)されることにより、負の方向に伝達特性が平行に移動することが知られている。今回の結 果では図8.18で示したようにフォトンエネルギーが高い、波長が460nmでの光照射が1,000s 以上になると伝導帯近傍にアクセプタ型の捕獲準位が生成し、また一定時間後にアクセプタ型 の捕獲準位のエネルギーレベルがフェルミ準位より下に安定化し、また光照射後にエネルギーレ ベルがフェルミ準位より上になると推定される。この現象は現在までは報告されておらず、前節の

ITZO-TFT でも同様な現象が発生しているために活性層材料の影響は小さくプロセス条件が

主な原因であると推定される。今後の課題としては、ITZO-TFTとIGZO-TFTの両方で発生 した伝達特性変化の原因を探るために、プロセス条件をより検討する必要がある。

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