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第 2 章

2.3 CIGS 薄膜太陽電池の構造と動作原理

2.3.1 太陽電池の構造と基本性能パラメータ

太陽電池は太陽光スペクトルを吸収して価電子帯から伝導帯へ電子を励起し電子-正孔対

(過剰キャリア)を発生させ、電力として外に取り出すことが動作の基本である。図2.6に太陽電 池の基本構造、図 2.7 に暗状態、ならびに光照射下の電流-電圧(I-V)特性を示したもので ある。太陽電池はダイオードから構成されるために暗状態(光を照射しない状態)では電流-電 圧(I-V)特性は図 2.7(a)の①に示した曲線となる。この太陽電池に光を照射すると、光による 生成電流が逆方向に流れるために、図 2.7(a)の②のような曲線を描く。しかし、太陽電池の性 能を論じるときには、図2.7(a)の第Ⅳ象限に描かれた曲線を図2.7(b)に示すように第1象限に 描くのが一般的である。

図2.7(b)で示しているように太陽電池の性能は一般に以下のような特性で示される。

 開放端電圧Voc(open circuit voltage):出力端子を開放した場合に発生した電圧(電 流が0の時の電圧)

 短絡光電流 Isc(short circuit photo-current density):出力端子に負荷をかけずに 短絡した状態で流れる電流密度または電流(電圧が0の時の電流)

 変換効率 η(または Eff)(energy conversion efficiency):入射光のエネルギー Pin(mW/cm2)に対する最大出力 Vop×Iop の割合で定義される。Iop、Vop は最適動 作点における電流、電圧であり、受光面積 S(cm2)とすると、次式で変換効率は表され る。

(2-1)

 曲線因子 FF(curve fill-factor):Voc×IscとVop×Iopの面積比を示し、次式で定義 される。

(2-2) (%)

100

 

S P

I V

in op

op

sc oc

op op

I V

I FF V

 

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実際の太陽電池の公称効率測定には、あらかじめ自然太陽光スペクトルを模擬したソーラ シュミレータを用い、その出力パワーが地上用太陽電池では AM-1.5、100mW/cm2に設定し て測定を行う。入射光のエネルギーを 100mW/cm となるように測定した場合、式(2.1)は次の 様に表すことができる。

(2-3)

ただし、JscはIscを面積Sで割った単位面積当たりの短絡光電流密度である。よって測定

によって Voc、Jsc、FF がわかれば、そのすべての積が変換効率ηを与えることになり、これらの

値によって太陽電池の基本性能を議論することができる。

図2.7の電流-電圧(I-V)特性の曲線を式で表すと

光エネルギー

-電極

+電極

n型半導体

p型半導体

図2.6 一般的な太陽電池の構造

暗電流①

光照射下② 電圧

VOC VOP ISC

IOP

Pmax=VOP×IOP

図2.7 太陽電池の電流-電圧特性

電圧

(a) (b)

FF J

Vocsc



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(2-4) (2-5)

となる式で記述される(Voc は I=0 の場合に対応)。J0は逆飽和電流密度、n はダイオード因 子、qは電荷素量、Vは電圧、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。現実的には抵抗成 分を考慮して、太陽電池の性能を記述すると図2.8の等価回路と式(2-6)で表される10)。 (2-6)

Rsは発生した電流を端子に集める時に生じる直列抵抗(シリーズ抵抗)であり、Rshは pn接 合の漏れ電流に起因する並列抵抗(シャント抵抗)である。短絡光電流密度Jscは太陽電池 において光を取り込む窓層と pn接合部の構造で決まり、特に窓層と光吸収層のバンドギャップ と光吸収係数に大きく影響を受ける。

開放端電圧Vocは主に光吸収層のバンドギャップとpn接合部を含む空乏層付近での再結 合や裏面電極界面での再結合のメカニズムに支配される量である。特に式(2-5)に示したように 逆飽和電流密度 J0に影響を受けるために、キャリアの拡散長や寿命に敏感な量である。直列 抵抗Rs はpn 接合の両側に存在する抵抗に相当し、特に表面や裏面の電極膜の抵抗が大 きく関与する。並列抵抗Rshは接合の不完全性、例えばピンホールなどが関与してFFに影響 を与える。直列抵抗Rsや並列抵抗Rshなどの抵抗の影響を除けば、FFはダイオード因子n 値と大きく左右される。またn値はpn接合部近傍での再結合に大きく影響される。太陽電池 の変換効率測定における電流-電圧データから、等価回路の式(2-6)に当てはめることで特性の 大小の原因を推定すること、特に電圧や電流などの損失原因を推定することが可能である。



 

 



 

 





 

 

 

1 ln

1 exp

0 0

J J q

kT V n

nkT J qV

Jsc I

sc oc

 

Rsh RsI V nkT

RsI V J q

Jsc

I  

 

 





 

0 exp 1

Isc

Vd

Rs

Rsh Id

I

V

図2.8 太陽電池セルの等価回路

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2.3.2 CIGS薄膜太陽電池の構造と製造方法

図 2.9 に本研究に用いた CIGS 薄膜太陽電池の構造を示す。太陽電池の構造は ITO/ZnO/CdS/CIGS/Mo/Glassである。表2.3にCIGS薄膜太陽電池の構造と、それぞれ の膜の作製方法を示している。基板にはソーダライムガラス(SLG)を用い、裏面電極(下部電 極)は Mo 膜を RF スパッタリングまたは DC スパッタリングにより形成した。スパッタ圧は 8mTorr(=1.07Pa)、電力400Wで膜厚0.4~0.8μmである。Mo膜の上に多元蒸着法を 用いて光吸収層であるp形のCu(In,Ga)Se2(CIGS)膜を約2μm形成する。CIGS膜の形 成方法については2.4 節で詳細を述べる。CIGS薄膜形成後に表面硫化処理とアニールをお こなった。表面硫化処理とアニールの目的は CIGS の極表面に CIGS より価電子帯レベルが

低い Cu(In,Ga)S2 層が形成することでヘテロ接合界面での再結合の低減を図ることである。

表面硫化処理については第5章で詳細に記載している。バッファー層のCdS膜は化学析出法 (Chemical Bath Deposition)により形成している11)。CdS膜の溶液成長は塩化カドミニウム を含むアルカリ溶液中でチオ尿素が分解することにより起こる。形成温度 80℃で膜厚は60nm である。

Cu(In,Ga)Se2 ZnO

ITO

CdS

Glass Mo Au/NiCr

図2.9 CIGS薄膜太陽電池の構造

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CdS膜は n 型層として p 型 CIGSに対して用いられてきたが、その後の研究でCdS 膜を 形成する際に CIGS表面が n 型化されることが報告されている 12)。窓層には高抵抗の ZnO 膜 を RF ス パ ッ タ リ ン グ に よ っ て 、RF 出 力 400W、Ar ガ ス 雰 囲 気 で の ス パ ッ タ 圧 20mTorr(=2.67Pa)として膜厚0.1μmで形成した。CdS膜を厚く形成すればピンホールが少 なくなりシャントは低減するが、膜厚増加によるCIGS膜への透過光は減少するためにCdS膜 (Eg=2.4eV)よりバンドギャップが大きく高抵抗 ZnO 膜(Eg=3.2eV)を組み合わすことで、広い 波長範囲での光吸収を行う窓として役割とシャント低減を両立させている。透明電極には ITO(Indium Tin Oxide)膜をRFスパッタリングにより、出力400W、Arガス雰囲気でのスパ

ッタ圧 4mTorr(=0.53Pa)で膜厚 0.15μm で形成した。透明電極に要求されるのは高透過

率と低抵抗であり、BやAlをドープしたZnOを用いている研究機関もある。測定用の取り出し

電極はNiCrを50nm、Auを300nm、電子ビーム蒸着法で形成する。図中では省略したが、

さらに反射防止膜を堆積する場合はMgF2を120nm、電子ビーム蒸着法で形成する。

2.3.3 CIGS薄膜太陽電池の接合のバンドモデルと動作原理

図2.10にITO/ZnO/CdS/CIGSヘテロ接合の基本的なエネルギーバンド構造を示す13)。こ こでZnO、n形CdS、p形CIGSのバンドギャップは3.2eV、2.4eV、1.04~1.68eVである。

ΔEcはCIGS/CdS界面の伝導帯バンドオフセット(コンダクションオフセット)を表す。ΔEcは光 励起した電子のバリアとして働くが、シミュレーションの結果によれば、ΔEcが0.4eV以下であれ ばセル特性に影響しないことがわかっている 14-15)。ΔEv は価電子帯バンドオフセットを表し、

-0.8eVの値が報告されている16)。バンドギャップが1.04eVのCuInSe2では、ΔEcは0.3eV 程度17)であるが、Cu(In1-XGaX)Se2のGa濃度を増加し、バンドギャップを拡大すると、価電子

構成要素 材料 作製方法

反射防止膜 MgF2(120nm) EB蒸着法 グリッド電極 Au/NiCr(300nm/50nm) EB蒸着法 透明電極層 ITO(150nm) スパッタ法

窓層 ZnO(100nm) スパッタ法

バッファ層 CdS(60nm) 化学析出法 光吸収層 CIGS(2μ m) 多元蒸着法 裏面電極 Mo(400~800nm) スパッタ法

基板 ソーダライムガラス -

表2.3 CIGS薄膜太陽電池の構造と作製方法

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帯のバンドオフセットは変化せずに、伝導帯のバンドオフセットΔEcが正から負にかわる。ITO側 からの光入射によって p-CIGS で生成された電子-正孔対は、接合の内蔵電界によって分離 され、電極に起電力が発生して外部に電流として取り出される。この際に一部途中で再結合 す る 光 励 起 キ ャ リ ア が あ る 。 再 結 合 は 基 本 的 に は バ ル ク 内(A)、 空 乏 層 内(B)、 お よ び CdS/CIGS界面(C)で発生する18)。開放端電圧Vocは理論的にはこのような再結合の過程 で左右される。高効率化のためにはこのキャリア再結合をいかに減少させることが重要である。

化学析出法(CBD)で作成されたCBD-CdS膜は作成性の際にCdイオンがCIGS膜中に拡 散しCuと置換するため、CIGS表面がn形化し、pn接合がCdS/CIGS界面に形成される のではなく、ヘテロ界面からやや内側のCIGSでpnホモ接合化していると考えられている12)。こ のために、CdS/CIGSヘテロ界面での欠陥準位の影響が少なくなっている。