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第 3 章

3.2 CIGS 薄膜太陽電池の高効率化

第 2 章で述べたように太陽電池の基本性能パラメータは短絡電流 Isc、開放端電圧 Voc、

曲線因子FFおよびこの3つを掛け合わせた変換効率Effで示される。太陽電池の高効率化 は理論的な限界に実際の性能がいかに近づくかがが求められる。

図 3.1 は禁制帯幅(バンドギャップ)よりも高エネルギーのフォトンが全て吸収され、光電流とし て寄与すると考えた場合の短絡電流密度5)を示している。同図には各材料での短絡電流の実 測値も示されている。

さらに図3.2 に禁制帯幅(バンドギャップ、Eg)と開放端電圧の関係1)を示している。一般的 には、禁制帯幅が大きいほど開放端電圧は高くなる。単結晶を用いた太陽電池では図 3.2 に 示すように禁制帯幅(eV)から 0.4 を引いた程度の開放端電圧(V)になっている。CdTe や CIGSなどの多結晶薄膜では、禁制帯幅から0.5eVあるいは0.6eVを引いた程度の値となっ ている。これは、多結晶ではもともと単結晶ほど膜質が優れないこと、結晶粒界などで再結合が 発生しやすく暗電流が流れる要因が多いためと推定されている。

図3.1 短絡電流の理論的限界と実測値

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図3.3は、実測された開放端電圧と曲線因子FFの関係1)を示したものである。実線は、

直列抵抗やシャント抵抗などの影響を無視して、ダイオード因子nから予測される曲線因子を 図3.2 バンドギャップ(禁制帯幅)と開放端電圧

図3.3 開放端電圧と曲線因子の関係

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開放端電圧の関数として計算したものである。理論的には、開放電圧が大きいほど、曲線因 子は大きくなるとされている。単結晶系では、n=1.1~1.3と報告されている。

CIGS薄膜太陽電池の場合、図3.2から短絡電流密度は理論値に近い値まで達成されてい る。しかし、開放端電圧Vocは単結晶系に比較して禁制帯幅から0.5eV以上、引いた程度の 値となっている。そのために、いかに開放端電圧を禁制帯幅から0.4eVまで上げることができるか が高効率化には重要である。また曲線因子 FF ではダイオード特性因子n と密接な関係があ るとされており、単結晶系と比較して大きいn=1.4をいかに下げることが曲線因子FFの向上の ためには重要である。CIGS薄膜太陽電池の高効率化はこれらの2つのパラメータをどれだけ向 上させられるかという課題に取り組むことである。

開放端電圧 Voc の電圧損出の主な要因として、キャリア再結合が挙げられる。図 3.4 は

ZnO/CdS/CIGSヘテロ接合太陽電池のキャリア再結合の過程6)を示す。太陽光入射によって

発生した電子-正孔対は、接合内の内蔵電界によって分離され外部に電流として取り出され るが、一部は途中で再結合する光励起キャリアがある。この再結合が電圧損出の主な要因で ある。再結合は(A)バルク内での再結合、(B)空乏層内での再結合、(C)接合界面での再結合、

の3つに分けられ、それぞれの再結合を低減することが電圧の改善になる。また曲線因子FFの 損出要因としては同じく、(C)接合界面での再結合が上げられる。これらのキャリア再結合を低 減することが高効率化の重要な問題である。さらに高効率化の研究開発を支える評価は電圧 や曲線因子の損出原因であるキャリア再結合を、バルクや空乏層および接合界面で定量的に 評価できる技術として確立することが重要である。

図3.4 ZnO/CdS/CIGSヘテロ接合太陽電池のキャリア再結合過程

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