補論 2. 廃棄債務と偶発事象の会計
2.2. IASB における偶発事象会計
2.1.4. 資産除去債務の当初認識と測定
企業は債務除去債務の発生時に<借方:関係長期資産 貸方:資産除去負債>として,当 初認識時に両建て計上することを義務付けている.その計上金額は負債の時価による.
時価はその負債が取引意思のある当事者間で,現在の取引において決済される金額である.
活発な市場がある場合には,上場市場価値が時価の最善の証拠であるが,市場価値が利用で きない場合には,類似の負債についての価値や現在価値技法によって算定される.現在価値 技法は,負債の時価を見積もるためには多くの場合,利用可能な最善の技法である.SFAS 第143号は資産除去債務については「期待キャッシュ・フロー・アプローチ(期待現在価値法) が通常唯一妥当な技法」であるとしている.
資産除去債務についての負債の時価を,期待現在価値法を用いて見積もるにあたって,企 業は義務付けられる除却活動を遂行するためのコストとタイミングに対して,市場の査定を 反映するキャッシュ・フローの見積から始め,可能な限り以下のすべての項目について,開 発された具体的で明示的な過程を含む必要がある.
(a) 当該資産の除去に必要な作業を遂行するにあたって,第三者の被るであろうコスト.
(b) たとえば,インフレーション,間接費,設備費,利益マージンおよび技術の進歩等 を含めて,第三者が履行価格を決定するにあたって含めるであろう(a)項以外の金 額.
(c) 将来の異なる展開のもとで,第三者のコスト金額,あるいはそのコストの発生時期 に変化が生ずるであろう程度,およびその展開の相対的可能性.
(d) その負債に付随する不確実性および予測できない状況を負担することに対して,第 三者が要求し,受け取ると予想される価格.
資産除去費用の資産化後,企業は規則正しい,合理的な方法により耐用年数に渡り資産除 去費用を費用化する.また,以降の年度では時の経過と当初の割引前のキャッシュ・フロー 見積もり時期または金額の変更を資産除去債務に反映させなくてはならない76.
ル下にない1つまたはそれ以上の不確実な将来事象の発生または不発生によってのみ確認 される」(IAS37-10)ものと定義づけている.偶発資産は,認識の対象にならない.また,引 当金について,「支出の金額又は時期が不確実な負債」(IAS37-10)と定義づけている.「一般 的な意味では,すべての引当金は時期と金額が不確実であるので偶発的である.」(IAS37-12)
とあり,IAS37でいう「偶発」とは「企業が完全にコントロール下にない1つまたはそれ以
上の不確実な事象の発生または不発生によってしかその存在が確認できないために認識さ れない」(IAS37-12)ことをいう.かつ,偶発債務とは認識基準に合致しない負債である.
(IAS37-12)
2.2.2. 債務認識基準
引当金は下記の3つを満たす場合に認識されなければならない.(IAS37-13.14)
(a) 企業が,過去の事象の結果として,現在の義務(法的あるいは実質的義務)を有して いること.
(b) 義 務 を 決 済 す る た め に 経 済 的 便 益 を あ ら わ す 資 源 の 流 出 す る 可 能 性 が 高 い (probable)
(c) その義務の金額の信頼できる見積ができること.
偶発債務は次のいずれかの理由で,負債として認識されないものである.(IAS37-13) (a) 可能性のある債務で,企業が経済的便益を持つ資源の流出を引き起こす現在の債務
を有しているか否かをまだ確認していないもの,又は
(b) 本基準書における認識基準に合致しない現在の債務(その理由が,債務の決済に経 済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高くないか,又は,債務金額を十 分に信頼できる見積りができない場合)
偶発債務は,現在義務が存在しないが発生する可能性がある,または存在しても①経済的 便益を示す資源の流出の可能性が高くないこと,②義務の金額が十分な信頼性をもって測定 できないことから,負債としてオンバランスされない.ここに偶発債務と現在義務が存在し
①が②が信頼をもって測定される引当金との相違がみられる.したがって,偶発債務のうち 資源の流出の可能性が高くなれば引当金として認識されるが,可能性が高くても金額を十分 に信頼をもって見積もることができなければ,引当金として認識されない77.(IAS37-19.20)
2.2.3. 引当金の測定基準
引当金額は,決算日に存在する義務を決済するのに必要とされる支出の金額のもっとも正 確な見積であるべきであるが,その支出の金額または時期については不確実性の要素が常に つきまとう.(第2.2.1項)
そこで測定基準について,次の一般原則を提案する.
引当金は,決算日に存在する義務を決算するために必要とされる支出の最も正確な見積で
77 山下寿文 『偶発事象会計論』 白桃書房 2002 pp.6-8,73-76
ある.もし下限の金額のみしか見積ができなければ,引当額は下限で認識されるべきである.
もしかなり発生の可能性が高い金額がある範囲内において見積もられるならば,引当金はそ の範囲内の最も正確な見積りで認識される.下限又は上限の金額は,その金額は最も正確な 見積りで示される場合のみ,認識されるべきである.さらに,引当額は,重要な影響を与え るならば,割引されるべきである.(第2.2.5項)
2.2.4. 開示基準
引当金として認識された多くの項目に共通する不確実性は,追加的に開示において示すこ とが重要になる.開示がない場合,財務諸表上の引当額は,あたかも確実であるかのような 印象を与えることになる.そこで,財務諸表の利用者に対して,義務の性質の説明に加えて,
その金額の見積りがいかになされたか,さらに最終的な支出の金額や時期に影響を与える要 因についての情報を開示することが必要になる.これは,金額のかなり正確な見積りをする ことができないために,引当金が認識されない場合も同様である.(第2.3.1項)
そこで,開示について次の一般原則が提案される.
第2.1.9項における基準に一致する各種の義務について,引当金として認識されるか否か
に関わりなく,次の事柄が開示されるべきである.(第2.3.2項)
(a) 義務の性質の簡単な説明,支出の金額又は時期について相当な不確実性がある場合 には,それらを決定するのに必要な要因,及び
(b) 引当額,見積りの場合は見積り基準78.
図表 28 判定図
出発点
債務発生事象に 起因した現在の 債務があるか?
流出の可能性が
高いか? ほとんどない?
信頼できる 見積りか?
可能性のある 債務か?
引当金設定 偶発債務の開示 何もしない
YES
NO (稀)
YES YES
YES YES
NO NO
NO NO
出所:IAS第37号付録B[18]をもとに作成
78前掲 p.55
図表 29 IAS第37号の基本構造
偶発事象
負債の発生
資産の減損
資産の減少
資産の取得
低い 高い 低くはない
偶発負債
偶発資産 注記
未開示
工事契約 IAS第11号
法人所得税 IAS第12号
リース
IAS第17号 等
(注1) かつ、過去事象で、信頼できる見積ができる。 (注2)かつ、過去事象であるが、信頼できる見積りができない。
(事象) (事象原因) (発生の可能性) (会計処理) (事象区分)
引当事象
高い(注2) 高い(注1)
負債の発生 認識 引当金
低い 低くはない
注記
未開示 *資産の現存IAS第36号
*金融資産の減損および回収可能性 IAS第39号,第109-111項
該当基準はない
従業員給付 IAS第19号
発生の可能性が高く、金額を見積もることができる
出所:偶発事象会計論[15]p7をもとに作成