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震災引当金(偶発債務)会計の導入と企業行動

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3. 偶発廃棄債務認識による防災会計の一提案

3.2. 震災引当金(偶発債務)会計の導入と企業行動

本稿で提案する防災会計における偶発債務会計の導入のあり方の概要は次の通りである.

(a) 震災発生に伴う固定資産の廃棄・改修・建替えに要する偶発廃棄債務を認識する.こ の偶発廃棄債務を震災引当金として計上する.

(b) 偶発債務の認識測定には時価を用いる.

(c) ここで用いる時価とは期待キャッシュ・アウトフローである.

(d) 防災対策を講じることで偶発廃棄債務額を削減することができる.

(a)最初に,震災によって被る可能性のある構築物や生産設備の復旧・廃棄費用を見積もり,

偶発債務を震災引当金として計上する.震災による復旧費を見積もるためには被害想定額を 見積もる必要があるが,被害額測定には直接被害額と間接被害額の 2 種類の考えがあった (2.1 を参照).間接被害額の算定基準の設け方には幅があるため,ここでは固定資産を対象 とした直接被害額をもとにした測定を行うこととする.つまり,製造設備改修の費用は含め るが,製造設備未稼働による生産の機会損失,納入遅延による保証金等は含めない.偶発債 務の認識測定には,(b)その復旧・廃棄に係る費用(キャッシュ・アウトフロー)の時価で行う.

将来の復旧(廃棄)業務を請け負う業者が費用を取引しあう活発な取引が行われる市場が存 在すれば,その価格が最も適当な価格(時価)であると言えるがそのような市場は存在しない し,今後も存在し難い.そこで代替案として,(c)期待キャッシュ・アウトフローの見積りが

妥当と考える.そこで,廃棄コストとその発生確率を期待値で見積もる.発生確率は経営者 の恣意性が入りやすい所であり,この確率は前述のPMLや地震保険で用いられる地震動予 測地図の数値を推奨することが望ましい.引当金の認識後は(d)の可能性を残すことが重要 である.偶発債務を認識することで,企業の負債の部は大きくなる.企業の収益性の観点か らはレバレッジを効かせるため負債を拡大させるということも考えられるが,その負債は長 期で手当てされた固定キャッシュ・アウトフローであるべきであり,偶発性の負債は削減す べきと考えられる.経営陣にとって,震災にともなう引当金(負債)は圧縮しようとするのが 合理的行動である.

偶発債務の認識測定は時価によって行われることになっているので,地震対策として建物 の耐震補強を実施することによって,偶発債務の時価を減少させることができる.耐震補強 が行われれば,偶発債務が発生する期待値を減少させることができるので,結果的に震災引 当金の金額を減らすことができる.会計上,耐用年数を延長させるための支出は資本的支出 として処理される.しかし,耐震補強工事費のように資産価値を一定に保つための支出は収 益的支出として処理されてしまうので,今期の費用として考えられる.よって,従来の会計 手法では対策を講じた当期の費用が拡大し,収益を圧迫するので積極的な対策行動を経営者 が取りにくい.しかし,本提案では偶発債務を削減できるということから,耐震補強工事費 という費用が引当金の戻り益として計上され収益と相殺でき,現経営陣にとって営業成績を 低下させず防災対策に取り組むことができる.このように,偶発廃棄債務を認識させ,かつ 対策を講じることで引当金を戻入できる仕組みにすることで,現経営陣に災害対策のインセ ンティブを与え,ひいては災害に強い経営体制を築く防災会計を提案する.この流れを図表 22に示す.

図表 22  震災偶発債務認識の流れ 

出発点 震災発生に 起因した現在の

偶発廃棄債務 があるか?

引当金設定 期待CFによる

債務測定

防災対策 YES

利益計上 期待CFによる 債務の再測定 債務額を引当金繰入

債務残額を 引当金繰入

債務削減

債務削減 できず

何もしない NO

費用発生

損益相殺

出所:筆者作成

3.2.1. 経済的便益の犠牲と債務性

本提案の震災引当金は,固定資産にかかるもののみを対象としている.よって,この引当 金は資産を保有し,資産から得られる経済的便益の犠牲と考えられる.つまり,建物や生産 設備を所有し,経済的便益を受ける対価として固定資産が震災に出くわすことは経営者の行 動によって避けられないリスクであり,債務性を有する.防災対策という政策的な法律等で 企業に引当金計上義務付ければ,震災引当金は法的債務として債務性を有することができる.

しかし,法的に引当金計上を義務付けなくとも,前述の通り経済的便益の犠牲として債務性 を有し,負債として認識できる.また,固定資産(オフィスや店舗・工場等)には,直接得ら れる経済的便益(賃料収入や生産)の犠牲のみではなく,地域社会に立地し,継続的に雇用の 場,サービスの場としての社会的義務を負っている.

防災の観点から債務性を鑑みると,固定資産による直接被害だけではなく,それに係る業 務の停止・収益機会の遺失等,隣接地に対する被災補償等(間接被害)も債務として認識する 必要性があると考える.しかし,間接被害を引当金として繰り入れると貸借対照表における 資産と負債の対応が困難になる.なぜなら,消極財産説(補論 3-3.2)で工場・店舗(固定資産) 保有に対する経済的便益の犠牲として負債を捉える場合,間接被害額が債務性を有している かは判断が分かれるからである.実務においても,広範な債務性の認識による引当金の設定 はかえって財務諸表の信頼性を損なうものと考えられ,本提案では固定資産に直接かかるも の(直接被害)に限定している.

3.2.2. 引当金額の測定

引当金認識には債務性と引当金額の合理的測定が条件となる.昨今の地震研究はデータの 蓄積とコンピュータ等の性能向上により研究レベルは高度になっている.地震動予測地図や PML等のリスク指標が開発され,不動産投信等ではPMLが実務において用いられている.

震災引当金測定における明確なガイドライン等を設定すれば,一定基準の下で合理的に引当 金を測定することが可能である.また,リスクマネジメントにおいても応用が可能な分野で あると考えられる.例えば,リスクコントロールにおける分散効果を引当金測定に反映させ ることである.

地震動予測地図で示されているように日本列島はどこでも地震が発生する可能性がある 一方,地域によって発生する地震の可能性は大きく異なる.企業が建築物や生産設備を保有 することは危険資産の保有の一つとも言える.このような危険資産を日本列島に複数保有す ることは,株式(危険資産)を複数保有することと同値である.つまり,同一地域に集中的に 固定資産を保有するのではなく,地域的に分散して保有することでリスク量を削減すること ができる.これはポートフォリオと同じ考え方であり,引当金測定にも応用できる.

図表 23  危険資産の組合せ50 

ρ=-1

ρ=0 ρ=1 μ

O

σ

X

Y

出所:企業金融講義[3]p165をもとに作成

3.2.3. 震災引当金(削減)と企業行動

震災引当金を計上し,貸借対照表にオンバランスさせることで,直接的に財務においては,

震災引当金の計上の分だけ震災に対する貸借対照表の耐久性が増す利点がある.震災引当金 をバッファーとして利用でき,震災で特別損失が発生しても震災引当金の戻入を行うことが できる.引当金計上による負債の増大という貸借対照表の変化が企業行動にも影響を及ぼす.

企業は防災を意識した財務活動・経営活動を間接的に意識せざる負えない.貸方に計上され

50 危険資産XとYに分散投資したモデル.ρはXとYの相関係数であり,ρ=0のときは完全 独立,ρ=1のときは正の相関,ρ=-1のときは負の相関である.

る震災引当金は借方の固定資産に依存しており,企業の固定資産,つまり設備投資計画に影 響を与える.営業活動に用いない老朽化した不動産を保有していると,多額の引当金計上の 必要性に迫られるため売却や建替えといった選択肢もとる必要がある.時価会計や減損会計 では資産価値がなくなれば,資産価値ゼロまで評価替えする必要があったが,本提案ではマ イナス評価まで評価替えすることを迫られるため,時価会計や減損会計とは異なる経営戦略 の視点で,資産の保有か非保有の取捨選択を行う必要が出てくる.

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