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負債の時価評価及び期待値の導入

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補論 3. 国際的な偶発債務会計の流れと負債概念

3.5. 負債の時価評価及び期待値の導入

資産又は負債の認識測定は古くから会計の大きな問題であり,かつては入口価値(支出額=

キャッシュ・アウトフロー)の観点が最も認められていた.「企業会計原則」でも,「貸借対照 表に記載する資産の価額は原則として,当該資産の取得原価を基礎として計上しなければな らない.」(貸借対照表原則5)と述べられてきた.

しかし,1999 年の改訂公開草案以降,「資産・負債の最終的な裁定者は市場である.時価 は,現在価値測定で用いられるキャッシュ・フローやレートに客観的な目的を提供する.」

(FASB1999,25 項)と述べられて市場重視の方向に進んでいる.IASB にいても「少なくとも

当初認識時の測定においては,市場価値の方が,企業固有価値よりも優れている.・・・(中 略)・・・企業固有価値は,市場の影響が反映されたものではなく,個別企業の期待,意図及び 仮定といった気まぐれな要素が反映されたものである.」(IASB2005,128項)と述べられるよ うになった.そして,SFAC第7号では,「現在価値を,当初認識時の測定及びフレッシュ・

スタート測定に用いる唯一の目的は,時価を見積もることにある.・・・(中略)・・・FASB は,

時価以外の測定を目的を用いることに説得力のある根拠を見出せない.」(FASB2000,25,27 項)とし,IASB(2005)でも,同様に「資産・負債は時価を信頼できる水準で見積もることがで きる場合には,当初認識時に時価で評価しなければならない.」(IASB2005,416項)と述べて いる.

図表 34は以上の事項を整理したものである.このように,当初認識時の第一義的な測定 属性が実際の取引価額から仮想的な時価へと変化した.これにより貸借対照表におけるキャ ッシュ・フローの向きも変化した.図表 35 のように,初期的な原価価値観では,とくに固 定(非貨幣)項目に付いて,当初認識時は原則として原価(入口価値=キャッシュ・アウトフロ ー)によって測定し,その後は必要に応じて時価(現在価値)を用いて再評価する.一方,今日 的な現在価値観(時価会計)では,当初の認識時の段階から時価(出口価値=キャッシュ・イン フロー)によって測定する.したがって,両者が本来的に想定しているキャッシュ・フローの 向きは正反対になる95

94 R.Gシュレーダー他  『財務家計の理論と応用』  中央経済社  2005  pp.146-149

95 角ヶ谷典幸  「現在価値観の転換-公正価値会計の台頭とその影響-」  『會計』  森山書店  第 170巻10月号第4号  2006  pp.564-575

図表 34  当初認識時の第一義的な測定属性   

伝統的な会計観  (1928,1946) 

「討議資料」(FASB,1990) 

「特別報告書」(FASB,1996) 

「改訂公開草案」 

(FASB,1999-)  実際の 

取引価額  (入口価値= 

COF) 

原価(支出額) 

・原則として,取引価額,取引ベースによる

・ただし,複数の測定属性が一致することも ある(歴史的原価,現在市場価値,現在価値)

(他の測定属性は,時価 の代替にすぎない) 

仮想的な  時価  (出口価値= 

CIF) 

  (時価が第一義的な価値であろうとする見解 も紹介されている) 

時価 

  (注)  上記網掛け部分が当初認識時の第一義的な測定属性である. 

出所:現在価値観の転換-時価会計の台頭とその影響-[13]p570をもとに作成

図表 35  キャッシュ・フローで見た貸借対照表比較 

−−−−−−

固定資産[COF]

| | 取得原価 (必要に応じて公正価値)

−−−−−−

固定負債[CIF]

資本[CIF]

B/S①

B/S②

−−−−−−

固定資産[CIF]

| | 終始,公正価値 (現在価値)による

−−−−−−

固定負債[COF]

資本 (注)

[伝統的会計]

[時価会計]

(注) COF:Cash Out Flow, CIF:Cash In Flow

B/S②:資本は、CIFの観点からも、COFの観点からもあるいは差額としても捉えることができる

出所:現在価値観の転換-時価会計の台頭とその影響-[13]p573をもとに作成

3.5.1. 期待キャッシュ・フロー

時価(公正価値)とは,取引の知識がある自発的な経済主体の間で資産が交換あるいは負債 が決済される価格をいう.自発的な経済主体が合意するような価格は,活発な市場(active market)によって形成されるのが一般的であるが,世の中には活発な市場が存在しない場合 も考えられる.このような場合は,市場参加者が期待するキャッシュ・フローを前提として 現在価値を代替値として用いることが考えられる.FASBでは市場参加者が資産又は負債の

プライシングを行う際に使用する過程を「インプット」と読んでおり,時価測定においては,

企業独自の仮定(観測不能なインプット)ではなく市場から得られる情報による仮定(観察可 能なインプット)であることを求めている.また,インプットの優先順位を次のように 3つ レベルに分類している.

レベル1: 測定日現在の同一資産または不際の活発な市場における相場価格(相場価格 の修正は行わない)

レベル2: レベル1の相場価格以外のインプットで,直接的または間接的に当該資産ま たは負債に関して観察可能なインプット

レベル3: 観測不能なインプット

不確実性下の現在価値測定の手法として,2つのアプローチが考えられる.1つは伝統的 アプローチ(traditional approach)と呼ばれるものであり,最も発生の可能性の高い単一のキャ ッシュ・フローを用いる.V (資産の現在価値)は,

CF

m(最も可能性の高いキャッシュ・フロ

ー)と

r

(リスク調整済割引率)によって以下のように定式化できる.

t m

r V CF

) 1 ( +

=

もう1つは期待値アプローチ(expected cash flow approach)とよばれるものであり,複数の 将来キャッシュ・フローを確率で加重平均した値(期待値)を用いる.リスク調整済割引率を 用いる場合には,

p

i(各状況の発生確率)と

CF

i(各状況の応じて生じるキャッシュ・フロー) を乗じた額を割り引く.

t i i

r CF V p

) 1 ( +

×

= Σ

また,キャッシュ・フローの期待値から

µ

(リスク・プレミアム)をあらかじめ控除する場合 には,割引率には

r

f (無リスク利子率)を用いてきた位置を測定する.

t f

i i

r CF V p

) 1 ( +

×

= Σ µ

期待値アプローチでは,単一のキャッシュ・フローしか用いない伝統的アプローチとは異 なり,不確実下において生じる金額と時期の異なる複数のキャッシュ・フローを測定値に明 確に反映できる.市場参加者は,一般に期待値をもとに取引を行うので,期待値アプローチ の方が時価測定の趣旨に適うとされている96

96 梅原秀継  「公正価値測定と資産・負債の認識基準−無形資産と偶発債務の認識を中心とし て−」  『企業会計』  中央経済社  2004 Vol.56 No.12  pp.25-26

3.5.2. オプション・モデルの応用

通常,偶発債務は初期状態では発生の確実があるが可能性が低く評価額の信頼性が低いた め,負債としてオンバランスされず,可能性が高まった時点で負債と認識されるのであった.

この偶発債務を「オプション・モデル」で負債として認識することも考えられる.つまり,

偶発債務の認識は偶発債務を認識する第一事象(負債としてオンバランスされず注記されて いる状態)と,債務履行の義務が発生する第二事象(負債としてオンバランスされる状態)の2 段階と考えられる.第二事象が発生(または不発生)すると,一定の義務が発生し,その決済 にはキャッシュ・アウトフローが必要となる.つまり,この点で「プットオプションの売り」

と同様の考え方をすることができる.

債務保証損失引当金を例にオプション・モデルについて考える.

A企業が銀行から300万円借り入れ,B企業がその債務保証をする.B企業は,その見返 り(債務保証料)としてA企業からX万円を受け取る.一定期間(保証期間)の後,A企業の債 務不履行によって,銀行から貸付金+利子で315万円の請求が来たので現金で支払い,直ち に,A企業に対して求償権を行使した.

このケースにおいて,保証料 X 万円が競争可能な市場において決定されたものであると すれば,このX万円は債務保証契約時点においてA企業のデフォルトの確率と求償権行使 時点におけるA企業の担保価値を反映したオプション・プレミアムであり,契約時点におけ る偶発債務の評価となるはずである.つまり,この X 万円は保証損失の期待値であると考 えることができるのであって,そうであれば,債務保証契約を取り交わした際に受け取った 現金は,債務保証益とすべきではなく,債務保証損失引当金として計上すべきことになると 考えられる.

この債務保証契約は契約期間の終了時点が近づくにつれて,A企業のデフォルトの可能性 は小さくなっていくので,偶発債務の評価額も時間の経過とともに小さくなり,評価差額分 は,収益として実現させることができる.

しかし,こうしたオプション・モデルに基づいて計算されるプレミアムには,計算の前提 となるデータの制約等から,会計上認識する上で信頼性の問題が残る.これも「クレジット・

デフォルト・スワップ市場」市場で活発な取引が行われていれば,そこでの価格や価格決定 を利用することで信頼性の高いプレミアムの数値が得られる可能性もある.それでも,求償 権行使により回収可能な金額を保険料の評価にどのように織り込むのか,保証先の信用リス クの変化をどのように評価するのか,金利変動をどのように織り込むか,といった解決すべ き問題が残されている97

97 徳賀芳弘  「引当金の認識と評価に関する一考察」  日本銀行金融研究所  No.2003-J-17  pp.24-28

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