<単元の指導の事例 6>
サイエンス E テーマ Eー② 「科学と芸術
J
‑視覚の世界を探究しようープラン 2 単元テーマ 「黄金比率」を通して科学的に「美」を考える実施学年(高等学校1年) 配 当 時 間 (5時間) 実 践 者 ( 牧原竜浩 ) 1.単元のねらい・目標
人聞が視覚的に最も美しいと感じる比率とされている黄金比率をテーマにして、美術作品を論理的
・科学的な視点から考察していく。黄金比率は美的プロポーションの極地とされ、現在でも様々な造 形分野に用いられており、身近なものの中に隠されている。自然界における黄金比率を紹介しながら、
科学と自然と美術の関係性の理解を深めていく。
2.単元の構成と特色
芸術作品とは、単に感覚や感情だけで表現されるものではなく、理論的に構築されることがその作 品において重要な意味を持ってくるだろう。そのための理論構築を学ぶことに重点を置いて、感性と 理性とをバランスよく総合的に観察し考察する力を伸長することをねらいとする題材を設定した。
3.本単元における評価の観点と評価方法
この学習のねらいは視覚芸術の作品を分析的に鑑賞・考察する能力とそれを通して論理的な思考力 を高めることが大きなポイントであるので、以下のように評価の観点を設定した。
①造形作品における構成要素を数学的に分析することができる。
②自然の法則と科学・芸術との結び付きを理解することができる。
③古代から現代までの芸術作品に共通する「美」の表し方に興味をもっ。
④造形作品を鑑賞する上で、自分なりに科学的論理的に分析し、その表現の特質や美しさを考察す ることがで、きる。
⑤演習(表現体験)において、自然と科学をふまえて、自己表現をし、論理的に意見を述べたりす ることがで、きる。
4.単元計画 「科学と芸術」ー視覚の世界を探究しようー (配当時間計 5時間) 単 元 計 画 ( 実 施 時 間 : 全5時間)
題目(配当時間) 学 習 内 容 指導上の留意点
黄金比率の誕生 0古代ギリシャで考えられ、レオナルド 0黄金比率が用いられている身近なもの (1) =ダ=ヴ、インチによって「黄金比率j と を取り上げ、興味を持たせる。
名付けられたと言われている。その導き 013世 紀 の イ タ リ ア の 数 学 者 フ ィ ボ 方について、幾つかの方法を学ぶ。 ナ ッ チ の 加 算 数 列 を 紹 介 し 、 具 体 的 な 比 率 の 数 値 f1:1.618…jを 導 き 出 す計算をする。
自然と数学(1) O自然の中に潜む黄金比率(数列)とし O自然の中に隠された法則と黄金比率の てヶヒマワリの種子のなり方・果物の星 関係性を見つけることで、自然と数学の 形五角形・葉序(葉のつき方)の法則を 結び付きに関心を持ち、分析する能力を
見つけ出す。 育てる。
0黄金長方形によるオウム貝の螺旋構造 の分析。
数学と美術(1) 0古代ギリシャの造形作品における「美 0美術の歴史の流れと作品の特徴を学ぶ の規準Jになっていた黄金比率を近現代 と共に、分析的能力を養い、鑑賞する能l
の美術作品(デ、ューラ一、モンドリアン 力(読解力)の育成をする。
…)に共通点を見つけ出す。
作 品 制 作 と 作 品 OB4サイズに定規を使って、人聞が持つ 0芸術作品には、直観的・精神的に美し 解説 (2) 「美しい」という感性を論理的観点に重 くしようとする感性と数学的分析・理論 点をおいて制作していき、作品解説をす 構築などといった理性の両方が総合され
る。 ているということを理解させ、また、自
分の制作した作品を論理的に相手に伝え られるようにレポートをまとめる。
5.指導のポイント
授業の展開のさせ方は、はじめに現在の日常生活で黄金比率が使われているものを紹介していき、生徒 たちの興味をひかせる。次に、黄金比率の1: 1.618…としづ数字を導くためにフィボナッチ数列を用い た。 l・ト2・3・5・8・13・21…と続いていく数列は1つ下位の数を足した数が上位の数となる。この増分の倍 率が1.618倍に限りなく近づいてし、く。というように先ずは数学から黄金比率を見てし、く。そして次に、
自然界ではオウムガイの螺旋構造、ヒマワリの種の並びの本数や植物の葉の生え方(葉序)には、フィボ ナッチ数列が隠されていることを紹介し、最後には、芸術作品に隠された黄金比率を見てし、く。つまり、
数学=自然=芸術。この 3つは黄金比率を介して結びつけることができる。人聞が感覚的に美しいと感じ る比率、なぜ美しく感じるのかは、人間も自然の1部であるからだろう。
<生徒作品>
作品制作については、 B4サイズの用紙に枠(縦 29cm・横 18cm)をつくり、その中に制作させる。制 作時間は2時間なので、色彩表現ではなく、鉛筆による表現に限定させた。
題材は自由で、あったが、開始と同時にほぼ全員の手が動き、 1 : 1.618としづ比率になるように計算し 始めた。題材が決まっていなくても、とりあえず枠を黄金比に区切っていき、どのような作品にするかは 描きながら考えていくという生徒が多かった。そして、教科書や図録などの資料を見ながら、アイデアが 思いつけば、具体的な形態を描写していく。そういう流れがあり、結果的には、複雑な形態を描写した作 品もあれば、直線の組み合わせによるシンプルな作品まで様々で、あった。しかし、いずれの作品もある一 定の完成度があることに驚かされた。
*
多くの生徒はこのような定規を使った水平線・垂直線・斜線を組み合わせた平面(抽象)作品を制作 していた。黒く塗りつぶされた面の配置のさせ方など、画面全体の構成がバランスよく考えられてい る。*抽象的な作品に対して、具体的な形態で構成された作品もあった。これは、描写力に自身がない生徒
でも、バランスのよい配置であれば、しっかりとした強さを持った作品となっている。左の羊の作品 は羊の顔がそれぞれ逆正三角形に当てはめて描かれており、ひとつひとつの顔の面積比も黄金比率に なっている。
<生徒達の授業を終えての感想(抜粋)
>
O 黄金比率で作られた作品が、昔から多く描かれているのを実際に授業で確かめてみて感心した。他に も、ヒマワリやオウムガイなど自然界にも黄金比率は潜んでいて、そうし寸法則に気づいた人は本当 にすごいなあと思った。
O 制作の時、適当に描いた線が、図形や模様になっていて、面白いなぁと思った。私は絵を描くのは得 意じゃないのですが、黄金比率を使うと描きやすかったです。
O 今まで絵を見るときに、何も考えずに鑑賞していたけれど、実は色々考えながら描かれていることが わかりました。これから絵を見ていくときに気にしてみようと思います。
O 身の周りの至る所に黄金比率は存在することを知って、偉大な比率だと感心した。そして、それを昔 の人は既に発見していて、実際に絵画に利用して、芸術性を高めていたことに更に驚いた。
O ずっと昔の作品も黄金比率になっているけれど、それが美しいと知って使っていたのか。一番美しい 姿を求めていったらそうなったのか。とても気になります。
6.カリキュラムの評価
この授業は、高等学校1年生が全員必修で受ける授業であり、選択で美術をとっていない生徒も受けな ければならない。生徒の感想の中にもあったように、「絵を描くのは得意ではない。しかし、描きやすか った。」としづ感想、を多くの生徒が持ったので、はないかと思う。制作だけではなく、絵画を鑑賞する時、
ある一つの見方として、この黄金比率を利用してほしいものである。それは、絵画に限ったことではない が、日常生活のあらゆる場面で応用できる可能性を秘めているだろう。
そして、問題点として、生徒の実践結果で「何も考えなくてもある程度の完成度を持った作品をつくる ことができる。」というのは、裏を返せば、「芸術作品は何も考えて制作されていない。J
r
何も考えなくて もよい。Jということが言えるのでないだろうか。非常に大きな誤解を招く危険性があることに気づかさ れる。本来、芸術性の高い作品とは、その作品の中に作者の深い精神性が込められ、その精神性が強し、も のほど芸術的価値が高いといえる筈である。黄金比率だけでは、絵画の表面を見ただけに留まり、そこに 秘められた作者の精神性まで深く感じとることは、かなり難しいのではないか。鑑賞者の心をひきつけ、揺さ振り、いつの時代であろうが人間社会に大きな影響を及ぼす。というのが真の芸術作品の在り方。こ の授業だけでは、そういった芸術の本質に迫っていくことのほんの導入に過ぎないのである。
あくまでも、芸術作品の魅力に迫っていこうという、美術の導入部分としてこの授業を考えていかなけ ればならない。それをふまえて、 芸術の本質とは何か"を追求していくことが最も重要である。教える 側は、常にこのことを自覚していかなければならない。