第五章 子どもの参画の資質とまちづくり学習
第2節 R.Hart『子どもの参画』における参画の資質
R. Hartの理論を考察する。そして,その中に見られる子どもの参画の資質について明らか
にする。
(1)子どもの参画の重要性
ニューヨーク市立大学教授R.Hartは,まちづくりにかかわるプロジェクトにいかに子ど もが参画するかについて,著書『子どもの参画』で具体的な事例を基にその原理と方法を 提案している。本書を発案したのはユニセフの機関である環境部と国際子ども発達センタ ーである。Hartは長く子どもの遊び場の計画にかかわり,また途上国の子どもに関連する 団体との情報交換を行ってきた人物である。また,IPAlの会員でもあり,目本語訳もIPA
日本支部によって行われた。そして,『子どもの権利条約』によって,地球的課題の一つと して認識されるようになった子どもの参画が,具体的にはどのようにしたら現実のものと なるのかについて示している。Hartの理論は,IPAや子どもの参画情報センターの活動の 柱となっている。
この中で,子どもに育成させるべき能力について,Hartは次のように述べている2。
明日の社会を担う市民として,子どもたちは持続可能なコミュニティをつくり,維持していくこと ができなければならない。
つまり,自然環境の維持と未来の世代の人間や他の生物を含めたすべての生き物の二一 ズとのバランスを考えた上で,すべての人間はこの地球上で健全で意味ある生活をする権 利があるということを子どもたちも理解する必要があるということである。これは,「子ど
もの参画は民主主義を体験することである3」というHartの基本的な考えからきている。
子どもは参画する体験,っまり民主主義を体験することによって,市民としての権利や義
務を理解できるとしている。そして,地域の調査と活動を通して真実を求める中で壁にぶ
つかったときに,それらの壁がどんなものかを理解するようになるのである。そうするこ
とで,子どもたちは自分の属する地域コミュニティを超えて広がる知識をもっようになる
としている4。しかし,Hartは次のようにも述べている5。
第皿章第2節
すべての子どもたちに,民主的な参画の機会を充分に与えている社会は存在しない。一部の社会や 文化圏では,生活のある一面で子どもの参画が進んでおり,奨励されているようである。しかし,ど の文化圏でも,子どもたちの参画の度合いを一足飛びに高めたり,急に状況が変わって参画できるよ
うになるといったことなどはありそうにない。
このような現状にあるものの,子どもの発達段階に応じた参画の能力を【図H−2−1】
のように示し,それを育成することは可能であるとHartは述べている。
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(R Hart著,IPA日本支部訳『子どもの参画』,萌文社,2000,p.89)
そして,そのための活動をHartは提案している。ところが,従来このような活動は,「世 代から世代への継承」,r両親や祖父母との関係」で受け継いできたものであった。しかし,
世界の多くの地域でこういう伝承は崩壊しており,子どもたちは世の中でどのように生き
ていったらよいのかをマスメディアを通して聞くことが多くなってきている。しかし,マ
スメディアは世界で起こっている問題に関する重要な情報を運んでくれるが,同じように
重要なまちの知識や問題解決の仕方を子どもが生活する場所へ運んではくれない。そこで,
第皿章第2節
このような活動を保障する場として,子どもの団体,コミュニティの団体,学校の重要性 をHartは指摘している。学校教育の中で,地域コミュニティ内におけるプロジェクトヘの 参画といった活動で経験を重ねることによって,子どもは大人になったときに本物の参画 型民主主義を築くことができるとしている6。しかし,実際の学校現場では子どもによるコ
ミュニティ調査は必然的に子どもに政治的な考えを教え込むことになるのではないかと批 判される傾向が見られる。Hartは,そのような批判を気にすることも,多くの教師が教室 に引きこもり,教科書に頼るようになっている原因の一つであるとして,現在の学校教育 での問題点を指摘している。そして,学校教育においては,自分が住んでいるまちには違 った見方や違った価値観があることも子どもに見せていくべきで,これこそがまさしく民 主主義の根幹であると述べている7。
ただしHartは,学校教育で子どもの参画についての学習を行う際の留意点を次のように
挙げている。【表n−2−1】子どもの参画についての学習を行う際の留意点
①学校教育で政治にかかわりをもたせることは重要な要素だが,どのような政治的活動にどこまでか かわらせることができるかは,文化や政治制度によって大きく異なる。しかし,どのような文化や政 治制度においても,子どもの参画は民主主義そのものであり,市民権を自覚するようになるための準 備段階なのである。
②地域コミュニティでの調査と活動に子どもたちが参画することを目指しているが,その後もっと広 い地域あるいは地球規模の状況と自分たちとの関係を知る必要があり,それを可能とする方法が他の 地域にいる子どもたちと定期的に交流することである。特に類似の活動を行っている子どもたちと交 流することで問題を特定し,より広範囲な科学研究に加わり,同じ種類のデータを集め,共有するこ とができる。
(RHart著,IPA日本支部訳『子どもの参画』,萌文仕2000,p 140−150を基に作成)
さらにHartは,『子どもの参画』の中での結論として,子どもの参画の原理と方法を次
のようにまとめている8。自然環境維持の原則にのっとって,また未来の世代の人間や他の生物を含めたすべての生物の二一 ズとのバランスを考えたうえで,すべての人間はこの地球上で健全で意味ある生活をする権利がある
ということを,子どもたちも理解する必要があるということである。(中略)そのための場は,子ども の団体,コミュニティの団体などであり,もっとも重要なのが学校である。こういう場で経験を重ね
第H章第2節
ることによって,子どもは大人になったときに本物の参画型民主主義を築くことができるようになる。
(2) 「参画のはしご」理論
本物の子どもの参画とはいっても,子どもだけで参画し活動していくことは難しい。大 人とのかかわりが重要となってくる。そこで,IPAや子どもの参画情報センターにおいて,
子どもの能力に合わせて大人はどうすればよいかを議論する際に基盤となっているのが Amsteinの「はしごの理論」を応用した「参画のはしご」である。
これは,「持続可能な開発9」と『子どもの権利条約』をキーワードにしたHartの理論を 端的に表しているものになっている。そして,この理論ではr本物の参画」の必要条件と
して,「子どもたちがプロジェクトの内容を理解していること」,「誰から,なぜその役割を 決められたのか知っていること」,r意味のある役割を得ていること」,rプロジェクトにつ いて理解した上で自発的に参画していること」を挙げているlo。
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【図1−2−2】参画のはしご
第H章第2節
【表E−2−2】各段階における子どもの姿
8
子ども主導の参画に大人も き込む学園祭で子どもたちが寸劇をっくり,ある場面に先生にも出ても うようなケース。Hartの参画論は,子ども主導の活動よりも,大 を巻き込む活動を上位に置いていることに特徴がある。
7
子ども主導の参画 子どもが企画し,運営し,評価をする。学園祭などの出し物では のケースがよく見られる。子どもの普段の遊びはほとんどがこれ 相当する。6
大人主導で意志決定に子ど も参画子どもは意見を言い,最終的な決定を大人と子どもと協働で行う
ース。
5
大人主導で子どもの意見提 のある参画子どもは少なくとも意見を言うことはできる。決定権は大人が握 ている場合。
4
与えられた役割の内容を認 した上での参画そのプログラムについて意見を言ったり決定に参画したりするこ はできないが,ともかく何のためにやっているかは子どもは分か ている。学校が行う街頭募金活動などによく見られる。
3
形式的参画 r子ども議会』などでよくあるケース。子どもに市長に質問させ ものの,質問項目のシナリオが与えられていて,事後もそのこと 取り上げないような場合。2
お飾り参画 子どもをだましてはいないが,子ども自身は意味を分かっていな 場合。デモ行進などで子どもにr原発反対」と書いたTシャツを せているような場合。1
操り参画 取材などで画面に子どもの絵が欲しいために,子どもをお菓子で って画面に登場させ,視聴者には「子どもも参画していますよ』いうメッセージを送るような場合。
(K Hart著,IPA日本支部訳『子どもの参画』,萌文社,2000,p。42−50を基に作成)