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第3節 授業モデルの成果

 前節までに,これまでの研究成果を基に,小学校社会科における子どもの参画の資質形 成を目指したまちづくり学習の授業モデルを提案した。本節では,その授業モデルの成果

について述べる。

  (1)市民参画のまちづくりを組み込んだ社会科学習

 「自地域」における「過去」や「現在」のまちづくりを組み込むことによって,まちが 形成されてきた経緯やまちにおける問題点をつかむことができるようにした。そして,こ れからのまちづくりには市民の参画が必要とされていることをとらえることができるよう にした。また,今後の市民参画のまちづくりにはrビジネス型」やrコミュニティ型」が 求められることを示し,その成功例として「他地域」長浜の先進的なまちづくりを学習内 容として組み込んだ。さらに,それぞれのまちづくりの事例に「まちづくりの要素」を複 数組み込むことによって,これからのまちのあり方やまちづくりの方向性を子どもたちが 考えることができるようにした。

 このように,都市社会学や地域経済学などの社会諸科学の成果を基にして,近年注目さ れてきた市民参画のまちづくりを中核とした授業設計を行った。そして,概念探究過程に おいて説明的知識や概念的知識を習得できるようにするために,知識の構造と問いの構造 を示した。それによって,子どもたちがまちを総合的・批判的にとらえることができるよ

うになることを目指した。

  (2) 子どもの参画の資質形成を視点としたまちづくり学習

 市民参画のまちづくりを学習内容として組み込むことによって,子どもたちが社会に主 体的に参画し,新しい社会をつくっていこうとする資質の形成をうながすものとした。こ の子どもの参画の資質については,r参画のはしご」の第4〜6段階r役割を認識した上で 意見提供する」を基に社会科学習においては合理的意志決定つまり市民的資質と位置付け,

これからのまちやまちづくりのあり方について考えることができるようにすることを目指 した。そして,この合理的意志決定能力を育成するために,「知識習得→価値判断・未来予 測→意志決定」といった学習過程を設定した。

 このように,『子どもの権利条約』やr参画のはしご」によって近年注目されている子ど

第W章第3節

もの参画について,社会科学習で担うべき範囲を明らかにした。そして,価値分析過程に おいて,「未来」のまちづくりに対して,社会認識や未来予測を基に合理的意志決定できる ようにした。そのことにより,将来の市民である子どもの参画の資質形成を図ることがで きるようにすることを目指した。

  (3) これまでのまちづくり学習における課題の克服

 これまでのまちづくり学習は,地域学習や総合的な学習で行われてきた。しかし,そこ では活動中心の学習が多く,まちを総合的・批判的にとらえるといった社会認識の面が弱

くなっていた。さらに,子どもの参画の資質形成の面も弱くなっていた。

 そこで(1)(2)で述べたように,市民参画のまちづくりを概念探究過程に組み込む,社会

科学習における子どもの参画の資質を合理的意志決定能力とした上で価値分析過程でその

育成を図る,といった授業設計を行った。このことにより,社会認識を保障した上で未来

予測や価値判断を行うことを通して,子どもたちが将来にわたってまちやまちづくりにか

かわっていこうとする資質の形成を図り,これまでのまちづくり学習における課題を克服

することを目指した。

結論

結論

 本研究は,現代の子どもたちを巡る問題や子どもたちが大人の常識では想像もできない 行動をとるといった問題に対して,学校教育や社会科学習において何をなすべきだろうか といった問題意識が出発点となっている。したがって,本研究は社会認識形成だけでなく,

それを基にした地域社会に根づいた個性豊かな人間を形成する社会科学習を目指そうとし ているものである。そこで,社会認識と人間形成の両面を保障するものとして市民参画の まちづくりに着目し,それを組み込んだ社会科学習の授業設計を行った。

 ここでは,これまでの研究の成果を踏まえ,本研究の意義と今後の課題を述べる。

1 本研究の意義

理論研究と教育実践の両面から,本研究の意義をまとめる。

  (1) 理論研究上の意義

 現在では都市化の進行や不況の長期化によって,まちを改善し活性化していこうとする 動きが全国的に見られるようになってきた。これは,市民参画のまちづくりを推進するこ とで,従来の行政主導によるまちづくりにおける課題を克服しようとするものとなってい た。そして,まちを見つめ直し,まちの価値を再発見した上で,さらに新しいまちをっく ろうとしていくものとなっていた。この点において,市民参画のまちづくりを学習内容に 組み込むことは,まちを総合的・批判的にとらえることを可能とし,さらにまちやまちづ くりにかかわり,新しい社会をつくろうとする資質の形成をも可能とするものであった。

 また,近年では『子どもの権利条約』やHartの「参画のはしご」理論によって,子ども の参画が注目されるようになってきた。これは,将来の市民である子どもに社会への参画 を保障することで,参画の資質を形成しようとするものとなっていた。そして,学校教育 においてはまちづくりに子どもを参画させることで,新しいまちをつくろうとする将来の 市民の育成を目指すものとなっていた。この点において,子どもの参画を視点にした社会 科学習を進めることは,市民的資質形成さらには参画の資質形成を可能とするものであっ

た。

 以上のことから,本研究における理論研究上の意義は,市民参画のまちづくりを組み込

結論

むことで子どもの参画の資質形成を目指した社会科学習の有効性を明らかにした点にある。

  (2)教育実践上の意義

 まちづくりが注目されるに伴い,学校教育の場においても地域社会を見直そうとする観 点から,地域学習や総合的な学習を中心に市民参画のまちづくりを取り上げる実践が見ら れるようになってきた。ところが,まちづくりを取り上げた教科書の記述内容やまちづく

り学習の分析結果から,社会認識が保障されていない,活動が中心の学習となっている,

合理的な意志決定となっていない,参画の資質の視点が弱い,などの課題が明らかとなっ

た。

 そこで,授業モデルではこれらの課題を克服するために,都市社会学や地域経済学など の社会諸科学の成果を基にして,近年注目されてきた市民参画のまちづくりを中核とした 授業設計を行った。そして,概念探究過程において説明的知識や概念的知識を習得できる ようにするために,知識の構造と問いの構造を示した。それによって,子どもたちがまち を総合的・批判的にとらえ,社会認識を図ることができるようにした。また,子どもの参 画について,社会科学習で担うべき範囲を明らかにした。そして,価値分析過程において,

「未来」のまちづくりに対して,社会認識や未来予測を基に合理的意志決定できるように した。そのことにより,将来の市民である子どもの参画の資質形成を図ることができるよ

うにした。

 以上のことから,本研究における教育実践上の意義は,社会諸科学の研究成果から抽出 したまちづくりの概念を習得する過程を位置づけ,そこから子どもの参画の資質を形成す る過程を授業モデルにおいて明らかにした点にある。

2今後の課題

本研究における課題としては,次の点が挙げられる。

  (1)ホーム・リージョナル・スタンダードの設計

 第H章でホーム・リージョナル・スタンダードの設計の重要性について述べた。そして,

まちづくり学習の有効性を明らかにし,授業モデルを提案した。しかし,一単元で扱う内

容は,量的にも時間的にも限られており,十分にホーム・リージョナル・スタンダードを

論 結

身に付けさせることは困難である。そのため,豊かな体験知・暗黙知を基にした未来予測 や価値判断を行うことが難しくなっている。そこで,まちづくり学習を行う前提として,

各学校・各地域において各教科ごとのホーム・リージョナル・スタンダードの設計が必要

である。

  (2)授業の実践

 本研究において構築した授業モデルに従って授業実践を行う。そして,子どもの認識の 変容やそれを基にした未来予測・価値判断の内容から,研究仮説を検証していく必要があ

る。

  (3)理論の修正・発展

 授業実践を通した研究仮説の検証を基に,本研究で提示した理論を修正し,発展させて

いく必要がある。