第五章 子どもの参画の資質とまちづくり学習
第4節 子どもの参画の資質形成を目指したまちづくり学習
前節までに述べてきたことを基にして,社会認識を保障した上で,子どもの参画の資質 形成を目指したまちづくり学習はどうあるぺきかについて考察する。
(1)従来のまちづくり学習の課題
これまでのまちづくり学習や子どもの参画にかかわる学習は,その多くが地域学習や総 合的な学習で行われている。そこで,従来の地域学習や総合的な学習における課題につい
て見ていく。①地域学習
かっては子どもを地域で育てる仕組みとして,成長期の節目で子どもが地域社会に参画 する伝統行事が機能していた。しかし,現代社会においてそれは機能しなくなり,学校教 育においてそのような仕組みを機能させようとする動きが見られる。そこで地域学習にお いては,社会科学習の中で単元内容を補強するために地域の素材や人材が活用されるだけ でなく,地域の教育力を生かし,子どもの生きるカを育てていこうとするものになってい る。ところが,このような学習は地域社会の多様で総合的な現実から学ぶという観点が弱 いとの指摘も受けている。
澤田義宗氏は,社会認識を深めていくためには地域に見られる社会事象を総合的にとら える必要があるとして,rどのようにすれば,地域を総合的にとらえることができるのか」
という問いを検証している。そして,社会事象を総合的にとらえさせることに有効な方法
として,歴史学の問題解決過程を取り上げて,地理的分野の授業に組み込んでいる1。
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【表∬一4−1】歴史学の問題解決過程を組み込んだ社会科学習の展開
段階 主な活動 手立て
記述段階 地域がどのような要素で成り立って るのかを抽出する。(記述によって得 れた知識が,次段階の関係を把握する めの情報となる。)
地域に見られる様々な事象を豊富 取り入れ,情報とすることで,問 を焦点化する。
説明(分析)段階 地域に見られる事象から,中核となる 素についてとらえ,その中核要素と他 事象の関係を因果的に見ていく。
中核的な要素と他のどのような要 が関係しているのかを予想し,豊 な情報に基づいて仮説へと高め,
証する。
解釈段階 分析結果から,どのような地域的な特 をとらえることができるか考察する。
らに,その地域がどのような課題を抱 ているか考える。
中核的な要素が地域の特色となっ 現れていることをとらえる。地域 抱える課題や将来的な動きを予測
,それらを解決していくためには,
のような方法をとっていったらよ
か考える。
(澤田義宗『総合の考え方を生かした中学校社会科地理的分野における教材開発』,兵庫教育大学大学院修士論文,
1989,pp.56−59を基に作成)
【表H−4−1】を基にして見ると,従来の地域学習は次のような学習活動にとどまって いると考えられる。
【表E−4−2】地域学習に見られる学習活動
地域における社会科事象を知識としてとらえさせる。
説明(分析)段階
地域における中核的な事象と他の事象との因果関係について検証する。
自分たちの住む地域の特色をとらえる。
(筆者作成)
ここまでの実践は見られるが,まちに対する具体的な全体像やイメージが浮かび上がっ
たところで,さらに解釈段階でまちが抱える課題や将来的な動きを予測する活動はあまり
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見られない。
また,小原友行氏は従来の社会的な見方・考え方を育成する従来の社会科授業論を,事 実的な見方・考え方を育成する授業論と価値的な見方・考え方を育成する授業論に分類し
ている。
【表H−4−3】社会的な見方・考え方を育成する社会科授業論
主要な授業論 ねらい 代表例
事実的な見方・考え方を 理解型授業論 社会を生み出した人間の行為を軸 昭和30年度版以降の 育成する社会科授業論 とする見方・考え方の育成 学習指導要領など
説明型授業論 人間の行為を規定する社会を軸と アメリカ新社会科 する見方・考え方の育成 など
価値的な見方・考え方を 問題解決型授業論 子どもや社会の問題を取り上げ, 初期社会科 育成社会科授業論 それを知的・実践的に解決させる 初志の会
ことを通して,知識・理解,態度, 目生連 能力が結びついた見方・考え方の など 育成
意思決定型授業論 社会的な論争問題を取り上げ,目 小原友行 的・目標を達成するためにもっと 今谷順重 も合理的な手段・方法を考えるこ など とによる見方・考え方の育成
(小原友行「社会的な見方・考え方を育成する社会科授業論の革新』,社会系教科教育学会『社会系教科教育学研究』
第10号,1998,pp.5−12を基に作成)
小原氏はこのように分類した後,21世紀における社会科の役割という観点から,次のよ
うな課題が残されているとしている2。・ 社会的な見方・考え方の育成には,「社会を知る」,「社会をわかる」,「社会に生きるjの3段階の見 方・考え方の育成が必要である。
・ 方法的(機能的)な見方・考え方の育成が十分に考慮されていない。
・ 社会的関係の中での相互作用を通して学ぶことによって,見方・考え方を発見・創造・転換・発展 させていくという観点がない。
「理解型」や「説明型」の授業論では「社会がわかる」に,「問題解決型」や「意思決定
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型」の授業論では「社会に生きる」に重点が置かれている傾向が見られる。そこで,それ ぞれ単独の授業論だけでは「社会を知る」,「社会をわかる」,「社会に生きる」といった,
全ての段階での見方・考え方の育成が確実に行えないと小原氏は述べている。また,「理解 型」や「説明型」の授業論においては,学習内容として習得する知識は,社会の変化の激 しい現代社会の中では,すぐに古くなるという問題点も指摘される。そこで,「社会を知る」,
「社会をわかる」,「社会に生きる」ために必要な社会的な見方・考え方を統一的に育成す ることができる授業論を構築し,社会を分からせるだけでなく,同時に社会で生きて働く 知識も学ぶことのできるようにすることが求められる3。
また,小原氏の分類した授業論は,すべて個人の中での社会的な見方・考え方の育成を 重視したものになっている。そこで,社会的関係の中での相互作用(コミュニケーション)
を通して,社会的な見方・考え方を育成していく必要があると小原氏は述べている。例え ば,学級集団による人間の社会的行為の評価を行う,討論による理論の発見・探究・検証 を行う,集団による解決策の吟味を行う,社会的合意を目指した決定と根拠付けを行うな どである。この点については,佐長健司氏も次のように述べている4。
(これまでの社会科授業論では)個人的な価値判断や意思決定の対象として私的に社会をとらえ,
その形成を図る市民の育成を行っているのである。(中略)学校教育においては,本来の社会について 学ぶ機会を提供するべきである。ここで言う本来の社会とは,私的領域とは区別された公的領域とし て形成される社会のことである。
以上の論から,地域学習においては,個人的なものではない,社会的な見方・考え方を 発見・創造・転換・発展させ,まちを総合的にとらえることができるような授業論が求め られる。そのためには,まちに存在する課題や将来的な動きを未来予測・価値判断するこ とのできる学習としていかなければならない。
②総合的な学習
総合的な学習においては伝統的な教科による知(科学知・内容知)だけでなく,機能的 学習観による臨床の知(経験知)を形成することを目指しているといえる。そこで,r生き
るカ」の形成を目指し,まちづくりの内容や子どもが参画する活動を組み込む学習が見ら
れるようになってきた。ところが,平山明彦氏が行った全国で総合的な学習等でビオトー
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プを行っている200校への聞き取り調査の結果からは,次のような問題点が明らかとなっ てくる。ここでは,Hartの「参画のはしご」を基に,子どもの参画の段階を判定している。
墾薗の段階 学校数(鮫) 参繭の段階 単校数(校)
7・8 段:階
1
5・6 澱:階 ユ94 段階 77 1・2・3段階 102
1汁 199
脇