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ドキュメント内 保健科学研究第1号 (ページ 88-95)

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図1 非抑うつ群と抑うつ群の MFS の比較

90 小 枝,澄 川,佐 藤,清 水,今 井

うつ群が3.6±2.8cmであり,抑うつ群の身体の痛みが 有意に強かった(p<0.01)。痛みの部位は,麻痺側の 肩周囲,両膝,背部,腰部周辺に見られたが,痛みの 訴えがあったものの中で両群間に一定の傾向はなかっ た。

4.非抑うつ群と抑うつ群のFIM得点の比較

 非抑うつ群と抑うつ群の FIM 得点の比較を図 3 に 示す。

 FIM の総得点は,非抑うつ群が121.0±3.6点,抑う つ群が83.9±18.2点であり,抑うつ群が有意に低かっ た(p<0.01)。FIM の運動項目得点は,非抑うつ群が 88.0±3.1点,抑うつ群が53.3±18.2点であり,抑うつ 群が有意に低かった(p<0.01)。FIM の認知項目得点 は,非抑うつ群が33.0±1.3点,抑うつ群が30.6±1.4点 であり,両群間に差はなかった。FIM の総得点での 2 群間の差は運動項目得点の差によるものであった。

 そこで,非抑うつ群と抑うつ群の FIM 運動項目の

各項目得点の比較を行なった。この結果を図 4 に示す。

 運動項目の各項目得点は,「食事」では非抑うつ群 が6.7±0.5点,抑うつ群が5.1±2.0点,「整容」では非 抑うつ群が7.0±0.0点,抑うつ群が5.4±1.5点,「清拭(入 浴)」では非抑うつ群が6.7±0.8点,抑うつ群が2.9±1.3 点,「更衣(上半身)」では非抑うつ群が7.0±0.0点,

抑うつ群が4.6±2.1点,「更衣(下半身)」では非抑う つ群が7.0±0.0点,抑うつ群が4.0±2.2点,「トイレ動作」

では非抑うつ群が7.0±0.0点,抑うつ群が4.9±2.0点,

「排尿コントロール」では非抑うつ群が6.3±0.5点,抑 うつ群が3.4±2.0点,「排便コントロール」では非抑う つ群が6.3±0.5点,抑うつ群が3.4±2.0点,「移乗(ベッ ド)」では非抑うつ群が7.0±0.0点,抑うつ群が5.3±1.1 点,「移乗(トイレ)」では非抑うつ群が6.9±0.4点,

抑うつ群が4.9±1.8点,「移乗(浴槽)」では非抑うつ 群が6.3±1.1点,抑うつ群が1.1±0.4点,「歩行・車椅 子」では非抑うつ群が6.9±0.4点,抑うつ群が4.9±1.9 点,「階段」では非抑うつ群が6.4±0.8点,抑うつ群が ᡃ៏䛷䛝䛺䛔

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図2 非抑うつ群と抑うつ群の身体の痛みの程度の比較

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ᚓⅬ 図3 非抑うつ群と抑うつ群の FIM 得点の比較

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2.3±1.6点であった。運動項目の各項目の中で抑うつ 群の得点が有意に低かった項目は,「清拭(入浴)」,

「排便コントロール」,「移乗(浴槽)」,「階段」の項目 であり(p<0.01),抑うつ群はこれらの項目の自立度 の低下がみられた。

5.非抑うつ群と抑うつ群の行動範囲,家族の面会頻 度の比較

 非抑うつ群と抑うつ群の行動範囲を図 5 ,家族の面 会頻度の比較を図 6 に示す。

 行動範囲の広さは,非抑うつ群では中央値が3.9点 であり病棟内から病院内程度の者が多かったのに対 し,抑うつ群では中央値が1.2点でありベッド周辺か ら病棟内程度の者が多く,抑うつ群の行動範囲は有意 に狭かった(p<0.01)。

 家族の面会頻度は,非抑うつ群では中央値が2.9点 であり週 2 − 3 回程度の者が多く,抑うつ群では中央 値が2.7点であり 2 − 3 ヶ月に 1 回から週 2 − 3 回程

度の者が多く,両群間に差はなかった。

6. 非抑うつ群と抑うつ群の SF-36 得点の比較  非抑うつ群と抑うつ群の SF-36 得点の比較を図 7 に示す。

 「身体機能」の項目では非抑うつ群が75.0±12.6点,

抑うつ群が10.7±14.0点,「日常役割機能(身体)」の 項目では非抑うつ群が50.0±21.3点,抑うつ群が5.4±

7.6点,「体の痛み」の項目では非抑うつ群が59.3±21.7 点,抑うつ群が44.2±36.1点,「全体的健康感」の項目 では非抑うつ群が48.6±10.9点,抑うつ群が34.6±22.8 点,「活力」の項目では非抑うつ群が59.8±21.0点,抑 うつ群が48.2±25.7点,「社会生活機能」の項目では非 抑うつ群が51.8±21.0点,抑うつ群が48.2±25.7点,「日 常役割機能(精神)」の項目では非抑うつ群が54.8±

28.8点,抑うつ群が13.1±19.8点,「心の健康」の項目 では非抑うつ群が70.0±17.8点,抑うつ群が48.6±31.1 点であった。SF-36 の下位項目で抑うつ群の得点が有 図4 非抑うつ群と抑うつ群の FIM 運動項目の各項目得点の比較

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図5 非抑うつ群と抑うつ群の行動範囲の比較

92 小 枝,澄 川,佐 藤,清 水,今 井

意に低かった項目は,「身体機能」と「日常役割機能(身 体)」の項目であった(p<0.01)。 

Ⅳ.考  察 1.PSD の原因について

 PSD は高頻度に発生するといわれている精神医学 的合併症であるが,報告者によってかなりの差が見ら れる。この差が見られる理由としては,対象患者が入 院患者か外来患者か,罹病期間,評価方法,評価基準,

家族との関係などの社会環境などに左右されるためで ある10)。本調査では,対象を入院患者とし,SDS の カットオフ点を基準として PSD と定めた。本研究で は PSD の発症率は50%であり,同様の設定である先 行研究とほぼ相違ない結果7)となり,本研究の設定 は妥当であったと考えられる。

 一般的に PSD の原因は脳の障害による器質性のも のと発症による急激な環境や身体症状の変化による心 因性のものであるといわれているものの,これらは明

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図6 非抑うつ群と抑うつ群の家族の面会頻度の比較

確に区分することができない4)。しかしながら,本調 査では発症後 2 ヶ月目の患者を対象者としたこと,対 象者の選定条件を満たした対象者は比較的軽度の障害 であり,自己の状況を認知できることから考えると,

心因性のものの割合が高いと捉えるのが妥当であると 考えられる。

 心因性の PSD の引き金となる症状は,運動麻痺2), 身体の痛み11,12),日常生活に介助を要する13,14),社会 とのつながりが希薄である15,16)とされている。本調 査においても抑うつ群に MFS・FIM 得点の低下,痛 みの程度が強い,行動範囲が狭く人と触れ合いにくい という同様の傾向が見られた。しかしながら,各項目 について詳細に見ると,FIM 得点については抑うつ 群で「清拭(入浴)」,「排便コントロール」,「移乗(浴 槽)」など衣類の着脱があり介助の際に羞恥心を伴う 項目で減点が大きかったという特徴が見られた。また,

社会とのつながりは,家族の面会頻度のような受動的 な社会とのつながりを示す項目では両群に得点差がな 図7 非抑うつ群と抑うつ群の SF-36 得点の比較

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かったのに対し,行動範囲のような積極的な社会との つながりを示す項目では抑うつ群で得点が低かったと いう特徴が見られた。以上のことから,PSD の原因は,

運動麻痺や痛みといった身体機能の喪失感,衣類の着 脱がある ADL 能力の低下による介助時の羞恥心,行 動範囲の狭小による積極的な社会との関わりの減少で ある可能性が示唆された。

2.PSD の HRQOL への影響

 PSD はリハビリテーション治療に弊害をもたらし,

HRQOL の低下を招くことが知られている2,17,18)。し かし,PSD が HRQOL を構成するどの領域に低下を きたすのかはあまり論じられていない。本研究で用い た SF-36 は,HRQOL に含まれるさまざまな領域を多 面的に評価することができるプロファイル型の評価尺 度である9)。SF-36 は,様々な疾患に用いられており,

脳卒中においてもその有用性が立証されている19)。そ のため,本研究では SF-36 を用いて PSD が HRQOL を構成するどの領域に低下をきたすのか検討した。

 本研究の結果,抑うつ群は身体機能と日常役割機能

(身体)の下位尺度の得点が低かった。これらの下位 尺度の得点低下は,身体機能では「健康上の理由で入 浴,または着替えなどの活動を自力で行うことが難し い」,日常役割機能(身体)では「仕事や普段の活動 をしたときに身体的な理由で問題があった」と一般的 に解釈される9)。つまり,PSD があると,日常生活 に対する領域の HRQOL が低下する可能性が高いこ とが示唆された。このことから考えると,PSD 患者 の HRQOL の改善のためには日常生活の活動制限の 基盤となる運動麻痺や痛み,ADL 能力の改善が極め て重要な因子であると考えられる。

3.PSD 患者へのリハビリテーション

 本研究の結果,抑うつ症状を呈したものは,運動麻 痺や痛み,衣類の着脱がある ADL 能力の低下,行動 範囲の狭小による社会との関わりの減少があるという 特徴があった。このことから,PSD 患者にリハビリ テーション治療の方針を考えると,運動麻痺や痛みな どの身体機能の向上により身体機能の喪失感に対し働 きかけること,行動範囲の拡大を図ることにより社会 と関わる機会を増やすこと,入浴時の清拭や移乗,排 便コントロールといった介助の際に羞恥心を伴いやす い ADL 能力を向上させることが,日常生活に関する HRQOL 向上に有効であることが示唆された。

4.今後の研究について

 PSD の治療法は未だ不明確であるものの,岡崎ら4)

が PSD 患者へのリハビリテーション治療において,

患者の精神的負荷となることは避け,廃用を進めない ように関節可動域訓練などの受身な訓練を中心に治療 を進めた結果, 9 週目以降に PSD 症状が軽減してき たという結果を得ている。このように,いくつかの症 例報告によりリハビリテーションが PSD に対して効 果があることや薬物療法のように副作用がないことか ら,リハビリテーション治療が PSD 治療の第一選択 肢として有効であることが示唆されている4)。しかし,

PSD に関係する脳卒中関連症状が明らかになってい ないため,現在の知見では明確な臨床的意思決定がで きない。そのため,本研究では PSD を呈する患者の 脳卒中関連症状や HRQOL の特徴を知り,PSD に対 するリハビリテーションについて検討することを目標 に調査を行った。しかしながら,今回調査可能であっ た症例数は14名であり,その特徴を抽出するには少な い。PSD に関する先行研究においては100名を超える 症例数から検討されている20)。そのため,今後は調査 を進めて症例数を増やすことにより,さらに有益な情 報が得られると考える。また,本研究では,男女差は ついては考慮に入れていないことから,性差も考慮に 入れて調査・検討を続けていくことも必要であると考 える。

Ⅴ.ま と め

1 .PSD 患者のリハビリテーションについて,どの ような点に目標をもって治療を行うのが効果的な のか,その効果はどのような所に現れるのかを 知るため,PSD の有無により脳卒中関連症状や HRQOL の特徴を比較検討した。

2 .抑うつ群に MFS と FIM 得点の低下,痛みの程 度が強い,行動範囲が狭いという同様の傾向が見 られた。特に FIM 得点については,「清拭(入浴)」,

「排便コントロール」,「移乗(浴槽)」などの衣類 の着脱があり,介助の際に羞恥心がある項目での 減点が大きかった。

3 .抑うつ群は身体機能や日常役割機能(身体)と いった日常生活に関する下位尺度に低下が生じて いた。

4 .PSD 患者のリハビリテーション治療は,運動麻 痺や痛みなどの身体機能の向上と行動範囲の拡大 を図り,積極的に社会と関わる機会を増やすとと もに,入浴や排便コントロールなど衣類の着脱が あり,介助の際に羞恥心がある項目への介入が,

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