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キセノン光の星状神経節近傍照射が自律神経活動動態 および末梢循環動態に及ぼす影響

ドキュメント内 保健科学研究第1号 (ページ 56-59)

吉 田 英 樹

*1

 傳法谷 敏 光

*2

 永 田 順 也

*3

成 田 大 一

*4

 若 山 佐 一

*4

(2010 年 9 月 30 日受付,2010 年 12 月 14 日受理)

要旨:本研究の目的は,キセノン光の星状神経節近傍照射(Xe-SGI)が自律神経活動動態およ び末梢循環動態に及ぼす影響を検討することであった。健常例60例を対象として,1)安静仰臥 位での10分間の Xe-SGI と,2)Xe-SGI を伴わない10分間の安静仰臥位保持(コントロール)の 二つの実験を実施した。検討項目は,Xe-SGI およびコントロール前後での自律神経活動動態の 指標である心拍変動周波数成分と Xe-SGI およびコントロール実施中の末梢循環動態の指標であ る四肢末梢皮膚温とした。結果,心拍変動周波数成分は,Xe-SGI 前後でのみ有意な変化が認め られた。また,四肢末梢皮膚温は,Xe-SGI 実施中は明らかな変化が認められず一定に保たれたが,

コントロール実施中は時間経過に伴う有意な低下が認められた。以上から,Xe-SGI は,自律神 経活動の変容に加えて四肢の末梢循環を促進させる可能性が示唆された。

キーワード:キセノン光,星状神経節,自律神経活動,末梢循環

*1弘前大学大学院保健学研究科保健学専攻健康支援科学 領域健康増進科学分野

〒036-8564 弘前市本町66-1

*2青森労災病院リハビリテーション科

*3函館五稜郭病院リハビリテーション科

*4弘前大学大学院保健学研究科保健学専攻健康支援科学 領域老年保健学分野

はじめに

 星状神経節ブロック(stellate ganglion block:以下,

SGB)は,上肢や頭部領域の交感神経支配を司る星状 神経節(stellate  ganglion:以下,SG)近傍へ局所麻 酔薬を注射することでSG機能を抑制する治療法であ り,慢性疼痛に対する有効な治療手段の一つとなって いる1,2)。SGB により慢性疼痛が緩和される機序は,

SGB により交感神経節である SG 機能が抑制されるこ とで末梢血管が拡張し,末梢循環が促進された結果,

慢性疼痛の原因である bradykinin 等の発痛物質が効 果的に除去されるというものである3)。しかし,SGB は,熟練した医師が実施してもショックや呼吸停止等 の重篤な副作用を伴う危険性が指摘されている4)。  近年,キセノン(以下,Xe)光の SG 近傍照射が注 目されている。Xe 光は,希ガスである Xe を高電圧で 励起して放射された光であり,生体深達性の高い近赤 外線を豊富に含んでいる5−7)。Xe 光の SG 近傍照射 に関する先行研究では,SGB で問題となる重篤な副

作用を伴うことなく,SGB に類似した治療効果,す なわち,Xe 光による SG 機能抑制に起因すると考え られる慢性疼痛軽減効果が報告されている6,8)。しか し,Xe 光の SG 近傍照射の疼痛軽減効果を論ずる際 に基盤となるべき自律神経活動動態の変化および自律 神経活動動態の変化に基づいた末梢循環動態の変化に ついては,未だ明確なエビデンスが提示されていない 状況にある5−8)。今後,Xe 光の SG 近傍照射に関す る臨床的なエビデンスを確立するためにも,先ずは健 常者を対象として,Xe 光の SG 近傍照射に伴う自律 神経活動動態の変化および自律神経活動動態の変化に 基づいた末梢循環動態の変化に関するエビデンスを構 築することが急務であると考える。

 以上から,本研究では,Xe 光の SG 近傍照射が自 律神経活動動態および末梢循環動態にどのような影響 を及ぼし得るのか検討することを目的とした。

対  象

 対象は,本研究への参加に書面による同意の得られ

56 吉 田,傳法谷,永 田,成 田,若 山

た健常例60例(女性23例,男性37例,年齢23.5±3.9歳)

とした。なお,本研究は,弘前大学大学院医学研究科 倫理委員会の承認を受けた。

方   法 1 .実験方法

 全対象者に対して,以下に述べる 2 つの実験(実験 1 および 2 )が実施された。以下に実験内容の詳細を 述べる。

 実験 1 :対象者は,心拍(R-R 間隔)変動(heart  rate  variability:以下,HRV)の測定が可能な心拍 計(RS800,Polar  Electro)を胸部に装着した後,自 律神経活動安定化のためにベッド上での安静仰臥位を 15分間保持した(以下,馴化時間)。馴化時間終了後,

同一肢位を保った対象者の両側の SG 近傍の皮膚表面 に Xe 光治療器(EXCEL-Xe,日本医広)の照射プロー ブを設置し,Xe 光を照射した(以下,Xe-SGI)(図 1 )。

Xe 光の照射条件は,Xe 光治療器の設定に従った。す なわち,Xe 光の照射時間は10分とし,Xe 光の発光 間隔は最初の 1 分間は 1 秒に 1 回,それ以降は3.5秒 に 1 回の発光とし, 1 回の発光時間および発光エネル ギーはそれぞれ 5 msec,18Wとした。なお,対象者 は,馴化時間開始から Xe-SGI の終了までの間,覚醒 状態を維持した。馴化時間および Xe-SGI 中の自律神 経活動動態および末梢循環動態と関連した測定項目と しては,それぞれ HRV9,10)と四肢末梢皮膚温5,11)を採 用した。HRV の測定は,馴化時間開始時より Xe-SGI 終了時まで連続で実施した。四肢末梢皮膚温の測定は,

測定部位を左右の第三指手掌側および第三趾足底側の

遠位指節間関節中央部とし,放射温度計(Fluke-572,

Fluke  Corporation)を用いて実施した。なお,四肢 末梢皮膚温の測定は,馴化時間中は馴化時間終了時に 実施し,Xe-SGI 実施中は Xe-SGI 開始時から終了時ま で 1 分間隔で実施した。

 実験 2 :対象者は,実験 1 と同様に心拍計装着下に て馴化時間を過ごした後,Xe-SGI に対するコントロー ルとして,Xe 光治療器の照射プローブを設置するこ となく Xe-SGI を伴わない馴化時間中と同一の安静仰 臥位を10分間保持した(以下,コントロール)。なお,

対象者は,馴化時間開始からコントロール終了までの 間,覚醒状態を維持した。また,馴化時間およびコン トロール中の自律神経活動動態および末梢循環動態指 標に関する測定方法は,実験 1 の場合と同様とした。

 各実験の実施順序については,対象者ごとに無作為 に決定された。各実験において,より信頼性の高い データを測定するために,全ての実験は室温が一定

(約25℃)に保たれた同一の実験室で実施され,各実 験の実施時間帯も対象者ごとに同一となるよう設定さ れた。さらに,前に実施された実験の影響を排除する ために,各実験の実施には24時間以上の間隔が空けら れた。加えて,対象者は,実験実施日に体調不良を自 覚している場合は事前に申し出ることとし,この場合 は実験の実施を24時間後以降に延期することとした。

また,対象者は,各実験の開始12時間前より自律神経 活動に影響を与える可能性のある薬物の服用や飲食物

(アルコール,カフェイン等)の摂取を控えるよう指 示された。

図1 Xe-SGI 実施場面

2 .データ分析方法

 各実験で測定された HRV に関する分析では,各実 験の馴化時間終了前 2 分間(以下,馴化時間終了時)

と実験 1 のXe-SGI 終了前 2 分間(以下,Xe-SGI 終了 時),さらに実験 2 のコントロール終了前 2 分間(以下,

コントロール終了時)の HRV データを心拍計に付属 の 解 析 ソ フ ト(Polar  ProTrainer  5,Polar  Electro)

を用いて周波数解析し,高周波成分(high  frequency  component:以下,HF:0.15〜0.40Hz)および低周波 成分(low  frequency  component:以下,LF:0.04〜

0.15Hz)と HF の比(以下,LF/HF,単位:%)を算 出した。なお,HF および LF/HF は,それぞれ副交 感神経および交感神経の活動状態を反映する指標とし て広く認識されている9,10)。すなわち,何らかの介入 前と比較して介入後に HF が増加した場合は,介入に より副交感神経活動が亢進したと判断される。同様に,

何らかの介入前と比較して介入後に LF/HF が減少し た場合は,介入により交感神経活動が抑制されたと判 断される。統計学的分析では,実験 1 の馴化時間終了 時における HF および LF/HF と Xe-SGI 終了時にお ける HF および LF/HF,さらに実験 2 の馴化時間終 了時における HF および LF/HF とコントロール終了 時における HF および LF/HF を Wilcoxon の符号付 順位検定を用いて比較した。

 各実験で測定された四肢末梢皮膚温に関する分析で は,各対象者において各実験の馴化時間終了時に測定 された四肢末梢皮膚温の値をベースライン値とした。

その上で,Xe-SGI およびコントロール実施中に 1 分 間隔で測定された四肢末梢皮膚温の値を対応するベー

スライン値からの変化量(以下,相対皮膚温)に換算し,

その後の統計学的分析に用いた。なお,四肢末梢皮膚 温は,四肢末梢の循環動態を反映する指標として広く 認識されている5,11)。すなわち,何らかの介入前と比 較して介入後に四肢末梢皮膚温が上昇した場合は,介 入により四肢末梢の循環血液量が増加したと判断され る。一方,何らかの介入前と比較して介入後に四肢末 梢皮膚温が低下した場合は,介入により四肢末梢の循 環血液量が減少したと判断される。統計学的分析では,

Xe-SGI およびコントロール実施中に 1 分間隔で測定 された四肢末梢相対皮膚温について,上肢および下肢 ごとに全対象者60例120肢分の平均値を算出した。そ の上で,Xe-SGI およびコントロール実施中に 1 分間 隔で測定された上肢および下肢相対皮膚温のベースラ イン値からの経時的変化を Dunnett の多重比較検定 を用いて検討した。

 全ての統計学的分析は,PASW  Statistics  18.0  for  Windows を用いて実施された。検定は両側検定とし,

有意水準は 5 %未満とした。

結  果

 本研究に起因した事故や副作用の発生は,全対象者 において皆無であった。

1 .HF および LF/HF の結果

 実験 1 の馴化時間終了時と Xe-SGI 終了時および実 験 2 の馴化時間終了時とコントロール終了時に算出さ れ た HF と LF/HF の 値( 中 央 値:[25%点,  75%点 ])

を図 2 および図 3 に示す。

  実 験 1 で は, 馴 化 終 了 時 で の HF(403.1:[170.0,  図2 各実験での HF の変化

**

2500

ms2) 2000

HF (m

1000

500

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