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ドキュメント内 保健科学研究第1号 (ページ 122-129)

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図1 実験の概略

127 内的動機づけの視覚記憶の固定の促進効果について

た。本研究では 6 段の「ハノイの塔」を用いて実験を 行った。実験で使用した「ハノイの塔」プログラムの 画面を図 2 に示す。このプログラムを使用し,右側の 杭に円盤をすべて移動させ終わるまでに要した円盤の 移動回数を記録した。

3 )学習方法の違い

 本研究では 2 種類の異なる条件での解法の学習を 行った。条件①:試行錯誤をせず最短の解き方を提示 すること(以下,解法提示)のみを 3 回繰り返す,条 件②:「ハノイの塔」を試行錯誤して行い,その後解 法提示を行い,これを 3 回繰り返す,の 2 条件である。

条件①で試行した群をⅠ群,条件②で試行した群をⅡ 群とした。また,試行錯誤を繰り返すのみの条件をコ ントロール群として設定した。

 解法提示はマイクロソフト社のパワーポイントで作 製したプレゼンテーションを用いた。解法の提示の際 には解法を覚えるように対象者に伝えた。学習期間中 の各試行においては,対象者の疲労がないことを確認 し行った。

4 )実験手続き

 弘前大学大学院保健学研究科内のシールドルームを

実験室として使用し,室温を対象者が適温(22℃〜

26℃)と感じる温度に設定した。実験室入室後,実験 者が対象者に課題およびプログラムの使用方法につい ても説明を行った。説明と同時に 3 段のハノイの塔プ ログラムを使用した説明を行った。課題説明後,対象 者は学習前の状態でのハノイの塔を行い,試行終了後 に学習前の移動回数を記録した,対象者の疲労がない ことを確認し,前述の 3 群に無作為に分類し学習期間 を設けた。学習期間後に,再度ハノイの塔を実施し,

その際の移動回数を記録した。

5 )フロー質問紙

 作業活動中のフロー状態の測定は,フロー質問紙を 用いて行った。これは,石井らの先行研究で使用した もの参考に作成した11)。実験で用いたフロー質問紙を 図 3 に掲載する。この質問紙は,自己記入方式で,個 人のフロー状態を示す基準として,その活動に参加し ていたときの状態や気分を問う22項目から構成されて いる。各質問項目は質問項目 1 〜 5 までは「全くあて はまらない」を「 1 」,「とてもよくあてはまる」を

「 7 」とした 1 〜 7 段階で採点する。質問項目 6 〜22 までは最左列を「 7 」,最右列を「 1 」とした 1 〜 7 段階で採点する。得点範囲は22点〜154点あり,これ 図2 実験に用いた「ハノイの塔プログラム」

をフロー得点とした。これは,高得点ほどフロー状態 を示すものである。

 Ⅰ群およびⅡ群の対象者に,学習前のハノイの塔実 施後,学習後のハノイの塔実施後にフロー質問紙を渡 し,作業遂行中のフローについて記入を行ってもらっ

た。

6 )解析

 データの解析には SPSS  Statistics を使用した。各 データについて,正規性の有無の確認をした。その後,

図3 フロー質問紙

129 内的動機づけの視覚記憶の固定の促進効果について

移動回数については,学習前後の比較には Wilcoxon の符号付順位和検定,群間の比較には Mann-Whitney のU検定を行った。フロー得点については,学習前後 の比較には,対応のあるt検定,群間の比較には対応 のないt検定を行った。有意水準は p<0.05 をもって 有意差ありとした。

Ⅲ.結  果 1 )移動回数の比較

 学習前と学習後の移動回数の比較を図 4 に示す。Ⅰ 群は,学習前に比べ学習後に移動回数に有意な差が認 められなかった。Ⅱ群は学習前に比べ学習後は有意に 移動回数が減少していた(p<0.01)。 また,コントロー ル群においても学習後は移動回数が有意に減少してい た(p<0.01)。

 次に学習前,学習後の各群間の比較を図 5 に示す。

図 5 上段が学習前の各群間の移動回数の比較を表し,

図 5 下段が学習後の各群間の移動回数の比較を表す。

学習前の比較では,各群間において移動回数に有意な 差は認められなかった。学習後の比較ではⅠ群にくら

べ,Ⅱ群は有意に移動回数が減少していた(p<0.01)。

また,Ⅱ群ではコントロール群と比較しても学習後の 移動回数が有意に少なかった(p<0.05)。

2 )課題遂行中のフローの比較

 学習前と学習後の「ハノイの塔」作業活動中のフ ロー得点について表 1 に示す。まず,学習前のフロー 得点の比較をする。学習前のフロー得点の比較では,

両群間に有意な差は認められなかった。学習後のフ ロー得点の比較では,Ⅰ群に比べ,Ⅱ群のフロー得点 が高い傾向が見られた(p<0.1)。

 次に各群における学習前後のフロー得点の比較をす る。Ⅰ群では,学習前後で作業活動中のフロー得点に 有意差は認められなかった。しかし,Ⅱ群では学習 前に比べ学習後は有意にフロー得点が上昇していた

(p<0.05)。

Ⅳ.考  察

 本研究では,課題を遂行中の内的動機付けとしての フローと視覚情報の記憶との関連について検討した。

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図4 学習前後の移動回数の比較

( 1 )視覚情報の提示のみと試行錯誤の繰り返しの学 習効果について

 試行錯誤を繰り返すことによる学習効果について,

多くの先行報告がなされている。本研究においては,

試行錯誤を繰り返したⅡ群およびコントロール群にお

いては,先行研究同様,学習効果が認められた。しか し,視覚情報の提示のみであった,Ⅰ群においては,

学習効果が認められなかった。

 本研究において,ハノイの塔を最短の解法で行うと 63回円盤を移動することになる。視覚的情報のみを記

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図5 学習前および学習後の移動回数の群間の比較

131 内的動機づけの視覚記憶の固定の促進効果について

憶する解法提示のみを行ったⅠ群においては63回の手 順を記憶する必要がある。Miller,G.A. はさまざまな視 覚入力の短期記憶要容量が 7 ± 2 程度であると報告し ている16)。本研究において,解法提示のみを行ったⅠ 群では,対象者の記憶できる容量を超えていたため,

Ⅰ群においては学習効果が認められなかったものと考 える。

( 2 )学習の前後のフローの変化について 

 知的な活動の反復して行った際の心理状態として,

永岑らは,暗算課題の反復試行において課題の正解率 の向上や,心理面での緊張感の減少が認められるとし ている17)。また,Csikszentmihalyi はフローが得やす い作業活動の条件として,作業遂行中に予測と法則が 認識できるような明確な目的があること,専念と集中 などを挙げている5)。本研究において,Ⅱ群では,反 復試行をすることで緊張感が減少し,加えて,解法提 示により,課題への見通しが立ちやすくなり,フロー が得られやすくなったものと考える。また,Ⅰ群にお いては視覚情報の提示のみでは学習後もフローが変化 していないことから,単に解法を提示するよりも,対 象者自身が試行錯誤を繰り返し,課題に取り組むこと がフローの獲得に重要であるといえる。

( 3 )課題遂行中のフローが視覚情報の理解に及ぼす 影響について

 Ⅱ群においては作業活動中にフローを体験すること で,視覚情報の理解が促進されたものと考えられる。

視覚情報の理解が促進されたことにより,コントロー ル群よりも学習効果が高まったものと考えられる。こ のように,作業活動中にフローを得ることは,作業活 動に関する視覚的情報の理解を促進し視覚記憶を高 め,学習効果をより高めるものと考えられる。

( 4 )本研究の限界

 本研究では,作業活動に対してフローを得ている場 合において,解放提示の視覚情報の理解が促され学習 効果が向上することが考えられた。実際の臨床場面に おいては学習した成果を保持し再生することが求めら

れる。同日内での学習だけではなく,記憶の保持に着 目し,学習条件の違いによる学習した事項の保持およ び再生についても,今後検討する必要があると考える。

Ⅴ.ま と め

1 .手順を学習する過程において,内的動機づけとし てのフローが学習効果に与える影響について検討し た。

2 .視覚情報のみの提示では作業活動に対してのフ ローが得られておらず,試行錯誤を繰り返した場合 には作業活動に対してよりフローを得ていた。

3 .試行錯誤を繰り返すことにより,課題遂行中にフ ローが得られ,それに伴い視覚情報の記憶が促され,

学習効果が促進されるものと考えられた。

謝  辞

 最後に,本研究にご協力いただいた被験者の皆様に 深く感謝いたします。

文  献

  1)  Hajime  Shirouzu,  Naomi  Miyake:  Teaching  Cognitive  Science  Based  on  Cognitive  Science: 

A  Case  of  Learning  the  Concept  of  “Schema”  .  Cognitive Studies, 16: 348-376, 2009.

  2)  三宅なほみ:協調的な科学教育  −“学びのプロセス”

の科学から−.科学 vol80(5):537-40,2010.

  3)  Cohen  NJ,  Eichenbaum  H,  Deacedo  B,  Corkin  S: 

Different  memory  systems  underlying  acquisition  of  procedural  and  declarative  knowledge.  Ann  NY  Acad Sci, 444:54-71, 1985.

  4)  Saint-Cyr  JA,  Taylor  AE,  Lang  AE:  Procedural  learning and neostriatal dysfunction in man. Brain,  111: 941-959, 1988.

  5)  Csikszentmihalyi,  M(今村浩明・訳):フロー体験

―喜びの現象学―.世界思想社,1996.

  6)  谷木龍男,坂入洋右:ポジティブなスポーツ体験に 関わる心理的要因−スポーツ中の主観的覚醒とフ 表1 作業活動中のフロー得点の比較

Ⅰ群 Ⅱ群

学習前 91.1 ± 17.0 95.9 ± 13.0 学習後 90.1 ± 17.1 108.6 ± 20.9 値は平均値±標準偏差

学習前後の比較は対応のあるt検定,群間の比較は対応のないt検定

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ドキュメント内 保健科学研究第1号 (ページ 122-129)