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Acanthamoeba  spp.の研究

ドキュメント内 保健科学研究第1号 (ページ 141-149)

―青森県弘前市における Acanthamoeba  spp.の棲息調査と感染能―

櫻 庭 理 絵

*1

 田 中 謙 次

*2

 熊 谷 正 広

*3

木 田 和 幸

*4

 稲 葉 孝 志

*5

(2010 年 9 月 30 日受付,2010 年 12 月 14 日受理)

要旨:アカントアメーバはヒトの生活環境下に密接な土壌・淡水・海水などに広く分布してお り,近年,アメーバ性髄膜脳炎や角膜炎の原因として注目されている。そこで,青森県弘前市 の児童公園に設置する砂場の砂,家屋室内塵,コンタクトレンズ及びその洗浄保存液の棲息調 査を行ったところ,公園67ヶ所から採取した砂68検体中66検体(97.1%),及び,室内塵では10 検体全てからアメーバが検出された。検出したアメーバは Pussard  &  Pons の方法に則り 3 タ イプに分類した。コンタクトレンズ 9 検体及び洗浄保存液38検体からは検出されなかった。更 に,分離したアメーバの無菌培養を試み,C.B-17/scid マウスへ感染実験を行ったところ,感染 マウスは神経症状を呈して斃死した。剖検により,アメーバの脳への侵入が高率に認められた。

今回の研究により,砂から分離したアカントアメーバは免疫不全者に対する感染リスクが示唆 された。

キーワード:アカントアメーバ,アメーバ性肉芽腫性脳炎,アカントアメーバ性角膜炎,

      児童公園砂場,室内塵

*1弘前大学大学院保健学研究科生体機能科学領域

  病態解析科学分野

〒036-8564 弘前市本町66-1

*2株式会社岸本医科学研究所札幌ラボ

*3東京慈恵会医科大学熱帯医学講座

*4弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域

  健康増進科学分野

*5弘前大学大学院保健学研究科医療生命科学領域

  病態解析科学分野

Ⅰ.はじめに

 アメーバ類は非常に多種の存在が明らかにされてお り,なかでもヒトに病原性を持つアメーバ類として古 くから知られているものに

Entamoeba  histolytica

が ある。

E. histolytica

はアメーバ赤痢の原因となる病原 体であり,患者の粘液血性便から発見されたのは1875 年の Losch による報告が初めてであったが,このア メーバによると思われる疾患は紀元前から存在が知ら れていた1)。しかし,近年,土壌や海水などの自然環 境下に多数存在し,以前は非病原性と考えられていた 自由生活性アメーバの中で,ヒトに感染してアメーバ 性髄膜脳炎や皮膚アメーバ症,また,アメーバ性角膜 炎を惹起する種類の存在が明らかにされ,なかでも,

Acanthamoeba

  spp., 

Naegleria  fowleri

Balamuthia  mandrillaris

Sappinia  diploidea

などの症例が世界各

地から報告されている2),3)。この,病原性を有する アメーバの種類は今後も更に増えていく事が予想さ れる。アメーバ性髄膜脳炎は,病理学的に

N.  fowleri

に よ る 原 発 性アメーバ性髄 膜 脳炎(PAM:  primary  amoebic meningoencephalitis),及び,

Acanthamoeba

  spp.,

B.  mandrillaris

によるアメーバ性肉芽腫性脳炎

(GAE:  granulomatous  amoebic  encephalitis)に分け られる。PAM は急性で劇症型の疾病であり,40〜

45℃の水温を好む

N.  fowleri

を病原体とするが4),淡 水や汚染されたプールで泳いだり潜ったりした際にア メーバが鼻腔から侵入する事でも感染する。また,ま れに汚染された浴槽水からの感染の報告もある。脳の 嗅球部ではアメーバは急速に分裂し, 7 〜10日以内で 死に至る。免疫機能が正常な健常者にも感染のリス クがある2)。対して,GAE は慢性で進行性の疾病で,

これらのアメーバの CNS(central  nervous  system)

への侵入経路には,嗅神経上皮からによるものと,経 皮や経肺感染などの血行性によるものが推測されて いる5)

Acanthamoeba

  spp.は

N.  fowleri

よりも増殖 速度が遅いため,慢性肉芽腫性炎症反応が引き起こ されるとの報告もある3)。一般に

Acanthamoeba

 spp.

を病原体とする GAE は HIV や糖尿病患者,臓器移 植や抗癌化学療法による免疫抑制患者,薬物中毒患者 などの免疫機能が正常でない易感染者に関与する疾患 である。一方,

B.  mandrillaris

によるものは健常者に も感染の可能性がある2)。これらのアメーバ性髄膜脳 炎は診断法や治療法が確立されていない事から症例の 多くが死亡例であり,国内では1979年にアメーバ性脳 炎症例が報告されて以来,1998年までに 6 例の発生 がみられている6),7)。アメーバ性角膜炎は症例のほ とんどが

Acanthamoeba

  spp.によるものであり,主 にソフトコンタクトレンズの使用や角膜の外傷が感染 リスクとなる。難治性で予後不良であり,迅速に治 療が行われない場合,失明の危険がある2,3)。国内で は1988年に第 1 例が報告されて以来8)年々増加して おり,症例が各地で頻発している9−11)。青森県内で も

Acanthamoeba

 spp.を起因とする角膜炎が1998年12)

と2004年に報告された。自由生活性アメーバの中でも

Acanthamoeba

  spp.は,ヒトの生活環境下に密接な土 壌・淡水・海水などに広く分布し,ヒトへの曝露の危 険性が高いと言える。また,

Acanthamoeba

  spp.はラ イフサイクルに栄養型(trophozoite)と嚢子(cyst)

の 2 つのステージを持っている。栄養型は分裂体で あり,嚢子は休止期にみられる2,3)

Acanthamoeba

  spp.は自然環境中においてこの嚢子を形成する事で低 温や乾燥に抵抗し,長期間に渡り生存している事が推 測される。寒冷地の青森県においても

Acanthamoeba

  spp.による角膜炎が報告されているにも関わらず,東 北地方での

Acanthamoeba

  spp.の棲息状況に関する 報告が無い事から,本研究では,北東北の青森県弘前 市内児童公園の砂場の砂68検体,また,家屋室内塵10 検体,コンタクトレンズ 9 検体及びその洗浄保存液38 検体を対象として

Acanthamoeba

  spp.の棲息調査及 び分離を試みた。検出されたアメーバは嚢子の形態学 的特徴により 3 タイプに分類した。更に,分離された アメーバを用いて T,B 細胞の機能不全である C.B-17/

scid マウスへ感染実験を行い,自然環境中に棲息する

Acanthamoeba

 spp.の感染能について検討した。

Ⅱ.材料と方法 1 .材料

( 1 )砂検体

 青森県弘前市内児童公園67ヶ所に設置された砂場か ら68検体の砂を採集した。採集するにあたり,事前に 弘前市公園緑地課に砂場の砂を採集する事の承諾を得 た。検体は深さ約20 cm の砂場中央の砂を50 ml の滅 菌コニカルチューブに採取し,乾燥防止のため密封し た。採取した検体は使用時まで4℃に保存した。

( 2 )家屋室内塵

 弘前市居住者10世帯の土足で汚染されない住居内塵 を各自宅の電気掃除機で吸引したものを検体とした。

採取した室内塵は撹拌し,篩を通して落下した細塵を 用いた13)

( 3 )コンタクトレンズ及び洗浄保存液

 東北地方に居住するコンタクトレンズ使用者を対象 とし,使用済みコンタクトレンズと使用済みコンタク トレンズ洗浄保存液をケースに入れたまま回収した。

回収した洗浄保存液は3000  r.p.m.,10分間遠心し,沈 渣100 µl を用いた。

( 4 )実験動物

  6 〜10週齢の T , B 細胞の機能不全である C.B-17/

lcr-

scid/scid

Jcl(以下 C.B-17/scid マウス)を使用した。

実験は,弘前大学実験動物に関するガイドラインを遵 守し行った。

( 5 )培養試薬類

①KCM 溶液(アメーバ用塩類溶液)

 KCl( 和 光 純 薬 )0.7 g,CaCl( 和 光 純 薬 )0.8  g,2

MgSO4-7H2O(和光純薬)0.8 g を蒸留水で1000 ml に メスアップし,オートクレーブで滅菌処理したものを 原液とし,冷蔵保存した。使用時にその原液を100倍 希釈し,オートクレーブで滅菌処理した14)

②1.5% NN 寒天培地

 KCM 溶液100 ml に Bacto agar(Difco)1.5 g を溶解 し,オートクレーブで滅菌処理した。滅菌後,直径 9   cm の滅菌プラスチックシャーレに 8 ml 流し込み(厚 さ約 2 〜 3 mm となるように),寒天培地を作製した15)。  抗生剤を加える場合は,ミコナゾール硝酸塩(和 光純薬)0.01  g を N-N ジメチルホルムアミド(和光純 薬)1 ml で溶解し,KCM 溶液 9 ml を加えて濃度1000  µg/ml とし,KCM 溶液で希釈して濃度62.5 µg/ml と した。このミコナゾール硝酸塩62.5 µg/ml を培地:ミ コナゾール硝酸塩= 9:1 となるように加えた。ミコナ ゾール硝酸塩の濃度は,真菌の発育を極力抑え,また,

アメーバの発育には影響を及ぼさない濃度にした。

③大腸菌液

Acanthamoeba

  spp.は各種細菌や乾燥イーストなど を餌として捕食し,食作用により体内消化する事が 知られている16)。そこで本研究ではアメーバの餌とな

Acanthamoeba spp.の研究―青森県弘前市におけるAcanthamoeba spp.の棲息調査と感染能― 149

る大腸菌液を作製した。5 ml の KCM 溶液中に大腸菌

(DH 5 α株)を McFarland  No.1 の濁度になるように 調製した。それを60℃, 1 時間熱処理し,大腸菌液と した。1.5% NN 寒天培地上に大腸菌液250 µl 滴下し,

滅菌コンラージ棒で一面に塗り,乾燥させて用いた。

④PYG 液体培地

 K2HPO(和光純薬)4 0.522 g,KH2PO(和光純薬)4 0.408  g を 蒸 留 水 で600  ml に メ ス ア ッ プ し, 5 mM  K2H/

KH2PO4とした。この 5 mM  K2H/KH2PO4約300  mlに Glucose(和光純薬)7.5  g を溶解させ,残りの 5 mM  K2H/KH2PO4と共にオートクレーブで滅菌処理した。

滅菌後,Glucose を溶解した溶液に Proteose  peptone

(Difco)3.75 g,Yeast extract(Difco)3.75 g を溶解し,

5 mM  K2H/KH2PO4で500  ml にメスアップしてよく撹 拌した。これを濾過滅菌し,PYG 液体培地とした17)。  抗生剤を加える場合は,ペニシリン G カリウム(明 治製菓)500  U/ml,硫酸ストレプトマイシン(明治製 菓)50  µl/ml を加えた。どちらも PBS(pH7.3)に溶 解して用いた18)

2 .方法

( 1 )アメーバの検出と分離培養

①検体からのアメーバの検出

 採取した砂は汚染が著しいため,細菌や真菌の混入 を抑える目的で抗生剤を用いた。コニカルチューブ に砂約 5 g を入れ,KCM 溶液20 ml を加えて混和し,

2000 r.p.m.,5 分間遠心洗浄した。上清をデカントし,

ミコナゾール硝酸塩6.25  µg/ml を20  ml 加えて混和 し, 4 ℃で一晩放置した。翌日,混和後に2000 r.p.m.,

5 分間遠心洗浄した。上清を捨て,KCM 溶液20  ml を加えて混和し,2000  r.p.m., 5 分間遠心洗浄した。

上清を捨て,アメーバの餌として熱処理した大腸菌を 塗布したミコナゾール添加1.5% NN 寒天培地の中央 に砂約1.5 g を置いて KCM 溶液を数滴滴下し,ビニー ルテープで密封して30℃の暗所で培養した。

 採取した室内塵約100  mg,また,コンタクトレン ズ及び洗浄保存液沈渣100 µl についても1.5% NN 寒 天培地に置き,同様に培養した。コンタクトレンズは 左右のレンズをそれぞれ培地上に置いて培養した。

 培養後,倒立顕微鏡下で精査し,アメーバの有無を 確認した。

②検出アメーバの分類

 検出されたアメーバが嚢子を形成したところで,

Pussard  &  Pons(1977) の 方 法 に 則 り, 嚢 子 の 特 徴 か ら ア メ ー バ を Ⅰ 型(astronyxids  type), Ⅱ 型

(polyphagids  type), Ⅲ 型(culbertsonids  type) の 3 タイプに分類した(図 1 )19)

③砂から検出したアメーバの無菌培養

 砂から出てきたアメーバを,パスツールピペットを 用いて KCM 溶液を吹きつけて吸引し,新しい寒天平 板培地に移した。この操作を,細菌や真菌の混入が極 力少なくなるまで繰り返した。寒天培地上で分離し 図1 嚢子形態による

Acanthamoeba

 spp.の分類(Pussard & Pons)19)

A:外嚢子壁と内嚢子壁の間隔が広く,内部の細胞体は 5 〜14の突起を発現している。

  平均直径は18〜25 µm。

B:外嚢子壁と内嚢子壁が密接しており,外嚢子壁に厚い部位と薄い部位が存在する。

  内嚢子壁は多角形を呈している。

  平均直径は18 µm 未満。

C:外嚢子壁は薄く,内嚢子壁は円形あるいは不整形円を呈している。

  平均直径は18 µm 未満。

Σဳ

(astronyxids type)

Τဳ

(polyphagids type)

Υဳ

(culbertsonids type) 㧭

ドキュメント内 保健科学研究第1号 (ページ 141-149)