第 3 章 ファンクションポイント法を応用した早期見積技法の提案と
3.2 エンタープライズ系ソフトウェアの見積技法
3.2.2 FP 法の概要と課題
FP 法 に は ,IBM 法[44],IFPUG 法[19]等 、 数 十 種 類 の 計 測 方 法 が あ る が [1],[15],[37],[42],[50], 現 在 で は IFPUG 法 が 主 流 と な っ て お り , 本 論 文 で は IFPUG 法 を 用 い る .
(1)IFPUG 法 の 概 要
IFPUG法 に は ,開 発 す る ソ フ ト ウ ェ ア の 規 模 を 表 す ア プ リ ケ ー シ ョ ン FP,新 規 に ソ フ ト ウ ェ ア を 開 発 す る プ ロ ジ ェ ク ト の 規 模 を 知 る た め に 使 用 す る 新 規 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト FP,既 存 ソ フ ト ウ ェ ア を 機 能 改 良 す る プ ロ ジ ェ ク ト の 規 模 を 知 る た め に 使 用 す る 機 能 改 良 プ ロ ジ ェ ク ト FP の 3 種 類 が あ る .
IFPUG 法 で は , フ ァ ン ク シ ョ ン ポ イ ン ト を 次 の 手 順 で 計 測 す る[19],[39]. な お , 説 明 の 中 に で て く る ア プ リ ケ ー シ ョ ン と は エ ン タ ー プ ラ イ ズ 系 ソ フ ト ウ ェ ア と 同 じ 意 味 で あ る .
Step1:算 出 種 類 の 選 択
ア プ リ ケ ー シ ョ ン FP, 新 規 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト FP, 機 能 改 良 機 能 改 良 プ ロ ジ ェ ク ト FPの 3 種 類 の 中 か ら 適 切 な 種 類 を 選 択 す る .
Step2:ア プ リ ケ ー シ ョ ン 境 界 と 計 測 範 囲 の 設 定
FP を 計 測 す る 範 囲 を 明 確 に す る た め に , 計 測 対 象 の ア プ リ ケ ー シ ョ ン 境 界
( ソ フ ト ウ ェ ア の 境 界 ) を 設 定 す る . ア プ リ ケ ー シ ョ ン 境 界 を 今 後 , 計 測 境 界 と 呼 ぶ .
Step3:デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン の 計 測
デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン と は , 計 測 対 象 と な る ソ フ ト ウ ェ ア か ら 参 照 , 若 し く は 更 新 を 行 う 論 理 的 な 意 味 で の デ ー タ の ま と ま り の こ と で あ る . デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン は , 計 測 対 象 の ソ フ ト ウ ェ ア か ら 更 新 さ れ る 内 部 論 理 フ ァ イ ル(ILF:
Internal Logical File)と , 計 測 対 象 の ソ フ ト ウ ェ ア か ら 参 照 さ れ る の み の 外 部 イ ン タ フ ェ ー ス フ ァ イ ル(EIF: External Interface File)の 2 種 類 の フ ァ ン ク シ ョ ン タ イ プ に 分 類 で き る .
最 初 に , 計 測 対 象 の ソ フ ト ウ ェ ア か ら デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン を 抽 出 し , フ ァ ン ク シ ョ ン タ イ プ を 決 定 す る . 次 に , そ れ ぞ れ の デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン の 複 雑 度 を , デ ー タ 項 目 数 , レ コ ー ド 種 類 数 の 2 つ の パ ラ メ ー タ に よ っ て , 低 , 中 , 高 の 3段 階 に 分 類 す る . デ ー タ 項 目 と は デ ー タ を 定 義 す る 最 小 の 単 位 で あ り , デ ー タ 項 目 数 は 1つ の デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン の 中 に 存 在 す る デ ー タ 項 目 の 個 数 で あ る .ま た , 1 つ の デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン の 中 に ,異 な る 意 味 合 い を も つ デ ー タ の 纏 ま り が 混 在 し て い る 場 合 , そ の 個 数 を レ コ ー ド 種 類 数 と い う . 混 在 し て い な い 場 合 は , レ コ ー ド 種 類 数 は 1と な る .
Step4:ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン の 計 測
ソ フ ト ウ ェ ア に 対 す る デ ー タ の 入 出 力 を 伴 う 処 理 を ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン と い う . ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン は , 計 測 境 界 外 か ら の デ ー タ 入 力 に よ っ て デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン の 更 新 を 行 う 外 部 入 力(EI: External Input), 計 測 境 界 外 へ 派 生 デ ー タ(計 算 や 条 件 判 断 な ど 何 ら か の 加 工 を 必 要 と す る デ ー タ 項 目)の 出 力 を 行 う 外 部 出 力(EO: External Output), 計 測 境 界 外 へ デ ー タ を そ の ま ま 出 力 す る 外 部 照 会(EQ: External Inquiry)の 3 種 類 の フ ァ ン ク シ ョ ン タ イ プ に 分 類 で き る .
最 初 に , 計 測 対 象 の ソ フ ト ウ ェ ア か ら ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン を 抽 出 し , フ ァ ン ク シ ョ ン タ イ プ を 決 定 す る . 次 に , そ れ ぞ れ の ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン の 複 雑 度 を ,関 連 フ ァ イ ル 数 ,デ ー タ 項 目 数 の 2 つ の パ ラ メ ー タ に よ っ て , 低 , 中 , 高 の 3段 階 に 分 類 す る . 関 連 フ ァ イ ル 数 と は , 対 象 と な る ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン で 参 照 , 若 し く は 更 新 す る デ ー タ フ ァ ン ク
シ ョ ン の 個 数 で あ る . デ ー タ 項 目 数 は , 実 際 に 参 照 , 若 し く は 更 新 す る デ ー タ 項 目 の 個 数 で あ る .
Step5:未 調 整 フ ァ ン ク シ ョ ン ポ イ ン ト の 算 出
Step3, Step4の 結 果 を 基 に ,表 3.1を 用 い て 未 調 整 フ ァ ン ク シ ョ ン ポ イ ン ト( 未 調 整 FP) を 計 算 す る .
表 3.1 に お け る a1, a2, a3, b1, b2, b3, c1, c2, c3, d1, d2, d3, e1, e2, e3は , 次 の 値 で あ る .
・a1, a2, a3: 計 測 対 象 ソ フ ト ウ ェ ア に 含 ま れ る 複 雑 度 が 低 , 中 , 高 の ILF の 数
・b1, b2, b3: 計 測 対 象 ソ フ ト ウ ェ ア に 含 ま れ る 複 雑 度 が 低 , 中 , 高 の EIF の 数
・c1, c2, c3: 計 測 対 象 ソ フ ト ウ ェ ア に 含 ま れ る 複 雑 度 が 低 , 中 , 高 の EI の 数
・d1, d2, d3: 計 測 対 象 ソ フ ト ウ ェ ア に 含 ま れ る 複 雑 度 が 低 , 中 , 高 の EO の 数
・e1, e2, e3: 計 測 対 象 ソ フ ト ウ ェ ア に 含 ま れ る 複 雑 度 が 低 , 中 , 高 の EQ の 数 Step6:調 整 係 数 の 算 出
未 調 整 FP に は 性 能 , 信 頼 性 , ユ ー ザ イ ン タ フ ェ ー ス ら の シ ス テ ム 特 性 を 反 映 し て い な い の で , こ れ ら を 反 映 し た FP を 求 め る た め に , 表 3.2 に 示 す 14 項 目 の シ ス テ ム 特 性 の 影 響 度 を ,0~5の 6 段 階 で 評 価 し て ,調 整 係 数 を 次 の 式 で 算 出 す る . 調 整 係 数 =0.01×影 響 度 の 合 計 +0.65
Step7:最 終 フ ァ ン ク シ ョ ン ポ イ ン ト の 算 出
未 調 整 FP と 調 整 係 数 か ら 最 終 FP を 算 出 す る が ,算 出 種 類 に よ っ て 算 出 式 が 異 な る .本 研 究 の 対 象 で あ る ア プ リ ケ ー シ ョ ン FPの 場 合 は 次 の 式 で 算 出 す る . 最 終 ア プ リ ケ ー シ ョ ン FP= 未 調 整 FP×調 整 係 数
な お , 今 後 は ア プ リ ケ ー シ ョ ン FP の 未 調 整 FP の み を 対 象 に し , 未 調 整 FP を 表 3.1 未 調 整 FP算 出 表
タ イ プ 低 中 高 合 計
ILF a1×7 a2×10 a3×15 ILFの 合 計 EIF b1×5 b2×7 b3×10 EIFの 合 計 EI c1×3 c2×4 c3×6 EIの 合 計 EO d1×4 d2×5 d3×7 EO の 合 計 EQ e1×3 e2×4 e3×6 EQの 合 計
総 計 (未 調 整 FP)
単 に FPと 呼 ぶ .
(2)IFPUG 法 の 課 題
ど の 時 点 の 見 積 も 重 要 で あ る が , 特 に 開 発 の 前 段 階 で の 見 積 が 重 要 で あ る と 考 え ら れ る . こ の 時 点 で の 見 積 が 誤 っ て 過 小 に な っ た 場 合 , 実 際 に か か っ た 開 発 費 , 開 発 工 数 , 開 発 期 間 は 計 画 し た も の よ り も 大 き く な る . そ の 結 果 , 例 え ば , 購 入 者 は 新 し い ソ フ ト ウ ェ ア の 稼 動 開 始 時 期 が 遅 れ て 事 業 の 好 機 を 逃 す こ と に な り ,供 給 者 は 購 入 者 か ら 支 払 わ れ る 金 額 を 超 え る 開 発 費 が か か り ,所 謂 , 赤 字 に な る . 即 ち , 見 積 を 誤 っ た 場 合 の 影 響 が 大 き い . ま た , 筆 者 ら が , 開 発 費 が 当 初 の 計 画 よ り も 超 過 し た プ ロ ジ ェ ク ト の 原 因 を 分 析 し た と こ ろ , 見 積 不 良 に よ る も の が 非 常 に 大 き な 割 合 を 占 め て い る こ と が 判 明 し た . し た が っ て , 開 発 の 前 段 階 で 精 度 の 高 い 見 積 を 行 う こ と が 重 要 と な る . こ の 時 点 で は ,RFP に 記 載 さ れ て い る 機 能 要 件 を 基 に 見 積 を 行 う 必 要 が あ る . し か し , 記 載 さ れ て い る 機 能 に 漏 れ が あ る 場 合 や , 業 務 要 件 設 計 や ソ フ ト ウ ェ ア 方 式 設 計 が 完 了 し て い な い た め に 詳 細 部 分 が 固 ま っ て い な い 場 合 が 多 い . し た が っ て ,IFPUG 法 に 習 熟 し て い な い 人 が 計 測 し よ う と し た 場 合 , 次 の よ う な 課 題 が あ る と 考 え ら れ る .
(a)Step3で の デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン の 複 雑 度 を 分 類 す る と き の パ ラ メ ー タ で あ る レ コ ー ド 種 類 数 , デ ー タ 項 目 数 を 正 確 に 把 握 す る こ と が 難 し い . (b)Step4で の ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン の 複 雑 度 を 分 類 す る と き の パ
ラ メ ー タ で あ る 関 連 フ ァ イ ル 数 , デ ー タ 項 目 数 を 正 確 に 把 握 す る こ と が 難 し い .
(c)Step4で の EI, EO, EQ の 3 種 類 の フ ァ ン ク シ ョ ン タ イ プ は ,デ ー タ の 入 出 力 を 伴 う 処 理 を ,最 も 小 さ な 単 位 に 細 分 化 し た も の で あ り ,抽 象 的 で ,具 体 的 な 処 理 や 操 作 と の 対 応 づ け が 難 し い .そ の 結 果 ,ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン の 抽 出 が 難 し い .
表 3.2 シ ス テ ム 特 性 の 14項 目
1 デ ー タ 通 信 機 能 6 オンラインデータ入力 11 インストレーションの容易さ 2 分 散 デ ー タ 処 理 7 エ ン ド ユ ー ザ の 効 率 12 運 用 の 容 易 さ
3 性 能 条 件 8 オ ン ラ イ ン 更 新 13 複 数 サ イ ト 4 高 負 荷 構 成 9 複 雑 な 処 理 14 変 更 の 容 易 さ 5 トランザクション処理 10 再 利 用 性
こ の よ う な IFPUG 法 の 課 題 を 改 善 す る も の と し て ,NESMA 法[12], 電 中 研 法 [45]等 い く つ か 考 案 さ れ て い る .
NESMA 法 に は ,FP概 算 法 と FP試 算 法 の 2種 類 の 見 積 方 法 が あ る .
FP概 算 法 は ,デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン や ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン の 抽 出 及 び フ ァ ン ク シ ョ ン タ イ プ の 決 定 の 仕 方 は ,IFPUG 法 と 同 じ で あ る が , 複 雑 度 を デ ー タ 項 目 数 , レ コ ー ド 種 類 数 , 関 連 フ ァ イ ル 数 で 分 類 す る の で な く , そ れ ぞ れ 予 め 設 定 さ れ て い る デ フ ォ ル ト 値 を 当 て は め る . し た が っ て ,IFPUG 法 で の 複 雑 度 の 分 類 が 難 し い と い う 課 題 は 解 決 さ れ て い る . し か し , 実 際 の エ ン タ ー プ ラ イ ズ 系 ソ フ ト ウ ェ ア で は ,3 種 類 の ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン は , 低 , 中 , 高 , い ず れ の 複 雑 度 も と り え る が , デ フ ォ ル ト 値 が 一 意 に 当 て は め ら れ る た め に , 精 度 が 粗 く な る と 考 え ら れ る . ま た ,IFPUG 法 と 同 様 に , ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン の 抽 出 が 難 し い と 考 え ら れ る .
FP 試 算 法 は , デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン の 計 測 は FP 概 算 法 と 同 じ で あ る が , ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン の 抽 出 を 行 わ ず , デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン の ILF, EIF の 個 数 か ら ,FP=35×(ILF の 数)+15×(EIF の 数) に よ り FP を 算 出 す る . し た が っ て ,FP概 算 法 よ り も 更 に 精 度 が 粗 い と 考 え ら れ る .
電 中 研 法 は , 表 3.3, 表 3.4 で 示 す よ う に , 機 能 の 要 素 と し て 画 面 , 帳 票 , フ ァ イ ル , 電 文 を , 入 力 , 出 力 , 入 出 力 に 分 類 し , そ れ ぞ れ の 難 易 度 を 単 純 , 普 通 , 複 雑 の 3 段 階 で 評 価 し FPを 算 出 す る .
電 中 研 法 は ,IFPUG 法 の よ う に , デ ー タ フ ァ ン ク シ ョ ン に つ い て は デ ー タ 項 目 数 や 関 連 フ ァ イ ル 数 を 評 価 せ ず , ト ラ ン ザ ク シ ョ ン フ ァ ン ク シ ョ ン に つ い て は デ ー タ の 入 出 力 で 分 類 す る の で な く , 画 面 , 帳 票 , 電 文 を 対 象 と す る の で ,
表 3.3 デ ー タ 型 と FP 基 準 値
FP 基 準 値 デ ー タ 型
単 純 普 通 複 雑
入 力 3 5 8
出 力 3 5 8
フ ァ イ ル ま た は
電 文 入 出 力 3 6 13
入 力 3 6 13
出 力 3 5 8
入 出 力 6 11 19
画 面
メ ニ ュ ー 2 2 3
帳 票 - 3 6 10
わ か り や す く , 早 期 の 見 積 に 適 し て い る が ,IFPUG 法 と は 互 換 性 が な い の が 問 題 と 考 え ら れ る .
本 論 文 で は ,開 発 の 前 段 階 で も 高 い 精 度 で 見 積 を 行 え る よ う に IFPUG 法 を 改 善 し た ,「 要 素 見 積 法 」 を 提 案 す る . 要 素 見 積 法 は FP 概 算 法 と 類 似 の 手 法 で あ る .