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Clinical Question 1-3 1.出血性胃潰瘍・出血性十二指腸潰瘍 ― ❶内視鏡的治療 出血性胃潰瘍に対する内視鏡的止血法の成績は?

CQ 1-3

出血性胃潰瘍に対する内視鏡的止血法の成績は?

ステートメント 推奨の強さ

(合意率) エビデンス レベル

● エピネフリン局注法に他の内視鏡的治療を追加すると初回止血・再

出血の予防が良好で,手術への移行が減少する. なし A

● 局注法に凝固法あるいはクリップ法を併用すると,局注法単独より

再出血の予防が良好である. なし B

● クリップ法は他の方法と比較されているが,その評価は一定ではな

い. なし C

© The Japanese Society of Gastroenterology, 2015

および死亡率については差がなかったとの結果であった.しかし,この 4 論文のうち,あまり 用いられない単極凝固を用いた論文とトロンビンとヒータープローブを併用した論文を除外す ると,凝固法と局注法の併用は凝固法単独に比して再出血を有意に減少するという結果になっ た.日本では止血法(表 1)は単独で行い,十分な止血が得られなかった場合にさらに追加治療 として別の止血法が行われることが多い.欧米の報告にて併用法が推奨されるのは,手技によ る差によるものかもしれない.

クリップ法については

Barkun

3)のメタアナリシスではクリップ法と局注法とで比較して,

クリップ法単独では局注法単独よりも再出血の予防効果に優れる(オッズ比 0.36,95%CI0.17〜

0.76)が,手術移行および死亡率に差はなかった(4 論文).クリップ法と凝固療法との比較では,

クリップ法単独では凝固療法単独より再出血を有意に減少させたが(オッズ比 0.24,95%CI0.06

〜0.95),手術移行および死亡率では差はなかった(2 論文).局注法とクリップ法の併用と局注 法単独では,局注法とクリップ法の併用が局注法単独より再出血および手術への移行を有意に 減少させたが,死亡率には差はなかった(3 論文).また,クリップ法とエピネフリン局注に対 して消化性潰瘍の再出血予防効果を比較した

RCT

が報告されており4),クリップ法は少量エピ ネフリン局注および大量エピネフリン局注に比して有意に再出血を減少させたとしている.ク リップ法にアドレナリン局注を併用した場合と

APC

にアドレナリン局注を併用した場合を比較 した

RCT

が報告されているが5),両群間で初回止血,再出血,手術移行および死亡率で差はな かった.再出血率,手術の必要性,死亡率といったエンドポイントを組み合わせて 2 群間を評 価すると,クリップ法とアドレナリン局注の併用で良好な結果を得た.一方,Yuanら6)が 2008 年にクリップ法の消化性潰瘍出血に対する有用性を評価するために他の内視鏡的治療(ヒーター プローブ 2 論文,凝固療法と局注療法との併用 2 論文,局注法単独 5 論文)との比較を行ったメ タアナリシスを報告している.この検討では,クリップ法は他の内視鏡的治療に比して初期止 血,再出血,手術移行および死亡率のいずれも差はなかった.このようにクリップ法について は他の内視鏡的治療に比べて有用との報告もあれば,他の内視鏡的治療と比較して差はなかっ たとの報告もある.また,米国消化器病学会のガイドライン2)では,止血や手術移行に優れる が,他の治療法との比較は各種の成績が一定でなく,さらなる検討が必要としている.このた め,今回のステートメントではクリップ法の評価は一定ではないとした.日本ではクリップ法 は広く行われているが,「消化性潰瘍診療ガイドライン」初版でも指摘しているようにクリップ 法は他の方法に比べ手技が煩雑であること,潰瘍の観察が接線方向となる場合や線維化が進行 した潰瘍の止血には困難なことがこれらの成績に影響していると考えられる.

薬剤局注法  血管収縮剤局注法  硬化剤局注法

エピネフリン

高張 Na エピネフリン(HSE)

純エタノール ポリドカノール

凝固法 高周波凝固(モノポーラー・バイポーラー)

Nd-YAG レーザー ヒータープローブ アルゴンプラズマ(APC)

マイクロ波凝固 ソフロ凝固

8

1.出血性胃潰瘍・出血性十二指腸潰瘍

凝固法については様々な方法が用いられているが,2009 年に

Arima

7)が出血性胃潰瘍に対 してソフト凝固とクリップ法でその治療効果を比較する

RCT

を行っている.結果としてソフト 凝固とクリップ法は初期止血において同等の止血率を得た(ソフト凝固 85%,クリップ法 79%).

また,ソフト凝固とクリップ法の組み合わせで 98%に止血を得た.止血時間はソフト凝固のほ うがクリップ法に比して止血時間が有意に短かった.また,出血性胃潰瘍に対する

APC

の有用 性を検討したシステマティックレビューが発表されている8).このレビューは

RCT

2 論文のみの 検討ではあるが,APCはヒータープローブあるいは,エピネフリンとポリドカノールと両者の 局注療法に比して初回出血率および再出血率に差はないという結果であった.Karamanら9)は 出血性消化性潰瘍に対してエピネフリン局注に

APC

を併用する場合とヒータープローブを併用 する場合とでその止血効果を比較している.結果としてエピネフリンと

APC

の併用はヒーター プローブの併用より初期止血に優れていたが,再出血には差はなかった.このように

RCT

では 凝固療法が優れるという報告もあるが,システマティックレビューのようなエビデンスの高い 検討で凝固療法の有用性を証明した文献は検索されなかった.

日本では内視鏡的止血には単独の方法で行うことが多く,止血が得られない場合に他の方法 を併用することがある.すなわち,併用法をはじめから計画的に行うことは少ないと考えるた め,「消化性潰瘍診療ガイドライン」初版では出血性潰瘍に対する最適な止血法を提示したが,

本改訂版ではステートメントに併用法の成績を示すのみとした.

文献

1) Vergara M, Calvet X, Gisbert JP. Epinephrine injection versus epinephrine injection and a second endo-scopic method in high risk bleeding ulcers. Cochrane Database Syst Rev2007; (2): CD005584(メタ)

2) Laine L, Jensen DM. Management of patients with ulcer bleeding. Am J Gastroenterol2011; 107: 345-360

(ガイドライン)

3) Barkun AN, Martel M, Toubouti Y, et al. Endoscopic hemostasis in peptic ulcer bleeding for patients with high-risk lesions: a series of meta-analyses. Gastrointest Endosc2009; 69: 786-799(メタ)

4) Ljubicic N, Budimir I, Biscanin A, et al. Endoclips vs large or small-volume epinephrine in peptic ulcer recurrent bleeding. World J Gastroenterol2012; 18: 2219-2224(ランダム)

5) Taghavi SA, Soleimani SM, Hosseini-Asi SMK, et al. Adrenaline injection plus argon plasma coagulation versus adrenaline injection plus hemoclips for treating high-risk bleeding peptic ulcers: a prospective, ran-domized trial. Can J Gastroenterol2009; 23: 699-704(ランダム)

6) Yuan Y, Wang C, Hunt R, et al. Endoscopic clipping for acute nonvariceal upper-GI bleeding: a meta-analysis and critical appraisal of randomized controlled trials. Gastrointest Endosc2008; 68: 339-351(メ タ)

7) Arima S, Sakata Y, Ogata S, et al. Evaluation of hemostasis with soft coagulation using endoscopic hemo-static forceps in comparison with metallic hemoclips for bleeding gastric ulcers: a prospective, randomized trial. J Gastroenterol2010; 45: 501-505(ランダム)

8) Havanond C, Havanond P. Argon plasma coagulation therapy for acute non-variceal upper gastrointesti-nal bleeding. Cochrane Database Syst Rev2005; (2): CD003791(メタ)

9) Karaman A, Baskol M, Gursoy S, et al. Epinephrine plus argon plasma or heater probe coagulation in ulcer bleeding. World J Gastroenterol2011; 17: 4109-4112(非ランダム)

© The Japanese Society of Gastroenterology, 2015

解説

セカンド・ルックは再出血の危険性の高い臨床所見を有する患者に行い,内視鏡的治療を行っ た患者に一律に行わないことを推奨する.米国消化器病学会が発表したガイドライン1)でも内 視鏡的治療により初期止血が得られた消化性潰瘍患者に 24 時間以内にルーティンにセカンド・

ルックを行うことは推奨しないとしている.また,再度の内視鏡は再出血に対する臨床的エビ デンスを認める患者に行い,止血治療は出血のリスクが高い潰瘍に行うことを推奨している.

セカンド・ルックの有用性については,Tsoiら2)が熱凝固法および局注法を用いたあとのセ カンド・ルックの有用性についてメタアナリシスを行っている(5 文献 998 例).このメタアナ リシスによると熱凝固法実施後のセカンド・ルックは再出血を有意に減少させたが(リスク比 0.29,95%CI0.11〜0.73),局注後のセカンド・ルックは内視鏡単回例に比して再出血,手術移行 および死亡率のいずれも減少させなかった.このメタアナリシスは熱凝固法後のセカンド・ルッ クの有用性を証明する一方で,内視鏡止血後の消化性潰瘍全般にセカンド・ルックを一律に行 うことは少なくとも局注法では有用でないことも証明している.また,日本では保険適用がな いが高用量の

PPI

を用いればルーティンでのセカンド・ルックは必要ないことにも言及してい る.さらに,医療経済的にも,すべての患者にセカンド・ルックを行うことは勧められない.

セカンド・ルックの有用性および再出血の危険性のある患者の臨床所見について,「消化性潰 瘍診療ガイドライン」初版では

Marmo

3)のメタアナリシスを採用している.再出血の危険 性のある臨床所見とは,止血前の状態で収縮期血圧が 100

mmHg

未満の低血圧,ヘモグロビン 値が 10

g/dL

未満,胃内に新鮮血を認める場合,活動性出血,2

cm

以上の大きな潰瘍のうち 1 つ以上を満たすもので,こうした臨床所見を有する患者に 24 時間以内に内視鏡による経過観察 を行うことで再出血率を減少させたとしている(オッズ比 0.64,95%CI0.44〜0.95).今回検索さ れた文献では,Elmunzerら4)が出血性消化性潰瘍に内視鏡的止血治療後の再出血予測因子を検 討したシステマティックレビューを報告している(10 文献).このレビューによると内視鏡前の 再出血予測因子として血行動態の不安定と併存疾患をあげている.また,内視鏡時の予測因子 としては,活動性出血,大きい潰瘍,球後部潰瘍,胃小彎潰瘍があげられている.こうした予