CSAHV
2.7 CdZnTe(CZT) 半導体検出器
2.7 CdZnTe(CZT) 半導体検出器
低エネルギー側へのテールの影響を小さくし、高いエネルギー分解能を得るには、リーク電流 を抑えつつ、高いバイアス電圧をかけることが要求される。そのための手法として、現在実用化 されているものの一つがCdZnTe(CZT)半導体である。
CZT半導体は、CdTeのCdの10%ほどをZnで置き換えた半導体であり、CdTeよりの広いバン ドギャップを持つ。アメリカのeV Products社では、High Pressure Bridgman (HPB)と呼ばれる 100気圧の圧力下で1000◦Cを超える温度で溶解させて、結晶を成長させる手法により、非常に大き な比抵抗を持つCZT半導体を製造している[16, 17]。HPB法によるCZTの比抵抗は3×1010Ωcm とTHMによるCdTeの比抵抗の数10倍である。そのため、このCZT半導体では、高いバイア ス電圧下でもリーク電流を小さく抑えることが可能である。図 2.13 がCdTe半導体とCZT半導 体のリーク電流を比較したものである。
図 2.13: CZTとCdTeのI-V特性。温度は20◦C。素子の大きさは4mm×4mm、厚さが2mm。 Keithley237で測定。
同じ大きさで同じ条件では、CZTを使うとCdTeに比べて、5分の1のリーク電流に抑えること ができる。そのため、CZTの方が高いバイアス電圧をかけることが可能になる。図2.14 は20◦C でのCdTe検出器のスペクトルとCZT検出器のスペクトルを比較したものである。どちらも大 きさは4mm×4mm、厚さは2mmである。バイアス電圧はCdTe検出器で100V、CZT検出器で 300Vである。検出器以外の装置は共通で、CSAがCP5102BS、Shaping AmpがORTEC571で Shaping timeは0.5µsである[24, 25]。
CdTeでは、リーク電流のため、かけることのできるバイアス電圧が低い分、低エネルギー側へ のテールが残り、エネルギー分解能はその分だけ悪くなる。一方、CZTでは、CdTeと同じリー ク電流ならば、高いバイアス電圧の下で動作可能であり、高いバイアス電圧によって、低エネル ギー側へのテールも少なくなり、エネルギー分解能もその分だけ良くなる。
また、ACRORADのPt-CdTe-Pt型の検出器と同じように、CZTも優れた安定性を示す。様々 な温度の条件の下で、性能の劣化なしに長時間動作させることができる。
CZTの欠点は、ホールのµhτhがCdTeよりさらに悪いことである。そのため、低エネルギー側
(1)CdTeでの241Amのスペクトル、エネル ギー分解能は59.5keVで3.9keV(FWHM)。
(3)CdTeでの57Coのスペクトル、エネルギー 分解能は122keVで6.9keV(FWHM)。
(2)CZTでの241Amのスペクトル、エネルギー 分解能は59.5keVで2.3keV(FWHM)。
(4)CZTでの57Coのスペクトル、エネルギー分 解能は122keVで4.2keV(FWHM)。 図2.14: CdTeとCZTのスペクトルの比較。どちらも大きさは4mm×4mm、厚さ0.5mm。温度 は20◦C。バイアス電圧は、CdTeが100V、CZTが300V。CSAはCP5102BS。Shaping Ampに はORTEC571を用い、Shaping timeは0.5µs。
2.7. CdZnTe(CZT)半導体検出器 33 へのテールを完全になくすためには、さらに高いバイアス電圧を必要とする。ただし、現状では 1mm厚に1kVを越えるような高いバイアス電圧をかけることはできていない。
また、ACRORADのTHMによるCdTeは、インゴット単位の単結晶で製造可能なのに対し、
eV ProductsのHPB法によるCZTでは、多数の単結晶が入った多結晶のインゴットとして製造 される[16, 17]。そのため、大面積の検出器に必要となる大きな単結晶は得にくく、2cm×2cmよ り大きな検出器を作ることは現在のところ難しい。加えて、均質性は悪く、場所ごとに検出器と しての性能にばらつきがある。図 2.15は、CdTeとCZTの赤外線写真である[21]。CdTeやCZT は赤外線を通すため、赤外線で写真をとると結晶の内部の様子がわかる。(a)はCdTeであり、(b) はCZTである。(b)のCZTで見える模様は、結晶の境界であり、CZTが多結晶から作られるこ とを表す、一方 (a)のCdTeでは、境界はなく、均質であることがわかる。
(a) (b)
図2.15: CdTeとCZTの赤外線写真[21]。(a)がCdTe、(b)がCZT。CZTのほうには、結晶の境 界が見える。