第 5 章 CdTe ピクセル検出器試作第1号の性能 評価評価
5.6 複数ピクセルにまたがるイベント
5.6.1 実験
ある一つのピクセルのTAのみを有効にし、そのピクセルからのみでトリガーをかけるように し、そのまわりの3×3のピクセルに注目して、複数ピクセルにまたがるイベントについて、調べ た。温度、バイアス電圧は−20◦Cと800Vでこれまでと同じにし、ゲイン調整には、先の実験で 求めたパラメータを使っている。
実験に使用したピクセルはX=7,Y=2とX=8,Y=11である。これらのピクセルを選んだのは、
どちらのピクセルもその周りのピクセルとともにエネルギー分解能が比較的良かったためである。
周りのピクセルが15keV以上のパルスハイトを示したとき、そのピクセルにもまたがったイベ ントであると考え、1ピクセルに収まったイベントと2ピクセルにまたがったイベントについて、
その性質を調べた。
5.6.2 モンテカルロシミュレーション
実験と比較するため、モンテカルロシミュレーションを行った。モンテカルロシミュレーション のツールとして、Geant4 [35]を使用した。大きさが675µm×675µmで厚さが0.5mmのCdTeを 3×3に並べて、57Coと同じ放出率で122keVと136keVのガンマ線を入射した。入射方向はCdTe に対して、垂直であるが、真ん中のピクセルの全面に均一に照射している。
5.6.3 複数ピクセルイベントの割合
1ピクセルに収まったイベントと2ピクセルにまたがったイベントの割合は、表 5.1 のように なった。
(X=7,Y=2)のピクセル (X=8,Y=11)のピクセル シミュレーション
全イベント数 9987 9985 20124
1ピクセルのみ 8473(84.84%) 8639 (86.52%) 17481 (86.87%) 2ピクセル(横) 1433(14.35%) 1266 (12.68%) 2411 (11.98%) 2ピクセル(斜め) 57(0.57%) 61 (0.61%) 219 (1.09%)
3ピクセル以上 24(0.24%) 19(0.19%) 13(0.07%)
表5.1: 1ピクセルイベント、2ピクセルイベントの割合。実験とシミュレーションの比較。
どちらのピクセルもほぼ同じ割合になり、また、シミュレーションともよく合う結果となった。
5.6.4 複数ピクセルイベントのスペクトル
実験で得られたスペクトルとシミュレーションで得られたスペクトルを図 5.10に示す。シミュ レーションのスペクトルには、検出器の応答は入れていないおらず、単にそこで失ったエネルギー を表している。
(a)は1ピクセルに収まったイベントの真ん中のピクセルのスペクトルであり、(b)は2ピクセル またがったイベントの真ん中のピクセルのスペクトルである。また、(c)は2ピクセルにまたがっ たイベントで真ん中のピクセルとまたがったピクセルの値を足したときのスペクトルである。
5.6. 複数ピクセルにまたがるイベント 77
図5.10: 1ピクセルイベントと2ピクセルイベントのスペクトル。上段から (X=7,Y=2)のピクセ ル、(X=8,Y=11)のピクセル、モンテカルロシミュレーション。(a)は1ピクセルイベントのみで 作ったスペクトル。(b)は2ピクセルイベントのときの真ん中のピクセルのみスペクトル。(c)は 2ピクセルイベントのとき、2つのピクセルを足した作ったスペクトル。
2ピクセルイベントのときの真ん中のピクセルのスペクトルは、95keVから100keVにピークを 持つことが分かる。また、2つのピクセルを足すと122keVピークに戻ることが分かる。
5.6.5 複数ピクセルイベントについての考察
2ピクセルイベントの真ん中のピクセルのスペクトルに現れる95keVから100keVのピークは、
そのエネルギーから光電吸収したあと、発生する蛍光X線が隣のピクセルに逃げるために起こる ものと考えられる。CdTeで発生する蛍光X線のエネルギーとそのX線のCdTe中での平均自由 行程を表5.2 に示す。
蛍光X線の種類 エネルギー 平均自由行程 CdのKα 23.13 keV 128µm CdのKβ 26.11 keV 180µm TeのKα 27.37 keV 64 µm TeのKβ 31.00 keV 88 µm
表 5.2: CdTe中で発生する蛍光X線の平均自由行程
光電吸収の際、発生する蛍光X線は60-180µm進むため、今回の675µmというような比較的大 きなピクセルでも、ピクセルの端のほうで反応が起こると2ピクセルイベントになり、その割合 は13-14%にも及ぶ。
目標とするような100-200µmのピクセルでは、その割合はさらに増えるだけでなく、さらに離 れたピクセルまで逃げることになる。表 5.3 は200µmピクセルと100µmピクセルの場合のモン テカルロシミュレーションの結果で、5×5の25ピクセルを見た場合の1ピクセルイベントと2ピ クセルイベントの割合を表している。
200µmピクセル 100µmピクセル 全体イベント 19342 18897
1ピクセルのみ 13153(68.00%) 11189(59.21%) 2ピクセル全部 6057(31.32%) 7416(39.24%)
2ピクセル (1) 4247(21.96%) 4311(22.81%) 2ピクセル (2) 1199(6.20%) 1529(8.09%) 2ピクセル (3) 259(1.34%) 607(3.21%) 2ピクセル (4) 315(1.63%) 769(4.07%) 2ピクセル (5) 37(0.19%) 200(1.06%) 3ピクセル以上 132(0.68%) 292(1.55%)
1 1
1 1 2
2
2
2 3 3
3
3
4
4 4 4
4
4 4
4 5 5
5 5
表5.3: 200µm、100µmピクセル時の1ピクセルイベント、2ピクセルイベントの割合。モンテカ ルロシミュレーションを元にしている。2ピクセルイベントの番号は、もう一つのピクセルの位置 を表す。右の図がその位置を示したもの。
200µmピクセルでは、2ピクセルイベントが30%を越え、100µmピクセルでは、40%に及ぶ。
また、100µmピクセルでは、2つ離れたピクセルにまで蛍光X線が逃げていくイベントが8%に
もなるため、5×5ピクセルを見てやる必要がある。
また、実際に入射したガンマ線のエネルギーを得るには、2ピクセルイベントの場合、足してや る必要があるが、このときのエネルギー分解能は、1ピクセルのエネルギー分解能の
√2 倍になっ
5.6. 複数ピクセルにまたがるイベント 79 てしまう。したがって、1ピクセルのエネルギー分解能をさらに向上させないと、目標とするエネ ルギー分解能を得ることはできない。逆にエネルギー分解能を向上させると蛍光X線のイベント であることの判定が容易になり、誤って2つのピクセルを足してしまうということはなくなる。
実際の観測を考えた場合、別のピクセルに蛍光X線が逃げるというイベントは、検出器のエネ ルギー較正に使える可能性もある。
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