CSAHV
2.8 ダイオード型 CdTe 検出器
2.8. ダイオード型CdTe検出器 35 2.8.2 スペクトル
ダイオード型のCdTe検出器でとったスペクトルを図 2.17 に示す。大きさは2mm×2mmで厚 さが0.5mmで、バイアス電圧は400V、温度は5 ◦Cである。このバイアス電圧を検出器内部の電 場に換算すると8kV/cmになる。図2.11でも示したように、高い電場を形成することで、ホール が消滅する前に電荷として収集できるようになり、低エネルギー側へのテールの影響が非常に小 さくなっていく。
図 2.17: ダイオード型CdTe検出器でのスペクトル。検出器の大きさは2mm×2mm で厚さが 0.5mm。5◦C、バイアス電圧は400V。CSAにはCP5102BS、Shaping AmpにはORTEC571を 使用。Shaping timeは1µs。
また、ACRORAD社のTHMによるCdTe半導体では、大きな均質の単結晶の生成が可能であ
る。ダイオード型CdTe検出器でもこの特徴を生かし、優れたエネルギー分解能を持つ大面積の 検出器が可能である。図2.18に1cm×1cm、厚さ0.5mmのダイオード型CdTe検出器で得られた スペクトルを示す。検出器の容量は、コネクターも含めて、24.8pFになるが、エネルギー分解能 としては、2.2keV(FWHM)を達成している。これは、結晶が実際に均質であることを示す。
2.8.3 安定性
低温(5◦C以下)または、高いバイアス電圧では、ダイオード型CdTe検出器は優れた安定性を 示す [18, 19, 20]。しかし、室温程度でバイアス電圧を100V(0.5mm厚で)以下という充分に加 えない状態では、バイアス電圧をかけ続けるとポラリゼーションと呼ばれる現象が起こる。
図2.19にポラリゼーションの様子を表す。大きさ2mm×2mm、厚さ0.5mmのIn-CdTe-Ptの ダイオード検出器を温度20◦Cバイアス電圧100Vの条件下使った時のスペクトルの変化である。
線源は57Coである。バイアス電圧をかけ始めると、20-30分のタイムスケールで、エネルギー分 解能が悪化し、その後、ピークが低エネルギー側にシフトしていき、次第に検出効率が落ちてい く。ただし、バイアス電圧を一度切って、再び入れ直すとすぐに回復する[18]。
このポラリゼーションの現象を探るため、アルファ線を照射する実験を行った。アルファ線を照 射すると、電極のすぐ近くでエネルギーをすべて失うため、陰極から入射すると電子のみが、陽
図2.18: 大面積のCdTe検出器でのスペクトル。検出器の大きさは、10mm×10mmで厚さが0.5mm。 5 ◦C、バ イ ア ス 電 圧 は 200V。CSAに は CP5102BS、Shaping Ampに は ORTEC571を 使 用 。 Shaping timeは2µs。検出器の容量はコネクタを含めて、24.8pFである。
2.8. ダイオード型CdTe検出器 37
図 2.19: ポラリゼーションの様子。2mm×2mm×0.5mmtのIn-CdTe-Ptのダイオード検出器で 測定。温度は20◦C、バイアス電圧は100V、線源は57Co。CSAはCP580S1、Shaping Ampは ORTEC571で、Shaping timeは1µs。
極から入射するとホールのみが信号に寄与する。使ったアルファ線源は241Amで5MeV程度のア ルファ線を放出する。したがって、アルファ線を検出したとき、大きな信号を出すため、CSAの 出力をオシロスコープでそのまま取得することが可能であり、そのパルスの形から検出器中の電 場構造を探ることができる。
使った検出器は、In-CdTe-Ptのダイオード検出器で、大きさは2mm×2mm、厚さは0.5mmで ある。温度は、20◦Cで、バイアス電圧は100Vと、ポラリゼーションが起こる条件とした。使っ たCSAはORTEC140である。
図2.20のようにパルスハイトとパルスの立ち上がりの速度を定義し、その分布の時間変化を調 べたのが、図 2.21である。図2.21(a)は、アルファ線を陰極から入射したときで、電子の動きを 見ていることになる。図2.21(b)は、アルファ線を陽極から入射したときで、ホールの動きを見て いることになる。
t V
V/ t=
図2.20: アルファ線照射のパルスの形とパルスハイト、立ち上がりの速度の定義
陰極(Pt電極)から入射したときは、バイアス電圧をかけてからの時間経過とともに、パルスハ イトは下がり、立ち上がりの速度も遅くなっていく。一方、陽極(In電極)から入射すると、パル スハイトは下がっていくものの、立ち上がりの速度は速くなっていく。
このような結果からポラリゼーションが起こるときは、図2.22 のように検出器内のポテンシャ ルが曲がっていくと考える。このようにポテンシャルが曲がっていくと、検出器の大部分では、そ こでガンマ線を検出しても、電場が小さいため、作るパルスハイトは低くなる。さらにポテンシャ ルが曲がり電場がなくなるとその部分では、ガンマ線の検出はできなくなり、全体の検出効率は 落ちる。このようにポテンシャルが曲がっていくという描像は、ポラリゼーション現象をよく説 明する。
ポテンシャルが曲がる原因としては、InがCdTe半導体に入り込んだときできる準位に電子が 捕獲され、その電子によって、バイアス電圧が作るポテンシャルをうち消してしまうと考えてい るが、はっきりとは解明できていない。低温にしたとき起こらないことやバイアス電圧を切ると すぐ回復することを現状では、説明できていない。
したがって、ダイオード型CdTe検出器を長時間使うには、低温し、高いバイアス電圧で動作 させることが求められる。
2.8. ダイオード型CdTe検出器 39
(a)
(b)
図2.21: アルファ線照射、パルスハイトと立ち上がり速度との分布の時間変化
In Pt In Pt In Pt +H.V.
0V
図2.22: ポラリゼーションが起こるときの検出器中のポテンシャルの時間変化