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CQ418 月経前症候群の診断・管理

ドキュメント内 日本産科婦人科学会雑誌第65巻第9号 (ページ 96-101)

Answer

1.月経前症候群の診断は発症時期,身体的症状,精神的症状から行う. (A)

米国産科婦人科学会の診断基準(表 1)を用いる. (C)

重症の場合は米国精神医学会月経前不快気分障害の診断基準を用いる. (C)

2.精神症状の強いときは精神科や心療内科に紹介する. (C)

3.治療にはカウンセリング・生活指導や薬物療法(精神安定剤,利尿剤,鎮痛剤,漢方 薬等)を選択する. (B)

4.中等症以上の月経前症候群および月経前不快気分障害には選択的セロトニン再取り 込み阻害薬(SSRI)またはドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(ヤーズ 配合錠

)を用いる. (B)

5.軽症の場合あるいは身体症状主体の場合には経口避妊薬(OC)などの低用量エスト ロゲン・プロゲスチン配合薬を用いる. (C)

▷解 説

1.月経前症候群(Premenstrual syndrome,PMS)は日本産科婦人科学会用語集(2008 年改訂 版)によると,月経前 3〜10 日間の黄体期に続く精神的あるいは身体的症状で月経発来とともに減弱あ るいは消失するものをいう.いらいら,のぼせ,下腹部膨満感,下腹痛,腰痛,頭重感,怒りっぽくな る,頭痛,乳房痛,落ち着きがない,憂鬱の順に多い,としている.米国産科婦人科学会診断基準はも う少し具体的で身体症状と精神症状を明確に分けている(表 1)1)

2.精神症状が 主 体 で 強 い 場 合 は 月 経 前 不 快 気 分 障 害(Premenstrual Dysphoric Disorder,

PMDD)2)とよび,基準が厳密で具体的である(表 2).参考までに PMDD 問診票を掲載しておく.臨床 上非常に有用である(表 3).

3.本症の原因は諸説あるが,不明である.通常,ホルモン異常を伴わないが,GnRH アゴニストで 排卵を抑制すると発症しないことから黄体ホルモンが誘因であることは間違いない.最近の SSRI 治療 による研究ではセロトニン作働性ニューロン(異常の時うつ状態を誘導)の黄体ホルモンに対する感受 性が高いために起こるといわれる3)〜5).本邦では生殖年齢女性の約 70〜80% が,月経前に何らかの症 状を伴うといわれる.欧米と同じ基準を用いた本邦での研究では,社会生活困難を伴う中等症以上の PMS は 5.4%,月経前不快気分障害の頻度は 1.2% と報告されている(欧米では 2〜4%)6)7).月経前 障害あるいは月経前不快気分障害は幅広い年齢で発症し,年齢による偏り,人種差は比較的少ない.た だし思春期女性では頻度が高いとの報告もある.生活習慣や仕事の有無にもほとんど関係しないといわ れる.患者の社会生活に影響を与える中等症以上の月経前症候群,あるいは月経前不快気分障害が治療 対象となる4)

治療はカウンセリング・生活指導と薬物療法に分けられる.

生活指導としては,まず症状日記を付けさせ,疾患の理解と頻度,発症の時期,重症度の位置づけを 本人に認識させる(認知療法).また,規則正しい生活,規則正しい睡眠,定期的運動,たばこやコーヒー

(表 1) 月経前症候群診断基準(米国産婦人科学会)

身体的症状

・乳房痛

<診断基準>

① 過去 3 か月間以上連続して,月経前 5 日間に,以上 の症状のうち少なくとも 1 つ以上が存在すること.

② 月経開始後 4 日以内に症状が解消し,13 日目まで 再発しない.

③症状が薬物療法やアルコール使用によるものでない.

④ 診療開始も 3 か月間にわたり症状が起きたことが確 認できる.

⑤社会的または経済的能力に,明確な障害が認められる.

・腹部膨満感

・頭痛

・手足のむくみ

情緒的症状

・抑うつ

・怒りの爆発

・いらだち

・不安

・混乱

・社会からの引きこもり

(表 2) 月経前不快気分障害の診断基準(米国精神科学会 2000 DSM-Ⅳ-TR Ⅴ版が公表 されたら変更予定

A 以下に掲げる 4 つの特異的症状(*)のうち最低ひとつを含み,そのほか抑うつ状態,不安,認 知あるいは身体症状 11 のうち 5 つの症状を呈するもの.最近数年間ほとんどの月経周期におこり,

月経開始前 1 週間より始まり,月経開始数日以内に消失するものである.

―うつ状態,不安,認知,身体症状

*著明なうつ状態,絶望感,自己非難

*自己拒絶に対する感受性の上昇を伴う急な悲しみや落涙 日常活動に対する興味の低下

不活発,疲労感,エネルギー低下 著明な思考の変化,ある食品に対する偏り 無臭あるいは臭覚過敏

*著明な不安,緊張感,どうにもならないという感覚,がけっぷちに立たされている感覚

*持続的著明な感情過敏,怒り,自己葛藤の増加 限界感あるいは自己調節喪失感

困難さに関する能動的感覚 集中力の欠如 乳房痛あるいは緊満感

頭痛

関節あるいは筋肉痛 体重増加 浮遊感

B 社会活動,職業上,あるいは学生生活に支障をきたす

C 症状は月経周期と明確な関係があり,以前からのうつ状態,不安,人格障害の悪化とは一線を画す D 基準 A,B,C はあらかじめ少なくとも 2 回の連続する月経周期で確認される必要がある

などの制限を指導する.重症の場合は仕事の制限,家庭生活の責任軽減などまで踏み込んだ指導が必要 なこともある.薬物療法として,軽症の場合は対症療法としての精神安定剤,利尿剤,鎮痛剤などを適 宜用いる.そのほか,本邦では当帰芍薬散,桂枝茯苓丸,加味逍遥散,桃核承気湯,女神散などの漢方 薬もよく用いられる.

4.中等症以上の PMS あるいは PMDD の場合,欧米では SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:fluoxetine,sertraline,paroxetine,escitalopram など)が第一選択である4)5).ドロス ピレノン・エチニルエストラジオール錠(ヤーズ配合錠)も有効である.これら薬剤は FDA で PMDD 治療承認を得ている.なお FDA で PMS 承認薬はない.PMS は疾患の幅が広いので臨床治験になじま

(表 3) 月経前不快気分障害自己診断表 PMDD 月経前不快気分障害に関する患者のための自己診断アンケート リスト A とリスト B の中から月経の前に出る症状をチェックしてください.

症状リスト A(月経前 1 週間)

[ ] うつ気分や落ち込みが強い.

[ ] 不安,緊張感,どうにもならない,がけっぷちなどの感情がある.

[ ] 拒絶や批判に対する感受性が高くなったり,感情的に不安定だったり予測できなかったりする.

[ ] いらいらしたり怒りっぽくなったりする.

リスト A の中でのチェック項目数  [    ] 症状リスト B(月経前 1 週間)

[ ] 趣味や日常活動に興味が薄れている.

[ ] 物事に対する集中力が薄れている.

[ ] いつもより疲れているし,活動性が低い.

[ ] 炭水化物を偏って摂食したり,あるものを食べ続けたりする.

[ ] 睡眠過多だったり,睡眠不足だったりする.

[ ] 限界感,自己喪失感がある.

[ ] 月経前に以下の少なくとも 2 つの症状のためになやまされる.

( )乳房痛または緊満感  ( )頭痛  ( )関節または筋肉痛

( )ふわふわした感じ  ( )体重増加 リスト B の中でチェック項目数  [    ] 2)次の 4 つの質問にはい,いいえで答えてください.

1 リスト A とリスト B をたすと 5 項目以上になりますか  はい  いいえ 2 リスト A にうち少なくともひとつは当てはまるものがありますか  はい  いいえ 3 あなたのチェックした項目の大部分は月経開始後 3 日以内に消失しますか

  はい  いいえ

4 あなたに上記症状があるときあなたは通常の活動が障害されますか. はい  いいえ

ありがとうございました.もしあなたが 4 つの質問にすべて当てはまるとしたらあなたは PMDD(月 経前不快気分障害)の可能性があります.さっそく医師に受診し問題解決にあたってください.

ず,米国精神神経科学会提唱で研究的であるが基準の明確な PMDD で治験がなされた経緯がある.本邦 では PMDD そのものの保険病名が正式に認められていない.

5.経口避妊薬(OC)などの低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(いずれも保険適応外)は軽 症あるいは身体症状改善には有効であるが精神症状には有効でないとされている8).一方,ドロスピレノ ン・エチニルエストラジオール錠は身体症状,精神症状双方に有効性が認められている9)

なお最終的に GnRH アゴニストによる排卵抑制の選択肢もある.

一般に月経前症候群で処方される薬剤を示した(表 4).

(表 4) 月経前症候群,月経前不快気分障害の薬物療法

症状  作用 商品名 使用方法

腹痛,頭痛 鎮痛剤 ロキソニン錠(60mg) 1 日 180mg 分 3 ボルタレン(25mg) 1 日 75mg 分 3 むくみなど 利尿剤 アルダクトン A(25mg) 1 日 50mg 分 2

情緒不安定,不安 精神安定剤

コンスタン,ソラナックス 3 錠分 3

デパス 2 錠分 2 〜 3 錠分 3

リーゼ 2 錠分 2 〜 3 錠分 3

身体症状 低用量ピル エストロゲ ン-プロゲスチン配合薬

一般的 OC ルナベル ヤーズ

うつ状態 SSRI

パキシル(10 〜 20mg) 黄体期夕食後 全周期夕食後 ジェイゾロフト(25 〜 50mg) 黄体期夕食後 全周期夕食後 レクサプロ(10mg) 黄体期夕食後 全周期夕食後

症状全般 GnRH アゴニスト

リュープリン(1.88mg) 4 週 1 回皮下注 ゾラデックスデポー(1.8mg) 4 週 1 回皮下注

ナサニール点鼻薬 1 日 1 回 1 噴霧片側 2 回 スプレキュア点鼻薬 1 日 1 回 1 噴霧両側 3 回 下線は PMDD で FDA 承認薬

(本邦においては,ルナベルは機能性月経困難症あるいは子宮内膜症による月経困難症,ヤーズは月経困難症が適応 病名である)

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1)ACOG: Practice Bulletin Premenstrual Syndrome Compendium of Selected Publications.

2005; 707―713 (Bulletin)

2)American Psychiatric Association Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition Text Revision, Washington DC, American Psychiatric Association, 2000 (Guideline)

3)Freeman EW : Premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder : definitions and diagnosis. Psychoneuroendocrinology 2003; 28 Suppl 3: 25―37 (III)

4)Freeman EW, Sondheimer SJ : Premenstrual dysphoric disorder : Recognition and treat-ment. Prim care conmpanion J Clin Psychatry 2003; 5: 30―39 (III)

5)Brown J, OʼBrien PMS, Marjoribanks J, Wyatt K: Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual. The Cochrane Library 2009; Issue 2: 1―122 (I)

6)Steiner M, Madougall M, Brown E: The premenstrual symptoms screening tools for clini-tians. Arch Womens Mental Health 2003; 6: 203―209 (II)

7)Takeda T, Tasaka K, Sakata M, Murata Y: Prevalence of premenstrual syndrome and pre-menstrual dysphoric disorder in Japanese women. Arch Womens Ment Health 2006; 9:

209―212 (II)

ドキュメント内 日本産科婦人科学会雑誌第65巻第9号 (ページ 96-101)