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CQ401 緊急避妊法の実施法とその留意点は

ドキュメント内 日本産科婦人科学会雑誌第65巻第9号 (ページ 42-46)

においても LNG 法は Yuzpe 法より優れている.

さらに米国など海外では選択的プロゲステロン受容体モジュレ―ターである ulipristal acetate 30 mg 単回投与が 2010 年より EC の新たな方法として使用されている.有効性は LNG 法より優れ,安 全性は同等であり8),しかも性交後 120 時間まで投与可能であることから内服による EC の新たな選択 肢としてわが国での使用が速やかに承認されることを期待したい.

3.経口剤を用いる手段以外の EC には,銅付加 IUD を性交後 120 時間以内に挿入する方法も有効 であると報告されている7)9).これは受精前に精子の運動能力を減ずるといわれており,挿入後ただちに 効果を発揮すると考えられる.また,すでに受精が起きている場合には着床阻害作用があることが認め られている.Yuzpe 法と銅付加 IUD 挿入法の避妊阻止率に関しては Luerti 等が報告しているが9),それ によれば Yuzpe 法を行った群では 436 例中 8 例が妊娠し,IUD を挿入した群では 102 例中 1 例も 妊娠がなかった.

性感染症のリスク,過去の異所性妊娠,若年,未産婦は,銅付加 IUD 使用の禁忌とはならない1).しか し妊娠経験のない女性には挿入が容易でないこと,感染症が疑われる対象者には感染を悪化させる危険 性があることなどから対象者を慎重に判断すべきである.また,銅付加 IUD の挿入は,LNG 単回投与法 や Yuzpe 法よりかなり高価であるため,そのまま中長期の避妊を継続する予定者には有用だが,その場 限りの EC 希望者には勧めにくい.月経以後 UPSI がない場合,または月経周期の 5 日間以内にホルモ ン避妊法を始めた場合には,妊娠のリスクがないため,次の月経後に緊急避妊用銅付加 IUD を取り出し てもよい.挿入後月経がない女性には,妊娠していないことが確認されれば 3 週間後に銅付加 IUD を抜 去することができる.

緊急避妊目的で銅付加 IUD を挿入した女性は,通常の避妊法としてその銅付加 IUD を装着し続けて もよい.ただし,その場合には,挿入 3〜6 週間後に脱出の有無の検査のために来院してもらう.腹痛 や腰痛,発熱,月経周期の乱れや通常みられない出血,無月経などが出現した場合は,ただちに受診す るように伝えておく.

4.EC による妊娠阻止は完全ではないので,EC を行う際には,対象女性にこの事実をよく説明して おく1).LNG 内服後は,80% 以上の女性において予定月経日の前または 2 日後以内に月経があり,

95% が予定月経日の 7 日後以内に月経がある.もし月経が予定より 7 日以上遅れる,あるいは通常よ り軽い場合には,必ず妊娠の可能性について確認するため医療機関を受診し検査を受けるよう促してお くことが重要である.

また,避妊が成功した際にも,事後にもっと確実な避妊法への移行を勧めることも忘れてはならない.

図 1 の指針1)に掲載されている緊急避妊法選択におけるアルゴリズムを提示する.

EC はすでに社会でも認知された医療行為となっており,日本家族計画協会の行った緊急避妊ネット ワーク会員施設を対象とした調査によれば,一施設あたりの平均処方数は 2005 年の 25.0 件!施設か ら 2006 年は 32.3 件!施設と増加傾向にあった.また 20 歳未満への EC 処方も 2005 年 7.8 件!施 設から 2006 年は 9.7 件!施設と増加傾向にある.警察庁は犯罪被害者等基本法の中で性犯罪の被害者 に対して医療費を援助することを決定し10),その中に EC の費用も予算化されている.ただし,EC は病 気の治療とは異なるため,健康保険の給付対象外の処置である.また,本邦では必ずしも全ての産婦人 科医療機関が EC に対応しているわけではない.

一方,インターネット上の情報が一般市民に容易に入手されるようになっていることから,EC の認知 度は高くなっている.「緊急避妊」という表現にも誘導されているのであろうか,高次医療機関の夜間救 急外来に「緊急」の EC 処置を求めて来院する患者が散見され,医療機関によっては当直医の業務に支障 を来す状況も報告されている.EC は施行までの時間に制約があるのは事実であるが,必ずしも性交直後

(図 1) 緊急避妊法の適正使用に関する指針(案)日本産科婦人科学会より 緊急避妊法選択のアルゴリズム

EC:緊急避妊法  ECP:緊急避妊ピル IUD:銅付加子宮内避妊具

OC:低用量経口避妊薬

EC を必要とした事例

必要なし 必要あり

妊娠経験あり

IUD の装着希望あり

IUD の装着

次回月経以降の 受診を勧める

次回月経まで 性交を待てる

3 週間後の来院 OC を翌日から 服用 次回月経まで 性交を待てない

定期検診

IUD 装着希望なし ECP 服用 妊娠経験なし

OC など確実な 避妊法選択を

勧める

OC など確実な 避妊法の選択を

勧める

に施行する必要はない.夜間救急に訪れる EC 希望者の中には翌日の診療時間内に来院させても差し支 えない事例が多く含まれている.夜間救急における EC は,医療機関の実状に合わせて臨機応変に対応す る.

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 文 献 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

1)日本産科婦人科学会編:緊急避妊法の適正使用に関する指針,平成 23 年 2 月(III)

2)Chiou VM, et al.: Emergency Contraception. J Pediatr Adolesc Gynecol 1998; 11: 61―72 (II)

3)von Hertzen H, Piaggio G, Ding J, et al.: Low dose mifepristone and two regimens of lev-onorgestrel for emergency contraception : a WHO multicentre randomised trial. Lancet 2002; 360: 1803―1810 (I)

4)Yuzpe AA, Lancee WJ: Ethinyl estradiol and dl-norgestrel as a postcoital contraceptive.

Fertility and Sterility 1977; 28: 932―936 (III)

5)Task Force on Postovulatory Methods of Fertility Regulation: Randomised controlled trial of levonorgestrel versus the Yuzpe regimen of combined oral contraceptives for emer-gency contraception. Lancet 1998; 352: 428―433 (I)

6)Cheng LG, et al.: Cochrane Database Syst Rev 2000; 2: CD001324 (II)

7)北村邦夫:産婦人科外来マニュアル・緊急避妊法.産と婦 2007;74:1385―1389(III)

8)Glasier AF, Cameron ST, Fine PM, et al.: Ulipristal acetate versus levonorgestrel for emer-gency contraception: a randomised non-inferiority trial and meta-analysis. Lancet 2010;

375: 555―562 (I)

9)Luerti M, Tonta A, Ferla P, et al.: Post-coital contraception by estrogen!progestagen com-bination or IUD insertion. Contraception 1986; 33: 61―68 (II)

10)警察庁:平成 20 年度版 犯罪被害者白書(III)

ドキュメント内 日本産科婦人科学会雑誌第65巻第9号 (ページ 42-46)