第 4 章 Boone 指標による地銀・信 金・信組の競争度
4.2 Boone 指標と推定方法
4.2.1 Boone
指標Boone (2008a, 2008b)
、Boone et al. (2005, 2007)
などはこれまでと異 なる指標で競争度を測ることを提案している。いずれの手法にも共通して いるのは、競争度が高まると、効率的な企業ほど高い利潤を得る、という 点である。これらの指標を総称して、本章ではBoone
指標と呼ぶことに する1。これを簡単な銀行モデルを用いて説明してみよう。銀行
i
の利潤関数を、π
i= r
LL
i− C(D
i, L
i) (4.1)
とする。ただし、
L
iは貸出、D
iは預金である。銀行のバランスシートはL
i= D
iとする。各銀行は、以下の貸出需要関数に直面する(r
L> 0)
。1
Boone
の一連の研究から1
つの競争度を得る方法をBoone
指標(Boone indicator)
と呼んだのはvan Leuvensteijn et al. (2007)
が最初である。r
L= a − bL
i− d X
j̸=i
L
j(4.2)
また、費用関数は
C(D
i, L
i) = c
DiD
i+ c
LiL
iと仮定する。この産業には 参入費用γ
が存在し、π
i≥ γ
のときのみ企業i
は参入する。以上の仮定より、銀行の利潤は、
π
i= (a − bL
i− d X
j̸=i
L
j)L
i− c
iL
i(4.3)
となる。ただし、
c
i= c
Li+c
Diである。利潤最大化のための1
階の条件は、a − 2bL
i− d X
j̸=i
L
j− c
i= 0 (4.4)
である。すべての銀行
i = 1, . . . , N
の1階の条件を用いてL
iについて解 くと、L(c
i) =
¡
2bd
− 1 ¢
a − ¡
2bd
+ N − 1 ¢
c
i+ P
Nj=1
c
j[2b + d(N − 1)] ¡
2bd
− 1 ¢ (4.5)
が得られる。この式と
1
階の条件を用いて利潤関数を書き換えると、π
i= bL(c
i)
2(4.6)
が得られる。ここでは関数型を特定化しているが、一般には、
π
iはc
iに 関する非線形の関数π(c
i)
である。通常、費用が低いほど利潤は高い。限 界費用が利潤に及ぼす影響をz ≡ ∂π
i/∂c
iとすると、z
i≡ ∂π
i∂c
i< 0 (4.7)
となる。
z
iは競争的な市場ほど大きいと考えられる。つまり、θ
を市場の 競争度を和らげるパラメータ(上記モデルでは{a, b, γ}
)、φ
を市場の競 争度を厳しくするパラメータ(上記モデルでは{d, N}
)とすると、∂z
i∂θ = ∂
2π
i∂c
i∂θ > 0, ∂z
i∂φ = ∂
2π
i∂c
i∂φ < 0 (4.8)
ということである。この式は、競争度の高い市場ほど、利潤の限界費用に 対する反応が(負の方向に)大きいことを表している。直感的に言えば、
競争的な市場では企業同士がひしめき合っているため、少しでも他社に勝 る経営をおこなうことが出来れば、より多くの利潤を手にすることがで きるということを意味している。逆に、非競争的な市場であれば、限界費 用を下げるような努力をしても、それほど多くの利潤を得ることはでき ない。
Boone et al. (2007)
の提案する方法は、限界費用(c
i)
が利潤(π
i)
に及 ぼす影響を測るというものである。この効果は、利潤の限界費用弾力性、P E ≡ − c
iπ
idπ
idc
i(4.9)
として表すことができる。
PE
を正の値にするために、右辺にマイナスが 付いている点に注意されたい。Boone et al. (2007)
は、これを利潤弾力 性(Profits Elasticity, PE)
と呼んでいる。一般に、企業はコストが低い ほど利潤は高いため、P E > 0
であると考えられる。また、市場が競争的 であるほど、効率的な企業が収益を得る機会が増えるため、P E
が大きい 市場ほど競争度は高い。これまで利用されてきた競争度に関する指標は、様々な問題が指摘され ている。市場シェア(上位数社のシェアや
HHI
)や価格費用マージンと 上記の指標とを比較してみよう。例えば、ある企業が今までよりも効率的 な経営をするようになったとしよう。つまり、この産業は横並びの状態で はなく、他の企業よりも少しでも勝るよう経営努力していることを表す。すると、この企業は他の企業と比べて多くの利潤を手にする。このとき、
Boone
指標は値が大きくなるのに対し、どちらの指標も競争度が悪化したと判断されてしまう。他の条件の変更や、その他の指標との比較につい ては、
Boone (2008a)
、Boone et al. (2005, 2007)
を参照されたい。また、
PE
の推定には利潤のデータが用いられるが、利潤は誤差を含む ために効率的でないという批判もある。この理由のために、価格費用マー ジンが好んで用いられる。しかし、価格費用マージンの分子は価格と限 界費用の差であるが、平均費用と限界費用がほぼ等しい場合、価格費用 マージンの分子と分母に生産量をかけると分子は利潤になってしまう。つ まり、価格費用マージンは一見、利潤のデータを用いることを回避してい るように見えるが、その分子はほぼ利潤に等しいため、批判を免れない。他方、
PE
の推定の際には、次の節で説明するように、誤差項を含むため、利潤に誤差が含まれていてもある程度の調整は可能である。
さらに
Boone (2008a, b)
は、より一般的な条件の下で、競争的な市場 ほど効率性が利潤に強い影響を及ぼすことを証明し、相対利潤(Relative Profits, RP)
および相対利潤差(Relative Profit Differences, RPD)
とい う別の2
つの指標を提案している2。それぞれの指標は、企業の競争条件 が変わることによって単調に変化する。特に、競争度の高い市場では、効 率性の高い企業ほど利潤が高いことから、それぞれの指標も効率性に大き く反応する。ただし、これまでの経験では、これらの手法はデータの異常 値や期間の違いなどで大きく値が変化するため、本章では推定しない。4.2.2 Boone
指標の推定方法Boone et al. (2007)
にならい、本章ではPE
の推定のために、以下の 方法を用いる。先ず、企業の利潤最大化問題より、利潤を限界費用の関数π(c
i)
として表す。π(c
i)
は一般にはc
iの非線形の関数であるが、ln π(c
i)
をln c
iについて1
次のテイラー近似をとることによって、ln π
i= α + β ln c
i(4.10)
とすることができる。この式に、推定誤差とコントロール変数を導入して、2
Boone et al. (2005)
は、シミュレーションによって他の様々な競争度の指標よりもRP
が優れていることを示している。ln π
i= α + β ln ˆ c
i+ X
i′ζ + ε
i(4.11)
を推定する。ただし、X
i′はコントロール変数のベクトル、ε
iは平均ゼロ の誤差項である。限界費用は観察可能ではないため、トランスログ費用関 数から得た推定値ˆ c
iを用いる(推定については補論を参照されたい)。β
の推定値をβ ˆ
とすると、P E d = − β ˆ (4.12)
が
PE
の推定値となる。パラメータの推定には、最小二乗(OLS)
推定量 および二段階最小二乗(2SLS)
推定量を用いる。後者を用いる理由は、限 界費用には推定した値を用いるため、説明変数が誤差を含んでいる可能性 があるからである。Boone
指標は、利潤が正であることを仮定している。参入コストの影響を反映させるために、
Boone (2008, p. 1248, Definition 1)
は、π
i≥ γ
iと 定義している。ただし、γ
iは企業i
の参入コストである。γ
i> 0
なので、利潤は正である必要がある。
4.2.3
先行研究の推定方法との比較Boone
指標の推定には様々な方法が提案されているが、PE
の推定には
ドキュメント内
発行年 2015‑03‑24
(ページ 59-63)