第 3 章 電子マネーと現金
3.4 決済手段選択の均衡分析
分析では、決済手段が選択される均衡の存在条件を
c
とx
の組として表 わす。売り手と買い手のベルマン方程式を導出し、決済手段の選択される 均衡の存在条件を求める。売り手の期待利得
V
Sellerは次のように表される。V
Seller= 1
1 + r [Mx{(1 − µ)(V
Buyer− c)
+ µ(V
Buyer− c − δ)} + (1 − M )xV
Seller] (3.1)
これよりベルマン方程式を求めると式(3.1)
は、次のように書き換えられ る。ただし、ここでr
は割引率である。rV
Seller=Mx(1 − µ)(V
Buyer− V
Seller− c)
+ Mxµ(V
Buyer− V
Seller− c − δ) (3.2)
同様にして、現金保有者のベルマン方程式は次のように表わされる。rV
Cash=(1 − M)x(u + V
Seller− V
Buyer)
+ V
Buyer− V
Cash(3.3)
電子マネー保有者のベルマン方程式は次のように表わされる。
rV
Emoney=(1 − M)x(u + V
Seller− V
Buyer)
+ V
Buyer− V
Emoney(3.4)
さらに、買い手は部分期間
Day
において現金と電子マネーのいずれかの 決済手段を選択可能であることから、買い手の期待利得は、次のように表 わされる。V
Buyer= max{V
Emoney− φ, (1 − η)V
Cash+ ηV
Seller} (3.5)
この経済において何らかの決済手段が用いられるには、売り手の決済手 段から得られる期待利得が、財(の生産機会)を持ち続けた場合よりも高 くなければならない。つまり、売り手が市場に参加して交換をおこなうイ ンセンティブ制約として、次の条件が課される。V
Buyer− V
Seller− (δ + c) ≥ 0 (3.6)
ここで
δ + c
は、取引が実行された際に売り手に生じる取引費用δ
と生産 費用c
の和であり、総費用を意味する。3.4.1
現金決済均衡経済主体が決済手段として現金のみが選択される均衡の存在条件を求 める。ここでは電子マネーが流通しない(決済手段として選択されない)
ことから、電子マネー保有者の割合は
µ = 0
である。これより、式(3.2)
と式
(3.5)
は以下のように書き換えられる。rV
Seller= Mx(V
Buyer− V
Seller− c)
(3.2
′)
V
Buyer= (1 − η)V
Cash+ ηV
Seller(3.5
′)
そして式(3.2
′)
と式(3.3)
と式(3.5
′)
のベルマン方程式を解き、市場への 参加制約式(3.6)
に代入することで均衡の存在条件式が得られる。この均 衡では電子マネーを用いた取引はおこなわれないため、δ = 0
である。c ≤ (1 − M )(1 − η)xu
r + (1 − M)(1 − η)x + η (3.7)
この制約式をC
1とする。ただし、現金のみが選択される均衡では制約C
1を満たすことに加えて、式
(3.5
′)
が成立していなければならない。した がって、(1 − η)V
Cash+ ηV
Seller≥ V
Emoney− φ
が満たされなければなら ない。これより、c ≤ {(1 − η)φ − (1 − M )uη}x + (r + η)φ
Mxη (3.8)
が導かれる。式
(3.7)
のC
1と式(3.8)
を満たすことが現金決済のみが選択 される均衡の存在条件となる。この均衡をC
とする。3.4.2
電子マネー決済均衡電子マネーのみが決済手段として選択される均衡を求める。現金は流通 しないことから、電子マネー保有者の割合は
µ = 1
となる。これより、式(3.2)
と式(3.5)
は以下のように書き換えられる。rV
Seller= Mx(V
Buyer− V
Seller− c − δ) (3.2
′′)
V
Buyer= V
Emoney− φ (3.5
′′)
そして式
(3.2
′′)
と式(3.4)
と式(3.5
′′)
のベルマン方程式を解き、市場への 参加制約の式(3.6)
に代入することで電子マネーが選択される均衡の存在 条件が得られる。c ≥ (1 − M)(u − δ)x − r(δ + φ) − φ
r + (1 − x)M (3.9)
この制約式を
E
1とする。ただし、電子マネーのみが選択される均衡では 制約E
1 を満たすことに加えて、式(3.5
′′)
が成立していなければならな い。したがって、V
Emoney− φ ≥ (1 − η)V
Cash+ ηV
Sellerが満たされなけ ればならない。これより、c ≥ {(1 − η)φ − (1 − M)uη − Mδη}x + (r + η)φ
Mxη (3.10)
が導かれる。また
c
は、x ∈ (0, 1)
の範囲で、式(3.9)
のE
1、式(3.10)
を 満たさなければならない。そのようなc
が存在するパラメータの条件は、(r + η)φ
(1 − M ){uη − (1 − η)φ} ≥ 1 (3.11)
である。よって、パラメータが式(3.11)
の条件を満たし、かつ式(3.9)
のE
1、式(3.10)
の制約を満たしていることが、電子マネー決済のみが選択される均衡の存在条件となる。この均衡を
E
とする。3.4.3
現金と電子マネー決済共存均衡現金と電子マネーが決済手段として選択される定常均衡の存在条件を 求める。
2
つの決済手段が選択されるので、電子マネー保有者の割合はµ ∈ (0, 1)
である。これより式(3.5)
は以下となる。V
Buyer= µ(V
Emoney− φ) + (1 − µ){(1 − η)V
Cash+ ηV
Seller} (3.5
′′′)
またこれより、V
Buyer= (1 − η)V
Cash+ ηV
Seller= V
Emoney− φ (3.12)
となっていなければならない。式(3.2)
、式(3.3)
、式(3.4)
および式(3.5
′′′)
を用いてベルマン方程式を解き、式(3.12)
を用いてµ
について解くと次 が求められる。µ = (r + x + η − xη)φ − cMxη − (1 − M)uxη
Mxδη (3.13)
ここで、
µ > 0
より、次を得る。この制約式をCE
1とする。c < {(1 − η)φ − (1 − M )uη}x + (r + η)φ
Mxη (3.14)
また、
µ < 1
より、次を得る。この制約式をCE
2とする。c > {(1 − η)φ − (1 − M)uη − Mδη}x + (r + η)φ
Mxη (3.15)
さらに市場への参加制約式
(3.6)
を次のように表す。この制約式をCE
3と する。c ≤ µ 1
η − 1
¶
φ − δ (3.16)
したがって、現金と電子マネーの決済手段が共存する均衡の存在条件は、
式
(3.14)
のCE
1、式(3.15)
のCE
2、式(3.16)
のCE
3を満たすことであ る。この均衡をCE
とする。
ドキュメント内
発行年 2015‑03‑24
(ページ 47-52)