第 3 章 電子マネーと現金
3.5 結果と数値計算
図
3.8:
決済手段選択の均衡(a1)(b1)(c1) (a2)(b2)(c2) (a3)(b3)(c3)
0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c 0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c 0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c 0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c
均衡E 均衡C
CE3 CE1CE2
C1 E1 0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c 0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c 0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c 0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c
0.20.40.60.81x
20
40
60
80
100c C
E C
E
C
E C
E
C
E C
E
均衡CE CCE
E
E C
CE CE CE
CE CE
CE CE
CE3 CE1CE2
C1 E1 CE2 CE1
CE3
C1 E1 CE3 CE1CE2
C1 E1 CE3
C1 E1 CE2 CE1
CE3 CE1
CE2
C1 E1 CE2 CE1
CE3
C1 E1 CE2 CE1
CE3
C1 E1CE3 CE1
CE2
C1 E1
表
3.1:
パラメータ数値M r u η δ φ
(a1) 0.6 0.01 100 0.010 10 0.7 (a2) 0.6 0.01 100 0.015 10 0.7 (a3) 0.6 0.01 100 0.020 10 0.7 (b1) 0.6 0.01 100 0.010 12 0.7 (b2) 0.6 0.01 100 0.010 24 0.7 (b3) 0.6 0.01 100 0.010 36 0.7 (c1) 0.6 0.01 100 0.010 10 0.4 (c2) 0.6 0.01 100 0.010 10 0.6 (c3) 0.6 0.01 100 0.010 10 0.8
M
:決済手段を保有する経済主体の割合、r
:割引率、u
:効用、η
:盗難・遺失の起 こる確率、δ
:売り手にかかる電子マネーの取引費用、φ
:買い手にかかる電子マネー の取引費用存在範囲への影響を示している。採用したパラメータの値は表
3.1
に示さ れている。他のパラメータが一定のもとで、(a1)
から(a3)
はη
の変化に よる影響、(b1)
から(b3)
はδ
の変化による影響、(c1)
から(c3)
はφ
の変 化による影響を分析している。(a1)
から(a3)
では、遺失・盗難の確率であるη
の値を0.01
から0.05
ず つ増加させている。それにともなって均衡E
の範囲が大きくなっているこ とが分かる。また、現金決済のみの均衡C
は著しく小さくなっている。つ まり、現金の盗難や遺失が起きるようになる(例えば、治安の悪化など)ほど保有の安全性が選択の重要な要因となり、電子マネーが決済手段とし て需要されることが示されている。保有の安全性が高い電子マネーの登場 ほど普及を加速させる可能性がある。
(b1)
から(b3)
では、売り手側にとっての取引費用δ
の値を12
から36
の間で動かしている。δ
の増加とともに、均衡E
の範囲は小さくなってい る。売り手の取引費用が高まるほど電子マネーのみが流通するような経済 は存在が困難となる。ただし、ここで代入しているパラメータの値は効用単位
(u = 100)
で考えた場合、非常に大きな値であり、その変化の幅も大きくとられている。図には示していないが、
δ
の微少な変化には、均衡の 範囲はほとんど反応しなかった。また、両決済手段が共存する均衡CE
の 範囲には変化が見られないことからも、この経済において決済手段の選択をおこなう側(買い手)は、売り手側の負担する取引費用の増減の影響を わずかにしか受ないことが分かる。
一方で、
(c1)
から(c3)
では、買い手の取引費用φ
の変化を分析してい る。0.4
から0.8
の間を0.2
ずつ動かしている。φ
が十分に小さいケースで は、均衡E
の範囲が大きく、電子マネー決済が選択されることが示され る。ただし、φ
のわずかな増加にも大きく反応し、パラメータの値が大き くなるほどにその存在範囲は小さくなる。この取引費用φ
が、決済手段を 選択する買い手が負担する費用であることによると考えられる。これらの結果は、遺失・盗難の確率と売り手・買い手にかかる取引費用 が電子マネーの普及や現金との共存に影響を与えていることを示してい る。またモデルでは、売り手(例えば、小売店)が電子マネー決済を受け 入れるためには取引費用がかかり、それは決済手段が現金である場合より も高いと仮定している。それにも関わらず分析結果では、決済手段として 電子マネーが選択される均衡
E
や均衡CE
が存在している。つまり、買 い手(消費者)が両替費用を支払ってでも電子マネーを決済手段として選 択するのならば、売り手側は電子マネー決済を受け入れるために、電子マ ネー専用決済端末の導入などの取引費用を負担するようになることを示唆 している。3.6 おわりに
本章では、決済手段の選択について理論的に分析をおこなった。
He, Huang and Wright (2005)
のモデルを応用して、買い手と売り手の視点か ら電子マネーと現金の競合関係について分析している。分析では、電子マ ネーや現金について、取引費用と保有の安全性の違いを考慮し、経済主体 による決済手段の選択を内生的に決定した。その結果、決済手段として電 子マネーと現金が共存する均衡の存在とその条件が示された。さらに、電 子マネーが単独で選択される均衡も存在することを明らかにしている。ま た、決済手段の属性から生じる取引費用や保有の安全性が、経済主体の意 思決定にどのように影響を与えているのかを数値計算によって評価した。その結果として、買い手にとっての電子マネーの取引費用が高まるほどに 電子マネーが決済手段として選択されなくなる傾向が示された。また、盗
難や遺失の生じる可能性が高まるほどに、電子マネーは現金よりも選択さ れやすくなることが示された。