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電子マネーとその動向

ドキュメント内 発行年 2015‑03‑24 (ページ 37-42)

第 3 章 電子マネーと現金

3.2 電子マネーとその動向

近年、日本で利用されている電子マネーは、複数の民間発行主体によっ て発行されている。それと同時に様々な規格の電子マネーが混在してい る。さらに実現には至っていないものの、現在の技術進歩や規制の枠組み を要件としない電子マネーの提案、議論がなされてきている。これまでの ところ、日本で利用できる電子マネーは、

B to C

の決済にのみ利用可能 であるが、技術的には

C to C

の決済にも利用可能であり、これは法制度 の整備に依存するものである。こうした制度設計の方向性は、将来の金融 通貨システムに大きな影響を及ぼす可能性がある。そこで本節では分析対 象とする電子マネーの位置づけと現状、その属性について概観する。

3.2.1

電子マネーの分類と動向

電子マネーは「電子情報化された貨幣価値」とされている。電子情報に 置き換えられた金銭的価値をどのような決済ネットワークを介して取引に 用いるのかという点から、「アクセス型」と「ストアバリュー型」の

2

の代表的な電子決済に分類することが可能である。「アクセス型」の例に は、主にデビットカードやクレジットカードが挙げられ、銀行やクレジッ トカード会社など金融機関の決済ネットワークを通じて預金通貨にアクセ スして決済をおこなうものである。「ストアバリュー型」とは、非接触型

IC

チップを搭載したプラスチックカードや携帯電話を保存媒体にした電 子マネーである。現状では、このタイプの電子マネーで決済をおこなう場 合には、利用者が事前に現金相当の「電子情報化された貨幣価値」を購入 して、保存媒体に記録する必要がある。預金通貨を介する必要なしに決済 を完了することが可能である点が「アクセス型」との大きな違いである。

さらに、「ストアバリュー型」の電子マネーは流通形態の違いからの分類 もなされる。

IC

カードなどの物質的な保存媒体やネットワーク上に保存 された電子マネーは、支払いに一度のみ利用のできる「クローズドルー プ型(受け取った側は、それを電子マネー発行者に渡すことで現金化され る)」と、現金と同様に、回数に制限なく何人ものあいだを流通させ続け ることができる(転々流通性をもった)「オープンループ型」の

2

つが存 在する。前者は

Edy

Suica

などのように今日、実用化がなされてきて いる。

このような分類がなされる一方で、電子マネーをどのように定義するの かに関しては、明確に定まっていない。清水

(2005)

は、デビットカード やクレジットカード決済に利用される銀行預金は伝統的な貨幣の定義の中 核だが、その決済はすでに完全に電子化されており、決済の電子性に注目 して電子マネーを定義することは議論を整理する上で有用ではないことを 主張している。そこで本章が分析対象とする電子マネーを、清水

(2005)

によって定義された「現金通貨と預金とを利用しない決済手段」として扱 う。そして本章では、既に実用化段階に入っている「ストアバリュー型」

かつ「クローズドループ型」の両方の形態をもった電子マネーを分析対象 とする。

3.1

は、

2007

9

月から

2009

3

月における電子マネーの保存媒体で

3.1:

電子マネーの発行枚数と決済端末台数の推移

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

()

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000 11000

()()

携ep 07 Dec 07 帯ar 08 子un 08 携ep 08 Dec 08 帯ar 09

( ) ( )

( )

【出所】日本銀行決済機構局

(2009)

より筆者作成

ある非接触型

IC

チップを搭載したプラスチックカードと携帯電話をベー スにカウントされた発行枚(台)数1、そして小売店の電子マネー決済端 末の導入台数の推移(月次)である。電子マネーの発行枚数は

2007

9

月の統計開始時点から

2009

3

月までに、約

1.6

倍に増加している。携帯 電話を含めると

2009

3

月時点で

1

億枚に達しており、順調に伸びてい ることが分かる。ただし、この数字には実際には決済に使われず休眠状態 にあるカードも含まれていることに注意すべきである。よって、この発行 枚数を利用者数に単純に置き換えて考えることはできない。一方の決済端 末の導入台数については直近の統計では約

48

万台が普及しており、

2007

9

月から

2009

3

月までに約

1.95

倍となっている。電子マネー利用者 の増加率よりも受け入れる企業の増加率の方が高く、電子マネーの受容性 の高まりを示すものとして評価できる。

3.2

は、

2007

4

月から

2009

3

月における電子マネーの決済件数 と決済金額の推移(月次)である。

2009

3

月では、決済件数

1

300

1ここで統計の対象とされているのは、

Edy

Suica

ICOCA

PASMO

nanaco

WAON

SUGOCA

Kitaka

の計

8

つである。

3.2:

電子マネーの決済件数と決済金額

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

()

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110

()

子un 07 Sep 07 Dec 07 Mar 08 子un 08 Sep 08 Dec 08 Mar 09

( ) ( )

【出所】日本銀行決済機構局

(2009)

より筆者作成

件、決済金額

771

億円となっている。両変数の金額は、期間中、多少の変 動をしつつも増加傾向にある。

3.3

は、図

3.2

の決済金額を決済件数で除した、取引一件あたりの平 均決済金額を示している。この期間中、

600

円前半から

800

円強の間を変 動しており、全期間を通じた一件当たり平均決済金額は

712

円となってい る。図

3.1

、図

3.2

からは、電子マネーの発行枚数と電子マネーを受け入れ る企業が増加しており、それにともなって、決済件数とその総額が増加し ていることが分かる。一方で、図

3.3

の一件当たりの決済金額には大きな 変化は見られず、ほぼ横ばいである。これは、現状の電子マネー利用者は 超小口決済にのみ用いていることを示しており、伊藤・川本・谷口

(1999)

の理論的考察の結果を支持するものである。

3.2.2

電子マネーの費用と安全性

決済手段の選択に関する先行研究では、経済主体の決済手段選択の意思 決定は、どれだけ取引費用を低くすることができるか、あるいは保有の安

3.3:

電子マネー決済一件当たりの平均金額

0 100 200 300 400 500

(00 700 800 900 1000

Jun.07 Sep.07 Dec.07 Mar.08 Jun.08 Sep.08 Dec.08 Mar.09

【出所】日本銀行決済機構局

(2009)

より筆者作成

全性はどの程度なのかに依存すると考えられてきている。そこで本章も電 子マネー決済の特性が、これらに代表されていると推測する。ここでは現 金決済と比較して、買い手と売り手から見た電子マネーの取引費用や保有 の安全性とはどのようなものが想定されるのかを考える。

電子マネー決済を利用する買い手にとっての取引費用には、電子マネー の保存媒体がカード型、携帯電話型であるかにかかわらず、取引の前に金 銭的価値を電子情報化して保存しておかなければならないことが挙げられ る。これは「チャージ」と呼ばれ、現金を電子マネーに両替することを指 している。

決済手段の属性の違いは、売り手の取引費用にも変化をもたらすことに なる。電子マネー決済の受け入れ側である売り手は、

IC

カードや携帯電 話端末に蓄積記録された電子マネーの情報を認証するための専用決済端末 を導入する費用を支払わなければならない。さらにクレジットカード決済 を受け入れる場合と同様に、電子マネー決済のネットワークに加入する設 備費用と、その利用手数料をネットワーク管理者(発行主体)へ支払わな

ければならない。ただし、現金決済の場合に比べて、あらかじめ釣銭を用 意しておくことや現金を厳重に保管する必要性がなくなる。それにより、

手元の現金保有残高を減らすことができ、いわゆる現金取扱い費用を減ず ることも考えられる。また、電子マネー決済は現金よりも顧客一人当たり にかかる決済時間を短縮させることも特徴の一つであろう。ゆえに、本章 では専用決済端末の導入費用と現金取扱い費用の減少、決済時間の短縮と の差額が売り手にとっての電子マネー決済の費用と考える。

次に、電子マネーの保有の安全性の観点から考察を加える。本章では電 子マネーの特徴の一つは、現金通貨と比べて保有する際の安全性が異なる ことと考える。そこで決済手段の安全性を、盗難や遺失に遭う確率として 評価する。現金は最も匿名性が確保された決済手段として認識されてお り、それが利便性を高めていると考えられる。しかしながら、それゆえに 一旦、現金を落としたり(遺失)、盗難に遭ってしまうと、貨幣価値が手 元から流出することを防ぐ手段が無い。一方で、電子マネーの匿名性につ いては、利用する電子マネーのタイプに応じて程度の差こそあるが、その 安全性は現金に比べて高いと考えられる。電子マネーには、

IC

カードや 携帯電話といった保存媒体が遺失や盗難に遭った場合、電子マネー発行会 社へその申告をおこなうことで第三者によって不正利用されることを未然 に阻止する機能が備わっている。また、(その時点での)貨幣価値も保証 されるものが存在する。このように、電子マネーは匿名性という決済手段 の利便性をある程度維持しつつ、安全な保有を可能にしている。

次節では、本節で示された決済手段の属性から生じる費用の違いを考慮 して、現金と電子マネーが選択される経済について検討する。

ドキュメント内 発行年 2015‑03‑24 (ページ 37-42)