(㈱殴ノ
図29 3個の玉の軌道検査結果
管の軌道検査では,落下前,落下後の管の描画は箱の上の状態と同じ ものを描く。各段階の描画は,1回転する管の段階図を描き,管の軌道 一47一
描画は,回転しない管の軌道を描いている。段階ごとの描画と軌道の描 画が異なり矛盾したものを描いている。動作的再生は1回転して再生し ており,管の軌道描画と同じ間違いである。
身振りの模倣検査では,腕の模倣において全部鏡像で模倣する。反対 の検査では,まず鏡像で模倣しすぐに違うことに気がつき非鏡像で模倣 する。複雑な身振りでは,時々掌を検者に向けて模倣する。他者から自 己,自己から他者への移行可能な身体表象へ自己の運動を統合していく のが難しい。そして,事象の外観にとらわれやすいのである。
落揃と落下後
各段駒樋管の軌道鞭
動作的再生 口頭描写R R〆
1㌦ 馨 一・k
Q,_. \
? R
繭[]R 癩瞑〔=r
幽・360
転て甜うに
閧ョ.図30 管の軌道検査結果
⑤神経心理学検査の結果
12歳1ヶ一時のWISC−R知能検査では,全IQが110,言語 性IQが98,動作性IQが122であり,言語性IQと動作性IQと
の差が24ある。比較すると言語性の発達がやや未熟であると推測でき
る。12歳2ケ月時のITPA検査では,ことばの表現が5歳レベルで
あり表現力の問題が示唆された。絵画語彙発達検査(12歳10ヶ月:以下特記してない検査は12歳10ヶ月に実施したものである)は,発
達年齢は12歳以上であり年齢相当の発達を示している。復唱検査は発 達年齢7歳以上となり年齢相当と考えられる。微細運動検査結果は,デ ィアドコキネジアにおいて,右手,左手回転時に反対の手に連合運動が 一48一見られた。栂一指検査では,指の動きのスムーズさに欠けた。片目閉眼 では左右とも両鰻を閉じてしまい,口もとに力が入ってしまう。それ以 外に問題は認められなかった。人物画は,描くことが苦手であると思っ ているので,最後まで気持ちが続かず途中でいやになり投げ出してしま い,簡単に描いてしまう。体と腕,脚がつながっており,肩と腕の区別 がなく,掌が描かれていない。足も描かれていない。発達年齢は6歳で ある。ピアジェ・ヘヅドの左右の検査では,自己の左右は正しく反応し たが,相手の左右は反対になり,3つの事物の左右は6間中4問間違い,
正確さに欠ける。図版検査は正しく反応しているが,模倣検査で4問手 を反対にし,口命検査では2問間違っている。読み書き検査では,聴写 の誤りがあり,助詞や漢字の誤りが見られた。算数検査では,小数のか け算,わり算に誤りが見られ,四則混合計算が難しい。文章題も文の理 解が困難である。
⑥小括
幼児期はことばの遅れと多動傾向があり,対人関係の問題が見られた。
学齢期では状況に合う行動がとれず,自分勝手な行動が多かった。神経 心理学検査から言語性機能の問題が示唆され,左右認知の問題,身体像 の発達の問題を呈している。ピアジェ型検査では,操作的側面に比べ形 象的側面の遅れが大きく,視点変換と心像の問題が見られた。言語性の 問題と非言語性の問題を併せ持つ症例である。
一49一
(6)議論
a.ピァジェ型検査からの比較
ピァジェ型検査結果より, 5例の2つの側面の年齢相当達成率は,操
作的側面課題が80%,形象的側面課題が!2%であり大きな差が見ら
れた。各症例の年齢相当達成率比較を行うと表4の通りである。操作的
側面の課題の達成率が低くなるにつれて,形象的弓而課題の達成も低く なっていることが分かる。麦4 各症例の年齢棚当達成率
一 一 一 . 一 ゴ 『 一 − 一 } 一 . − 胃
翻1 症例2 症例3 酬4 翻5 納 腓欄醸題 loO 100 80 60
60
80纏骨面謀題 20
20
200 0 12
操作的側面課題の達成状況をみると, 5例ともことばの推移率は達成 されている。つまり形式的操作段階の課題が達成されているのに,症例
3,4,5は具体的操作段階の課題の中で達成されていないものがある。
症例3,4は交叉分類,症例5はクラス包括である。症例3,4は論理 的乗法を必要とする問題に,症例5は類の包括的問題に正しく反応でき
ないのである。
形象的側面課題の達成状況をみると,空間課題(空間観念, 3つの山 検査)は全ての症例において達成されていない。心像課題(3個の玉,
管の軌道検査)においても,症例1を除いて他の症例は2つの検査とも
達成されていない。模倣(身振り模倣検査)は症例2, 3のみ達成され ている。以上より,空間概念と心像の問題が大きいことが分かる。まず空間概念課題の問題について検討を加えていきたい。
空間概念の発達をピアジェらはトポロジー的空間の段階,射影的空間の
一 ,r)o 一
段階,ユークリッド的空間の段階の3つに分けている。この第3の段階
で視点間の協調,物と物との協調,水平,垂直という関係系の枠組みが できあがってくる。 この視点で5例を見ていくと,全ての症例が射影的 段階でありユークリヅド的空間の段階に達していないのである。具体的に各症例の空間概念の発達の状況を見ていく。まず5例の空間
課題の発達年齢水準を,それぞれの症例の生活年齢とで比較すると,症例2,3,5は空間概念の問題が大きいといえる(表5)。
表 5 5傍の空問殿念検査結果の比較
症塊1 症例2 症例3 症例4 症例5
鯛鵬 ▲
3つ舳 △
A
A
A A
A
AA
A▲;CA−2≧発達水準年齢
△;CA−1≦発達水準年齢くCA−2
間違い方の内容を見てみると,症例3は水平,垂直とも間違い,症例 4は他の4例に比べ視点変換の時,左右・前後の誤りが多いのである。
左一右テストからは,症例2,5の左右の誤りが多く,症例4は3っの 事物の左右が不確かである。この2つの表から考えると,症例2,4,
5は視点間,物と物の協調,水平・飛直把握全てが不安定であり射影段
階だと考えられる。症例1, 3は左右認知が確立しているにも関わらず,前後の関係が入ると視点変換において間違いが多くなる。この1,3の 症例においても・症例2・4・5に比べると物と物の協調は可能である
が,前後の関係が入ると視点変換に混乱が見られ,水平・垂直把握も不 安定であることから射影的段階だと考えられる。一 Jr l一
表6 空問課題の質的な結果の比較
症棚 翻2 症傍3 翻4 舩5
鯛観念
Rつ舳
垂直働磯
O口能,左右 時礪違う
水平のみ可能
O後磯,左右 時々間違う
どちらも不鴨
カ右可能,前後R蘭う
鮪嚇可能
O後・左右を時
闊痰、
水平のみ可能
レ礁,左右
蹴間違う
表 7 ヒ。アシ エの「二一右」テスト
症例1 左二丁 O
肝 0
3つの物 ○
ピアジェは,常に自分の経験を中心に判断が下され,他人にも,自分 と同じ経験が成立していると判断し,そこに自他の視点の違いや相対性 が無視される「自己中心性」の検討を行った。 この自己中心性は思考に
おける研究と空間認識の発達過程における研究が行われている。この3
つの山の課題解決に関連する能力として,空間的視点習得:他者が何を 見ているかの理解,認知的視点習得:他者が何を考えているかの理解,感情的視点習得:他者が何を感じているかの理解があげられている(了 安,1990)。 この3つの視点習得が子どもの中で同時に発達していくの か,それとも一定の順序に従って発達していくのか,まだ十分に解明さ れているとはいえない。互いに相手の立場を知り理解するためには,自 分の立場と相手の立場の分離が必要である。すなわち,自他の分離がで きてはじめて他者の視点に立つことができ,このことが視点の成立と変 換の問題なのである(子安,1992)。この5例は,いくつかの対象物をノ ある視点に結びつけて投影的に捉えられるが,視点を移動させて客観的 な基準系から判断するのが難しい段階である。このような空間的視点旧
作2 症例3 症脳 翻5
×02/6 OOO
一 r 〔 i
nO4/6 ○×2/6
一.@Jr 2一
階の症例の認知的視点習得と感情的視点習得の状況,つまり他者が何を 考えているか,何を感じているかの理解の程度を見てみたい。各症例の
生活場面から特徴的な状況をあげてみると,症例1は柔軟性に欠け自分
の思いにこだわってしまうので,回りの状況の変化を受け入れるのが難 しい。また,班会議の時に話し合いの用意ができていないのに,自分か ら一方的に話すことがある。 しかし,状視を説明すると納得することが多い。症例2は低学年の時,相手の子どもが遊ぶのに都合が悪いと断っ
ているにも関わらず,僕は都合が悪くないからといって遊ぼうとしたり していた。 しかし,悪いことをしている人を見たら注意しないと気が済 まなかったのが,最近はそんな人もいると納得するようになった。症例3は相手の気持ちや意図をくみ取るのが苦手であり,自牙の感情をその
まま出したり,自分の言い牙を通そうとしていたが,中学校に行くようになり少しずつ相手に合わすようになってきた。症例4は,相手の子ど
もがいやがっているのに,あほとかバカを繰り返し言ったり,気になる 女の子にキスをしたりした。その都度,相手の子どもの気持ちを説明するとこのような行動は少なくなってきた。症例5は自牙の感情をうまく
表現できず,相手の気持ちも理解することが苦手である。中学校の障害 児学級を見学にいったとき,教室に入るや「あの人達の障害は何ですか」と聞いた。以上のように,どの症例も他者の視点に立って考えたり相手 の気持ちを察したりすることは苦手であるが,相手の意見を受け入れや すくなったことで,随分人間関係がスムーズになってきていることが分 かる。空間的視点習得において,視点変換の困難佐が見られたにもかか わらず,信頼できる人との関わりを通して,認知的・感情的視点習得が 可能になってきているといえる。つまり,自分の立場での行動が多かっ たのが,信頼できる人を介して相手の立場の理解が拡がったと考えられ
一53一