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V. 要約
1.問題と目的
「学習障害」の定義はわが国ではまだ十分な合意が得られておらず,
判定基準や診断方法についても見解が分かれている状況である。その中 で,現在行われている学習障害の診断,指導方法は,心理教育的アプロ ーチと神経心理学的アプローチがあげられる。これらは,心理検査と神 経心理学検査を組み合わせたテストバッテリーで構成されている。これ らの検査結果は量的評価が中心で,症児の示す問題の質的な分析があま りなされていない。また,読み書きや算数などの学習上の困難さと潜在 能力との関連でも評価されていない。
山口(1985)は,ピアジェがいう認識機能における操作的側面と形象 的側面の区別の導入により,子どもの行為の発達を量的なものから質的 な問題として捉えようとした。ここでは操作的側面に比べ,・形象的側面 の欠陥が認められた。
このように学習障害の診断では量的評価が申心であり,子どもの間違 い方や内容の検討が不十分といえる。ピアジェ型検査を導入することに より,学習障害児の発達においてできることが増えるという量的な捉え 方から,質的な転換の問題として捉えられるのではないか。 また,神経 心理学検査からは問題把握が不十分な症例に,この検査を実施すること により,症児の問題が質的に捉えられ問題が明確になると考えた。
そこで,学習障害児10症例に対してピァジェ型検査を実施し,操作
的側面と形象的側面を分析することにより,学習障害児の発達の質的展 開の検討を行うとともに,学習障害児の評価のあり方と指導への示唆を 得ることを目的とした。一97一
II.研究の方法
学習障害児10症例に対して,ピァジェ型検査(i操作的側面,形象的
側面課題)を実施し,その結果の分析と神経心理学検査結果との関連を分析した。
操作的側面課題は, 10本の棒の系列,クラス包括,交叉分類,天秤 の釣り合い,ことばの推移率の検査であった。形象的側面課題は,空間 観念, 3つの山, 3個の玉の軌道,管の軌道,身振り模倣の検査であっ
た。
III.結果
操作的側面と形象的側面を比較すると,形象的側面の遅れが大きかっ た。形象的側面の中では,空間表象と予見的心像の遅れが特徴的である。
この2つの側面の年齢相当達成の比較をすると,2つの側面に差の見ら れた群(1群)と差の見られなかった群(II群)に分かれた6この2つ
の群の操作的側面課題の達成率はほぼ同じであったが,形象的側面課題 の達成率は1群が低い達成率を示した。 この2群の形象的側面の 特徴を あげると, 1群は射影的空間段階であり,心像は動的な心像の可能な段 階に達していない。また事象の外観にとらわれやすい傾向が見られた。II群は射影的空間段階であるが水平,垂直の関係把握ができ,動的な心 像の可能な段階である。また事象の外観にとらわれにくい傾向があった。
以上のようにピアジェ型検査においては,質的に特徴的な差が見られた。
次に,神経心理学検査からこの2つの群を比較すると,質的に大きな差
が見られなかった。すなわち,神経心理学検査からは特徴的な差の見ら れない学習障害児に対して,ピァジェ型検査を行うと質的に特徴的な差 が見られたのである。一98一
IV.考察
学習障害児にピアジェ型検査を行い,形象的側面の遅れが見られると いうことは,非言語性の学習障害児がもっている問題,すなわち身体図 式,左右の知覚,空間知覚などの問題を示唆している。
本研究の対象児の中で,神経心理学検査を行っても彼らの問題把握が 十分にできない症例を経験した。その症例に対してピァジェ型検査を実 施すると,操作的側面は全て達成したが形象的側面がほとんど達成され なかった。すなわち,視点変換とイメージをもつことの困難性を示した のである。このことは,ピアジェ型検査が学習障害児の診断過程の中で
有効な示唆を与えてくれるといえるのである。また,2つの群の類型化
から,学習障害児のタイプによるきめ細かな指導の必要性が示唆された。上野(1992)や八島(1992)の類型化による指導と同様に,それぞれの学 習障害児のもつ問題に応じた指導をする上にも,このピァジェ型検査は 有用だと考える。
学習障害児の診駈,指導においては,子どもの今の状態をできるだけ 詳しく把握することが肝要である。このピアジェ型検査は, 〈できる一 できない〉の量的弁別ではなく,なぜできないのか,どのようにできな いのかを検討しながら行うことができる。学習障害児の診断過程におい
て,今までに行われている心理教育的アプローチや神経心理学的アブn
一チの中に, このピアジェ型検査の位置づけを明確にしておくならば,教育現場においても学習障害児の診断と,指導に有効に活用していける
と考える。
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書射辞
本研究論文の作成にあたり,指導教官として終始暖かい御指導,御校 閲を賜りました山勢俊郎教授,今塩屋隼男教授,七木田敦先生に,心よ
り感謝の意を表し,お礼申しあげます。また障害児教育講座の諸豪生方 には,研究を進める上で貴重な御指導,御助言をいただきました。深く 感謝いたします。さらに,この研究に御理解と御協力をいただき,終始 支えて下さった滋賀県学習障害研究会の同人の先生方,ならびに滋賀県 学習障害児をもつ親の会の皆様に心より感謝いたします。
最後になりましたが,2年間の有意義な研修の機会を与えて下さった
滋賀県教育委員会をはじめ,甲西町教育委員会,甲西町立三雲小学校の 皆様に感謝の意を表します。今後,学んだ多くのことを,日々の実践に生かすため一層努力したい
と思います。
ありがとうございました。
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