災害時の病院薬剤師の役割には、自院で果たすべき役割と被災地等に赴き医療チームの 一員として医療支援を行う場合があり、病院の機能や特性に応じた役割を果たすことが求 められる。備蓄用医薬品の選定・管理・確保は全ての医療機関での共通の役割であり、医 薬品の緊急時対応マニュアルの整備とともに多職種への周知が必要となる。患者・家族に は非常時の服用薬の確保について(「処方箋医薬品等の取り扱いについて」平成17年(2005 年)3月30日 薬食発第0330016号、一部改正 平成23年(2011年)3月31日 薬食発 0331第17号)日頃から周知を図る。また、除細動を含むBLS(Basic Life Support)やト リアージ法等の救急救命手技・技術は、薬剤師も習得することが望ましい。
災害派遣医療チームへの薬剤師の参加によって診療効率が格段に上がることが評価され ており、電気・通信基盤などの社会基盤が壊滅的な影響を被る大規模災害では、お薬手帳 などの紙媒体や面接による処方薬の情報収集および備蓄医薬品の種類と備蓄量を勘案した 最善の処方支援が行える体制の整備が必要である。
電気の供給停止により電子カルテ、オーダリングシステム等が停止する事態も想定し対
応法を定めると共に、秤量機器、薬包紙や薬袋等調剤に必要な備品、消耗物品を備蓄して おくことも忘れてはならない。
なお、日本薬剤師会を含め各薬剤師会が発行している『薬剤師の災害対策マニュアル』
は必読の書である。
表1:大規模災害時の病院薬剤師の役割
日常の準備 急性期(直後~ 3、4日程度) 亜急性期(~ 2、3週間程度)
状 況
ライフラインの途絶、情報の 混乱、医薬品・医療器具の破 損、不足、外傷患者集中
ライフライン復旧、物資の搬 入、救援体制の整備、慢性疾 患の増悪、ストレス性障害の 増加
災害拠点病院 • 備蓄医薬品の管理
• 災害救護用医薬品のリスト作 成
• 災害救護用医薬品の管理
• 医薬品のニーズの把握
• 被災者の受け入れ(特に重 傷患者への処置)
• 被災地における医療支援
(投薬、服薬指導、収容施 設への巡回による常用薬の 確認・相談)
• 処方支援(限られた医薬品 からのベストチョイス)
一般の病院 • 備蓄医薬品リストの作成
• 通常在庫+3日分程度の発注
• 災害時約束処方の作成
• 取引医薬品卸との協議
• 地域の薬剤師会との協議
• 緊急連絡網の整備
• 使用可能な医薬品の把握
• 現場への医薬品の供給
• 医薬品の確保
• 約束処方の調剤と服薬指導
• 軽傷者の処置
• 環境衛生対策
• 医薬品の供給と確保
• 調剤と服薬指導
• 環境衛生対策
診 療 所
• 救命救急のスキル習得*1
• 備蓄医薬品の選定*2
• 災害時約束処方の作成
• 備蓄医薬品の管理*3
• 他のメディカルスタッフと の連携*4
• 服薬継続が必要な患者(イン スリン・心疾患治療薬・抗 HIV等)への災害時の対応に ついての患者教育実施*5
• 医療救護所設営場所・近隣の 災害拠点病院の確認
• 使用可能な薬剤の把握
• 医薬品の確保
• 約束処方の調剤と服薬指導
• 軽症者の処置
• 他医療施設への搬送支援
• 医療救護所との連携
• メディカルスタッフの健康 管理
• 衛生状態の管理
• 医薬品の確保
• 服薬指導
• 使用出来る代替医薬品の提 案
• 重要患者への連絡
• 他医療機関との連携
• 衛生状態の管理
注)
*1:スタッフが少ないため、薬剤師もACLS・上級救命救急・AED使用手技・トリアー ジ法などの救急スキルの習得が必要。
*2:「薬剤師の災害対策マニュアル」等を参考に、医師の使いやすい薬剤を選定する。
また、全職種が診療所に参集できない場合も想定した外傷用処置材料・経口補液な どの検討も行う。
*3:備蓄医薬品が期限切れで廃棄処分とならないように、日常診療内で使用できるよう に管理する。
*4:薬剤師が到着できなくても他のメディカルスタッフが使用できるよう、医薬品の在 庫場所・常用量等に関するマニュアルを整備する。
*5:診療所が機能しなくなった場合の対処方法をあらかじめ教育しておく。特に、「処 方箋医薬品等の取扱いについて」(平成17年(2005年)3月30日 薬食発第0330016 号、一部改正 平成23年(2011年)3月31日 薬食発0331第17号)によって、「大 規模災害時等においては、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の 交付が困難な場合に、患者に対し、必要な処方箋医薬品を販売する場合」が認めら れていることを周知する。