.調査を打ち切っており,151.の項目は,同年度以降全地 域で調査を打ち切った。そのため,本図では地点数が少 なく,また,一部の地点では,150の回答しか得ていな
い。
この図では,ハイ類およびハイ類を要素に含む語形
(AK:UBAIなど)について,語形の分類のしかた(それ ぞれの見出し語形の下にまとめられた音声変種の範囲),
および,符号の色・形を,比較のため,232図「はえ」と 統一した。その際,232図の内容に見られない音声変種 については,232図の分類原則に照らしてしかるべき見 出し語形に含め,あるいは新たな見出し語形を加えた。
凡例の見出しの排列も232図にならった。すなわち,
ハイ部分の音声内容が,代表見出し形として示したもの と同一もしくはそれに含めて良いと認めたものは,代表 見出し形の次にまとめて排列し,見出しの位置を一段右 側へずらしてある。たとえぼ,HEE〔he:〕の次に位置 するHEEBOは, HEE部分の音声が〔he:〕であり,
HEE〔hε:〕の次の且EEBOのHEEは〔hε:〕である ことを示す。
〈併用処理〉は,232図と統一して,これを行わな
かった。
以下,色ごとに,その分布を説明しよう。
緑の類は,東北,九州東部,琉球の大部分などを除い た地域に広く分布する。この類の各種り語形や音声変種 の分布について232図と比較すると,調査地点数の違い による分布の粗密の相違は別として,その領域は,大ま かには一致しているものが多い。ただし,HAIBO,
HAEBOなど,〜BOの語形の分布には両図の間に大
きな違いが見られ,232図では富山・石川などに見られ るのに対し,本図では愛知東部から静岡西部にかけて集 中している。また,232図に見られる.HAIBOBOなど〜BOBOの形は,本図では皆無である。またHAEは
本図の方が若干少ないが,この点,「はひ(灰)」と「はへ
(蝿)」との古形もしくは表記の違いが,わずかに反映す ると言えようか。
本図の凡例のKARAHAI以下NUKABAIまでの
語形などは,灰の原材料や製法など,いわば灰の種類の 違いにもとつくと考えられる語形が多く,これらは当然 232図にはない。本図では,この種の語形も,原則とし て全部登載してある。これらのうち,SUBAI, WAR−
ABAIには「わら灰の,作りたてでまだ色の黒いもの」
などの注記が多かった。また,KOZURIBAI 6507.48 48
には「木のもえさしなどのまだ混じった灰」とあった。な おZIRUH:AI, SIROBAI, KUSABAI, MOK:U8AI,
TAKIBAI, NUKABAIは150の項目のみに,
DOBAI, KOZURIBAIは151の項目のみに現おれた
語形である。
榿の類はハイ部分の語頭が両唇摩擦音HW〜の語形 をまとめたものであるが,これらは,九州の主として東 部と奄美・沖縄,さらに東北の一部にも見られる。茶の アク類に圧倒されたため東北で分布が薄くなっているほ かは,232図の分布と大差はない。
ハイ部分の語頭がP〜である赤の類は琉球に集中す る。なお, SIRAPPEE5671.68もP〜ではあるが,
これは,他のP〜の語形と性質が異なる点を考慮して 緑の類に含めた。またKARABALI 2068.08のB〜は P四の変種とみなして赤の類に含めた。なお,PAU,
BAnのLiは〔fZi〕〔ち〕〔Zi〕をまとめたものである。
赤の類のうち,宮古のものは大部分がK:ARAPALI であるが,このKARA〜の語形は九州の壱岐・対島に も集中的に見られる。KARAは「燃えがら」の意と思わ れるが,あるいは,「籾殼」などの「殻」との関連について
も考慮すべきかもしれない。というのは,本図で福島の 5608.51にSUGUBOがあり,その注記に「特にもみが
ら灰を言う」とあるし,また熊本の7364.34にNU−
KABAIが見られ,171図「もみがら」を見ると,この
地点はMOMINUKAであり,また,本図でKARA〜
が分布する琉球の宮古や九州の壱岐・対島には171図で モミガラ類が分布すること,などからである。もっとも 福島の5608.51は171図でNUGAであってスクモでは
ないが,やや離れた関東南部にはSUKUMO, SU−
GUBOが集中的に分布する。
紺の類のうち,EE〔e:〕およびEE〔ε:〕は,ともに8 323.59にHE〔he〕との併用で見られる。これらは隣接す
るHEE〔he:〕やHWEE〔Φε:〕の類に含めてもよかった が,質問番号150の注記に〔e:〕〈古〉・〔he〕〈新〉と あり,〔e=〕が偶発的な音声のゆれによって生じたもの ではないらしいので,これを,とくに生出しておいた。
なお,EE〔ε=〕は,質問番号150と151の両方の注記に
「elはε=のようにも聞える」とあったので,これを採用 したものである。
茶のアク類は東北と北海道に広大な領域をもつほか,
琉球の奄美を含め,全国に点在する。この分布から,近 畿を中心に最初に広がったのはアク類であるという見方 270
が可能かどうかという点については,「灰汁」「植物の渋 み」など他の意味のアクがもし全国的に用いられている
とすれば,西寄りの地域に点在するアクは別の意味分野 から,いわぼしみ出したものとも考えられるから,アク の分布に周圏論を適用することは無理かもしれない。
東北にアクが広まった背景については,この地域でハ イ(灰)とハエ(蝿)とが同音衝突を起こした結果,隣接 意味分野(「灰汁」など)のアクが「灰」の意味分野にまで侵 入したことも考えられる。もっとも,東北以外の全国各 地で「灰」と「蝿」とが現実に同音衝突を起こしているの に,ほとんどの地域でこれを避けようとしていない点な
どに問題があるかもしれず,なお検討を要する。しか し,たとえぼ,先に述べた,北陸における「灰」一ハイ
(ハエ)と「蝿」一ハイポ〜(ハエボ〜)の区別,東海地域に おける「灰」一ハイポと「蝿」一ハイの区別などは,同音衝 突を避けた例とみることができよう。さらに,同音衝突 回避説とは別に,あるいはそれに加えて,東北その他,
本図でアクが分布する地域には「灰汁」や「植物の渋み」を 意味する別の語形が古くから存在したために,中央から 伝播したアクを「灰」の意味で採り入れたという事情があ
るのかもしれない。全国各地で「灰汁」「植物の渋み」など をどう呼ぶかについて詳しいことはわからないが,『全 国方言辞典』には,「ぎけ」の見出しで「気。あく気。『さ つまいものキケをとる』秋田県鹿角郡・山形県米沢」,
「じけ」の見出しで「植物のあく。岡山・高知」とあり,本 図のアクの分布と,やや関連するところがあるようにも 思われる。『山形県方言辞典』によれぽ「山菜などにある あく気」の意のキケは,米沢を含む置賜地方で広く用い るようである。なお,『日本国語大辞典』によれば,古い 文献では,「あく」は,「灰汁」の意として『古今集』や『十 巻本和名抄』に現われる。
次に,西日本各地のアクは,多くの地点で150もしく は151のいずれか一方の回答であり,しかも,150と 151のいずれを意味するかについて,必ずしも一定の地 域性が見られない。これは,.結局,西日本では「灰」の意 味でアクを用いることはまれであり,150と151のいず れにアクが現われるかについてはある程度の偶然性が働 いたにすぎないのかもしれない。これに対して,東北で は,アクが150・151を通じて用いられる地点が多いと ともに,ハイ類とアク類との併用の地点では,ハイ類が 150のみに,あるいはアク類が151のみに用いられる地 点が比較的多く,これに対して,アク類が150のみにあ
2盈0
一49
るいはパイ類が151のみに用いられるという逆タイプの 併用地点は少ないという傾向が認められる。なお,単用 の地点で「150のみ」の補助符号が付いた語形は,最初に 記したように,151については調査を行わなかった地点 のものであり,その語形が151の意味では使わないこと を意味するものではないことに注意してほしい。
アク類のうち,AKOは入丈の3地点のほか静岡
6633.27に,またAGOは山形4628.61に見られる。入 丈にはアク類が集中しており興味深いが,これらはいず れもハイ類と併用されており,いずれの地点でも,ハイ 類に「木灰」,アク類(AKUBEIを含む)に「わら灰」と 注記してあった。151の方はともかく,150の項目の回 答として「わら灰」の注記は妙だから,これらのAK:U は「151のみの回答」として扱うべきであったかもしれ ないが,150の質問文の中の「たきぎ(まき)」の部分に十 分な注意が払われなかった地点が他にもありうると考え て,本図では,150・151それぞれのカードに記入して ある語形は,注記内容の如何にかかわらず,原則とし て,その項目の回答として図示してある。6472.05と 0257.12のAKUは150のみの回答であるが,とれらは 150のカードの注記欄に「わら灰」として記入してあったものを,上の原則に準じて,150の回答として採用した ものである。なお,0257.12のAKUの具体的内容は
〔a k〕であった。また,6377.11,6440.67のAKUは 151のみの回答であるが,これらにも「わら灰」の注記が あった。
このように,ハイ類との併用でアクがわら灰であると 注記してある地点のアクの中には,洗濯や染色など特殊 な用途に対する名称,いわば「灰汁」を意味するアクと の境界にある語形が含まれていよう。実際に,弓丈の 7659、40のAK:Uには,.150の項目の方のカードに「わ ら灰。洗濯に使った」との注記が見られた。また,6412.91 のAKUには「炭火の上にかけるときに特に言う」と あった。そのほか,アク類の語形についての注記とし て,「かたまった灰」とするものが,1763.60,459931(以 上「150のみ」の回答),1719.38,5613.53(以上「151のみ」
の回答)の4地点に見られた。なお,新潟の5613.48では
「〔hae〕からとった純粋の灰分は〔aku〕という」,また,
5612.98では「こんにゃく製造の時に使用する,そぼがら を焼いて作った灰分は〔ag司と言う」とあり,この〔aku〕
と〔agu〕とは,150・151のいずれにも該当しなし.・と判断 して採用しなかったが,アク類の領域の末端にこのよう