る本図に現われる点,なお検討を要する。BANSUNA は,末尾要素として,〜SUNAをとり出すことも考え
られる。279図の福島などに現われるYUNBESINA
の末尾要素と対比すべきであろう。いったいに,コンバ ン,キョオノバンなどは,単なる「夕方」という意味のバ ンに「本日の」という限定を加える要素が付加して「今晩」
を示す語形であるが,バンゲはどうであろうか。キョオ ノバンゲなどそのような限定の加わったものもあるが,
多くは,裸のバンゲである。これらバンゲ地域ではヅ単 なる「晩」は何と表現するのであろうか。ヨサリ対コイサ
リ,ユウベ対コヨベなどの場合も同様であるが,「晩」と
「今晩」との両方を対比しての考察が必要となろう。
緑で示したコンや類は,琉球を除くほぼ全国に分布す る。ただし,コンバンの占有地域である三重,愛媛・高 知には少なく,東北地方の分布もやや薄いと言えよう。
中心的語形はKON YAである。東北地方,北陸を中
心にK:ONNYA, KONYAなどのように,擬音の次
の半母音が拗音化したものがかなり見られる。音声表記 の上に個人差があって,あるいは,コンヤに入れるべき ものもあるかと考えたが,あいまいなものについては,コンニャ,コニャなどであるとの調査者の確認を得た上 で作図した。緑の末尾に置いたKOIYA, KOIEは紀 伊半島南部,瀬戸内海沿岸その他にややまとまった領域 を持つが,コンや類に入れるべきかどうか迷うところで ある。「今宵」などと関係があるかとも考えられるし,半 母音の前の物音の鼻音性が弱まった結果生じたものとも 考えられる。あえて緑では示さず,凡例の位置のみここ に置くことにして関連を暗示した。
赤で示した類は,さらに2類に下位区分される。三角 形符号を与えたヨサリ,ヨサなどの類と,コイサリ,コ イサなど,前者に「本日の」を表わすと考えられるコ〜が 付加した類の2つである。ヨサリの類は近畿北部から北 陸にかけて濃い分布を示すほか,コイサリなどの全領域 の周辺にも点在する。コイサリ,コイサ類は,紀伊半 島,中国・四国,九州北東部に領域が見られる。KYO−
ONOYOSARIからKYUUNUYUSARABIまで
は,「きょうの〜」という限定がついている点,コイサ リ,コイサの類に入れられよう。このグループには,まと まった領域は認められない。そのほか赤の類は,離れて,
新潟・群馬・長野,兵庫,山口・福岡,琉球にも点々と 見られるσこれらは一見孤立的に見えるが,他の277図
「おとといのぼん」,あるいは283図「あしたのぼん」を見 280・281
ると,これら孤立的なものと本図の領域を持った分布と の間にヨサリ,ヨサを含む種々の語形が分布して,各図 を総合するとヨサリ,ヨサはかなり広い領域を持ってい ることが分かる。ただし,琉球のものは,他図には現わ れず,孤立的と言わざるを得ない。ヨサリ,ヨサ,ユウ サリの語形のうち,ヨ〜は「夜」,ユウ〜は「夕」と一応考 えられるが,サリ,サは何であろうか。「よさり」は『竹 取物語』,『宇津保物語』などに現われる語形のようで,
かなり古くから用いられていたもようである。また,
r狂言』には「よさ」が見られるようである。分布を見る と,近畿の中央部には見られず,東へは,日本海側を東 進した形跡があるが,東海道を下った様子はうかがうこ
とができない。西へはかなり進んだようで,その最先端 は本図の琉球のものであろう。周圏的分布は示している
ものの,緑のコンヤ,空のコンバンの各語形との関係 はやや特殊である。緑,あるいは空の類はかなり強い勢 いで侵入しているにもかかわらず,赤類を完全に駆逐し 去ることなく,赤の分布の上に重なり,赤はその領域を 緑,空の類と共有しているというのがこの図の分布であ る。召サリ,ヨサあるいはコイサリ,コイサは,『竹取 物語』『宇津保物語』を含む古い時代,かなりの勢いで四方 へ広がったが,すぐあとにおこったコンバン,コンヤの 類に後を追われ,今の分布以上に拡大する力を失った。
一方,コンバン,コンや類は一挙に日本全土に広がった が,漢語であるためか完全な方言形としての地位は得ら れず,赤の類を駆逐するまでには至らず,やや文章語的 あるいは固い表現としてコイサリなどの和語表現の上に 重層をなしてかぶさっていったのではないだろうか。意 味の分担などの移行的現象もあってかもしれない。
榿で示したものは,「本日の(この)ゆうべ」にあたる表 現をもつ類である。中国西部に領域を持つほか,長野西 部,石川南部,伊豆新島に,また,類似の語形が入門に それぞれ見られる。279図「さくぼん」には,ユウベ類は ほぼ全国に分布するのに比べ,この乙類の分布が小さい 地域に限られているのはやや興味のある点である。
紺で示したものは,さらにいくつかの類に分けられよ
う。YORUからNEEKANUYURUまでは,「よる
(夜)」を含む語形で,琉球先島にややまとまりを持つほ かは全国に点在するのみで,まとまった領域は見られな い。KOYOIからYAAYUUまでは,「宥」「よ(夜)」「ゆ
う(夕)」と考えられる要素を持つもので,YAIYOから YAAYUUまでは入丈に見られるものである。 YOO一
281・282 69
NIからKYUUNUYUNEENまでは琉球に見られ,
とくに,奄美には多く分布する。NIKAからNAASI−
RUまでは同じく琉球に見られ,全体として一類と考え
られる。ASITANOBANは東京西部に見られる。こ
の地点は,283図「あしたのばん」では,ASATTENO−BANとなっている。なにかの混線であろうが,調査者 の注には単純な誤りではないとある。277図「おとといの ばん」はキノオノバンであり,279図「さくぼん」はユウベ となっている地点である。「その他」は北海道中部にある。
回答はオバンデスとあった。無回答は青森県津軽半島に 1地点見られた。
282.あした(明日)
この項目は後期調査計画での調査を打ち切ったため,
地点数が少ない。
この図に現われる語形のほとんどは,アスの類とアシ タの類の2類に属すると考えることができよう。そこ で,アス類を緑で示し,アシタ類およびその他を紺で示
した。
緑で示したアス類のうち,ASYUは0894.61に1地 点見ら.れる。ASIとしたものは青森のほぼ全域および 岩手・宮城。秋田,新潟,島根に1〜2地点ずつ見られ る。秋田のもの以外はすべて中舌の〔i〕であり,音声的に は〔田〕の中舌に近いものであろう。SASUは4746.20 に見られる。形の上の類似からここに置いた。
紺で示したもののうちどこまでをアシタ類と認めるか は,判断の分かれるところであろう。ASITAから少
しずつ変化しあたかも連歌の如くに連なり,ついには
NAACYAまで連続している。 ASITAとNAACYA
とは形の上でかなりの隔たりがあるが両語形の間を埋め る多くの語形がある。したがって,ここではこれらを全体 としてアシタ類と考えておいた。これらASITAから
NAACYAまでのうち,形の上で相似性の高いものを
下位区分して,それぞれに類似の符号を与えた。まず,ASITAからASUDAまでを一類として円形の符号 を与えた。ASIDAは宮城・秋田に見られる。ASUTA
は岩手・宮城・山形・新潟北端に一連の分布が見られ,富山にも1地点見られる。ASYUTAは山形,茨城に
計2地点,ASUDAは宮城に7地点それぞれ見られる。AHITA, AITAは互いに類似していると考えた。
AHITAは中国・四国・九州に散在するほか,石川,
山梨,奈良・和歌山にも計5地点見られる。AITAは 和歌山に6地点,高知に2地点,甑島に1地点それぞれ
見られる。ASISA, AISAは近畿中央部に計6地点 見られる。ASITTA, ASUTTAは岩手東部に2地 点,ASINATA, ASUNATTAも岩手北端に2地点,
それぞれ見られる。ASITARIは岐阜,紀伊半島南端,
鳥取にそれぞれまとまりを持ち,岡山,山口,宮崎にも 各1地点見られる。この末尾のりについては,281図
「こんばん(今晩)」に現われる,ヨサリ,ヨオサリなどの りとつながりがあろうか。分布地域にも連続性が考えら れる。ASITEは宮崎にまとまりを持つほか,福岡南 部にも1地点ある。この末尾のテは何らかの連母音から 変化したものとも考えることができ,九州各地に分布し,
福井にも1地点見られるASITAA, ASICYAAなど
の末尾の音とのつながりを考えることもできる。ACC−
YAからNAACYAまではすべて琉球列島に分布し,
琉球列島にはこれら以外の語形は分布しない。ACCY−
AからASAまでは,いずれもアシタから変化した語形
と考えられ,NAACYAはさらに変化したものであろ
う。ただし,ASAは,「朝」そのものかもしれない。ASUNOHIからAKENOHIまでは,近畿・中国
に計5地点見られるのみである。このほか,ミョオニチ,
ミョオジツという語形がわずか見られたが,文章語的な ものと考えて,地図上からは削除した。なおASU,
ASITAともにく共通語的〉〈上品〉〈希〉などの注 のあるものがあったが,〈併用処理〉は行わなかった。
分布を概観すると,アシタはほぼ日本全域に分布する が,アスは青森を除いて考えると国の中央部にまとまり をもって分布すると言うことができよう。青森のものを 海上からの輸入と考え,単純な周暴論をあてはめると,
アスは新しい広がりで,アシタは古くから全国に分布し ていたということになろう。しかし,アスの分布には占 有地域が少なく,アシタの広い分布領域に比べて,その 存在の基盤はやや薄いと言うことができ,単純な2型の 平面的闘争を想定することは危険である。両者間の意味 的,文体的関連の推移が問題となる。両型がAS〜を共 有する点にも注意しなけれぼならない。なお,283図
「あしたのばん」の「あした」部分も関連して考えるべき材 料である。
アス,アシタについてく標準語的〉という注のあるも のの分布を見ると,アシタを〈上品,新,希〉とするも のが紀伊半島南部に6地点,愛媛北部に4地点あるほか
70
は,関東から中部地方にかけての地域,中国東半,四国 などにはアスを標準語的とする注が圧倒的である。さき の分布からの推定とからませれば,アスを新しい広がり と考える根拠のひとつとなろうか。
283.あしたのぼん(明晩)
この項目は後期調査計画で調査を打ち切ったため,地 点数が少ない。
この図に現われる語形のほとんどは,「あした」にあた る部分とrぼん」にあたる部分から成り立ち,多くは中置 に助詞の「の」にあたる語形を介して結合している。した がって,作図にあたっては「あした」にあたる部分の類別 を色をもって示し,「ぼん」にあたる部分の類別を符号の 形の別をもって示した。この前後両部分については,そ れぞれ282図「あした」,281図「こんぽん」,277図「おと といのぼん」の各図も参照されたい。前部分は大別して アス〜類とアシタ〜類との2類に分けられる。アス〜類 には緑を与え,アシタ〜類には紺を与えた。後部分につ いては,281図の「こんぽん」に現われるものと,符号の 形をなるべく似せて示した。
緑で示したアス〜類の分布と,282図「あした」に現わ れるアス類の分布とを比べると,東北南部から中国・四 国にかけての地域および北海道では,各地点については 多少の出入りは認められるものの,分布密度から見て両 図はおおむね似通っていると言うことができよう。ま た,琉球も,アス類の分布が見られないという点では下 図共通している。それに対して,岩手,宮城北半,およ び,九州全土について見ると,282図「あした」ではアシ タ類が分布するのに対して,この図ではアス〜が占有領 域とも言える広い領域を持って分布している点が特徴的 である。282図「あした」では,いちおうアシタよりアス の方が新しいのではないかという解釈を試みたが,この 図では逆に,むしろ,アシタの方がアスよりも内側に分 布し,アスよりも新しそうに見える。ただ,琉球は全域 アシタ類であると思われることがこの解釈の難点となろ
う。本図のアス〜,アシタ〜はともに複合語形の一部分 であって,282図の単独語形の場合とは多少事情が違う ということもあろう。
アス〜の諸語形の分布について282図「あした」のアス 類のものとの異同を見ると,細部にわたってはそれぞれ 相違が見られる。ASI〜は青森に広く見られる点では 282・283
¶
,