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4 | 電子腕時計の出現 1)

機械式腕時計の基本性能は、自動巻機能、耐震機能、

防水機能、カレンダー付等実用時計として、スイスに 追いつき追い抜く完成領域に達した。また、精度にお いても 5 振動(周波数 2.5Hz)から 10 振動(周波数 5Hz)という高振動化により追求した。その結果、機 械式腕時計の携帯精度においても、約日差± 30 秒か らクロノメーター級(CICC(国際クロノメーター管 理委員会)の管理下にある公的機関によって検定を受 け、合格した高精度機械時計に与えられる称号。検定 の方法及び合格水準は[ISO3159・ 時計-てんぷ式腕 クロノメーター]で規定している2)。)の日差±数秒 まで追い込むことが可能となった。しかし、この精度 の確保も、ぜんまいおよびひげぜんまいの性能、歯車 の伝達効率向上、長期に安定した潤滑剤の開発、精度 を作り込む技能等によって可能になったが、部品組立 製造コストの負担は大きかった。したがって、高振動 の機械式腕時計は、高価格帯商品として存在したが、

その精度を一般化するのは難しかった。また、ぜんま いをいっぱいに巻き上げた時と、巻がほどけた時とで ぜんまいトルクに差があり、これが歩度に影響を与え るという問題もあった。

機械式腕時計の駆動時間にも課題があった。機械式 腕時計には、手巻き式と自動巻式があるが、手巻きは 毎日一回巻かなければならず、自動巻は常に腕に着 けていないと止まってしまう欠点がある。当時の機 械式腕時計の持続時間は、約 48 時間(2 日間)であ り、現在の週休 2 日制では金曜日に時計を外しておく と、月曜日には止まってしまうことになる。この時間 精度、基本性能の課題を解決する難しさを時計技術者 は、はっきりと認識していた。新しい技術により解を 求めようとする動きが始まった。

わが国、フランス、アメリカでは、機械式に代わる 次世代腕時計の研究が行われていた。その先駆けが、

1952 年にアメリカ、エルジン社とフランス、リップ 社が共同開発したてんぷ調速式電池時計である。これ は発表にとどまり、上市されたモデルは、1957 年に アメリカ、ハミルトン社が開発、発表した「ハミルト ン 500」であった。これを契機に各社からこのタイプ のてんぷ式電池腕時計が発表されるが、すべて機械式 接点方式のため、接触時のスパーク等で摩耗や接点不 良を発生し、時間精度に問題が多かった。

国内メーカーのシチズン時計は、この欠点を解決す るため、機械式接点を持たないてんぷ式電子腕時計の

開発を目指した。当時、クオーツ時計の原理は知られ ていたが、腕時計までの小型化には時間がかかると考 え、てんぷ式電子時計の実用モデルを作ることを目標 とした。

海外ではクオーツとは全く異なる音叉式時計の開 発も進んでおり、1960 年にアメリカ、ブローバ社が 発表した音叉調速式の「アキュトロン」(図 4.1 参照)

があり、シチズンも特許を導入しのちに国産化する が、精度は優れていたが価格の高さと外乱に弱い点が 大きな障害であった。

図 4.1 ブローバ「アキュトロン」3)

4.1

てんぷ式電子腕時計シチズン「エック スエイト X-8」1)4)5)6)

1966 年シチズン時計が発売したシチズン「エック スエイト X-8」(以降 X-8 と呼ぶ)は、海外のてん ぷ式電池時計の問題であった機械式接点を廃止し、ト ランジスタなどで構成された電子回路で制御する電磁 駆動機構を搭載していた。これにより耐久性と信頼性 が飛躍的に向上し、電池による安定したエネルギー供 給、駆動磁石のついた大きな慣性モーメントを持った てんぷとも相俟って、機械式クロノメーターに匹敵す る精度がコンスタントに出せる性能を有していた。

図 4.2 に X-8 の外観写真を示してある。ムーブメン トの概仕様は、外径 28.0mm(12・1/2 型)、厚さ 5.5mm、

5 振動(周波数 2.5Hz)、持続時間 1 年以上である。

図 4.3 に X-8 のしくみの説明図を示す。電池、電子 回路、てんぷ調速機、輪列、指針から構成されている。

動力源は直径 11.6mm の小型酸化銀電池を使い、この 電気エネルギーを電子回路に通し、電磁駆動装置によっ て、可動磁石と一体になったてんぷを動かす。世界で初 めて採用した可動磁石型のてんぷは、第 2 章の電子時 計の構造で説明したように、可動磁石型、可動鉄片型、

可動コイル型、アンクル駆動型がある中で、最も構造お よび品質等において信頼性のある構造である。

可動磁石型の作動原理は、上下二枚の電磁純鉄製の てん輪に固定された永久磁石(白金コバルト合金)に より磁路が形成されている。その状態で始動装置を作 動(りゅうずを押し込む)させると、発停レバーによ りてんぷの蹴り出しが行われる。これは駆動コイルに 電流を流しても、てんぷが自起動しないため、外部 の力でてんぷを動かす構造である。てんぷが振動を始 め、ひげぜんまいで振動するてん輪に付いた駆動磁石 が、コイルの位置を通過するときを検出コイルが検出 し、その瞬間、検出コイルと一体となった駆動コイル に電流を流すと、コイルから発生した磁場と永久磁石 の間に駆動力が発生し(フレミングの法則)、てんぷの 振動が持続する。また、てん輪に設けられた重り(黄 銅製)によりてん輪のバランスを取りながら振動し、

電子回路に設けられた可変抵抗器により、駆動コイル に流れる電流を制御し、てんぷの振幅すなわち振り角 を調整することにより、てんぷの振動はさらに安定す る。このようにして安定した時間精度が得られる。

てんぷの振動は、逆脱進機構(アンクル・がんき車)

により機械式時計とは逆の経路を辿り、アンクルから がんぎ車へと一定方向の回転に変えられ、四番車、三 番車、二番車の輪列を経て針を駆動する。針を動かす 輪列の負荷は小さく、輪列には、アンクルががんぎ車

を駆動する微小時間しか力が作用しないため、機械式 に比べ輪列に掛かる力が小さく機構全体の耐久性に優 れている。

図 4.4 に X-8 全体のエネルギーの流れを示す。図の 矢印の方向は、エネルギーが流れる方向を示してお り、電池から供給されるエネルギーは電子回路を介し て、駆動装置にある駆動回路とてんぷの永久磁石との 相互作用で力を発生し、てんぷ調速機の運動エネル ギーとして伝達される。振動するてんぷの運動エネル ギーは逆脱進機、歯車を回し針を動かし時刻を示す6)

(矢印はエネルギーの流れる方向を示す)

図 4.4 X-8 の構成6)

信頼性を追求したてんぷ電子腕時計で重要な電子 回路は、トランジスタ、コンデンサ、抵抗で構成され ているが、当時時計用に適したものはほとんど無かっ た。国内メーカーのトランジスタにおいては、リーク 電流が大きく一般用なら使えても、数マイクロアンペ アしか許されない腕時計にあっては許されるものでは なかった。コンデンサ、抵抗も時計に使うにはサイズ が大きすぎ、サイズダウンすると信頼性が失われる。

これらの問題解決が X-8 の商品化には必要条件であっ た。電子部品の小型化、信頼性を確保し時計用として 実用に足るものを、それぞれのメーカーと折衝し、協 力しながら試作、テストを繰り返し改良を進めた。

時計に電子化の動きが出始めた当時、一般製品と時 計用との要求品質、特にサイズ、消費電流には大き な差があったのは仕方ないことである。電源である 小型電池はどうだったのか。X-8 の電池は水銀電池で は な く、EVEREADY SILVER CELL No.301( サ イ ズ 直径 11.6mm、厚み 4.2mm)という銀電池を使用 している。銀電池は、水銀電池(1.3V)に比べて電圧 が 1.5V と高く、トランジスターなど電子部品を利用 するには使い易いほか、次のようないくつかの長所を 持っている。

・電気容量が大きい:100mAh 以上の容量を持っている。

・放電時の電圧が平坦である:内部抵抗が小さく、常 に一定の作動電圧を保持する。

図 4.2 シチズン エックスエイト(X-8)5)

図 4.3 シチズン X-8 のしくみ4)

・耐漏液性、保存性が良い。

・微電流の長時間放電に適している。

電池の性能 ・ サイズは、時計の小型薄型化に大きく影響 し、電池品質が時計の品質をも左右するほど重要な要 素である。これらの特徴から、この後の水晶腕時計な どに使用する小型電池は、酸化銀電池が定着していく。

当初は、海外メーカーに依存していた酸化銀電池も、国 内での開発が進み電池の安定供給が可能になった。

時計産業が持つ精密技術に加え、線径 18µmm のコ イル用銅線材の量産化、白金コバルト磁石、超小型タ ンタルコンデンサーなど、国内の電子部品メーカーの 協力が X-8 を実現し、時計の電子化に大きな力になっ たことは間違いない。こうした国内メーカーとの開発 と協力が、次に続くクオーツ腕時計時代への大きな発 展を支えることになる。

4.2

音叉式電子腕時計シチズン「ハイソ ニック」の誕生7)8)9)10)

シチズン時計は、シチズン「エックスエイト X-8」

の販売をスタートし、電子腕時計の利便性を多くの人 びとに供給するとともに、X-8 の改良新機種の投入で より良い時計へと進化させた。更に、高精度の電子腕 時計の商品化に向かう。

1971 年 10 月音叉式電子腕時計シチズン「ハイソニッ ク」(以降ハイソニックと呼ぶ)の販売を開始する。し かし、この製品は独自に開発したものではなく、アメ リカブローバ社との合弁会社「株式会社ブローバ・シ チズン」により製造されたものである。この商品が販 売された約 2 年前、セイコーが金ケースのクオーツ腕 時計を 45 万円で販売した。シチズン時計にはクオー ツ腕時計が一般化するには、時間がかかると判断し音 叉腕時計を市場に出すとともに、高性能腕時計の需要 に応えるため国内市場にいち早く打って出て、市場の リーダーシップを取るという経営判断があったに違い ない。国内の品質管理、生産技術力を活かした製品を 作り上げた。本項では、音叉式腕時計ハイソニックの 音叉駆動部の構造と調整技能について述べる。

ハイソニックのムーブメント外観を図 4.5 に示す。

ムーブメントの概仕様は、直径 28.5mm、厚み 5.3mm、

小型水銀電池(直径 11.6mm、厚み 3.4mm)で 1 年以 上、時間精度月差 1 分以内である。てんぷを時間標準 とする機械式時計の振動数は 2.5~5Hz(5~10 振動)

で、一般品の時間精度は日差± 30 秒程度、調整技能士 による時間調整で日差± 10 秒弱が限界であった。て んぷ式電子時計は、振動数 2.5~4Hz(5~8 振動)で日 差± 10 秒程度である。これに比して、金属音叉の振動

数 360Hz で日差± 2 秒という桁違いの精度である。

図 4.6 にハイソニックの仕組みを示してある。電池 から供給されたエネルギーは、電子回路に入り音叉を 振動させる。音叉の振動は図 4.7 にある送りつめでイン デックス車を回転させ、輪列から指針へと伝達される。

音叉は、先端に永久磁石の付いたカップが固定され ている、可動磁石型の振動体である。この永久磁石の 周辺に電磁石が配置されており振動が継続する。

図 4.6 シチズン「ハイソニック」のしくみ9)

止メツメ 日ノ裏車

中心車

音叉永久磁石

送リツメ

電磁石

第二コイル(検出)

複合回路 簡車

インデックス車

永久磁石 電磁石

電池

図 4.7 音叉振動子と振動伝達部10)

図 4.5 シチズン「ハイソニック」9)